AIST/HQL人体寸法・形状データベース2003-相同モデル

AIST/HQL人体寸法・形状データベース2003

1.相同モデルの考え方

 三次元形状スキャナで計測された人体データは単なるデータ点の集合であり、人体としての情報を持っていません。人体3次元形状の統計処理をできるようにするためには、どの個体のデータも同数の同じトポロジーのデータ点から成るように再構成する必要があります。これをモデリングと呼んでいます。とくに、各データ点が解剖学的に同じ意味をもつようにデータ点を定義するとき、相同モデリングと呼んでいます。相同モデリングをすることにより、人体の形状データは解剖学的情報が付加され、利用価値の高いデータに再構成されることになります。
 体表上に決定できる相同な点の多くは、人体寸法計測で使われるランドマーク(計測点)に相当します。しかし、ランドマークだけでは皮膚表面の形状を表現することができません。相同性を保ちつつ皮膚表面のデータ点を表現する方法はいくつかあります。ここでは、最も単純と思われる、断面とその分割点を利用する方法を用いてデータ点を定義しました。断面を用いる相同モデリングの基本的な考え方は以下のとおりです。

  1. 身体を筒と考え、ランドマークにより定義される断面を用いてモデリングを行なう。
  2. 形状モデルは人体座標系を基準に表現する。人体座標系の定義においては、人体にフィットさせようとする製品の座標系にも利用できるかどうかを考慮する。
  3. 形状計測姿勢での人体を基準にする。したがって、重力の方向、水平断面、正中矢状面などを、断面や断面の分割点の定義に利用する。

2.体幹部モデル

 公開する相同モデルは、文化服装学院との共同研究で開発した衣服用人台のための体幹部モデルがもとになっています(伊藤他、2000、持丸、2001)。肩部形状をより詳しく表現するためにデジタルヒューマン研究センターで改良を加えました((社)人間生活工学研究センター、2003)。この事業で開発したモデルは腕付根線に相当する部分より遠位(腕の部分)を除いた体幹部のモデルでしたが、今回公開するモデルは、肩上部から腕付根のデータ点構成をさらに改変したうえ、肩の部分を加えたモデルとなっています。
 モデリングソフトの実装は浜松ホトニクスによります。この相同モデリングソフトウェアは、浜松ホトニクスの三次元形状スキャナ(Bodyline Scanner)の付属ソフトウェアとなっており、同スキャナのユーザは誰でも利用することができます。モデルは頚椎点の2cm上方から、股下10cmまでの範囲を対象とし、この範囲を26の断面で表現しています(うち2断面は前半のみ、3断面は後半のみ)。断面の定義は男女で一部異なります。肩付近の形状は、水平断面や前頭面に直交する左右に傾いた断面のみでは十分に表現することができないため、鎖骨の前面と、肩の上面の形状をできるだけ反映するように配慮しました。相同モデルの外見を図1に示します。

図1.計測された詳細なデータと相同モデル。黒い点はランドマーク。
左:女性、右:男性

3.断面と分割点の定義

 体幹部相同モデルのデータ点は、ランドマークに基づいて断面を定義し、各断面の周長を等分割する、という方法で定義されています。各断面の定義を図2、図3、表1に示します。断面13~16の定義は男女で異なります。その理由は、男性では乳頭点を、女性ではバスト点を使ったこと(断面)、女性ではアンダーバストのレベルを定義したのに男性ではこの断面を定義しないことによります。
 断面周長の等分割点だけでは形状を十分に表現できないと判断した場合は、等分割点とランドマークの間の体表長を等分割する点や、等分割点同士の間の体表長を等分割する点を定義しています。例を図4に示します。

図2.男性の相同モデル
図3.女性の相同モデル
図4.肩部の追加データ点

表1A.男性用相同モデルの断面定義

断面 定義
S1 股下より10cm下方のレベルにおける水平断面
S2 S1とS2の中間のレベルにおける水平断面
S3 右殿溝下縁のレベルにおける水平断面
S4 S3とS6の下1/3のレベルにおける水平断面
S5 S3とS6の下2/3のレベルにおける水平断面
S6 右殿突のレベルにおける水平断面
S7 S6とS9の下1/3のレベルにおける水平断面
S8 S6とS9の下2/3のレベルにおける水平断面
S9 右腸骨稜点のレベルにおける水平断面
S10 S9とS12の下1/3のレベルにおける水平断面
S11 S9のS12の下2/3のレベルにおける水平断面
S12 右第10肋骨下縁と右腸骨稜上縁の中間のレベルにおける水平断面
S13 S12とS16の下1/3のレベルにおける水平断面
S14 S12とS16の下2/3のレベルにおける水平断面
S15 S14とS16の中間のレベルにおける水平断面。前面のみ
S16 左右の乳頭点を通る左右に傾斜した断面
S17 S16とS18の中間に相当する、左右に傾斜した断面。前面のみ
S18 前方は左右前腋窩点を通る左右に傾斜した面、後方は左右後腋窩点を通る左右に傾斜した面
S19 S18とS21の下1/3に相当する、左右に傾斜した断面
S20 S18とS21の下2/3に相当する、左右に傾斜した断面
S21 前方は鎖骨の前縁を通る。後方は左右肩峰点*を通る左右に傾斜した面
S22 左右の、肩峰点と頚側点の外側1/4の点を通り、左右に傾斜した断面(S21とS23の下中間に相当)。後面のみ
S23 左右の、肩峰点と頚側点の中点を通り、左右に傾斜した断面(S21とS25の中間に相当)。後面のみ
S24 左右の、肩峰点と頚側点の内側1/4の点を通り、左右に傾斜した断面(S23とS25の中間に相当)。後面のみ
S25 後方は頚椎点、左右頚側点を通る断面。前方は、左右頚側点を通り、首付根がなめらかにつながるように前正中の点を設定した断面
S26 頚椎点の2cm上方をとおり、頚椎点とS25で設定した前正中の点を結ぶ前後に傾斜した面に平行な面

※ S13~S16は男女で定義が異なる


表1B.女性用相同モデルの断面定義

断面 定義
S1 股下より10cm下方のレベルにおける水平断面
S2 S1とS2の中間のレベルにおける水平断面
S3 右殿溝下縁のレベルにおける水平断面
S4 S3とS6の下1/3のレベルにおける水平断面
S5 S3とS6の下2/3のレベルにおける水平断面
S6 右殿突のレベルにおける水平断面
S7 S6とS9の下1/3のレベルにおける水平断面
S8 S6とS9の下2/3のレベルにおける水平断面
S9 右腸骨稜点のレベルにおける水平断面
S10 S9とS12の下1/3のレベルにおける水平断面
S11 S9のS12の下2/3のレベルにおける水平断面
S12 右第10肋骨下縁と右腸骨稜上縁の中間のレベルにおける水平断面
S13 S12とS14の中間のレベルにおける水平断面
S14 アンダーバストのレベルにおける水平断面
S15 S14とS16の中間のレベルにおける水平断面。前面のみ
S16 左右のバストポイントを通る左右に傾斜した断面
S17 S16とS18の中間に相当する、左右に傾斜した断面。前面のみ
S18 前方は左右前腋窩点を通る左右に傾斜した面、後方は左右後腋窩点を通る左右に傾斜した面
S19 S18とS21の下1/3に相当する、左右に傾斜した断面
S20 S18とS21の下2/3に相当する、左右に傾斜した断面
S21 前方は鎖骨の前縁を通る。後方は左右肩峰点*を通る左右に傾斜した面
S22 左右の、肩峰点と頚側点の外側1/4の点を通り、左右に傾斜した断面(S21とS23の下中間に相当)。後面のみ
S23 左右の、肩峰点と頚側点の中点を通り、左右に傾斜した断面(S21とS25の中間に相当)。後面のみ
S24 左右の、肩峰点と頚側点の内側1/4の点を通り、左右に傾斜した断面(S23とS25の中間に相当)。後面のみ
S25 後方は頚椎点、左右頚側点を通る断面。前方は、左右頚側点を通り、首付根がなめらかにつながるように前正中の点を設定した断面
S26 頚椎点の2cm上方をとおり、頚椎点とS25で設定した前正中の点を結ぶ前後に傾斜した面に平行な面

※ S13~S16は男女で定義が異なる


4.記述形式

 相同モデルデータは、obj形式で保存されています。
 obj形式は、Alias|Wavefront社の提唱したコンピュータグラフィクス向けの形状データ記述形式で、スペース区切りのテキスト形式で保存されています。本データベースでは、各被験者の相同モデルは「サンプル番号.obj」という名称で保存されています。はじめにデータ点に関する情報が、次にどのデータ点とどのデータ点をつないでポリゴン(三角形)をつくるかという情報がはいっています。

(データの記述例)962個のデータ点から成る相同モデルの例

 obj形式では、データは表4に示す構成となっています。1行めの[g]は以下に記述するのがデータ点の座標値であることを示します。2行目はデータ点の数を示します。3~964行目はデータ点の座標値です。各行の最初に点であることを表すvが、そのあとにデータ点の座標値がx、y、zの順にはいっています。965行めは空行です。
 966行めの[g surface]は、これ以下の行に結合に関する情報を記述することを表しています。967行めはポリゴン(三角形)の数を表します。968~2887行の各行は、面を構成するデータ点の番号を示します。たとえば、968行めの[f 1 34 33]は、1番め、34番め、33番めの3つの点でひとつのポリゴン(面)を構成することを示しています。

表4.obj形式の体幹部相同モデルのデータ構成

行数 内容 説明
1 g 以下データ点の座標値を記述することを示す
2 # 962 vertices データ点の数
3 v 46.48 91.40 605.00 vは点の座標値であることを示す。1番めのデータ点のx、y、z座標値
4 v 42.28 120.25 605.00 vは点の座標値であることを示す。2番めのデータ点のx、y、z座標値
・・・
964 v -10.68 -49.68 1296.49 vは点の座標値であることを示す。962番めのデータ点のx、y、z座標値
965 空行
966 g surface 以下データ点の結合について記述することを示す
967 # 1920 polygons ポリゴンの数
968 f 1 34 33 fは面を記述することを示す。1番めの面を構成する点のセットを記述
・・・
2887 f 625 672 624 fは面を記述することを示す。1920番めの面を構成する点のセットを記述

5.相同モデルを計算できない場合

 相同モデルは、体表面が欠損なく計測できており、必要なランドマークの座標値が正しく計測されているときに計算することができます。肩の上部や胸のようにオーバーハングした部分の下部でデータが欠落しているときは、計算できない場合があります。本データベースでも、97体中3体で、相同モデルが計算できませんでした。

6.分析に当たっての注意

 本データベースで公開するデータの座標系は、人体座標系でそろえてあります。この人体座標系では、左右の腸骨稜点の中点を床面に投影した点が原点、前方がX軸+、上方がZ軸+です。したがって、複数のモデルを重ね合わせると、身長(より正確にいえば下肢の長さ)によって、それぞれのモデルの床面からの高さはまちまちです。また、前傾して立ったり後傾して立ったりしている人がいるため、モデルの前後位置もまちまちです。このまま統計処理を行うと、形の違いではなく、位置の違いが評価されてしまいます。本データベースの相同モデルを分析する際には、高さを体幹部のランドマークを基準にしてそろえる、前後位置を体幹部の厚みを基準にしてそろえるなど、分析前に座標系を見直すことをお薦めします。私たちは、腸骨稜レベル断面の前後径の中心が原点となるように上下前後方向に各モデルを平行移動してから、体幹部相同モデルの分析をしています。


7.文献

  • 伊藤由美子・持丸正明・河内まき子(2000)衣服用人台設計のための3次元形態計測から実用化まで。人間工学、36(特別号):294-295.
  • 持丸正明(2001)Digital Humanに基づくボディ開発。繊維製品消費科学、42:87-91.
  • Kouchi, M., M. Mochimaru, and Y. Ito (2001) Development of a new dress-making dummy based on a 3D human model. Proceedings of Numerization 3D Scanning 2001.
  • (社)人間生活工学研究センター、2005:平成16年度経済産業省委託事業 中小企業知的基盤整備事業 高度人体デジタル計測システム技術の開発調査報告書。

公開:2009/03/02

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