日本人青年の平均頭部ダミー

頭部ダミーとは頭だけのマネキン人形です。 世の中には、いろいろな頭部ダミーがあります。 たとえば、ショーケースでヘッドフォンやメガネ、帽子をつけて見せるためのもの、あるいはメーカで音響計測に使われるもの、自動車会社でボンネットへの衝突試験で用いられるもの、ガスマスクなどの適合試験に用いられるものなどです。
ただ、これらの頭部ダミーは、寸法と形状が実際の人間を代表しているかという点では、必ずしも十分なものではありませんでした。 ショーケースで単に見せるために使うのならともかく、音響特性や適合試験に用いるには、やはり、ユーザ群の平均的な寸法・形状特性を正確に再現していることが求められます。 いままでもガスマスクなどの呼吸器保護具産業では、顔各部の寸法の平均値をできるだけ再現するように造形した頭部ダミーを設計・検証に用いてきましたが、寸法を再現しているだけで形状を再現したものではありませんでした。
デジタルヒューマン研究センターでは、株式会社ホリカワと共同で人体頭部モデルに基づくメガネフレームの開発を、株式会社重松製作所と共同で人体頭部モデルに基づくガスマスクの開発を進めています。 この共同研究の過程において、3者共同で日本人青年男女各52名の頭部3次元形状を計測しました。 このデータを活用し、日本人男性および女性を代表する平均形状を計算し、それを実体化して頭部ダミーとして提供することといたしました。 これは、いわば、研究のバイプロダクト(副産物)です。
メガネフレームやガスマスクなどの呼吸器保護具を設計・製造する企業や、さらには、ヘッドマウントディスプレイや音響機器を扱う企業にも広く利用いただけるのではないかと考えております。 最近は、設計や音響シミュレーションにCADが多く用いられることから、ダミーという実体模型とともにその3次元CADデータも提供することといたしました。
この頭部ダミーは、産総研ベンチャーである有限会社デジタルヒューマンテクノロジー (http://www.digitalhuman-tech.com/) から販売しております。


(左)男性版 (右)女性版
平均頭部ダミーの開発
今回開発した平均頭部ダミーを開発した方法は、「平均形状に基づく衣服用人台」の開発に用いたものと同じです。

- 計測
18歳から35歳の男性・女性各52名の頭部を、耳の裏やあごの下までふくむ頭部全体を1秒間で計測できる形状計測装置で計測しました - モデル化
頭部全体を、どの個人も、解剖学的に対応のついた437個のデータ点で構成される三次元形状モデルで表現しました。 - 平均形態モデルの計算
モデル化された形状モデルの、各データ点の位置を平均化することにより、3次元形状モデルの平均を取得します。 平均モデルは、集団全体としての特徴はもつが、特定個人の個人的な特徴をもっていません。 - 詳細な平均形態の計算
得られたモデルは、かなり粗いものです。 そこで、被験者の中から中央値形態を1名選びます。 中央値形態は、個体間の形態距離のばらつきが、最も小さい被験者とします。 中央値形態は実在の被験者ですから、詳細な表面形状データが手に入ります。 中央値形態を平均形態に変換する関数を求め、この関数で中央値形態の詳細データを変換することにより、詳細な平均形態のデータが計算できます。 - 耳の計測
形状計測装置では、耳の形状をきれいに計測することができません。 そこで、耳はシリコンで男女それぞれ1名の型をとり、この雌型をX線コンピュータトモグラフィーにより詳細に計測しました。 計測された耳の形を、解剖学的特徴点に基づいて頭部全体形状に位置合わせをし、詳細な耳形状をもつ頭部全体形状を作りました。 ※よって耳介自体の形状は一個人のデータであり、平均形状ではありません。 - 造形
コンピュータ内にある平均形状を、形状造形装置を用いて実体化し、これを雄型としました。 雄型からの雌型作成と、頭部形状ダミーの製造は、株式会社七彩に依頼しました。 - 開発担当企業等
デジタルヒューマン研究センター: 頭部形状計測、モデル化、平均形状、詳細形状の計算、耳型作成、耳の位置合わせ
(株)ホリカワ: ノイズ除去などデータ処理、モデル化
(株)重松製作所: ノイズ除去などデータ処理、モデル化
東京大学総合研究博物館人類研究部: 耳の雌型のX線コンピュータトモグラフィーによる計測
(株)七彩: ダミー製造
有限会社デジタルヒューマンテクノロジー: 販売
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