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2.3 製造プロセス及び製品

 HPCCの技術は、製品の加工や製造過程と同じように、製品の設計過程や生産設計に適用することが可能である。そこでは、製品データの新しい標準の開発が鍵であり、その標準データは生産プロセスの設計と、生産・製造プロセスの設計の高度化を通じて活用できるものである。

 さらに興味深いことに、それらの新しい標準データは、機械産業、電気産業、建設業、化学産業などあらゆる分野から注目されている。

2.3.1 NIST製造テスト環境(注13)

 SIMA(System Integration for Manufacturing Applications)プログラムの一部として、NISTでは、高度製造システム及びネットワークテスト環境(AMSANT:Advanced Manufacturing Systems and Networking Testbed)を設置し、産業界でのユーザにデモンストレーション環境を用意すると同時に、自発的な標準を開発・発展させていくための支援を行なっている。

 プロトタイプシステムとインターフェースは、標準的な製造業の組織に適した構造となっている。この研究は、インターフェースのプロトコル、情報モデル、構造の高度化を目指したものである。1995年度には、AMSANTで、機械部品製造アプリケーションと装置プラント産業が開発された。ここでの研究は、HPCCの他の機関と産業界との共同作業で進められており、ワークショップや訓練教材、インターネットによるデータ構造や販売前段階のプロトタイプシステムによって進められている。特に、プロトタイプシステムは、潜在的ベンダーによって実際にインストールされ、テストと評価がなされている。

そこでは、プロトタイプSTEP(Standard for The Exchange of Product data)の機能テストシステムや概要テストに適した開発ツールキット、STEPアプリケーション・プロトコルのためのソフトウェア開発環境などが示されている。

(注13) 詳細については、
http://elib.cme.nist.gov/fasd/projs/sima-pm/sima.htmlを参照のこと。

2.3.2 シミュレーションベースの設計・製造の情報高度化

 このプロジェクトは、アイオワ大学とRPI(Rensselaer Polytechnic Institute)で研究されているもので、NIIによって生産組織が設計や製造段階での諸問題をいかに共同開発できるかを検討しているものである。RPIでは、2つの自動車製造会社での異なるCADシステム間で、ステアリングポンプのソリッドモデルのデータ交換するためのコア技術を開発してきた。ここでは、当初、STEPを用いたデータ交換を行なった。このSTEPはその後、ISOの標準として発表されることになった。STEPによって、どのようなCADシステム間であっても製品データの交換のための中立的なフォーマットが提供されているのである。

 このアプローチは、コンピュータ技術にも共通である。例えば、10の異なったソフトウェアパッケージが基本的には同じ機能を持っているにもかかわらず、異なったデータフォーマットを持っていた場合、中立的なフォーマット変換プログラムをそれぞれのプログラムとプログラム間ごとに用意しないといけないことになる。こういったケースに似たような状況は、CADシステムなどにおいても、パッケージ数が増えれば増えるほど累乗的に増えていくことになるのである。

 1996年度の研究のトピックスは、インターネットやその他のWANにおいて、全方位的な設計のための機械システムのシミュレーションにある。そこでは、高度な生産システムのための中立的データベースが設計され、生産工程の変更のための分散型コントロールシステムが設計された。このシミュレーション環境は生産データの交換のためにPDES(Protocol Development Environment Standard)/STEP標準を用い、対象のモデリングサービスにはCORBA(Common Object Request Broker Architecture)標準を、データの表示にはMosaicを使用するものである。このテストには、異なったCADシステムパッケージとアイオワ大のシミュレーションベースの設計環境を用いて、高級車のサスペンション組み立てを構成する要素の再構築が予定されている。

2.3.3 複合材を用いたミクロ構造レベルの特性研究

 このプロジェクトは、テキサス大学によるもので、複合材の最適設計のための理論計算上のツールボックスを開発することが目的である。機械技術者とコンピュータ技術者が共同でミクロ構造レベルから直接、複合材の設計、分析を行なうことができる計算式群を開発することを目的としている。

 ミクロ構造の特性は、テキサス州オースチンのALCOAやCOMCOといった産業共同体によって提供されている。研究課題は、複合材のミクロ構造のモデリング、基礎構成要素の分析、並行アルゴリズム、およびデータ構造等が挙げられる。

2.3.4 その他

 これらの他、1995年度のARPAの実績は、

  1. 設計の初期段階での CAD 環境としての移動体コンピューティングシステムの構築
    ここでは、電線を敷設した環境下で広帯域、小型セル、無線アクセスポイントなどの機能を有する。
  2. マルチチップモジュールの組み立てサービスへのネットワークを用いたアクセスの構築
  3. 製造業のための情報基盤サービスの開発(例えば、生産工程分析や試作のスピードアップ)

が挙げられる。

また、1996年度の計画としては、

  1. ネットワークアプリケーションのためのシミュレーション設計環境と総合無線計測回路システムの構築
  2. 工場シミュレーションと生産・製造プロセス設計ライブラリの再利用のための、ネットワーク設計と製造サービスの拡張開発

がある。

2.3.5 SIMAプログラム(注14)

 中でも、NISTで進められている製造テスト環境研究は、SIMAプログラムの一部として実用テストレベルまで到達している。

(注14) 詳細については、http://elib.cme.nist.gov/fasd/projs/sima-pm/sima.htmlを参照のこと。

 (1)プログラム概要

 1994年、NISTはSIMAプログラムをHPCCの一部として設置し、製造環境にHPCCの技術を適用することを加速するために、情報技術と製造技術に関する実験を始めた。さらに、NISTでは高度化製造技術システムの統合化のために、発展プログラムを進めており、製造システムの要素とインターフェース特性の評価のためのプロトタイプによるテストや、設計・生産計画・生産工程への高度コンピュータ・ネットワーク技術の適用実験、高度製造システムやネットワークへの経済的効果の予測実験環境整備などを行なっている。

 (2)研究実績

 1994年にAMSANTは、機械部品生産アプリケーションとプロセスプラント産業を対象として始まった。そこでの設備は、高度ネットワークとコンピュータ資源を持ち、製造アプリケーションのための統合システムと標準プロトタイプを遠隔実験するためのものである。AMSANTの現在のネットワーク資源は、HPCCのサポートの下でワシントンの7つの政府機関のATMネットワーク(ATDnet)と接続されている。AMSANTの設備は、NISTの研究員と産業界からの共同研究者、および他の機関パートナーとの間での実験・開発活動に焦点が絞られている。数値設計、生産計画、生産ソフトウェアアプリケーションなどは、既にインストールされ、NISTの研究員によって現在評価が行なわれている。そこでは、システム統合に必要なインターフェース・プロトコル、情報モデル、統合構造の概念設計が進められている。

 SIMAプログラムは、1994年度、いくつかのワークショップを開催した。そこでは、製造アプリケーションの統合のための産業界のニーズ調査、仮想・分散型製造システムの高度操作インターフェースのための表示技術調査、機械・装置両産業におけるSTEPのアプリケーションプロトコル開発のためのユーザ用件定義調査を行なっている。

 さらに、追加的プログラムとして、プロトタイプSTEPの機能テストシステムや概要テストに適した開発ツールキット、STEPアプリケーション・プロトコルのためのソフトウェア開発環境などのデモンストレーションが、「NIIによる障壁排除」会議の期間中行なわれた。

 また、1994年度には一連の技術報告書が刊行され、ワークショップ議事録を含めたもので、近々WWWでも公開予定である。それらの刊行物の主なものは、

  • 注文靴製造業における高度技術のためのプログラム要求仕様
  • 機械制御システム・インテグレーションのための参照構造
  • STEP AP203仕様のベータテストプログラムの試験方針
  • SIMAのための技術プログラム表現
  • などが挙げられる。

    2.3.6 製造プロセス及び製品における到達目標

     以上2.3.1〜2.3.5に挙げた製造プロセス及び製品の高度化プロジェクトでは、次のような到達目標が挙げられている。

     ARPA「MADE・イン・アメリカ」

  • MADE(高度製造プロセス開発のためのキーソフトウェア開発及びデモンストレーション)の初期デモンストレーション
  • MADE/IRFPA-FM ベータ版のテスト
  • 最終デモンストレーション及び技術移転
  •  NASA「航空機器設計及び製造」
     <1994年度>

  • NASA航空機器コード「solver」の完成
  • 航空機器組合との共同研究準備
  • ASOP(Affordable System Optimization Process)での中心研究領域となる3つの主要プロジェクトの着手
  •  <1995年度>

  • 航空機やジェットエンジンのような航空機構成要素へのASOP設計手法の適用デモンストレーション
  •  NIST「製造システム環境」
     <1994年度>

  • プロセス装置産業と化学産業における機械的部分製造工程のモデル開発
  • これらの製造システムの適用アプリケーションでのインターフェース仕様検討
  •  <1995年度>

  • アパレル産業及び電気機器製造業におけるモデル開発
  • 前年導入したシステムの拡張のためのインターフェース仕様検討
  • アパレル産業及び電気機器製造業における適用アプリケーションでのインターフェース仕様検討
  • 製造業における標準データの管理システムの仕様検討
  • 製造アプリケーションの統合化のデモンストレーション
  •  NIST「技術移転環境」
     <1994年度>

  • HPCC 開発技術の普及のための技術移転メカニズムの開発・プロトタイプ化の計画
  •  <1995年度>

  • 電子図書館、機器選択、参入団体のための認識のための要求仕様の検討
  •  NIST「プロセス産業のためのシミュレーションと設計」
     <1994年度>

  • プロセス産業アプリケーションの可視化と配布
  •  <1995年度>

  • 複雑な化学・分子プロセスのモデリングとシミュレーション技術の開発
  •  NSF「製造業のための情報技術」
     <1994年度>

  • データベース、リアルタイム監視・制御、ネットワーク、マルチメディア、可視化技術の双方向設計及び製造工程のための新技術開発の支援
  • 仮想環境、遠隔操作、テレプレゼンス、その他共同設計・作業のための学際的プログラムの実施
  •  <1995年度>

  • NRENをベースにした仮想環境、仮想工場プロジェクトのデモンストレーションの開始
  • NRENを含めた情報基盤を用いた学術的研究の産業への適用プログラムの開発
  • 次世代の製造業・情報世代のための訓練プログラムの開発
  • 2.3.7 今後の見通し

     このようにみてくると、製造関連については、特定業種に関してのモデル構築レベルであり、仮想工場や仮想環境の確立にはまだかなりの時間がかかるものと考えられる。

     特に、標準化の問題がそこには存在しており、標準的モデルや標準化を考えない特定業種(宇宙産業、軍需産業等)の狭い範囲内では適用が考えられるが、一般的な製造業への適用は、モデリングレベルがここ数年の到達範囲であろう。

     技術的ブレークスルーとしては、

  • 標準化された業種モデルの構築
  • 実際の工程管理等に耐え得るインターフェースの開発
  •  の2つが大きなものとして挙げられるが、技術的に見た場合、それほど困難なものではないと考えられる。むしろ、製造工程そのものの進化や各企業ごとの製造プロセスの社外秘部分等社会的要因によるブレークスルーが大きいものと予想される。

     これら企業ベースでの高度情報技術の普及は、各企業単体ベースでのスピードの方が早いものと考えられ、トップダウン的普及と個別企業単位での普及との両者のシナジー的進展によって展開が進んでいくものと考えられる。その意味では、HPCCの産業界全体に対する刺激としての役割は重要であり、モデルシステムの積極的なデモンストレーションや訓練プログラムが実施されればされるほど、企業個別のシステムも高度化する遠因となるはずである。

     これらの高度製造業プロジェクトは、製造業全般に対する高度情報技術の普及・啓発機能が重要であり、その活動成果は各業種、各企業、各工場単位にボディーブローのように競争力優位を獲得する外部環境として、有効に作用するものと考えられる。

    2.4 エネルギー・マネジメント

    2.4.1 概要

     エネルギー需給の管理の改善は、石油消費、発電所への投資、貿易赤字のすべてに利益をもたらす。このため、DOEと公益事業者は、ドキュメントを交わし、エネルギー需給管理に関するNational Challengesを実現するのに必要なツールと技術を評価する。また、予想できる経済的利益に関しドキュメントを交わし、公益事業者がNIIの展開に参加できるように必要な政策または法律の変更を見極める予定である。

    開発すべき新技術は、相互操作性、認証、プライバシー制御、multicast data aggregationの分野での分配システムに関するものであり、エネルギー供給・需要をリアルタイムで管理できるユーティリティーの機能強化を行う。

     財政支出を計画しているのはDOEであり、広域・分散ネットワークツール、サービス、プロトコルといったテーマでの開発および実用化プログラムに対して資金を投入する。これにより、エネルギー使用の効率、保存、請求、顧客サービスを改善し、エンドユーザ相互の交流を喚起し、エネルギー使用の制御を可能とする。

    2.4.2 開発状況と到達目標

     (1)予算

     1996年度の実行計画書に記述される予算によると、1994年度、および1995年度当初には、本テーマはNational Challengesとして予算が割り当てられていない。1995年度の期の途中で予測値として50万ドルが計上されている。これから、本テーマは、1995年度Blue bookには提案されたものの、実行計画書には組み入れらず、1995年度途中から計画、実行が開始されたと考えられる。
     
     1996年度にはIITAへ100万ドルの予算配分が予定されている。IITAが1995年度のBlue bookが出るころにはエネルギーの低消費化に対し貢献する意志があったと考えられる報告書が存在するが(注15)、それ以降の報告はTask Group から出されていない。

    (注15) HPCCIT/IITA Reports(1994年2月) IITA Task Group報告(議長:Melvyn Ciment (NSF)、 共著者:Randy Katz (ARPA), YT Chien (NSF))。詳細はhttp://www.hpcc.gov/reports/reports-nco/3.5.htmlを参照のこと。

     (2)実行計画内容

     (3)成果と到達目標(到達目標は初めの実行プランから変更されている)

    2.5 政府情報の一般公開

     HPCCプログラムではNational Challengesとして下記の八項目を挙げているが、ここでは第2項の政府情報の一般公開を取り上げる。この項目は第1項のデジタル・ライブラリ構築技術を基盤技術として、政府関連機関に蓄えられた各種の情報を専門家から子供たちまでに広く提供することを目標としている。そのため、第5項の教育と生涯学習の項目とも深い関連を持つ。

    1. Digital Libraries
    2. Public Access to Government Information
    3. Electronic Commerce
    4. Civil Infrastructure
    5. Education and Lifelong Learning
    6. Energy Management
    7. Environment Monitoring
    8. Health Care
    9. Manufacturing Processes and Products

    2.5.1 関連するデジタル・ライブラリプロジェクト

     Mosaic等のブラウザでアクセスできる、インターネット上のサーバに構築されたHPCCプログラムの財政支援を受けたデジタル・ライブラリを下記に挙げる。

    2.5.1.1 地球情報

     米国航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)はデジタル・ライブラリ関連技術とリモートセンシング情報利用プロジェクトに関する情報を一般に公開するために、様々な企業や大学と協力してリモートセンシング情報公開センター(Remote Sensing Public Access Center)を1994年に設立した。また、1994年から1995年にかけて以下の18のリモートセンシング情報利用プロジェクトに資金援助を行った。

     (1)アテナ(Science Applications International Corporation)

     アテナはインターネットを通じて得られる地球物理学関連情報を題材に、幼稚園児から高校生までの理科、数学、技術科で用いる教材とカリキュラムを開発しようとしている。

     (2)BADGER(Lockheed Missile and Space Corporation)

     ロッキードのパロアルト研究所の地元チームはスマートバレー社と協力してBADGERを開発している。これは衛星写真や空中写真から合成されたサンフランシスコ湾岸地域の電子地理情報をオンラインで視覚化するシステムである。このシステムはインターネットを通じて地方自治体や公共機関、その他どんな企業や環境団体、非営利組織にも提供される。環境特性や地下敷設物、私有地境界、市政境界、国政調査データ、人口統計情報等全てはBADGERの階層化された視覚化システムで記述されている。

     (3)大気圏学及び宇宙科学のデータと
        情報の中学3年生その他への提供(ワシントン大学)

     科学と数学教育で使用することを目的とした北西太平洋地域への取組。

     (4)地球科学分野の人々に向けた教育課程の試行
        (ECOlogic Corporation)

     地球科学分野の人々の対話と交流を促進するために、学生に地球科学の調査方法を指導し、データや助言、手法や教則本、ツールや専門家の指導を得られるようにする教育課程を作り上げる。

     (5)緊急事態及び危機管理手法(北テキサス大学)

     自然災害及び人為的災害に備え、緩和し、対応するためにNASAのリモートセンシング情報が役立つことを実演するインターネット上のアプリケーションを開発する。

     (6)森林管理計画(ミネソタ大学)

     森林資源管理のためにLANDSATが撮ったイメージ情報、ディジタル化された空中写真と地上で得られた森林データベースを組み合わせる。

     (7)NASAのリモートセンシングデータベースを用いた
        アプリケーションとインターネット技術を通じた
        初等教育課程での科学教育の効果増大
        (The Analytic Science Corporation)

     幼稚園児から小学生向けに気象情報に基づいた教育課程を組み立てている。

     (8)環境探査(Wheeling Jesuit College、ウェスト・バージニア州)

     NASAの未来の教室計画(COTF)の一環である。この大学は地球の環境科学の単元で用いるソフトウェアの開発に3年間携わっている。このソフトウェアはNASAのリモートセンシング技術を利用した教育アプリケーションを実演し、インターネットとWWWを通じて利用できるようになる。NASAとその関係機関が持つテラバイト級のリモートセンシングデータは教育活動に利用できるが、その在りかや利用の仕方を知る教師や学生は少ない。このプロジェクトはこれらのデータベースやほとんどリアルタイムで得られる情報の利用を促進する。

     (9)リモートセンシング情報を用いた洪水管理の改善(SENTAR、INC.)

     この共同体はDistributed Active Archive Centers(DAACs)から得られるリモートセンシングデータをアラバマ州緊急事態管理庁が行う洪水災害管理活動の能力を改善するのに用いている。

     (10)ハワイでの教育、一般公開及び観光への
         NASAデジタルイメージ情報の利用
        (ハワイ大学とテラシステム社)

     インターネット上で観光業者、教育での利用、テレビ放送及び研究者に提供されるハワイ諸島の最新情報とイメージ写真。

     (11)知識へのパスポート:双方向テレビと
         インターネットを通じた科学の最前線への電子的旅行
         (The Childhood Project, Inc.)

     南極、クーパー空中観測機(NASAアーメス研究センター所属)、ハッブル宇宙望遠鏡からの情報。

     (12)テレビを通じた地球と宇宙科学情報の一般公開(WRC- TV)

     毎日の気象情報と出来事を包括し、インターネットを通じて科学科の授業で利用するために、現在の地球と宇宙科学の視覚化を実現する。

     (13)衛星データ利用のリアルタイム農事管理用意思決定ツール
        
    (ウイスコンシン大学)

    4種類のアプリケーションを開発する。
    a. 農場で用いる潅漑スケジューリングツール
    b. 公共事業体が発電スケジューリングに用いる潅漑用電力需要予測システム
    c. じゃがいもの葉の病気予測のための葉の湿潤期間評価のためのシステム
    d. クランベリー耕作のための霜被害予測システム

     (14)国立科学博物館を通じて地球と
         宇宙科学データを参照するための基盤
         (カリフォルニア大学バークレー校)

     このプロジェクトは国立科学博物館をお互いに結ぶ国設の科学情報基盤(SII)を構築しようとするものである。この情報基盤は、既存の、国中に張り巡らされた公立科学博物館(それ自体、研究センターと密接に結ばれている)を結ぶ高信頼性インターネット網体制の上に構築される。

     (15)ネットの渡り歩き:圧縮された衛星写真を用いた
         水に関するアプリケーション(メーン湾水族館)

     幼稚園児から高校生を対象に、地表/海水面、海洋学アプリケーションと、環境に対する人間活動の影響を調査する。

     (16)日常の教育ツールとしての科学と
         インターネット利用(スミソニアン宇宙物理天文台)

     このプロジェクトの目的の一つは、小学生がコンピューターとインターネットを使って科学調査の基本的な経験を積めるように、ソフトウェアを利用可能にすることである。そのために、天文学の研究用ソフトウェアを幼稚園児から高校生向けに改造する。この活動は、広範に利用されているSAOイメージ表示プログラムと小学生向けの天文解析プログラムを含む。

     (17)火山の世界(ノースダコタ大学)

     このプロジェクトはアメリカ合衆国とその他の世界と他の惑星にもある火山の対話型情報センター(最新情報はインターネットを通じて日々更新される)を構築しようとするものである。ノースダコタ州の教育施策では4年生から8年生のための学校が設立される予定である。また、セントヘレナ山とハワイ火山国立公園には誰でもアクセスできる情報窓口が設立される。

     (18)宇宙への窓(ミシガン大学)

     インターネットベースの地球と宇宙科学を学ぶ能動的な学習システム(シミュレーションによって作成されたアニメーションと音声の説明がついた博物館と図書館)である。

     1995年度の後半にNASAは産業界と学会のパートナーにリモートセンシングアプリケーションの第2ラウンドを構築するための協同体作りと補助金支給を提案した。補助金は1996年度に支給される。

     米国海洋・大気科学局(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)は環境データと情報を整備する役割の国家機関である。これらのデータは独立以来の環境の歴史を表している。近年、非常に大量のデータ(5000件以上)がオンラインで直接に、または注文に応じて利用できるようになった。

     NOAAの3個所の国立情報センターがこれらの情報を管理・配布している。近年各センターはHPCC関連技術を用いてこれらを供給する新しい方法を探索してきた。国立気象データセンター(NCDC:National Climatic Data Center)は利用者が直接気象情報を操作し、その結果をオンラインで見られるGlobal Climate Perspectives System を開発し、利用できるようにした。国立地球物理データセンター(NGDC:National Geophysical Data Center)は太陽表面から地球物理学に関するデータ、また最新のDMSP衛星のイメージ情報から古気象学のデータまで広範囲の情報を供給している。国立海洋科学データセンター(NODC:National Oceanographic Data Center)は世界中から得られた海洋科学の最新データをオンラインでアクセスできるようにしている。

     さらにNOAAは40カ所以上の情報センターをオンラインで国中で利用できるようにしている。

     1996年度にはNOAAはインターネットの新しいツールを使うデータ配付方法の開発を計画している。さらに、多彩なNOAAの環境データを練り上げ、NOAAの各地のデータセンターに分配し、より短時間に確実にアクセスできるようにしようとしている。

    2.5.1.2 教育

     教育省(ED:Department of Education)はインターネットベースのAskERIC(Educational Resources Information Center)を設立した。これは下記の機能を提供する。

    1. 質問を受付、回答を返すサービス
    2. 学習計画やプリント、(CNN:Cable News NetworkやDiscovery Channel、PBS:Public Broadcasting Service等から得られる)ビデオ教材、調査情報等を提供する先生のための仮想図書館
    3. National Urban League と協同で開発された、National Parent Network(これは両親が子供の成長を支えるための材料を含む)

     1995年度と1996年度は仮想図書館にマルチメディアやハイパーメディアを含めて、電子化されたERICの参考文献のデータベースを作り、1995年度中にこの中に挙げられた参考文献の前文を利用可能にすることに注力する。

     1995年度と1996年度に教育省の教育研究改善局(OERI:Office of Educational Research and Improvement)は、現在の研究開発活動を含む検索可能なデータベース、効果的な例題プログラム、教育関連の諸統計、INetを通じてアクセス可能な省内情報、それらの目的に用いるInstitutional Communications Networkの中核部分を開発している。更に、幼稚園児から高校生、また身体的な不自由がある人のためにMosaicの機能拡張を試している。

    2.5.1.3 健康管理情報

     国立医学図書館(NLM:National Library of Medicine)のコンピュータベースの医学文献解析検索システム(MEDLARS)は図書館にある生命医学や健康関連の大量の情報に素早くアクセスできるようにと構築された。世界規模の通信ネットワークを使って、MEDLARSの検索サービスはオンラインで個人や研究所に開放されている。このサービスは一日当たり1万8千件以上利用されている。

     MEDLARSをさらに使いやすく、簡便に検索できるように、NLMはPC/マッキントッシュ互換のGrateful Medソフトウェアを開発した。インターネットの素早い通信機能を生かしたGrateful Medの利便性により、健康管理の専門家の利用が大きく増進した。

     国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI:National Center for Biotechnology Information)は分子生物学、生化学、遺伝学に関する知識を自動的に蓄積・分析するシステムの構築を進めている。またNCBIは生物学上重要な分子の構造と機能を分析する、最先端のコンピュータベースの情報処理手法の研究を取りまとめている。これは世界規模のインターネットを通じて、バイオテクノロジーの研究者と医療関係者からのデータベース利用と整合化を促進させている。

     国立ガン研究所(NCI:National Cancer Institute)は、ガンの抽出、予防、治療、看護に関するPDQ (Physician Data Query)記述機能(英語とスペイン語の利用が可能)と、ガンシート、文献を含むCancerFax とCancerNet(インターネットのe-mail)情報を無料で提供している。

    2.5.2 課題

     HPCCプログラムの内、政府情報の一般公開を進めるための課題は次の通りである。

     (1)NREN関連

    a. ネットワークの相互接続性の向上
    b. ネットワークの性能向上
    c. ネットワークの操作性、運用性、安全性の向上

     (2)ASTA関連

    a. コンピュータシステムの使いやすさの向上
    b. 高性能コンピュータ研究所を設置し、広く研究者に利用できるようにする。

     (3)IITA関連

    a. コンピュータシステムを使いやすくする知的システムインターフェースの開発
    b. デジタル・ライブラリのための次世代オブジェクト技術の開発

    2.5.3 開発目標

     各項目の1996年の開発目標を次に示す。

     (1)NREN関連

    a. ギガビット級のネットワーク技術研究を通して、2.4Gbit/sec程度の性能を有する実験ネットワークを全国規模で展開する。
    b. 40Gbit/sec以上の光技術を用いたネットワークのプロトタイプの構築と、ネットワークプロトコルの拡張。

     (2)ASTA関連

    a. 継ぎ目のない全国規模のコンピューティング環境として、国立メタセンターを設立する。
    b. テラフロップス級のコンピュータシステムの提供。
    c. 地球規模の気候モデルの構築とデモ。

     (3)IITA関連

    a. エレクトロニック・コマースやデジタル・ライブラリプロジェクトを含めたテストベッドを通じて情報サービスのプロトタイプをデモする。
    b. 携帯型機器を用いてインターネットサービスの拡張機能のプロトタイプを開発する。
    c. デジタル・ライブラリ関連で行なわれた研究と実験成果のデモ。
    d. デジタル・ライブラリ関連開発の第二次助成策の取りまとめ。

    2.5.4 主要関連機関の活動

     政府情報の一般公開に関する活動を進めている主要機関の内、米国航空宇宙局(NASA)、米国大気海洋庁(NOAA)、教育省(ED)の活動内容について紹介する。

    2.5.4.1 米国航空宇宙局(NASA)

     (1)NREN

     全国規模の研究・教育のためのネットワーク構築を通じて、今後要求される高度なネットワーク機能を含んだワーキングモデルを提示し、標準を設定する。
     NASAが有する各種のデータとコンピューティング機能を、幼稚園から高校までの学校、デジタル・ライブラリ、教師のための教材センターのために利用できるようにする。
    将来必要となるギガビット級の高速通信網のために、衛星通信技術を開発する。

     (2)Information Infrastructure Technology

     地球物理学と宇宙科学に関するデータをインターネットを通じて一般に公開する。
     NSF、ARPAと協力してデジタル・ライブラリの研究を進める。この活動は次に示すリモートセンシングデータ利用プロジェクトと連動して進める。

     (3)Information Infrastructure Applications

     リモートセンシングデータとその活用のためのアプリケーションプログラムの開発とインターネットを通じた一般への公開を進める。
     このようなデータ公開を通して、教育と生活、経済の向上発展を図る。
     NASAの航空工学、宇宙科学の研究活動の波及効果として、幼稚園から高校までの数学、科学、技術科教育の展開を助ける。

    2.5.4.2 米国海洋・大気科学局(NOAA)

     (1)Advanced Computation

     将来的には低価格化が期待される超並列高性能コンピュータシステムを用いて、気象予報と気候変動予測の面で大きく前進を図る。

     (2)Networking Connectivity

     NOAAが持つリアルタイムデータ、歴史的気候データをインターネットを通じてユーザーに提供するために、ネットワーク性能の大拡張を図る。

     (3)Information Dissemination Pilots

     インターネット上の最新ツールを用いるデータ配付パイロットモデルを構築し、NOAAのデータセンターに蓄積されたデータをユーザーから効果的に利用できるようにする。

    2.5.4.3 教育省(ED)

     (1)AskERIC Service

     マルチメディア情報、ハイパーメディア情報を扱えるように拡張を行う。
     教師、管理者、両親と生徒の要望を満たすために、双方向対話型通信機構でサポートされる、全国規模の情報専門家のネットワーク構築のきっかけを造る。

     (2)OERI Institutional Communications Network(INET)

     ネットワークを通じて検索可能なデータベースの中核部分を決め、構築を進める。この中には最新の研究成果、有益な模範教材、教育上の諸統計値、教育省からの発行物等を含む。
     ネットワーク上の各種データを検索したり、取り出すサービスを強化する。そのために文書とデータフォーマットの内容を拡張する。
    教育省の各中央機関やサポートセンターの統合を援助する。

     (3)Regional Education Laboratory Program

     教育関連の応用研究を統括し、情報の普及と技術的サポートを行っている各地域教育研究所で開発された技術を統合し、新たな技術成果の造出と利用者へのサービスを図る。
     ゴーファベースのサービスメニュー方式と合わせて、WWWベースのグラフィカルなシステムも開発する。

     (4)Teacher Networking Project

     ここでは教師の専門性を高めるのに効果的なアプリケーションを提示することを目的としている。それによって教師自らが自己研修のために教材へアクセスするのを促す。またそのためにネットワークを使いこなすための情報を提供する。

     (5)National Institute on Disability
        and Rehabilitation Research

     身体障害者が直面する問題への技術的解決法の開発とテストを行い、その情報交換のためのシステムを開発する。また、身体障害者への補助具の配付方法を改善する。

     (6)GOALS 2000 Technology Planning Grants to States

     小中学校課程の教育達成度を増大できるように、全国的に、技術・設備の導入を進め、そのためのスタッフの訓練も行うための活動を援助する。

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