環境モニタリングは、環境変化の理解と予測、そして、今日直面している環境問題に対応するために必須のものである。ちょうど、金融指標、労働指標、あるいは、他の経済状態の指標を監視するように、環境に関する指標を監視し、環境の状態を判断する必要がある。NIIは、環境観測、解析、情報の普及過程の支援において、断片的なインフラストラクチャを連結し、複数の分野にまたがった広い視点から見ることのできる包括的な環境モニタリング遂行能力をもたらすために重要となる。
National Challenges の環境モニタリングでは、観測システム、計算機センター、記録保管所、図書館、情報普及システムの全米統合ネットワークを開発する。このようなインフラストラクチャは、環境モニタリングおよび保護活動における国家投資のうえに構築されることによって、多様な観測データと情報の統合的管理者として役立つ。また、リアルタイムで継続的な観測データ、オンラインデータベース、そして高度な計算能力を容易にそしてタイムリーにアクセスできるため、環境と経済にとって重大で長期的な損害を回避することができる。
環境モニタリングからみたNIIは、統合化の要素であるとともにそれを促進するものである。すなわち、利用者が地理的に分散している多くの異種データベースで作業できるように、輸送機構とデータ変換サービスを提供するものである。
HPCCプログラムでは、環境モニタリングの分野で、NASA、NOAA、EPAの各機関が取り組んでいる。大規模広範囲の環境情報のデジタル・ライブラリが構築され、これらの蔵書を有効に使用できるようにするための道具が開発される計画である。この中には、衛星画像や広範囲にわたる地球科学データベースの公開、地球観測パイロット情報システム、環境情報への要求を満たす教育訓練プログラムが含まれる。以下、IITA関連の活動について現況を述べる。
(1)EPAのデータ公開
EPAは、知的な対話的操作インターフェース、検索および解析技法、経験のないユーザのためのオンラインマルチメディアチュートリアルの開発を行ない、生態観測、大気や水質モデルに基づく予測、汚染物質の集団暴露などの色々な環境データベースを公開することを計画している。また、1996年度予算要求では、このテーマに102万ドル要求されている。
現在EPAでは、NASA、NOAAと共同で、州、連邦、産業界の各組織で利用する環境アプリケーションと政策方針決定支援を行なう高度なツールの開発に注力している。
環境基準の制定を行うコストを下げ、HPCC技術の市場を増やすことで、産業に経済的恩恵をもたらす環境政策決定が、効率的でかつ科学的、そしてタイムリーにできるようにする。高性能環境評価ツールを容易に技術移転できるように、計画では、一連のパイロットプロジェクトを行っている。これらのプロジェクトは、環境科学者、アナリスト、政策決定者のニーズを評価するとともに、支援カリキュラム、訓練用資料、ツールの開発を行なう。
このような環境評価ツール開発の最初のステップとして、UAMGUIDES(Urban Airshed Model with Graphical User Interface and DEcision Support)とEDSS(Environmental Decision Support System)が開発された。これらは、MCNCが開発し、州の環境グループに提供したもので、都市および地方の大気評価および評価モデルの改良を支援する。
次のステップでは、現在計算能力不足で実行できない複雑な複合汚染の評価とクロスメディア環境問題を扱うことのできる次世代大気評価モデリングシステム(Air Quality Modeling System Models-3)を開発する。このシステムでは、クロスメディア環境評価に求められる規模と分解能の問題を解決するのに必要な計算機資源の増加のためにスケーラブルな並列計算機を必要とする。
研究では、次のようなことに関係する基本的な技術上の問題に取り組む。それは、空間、時間、マルチメディアデータの支援、知的データアクセス技法、オブジェクトデータベース、異種のハードウェア、ソフトウェアプラットフォーム間の相互操作性、地球科学情報に対する一般大衆のニーズを満たす公的な利用および教育用の情報の作成である。
また、1996年度、EPAは環境データに関連する対話型操作、検索、解析、ヘルプ機能の知的インターフェースとデータ管理、解析方法における研究に対して助成金を交付する。
(2)NOAAの情報普及パイロット
インターネット、NIIのネットワークの利用により、NOAAのもつ莫大な実時間および経歴情報をすべての利用者に対して、さらに完全で便利な形で、タイムリーな方法で提供可能にする計画である。1996年度予算要求では、このテーマに50万ドル要求されている。
NOAAのもつ膨大な量の環境データおよび情報のうちのいくらかを、インターネットをとおして先行公開を開始する。NOAAのPMEL(太平洋環境研究所)では、沿岸および公海上における環境モニタリングに注力しており、一日から一旬の時間的規模で海洋の移り変わりの予測を支援する。現在、エルニーニョ現象の理解と予測を目的として、太平洋の熱帯域がモニタされている。現在進行中の国際的な研究は、エルニーニョ現象が天候と水揚げに影響するメカニズムを理解することを目標としている。このメカニズムが明らかになることで、モニタリングプログラムにより予報者が広い領域の数カ月の天気を予測することができ、太平洋漁業の漁獲高に経済的な影響が期待できる。PMELは、太平洋の熱帯域の海温計測結果についてほぼリアルタイムで、グラフィック表示をインターネット上(注16) に公開している。
環境情報は、NIIの一部として、民間団体、研究者、教育者、一般大衆が利用できるように、各地域のNOAAデータセンターに地理的に分散して置かれることになる。
1996年度は、インターネットの高度データアクセスツールを使用し、NOAAの種々の環境データの一部を公開するデータ普及パイロットを開発する。
(注16) | 詳細については、http://www.pmel.noaa.gov/toga-tao/el-nino-story.htmlを参照のこと。 |
(3)NASAの情報インフラストラクチャ技術
インターネットを利用して地球および宇宙科学に関するデータを公開する。1996年度予算要求では、このテーマに880万ドル要求されている。
1994年度、このデータ公開を支援するテジタル・ライブラリ技術の研究に対して、ライス大学とウィスコンシン大学に助成金が交付された。
1996年度、NASAは、リモートセンシングアプリケーションを支援するのに必要なデジタル・ライブラリ技術の追加部分を決定し、リモートセンシングデータアプリケーションの公的使用に対し助成金を交付する。
(4)NASAの情報インフラストラクチャアプリケーション
インターネット上にリモートセンシング画像のデータベースへのアクセスと支援ソフトウェアを開発、提供する。NASAは、HPCCプログラムを土台に航空宇宙科学技術研究、および、数学、科学、工学教育を支援するNIIの開発を容易化し、現在の教育を向上させるインフラストラクチャを構築する計画である。1996年度予算要求では、このテーマに1800万ドル要求されている。
1994年度、インターネットによる地球および宇宙科学に関するデータの公開を支援するアプリケーションに対して、ミネソタ大学、ノースダコタ大学、ハワイ大学に助成金が交付された。
1996年度、NASAは、リモートセンシングアプリケーションを支援するのに必要なデジタル・ライブラリ技術の追加部分を決定し、リモートセンシングデータアプリケーションの公的使用に対し助成金を交付する。
HPCCプログラムではないが、環境モニタリングに関連するその他の主要な計画としては次のものがある。
(注17) | 詳細については、http://gcmd.gsfc.nasa.gov/gcmdeos.htmlを参照のこと。 |
(注18) | 詳細については、http://earth1.epa.gov/emap/を参照のこと。 |
(注19) | 詳細については、http://www.gcdis.usgcrp.gov/を参照のこと。 |
以下、これらについて述べる。
(1)EOS
NASAのMission to Planet Earthプログラムの基礎となるもので、Global Change Research Program(GCRP)に不可欠な部分である。
大域的な気候の変化を研究するために設計された器具を運ぶ宇宙船で、1998年初頭から稼働し始める予定である。
EOSDISは、地球科学観測データを管理するシステムで、データの解釈とモデリング、EOSデータの処理、配付、保管、および、EOS観測所に対する指令と制御など、EOSの研究活動を支援する計算能力とネットワーク機能を提供する。カリフォルニア大学バークレー校では、「End-to-End Problem in EOSDIS」プロジェクトで、シームレスなデータ分散を支援する次世代分散データベース管理システムを研究している。
(2)EMAP
国土の生態資源の状態をモニタおよび評価し、それによって、環境保護管理の意思決定に寄与することを目的とする。これを達成するために、4つの目標を掲げている。
(3)GCDIS
数十億ドルの連邦プログラム Global Change Research Program(GCRP)の一 部。
研究者、研究者、政策決定者、教育者などが、global changeデータ、情報をできるだけ簡単にアクセスできるように、適切な水準の通信技術、相互操作性、接続性を提供するものである。
GCDISは、global changeの研究に関係する個々の政府機関で運用される分散情報システムの集合体で、それに横断的な新しいインフラストラクチャが追加されたものになっている。共通の標準、アプローチ、技術の共有などで相互操作性を獲得する。
現在行われている計画には、次のものがある。
次のような技術課題がある。
いろいろな観測データ、さまざまなデータタイプ、広範囲にわたるデータサイズがある。環境データをさまざまな観測システムから情報製品に統合化したり、ユーザに配布できるように、データフォーマットと電子情報交換プロトコルを共通化する必要がある。
環境情報におけるユーザの機密を保持するために、データの完全性と信頼性を保つ手段を講じる必要がある。統一的な品質標準を採用し、実施する必要がある。
ユーザが要求したときに環境モニタに必要なデータが利用可能なように優先度付けされた転送手段を提供する必要がある。バンド幅と優先度付け機能は、生命と財産を守るために、とくにリアルタイム環境データ収集に重要である。また、バースト的データ転送への対応も必要である。
教育と生涯学習に対するNational Challengesでは、あらゆる年齢の人々や様々な能力を持つ人々を対象とした教育、訓練、学習システム実現のために、HPCC技術を利用する。その目指すところは、以下のとおり。
(1)遠隔教育
(2)教師研修
(3)情報入手
(4)生涯学習
(5)デジタル・ライブラリ
HPCC技術は、教育、研究、訓練、生涯学習にも様々な変革をもたらす。この例として、次のようなものが挙げられている。
(1)教育
(2)研究
(3)訓練
(4)生涯学習
教育に対するネットワークインフラのプログラムは、1994年度にNSFが開始した。教育プログラムは、HPCCに関係する政府機関のほとんどが実施している。その中から、NSFとNASAの活動内容について取り上げる。
NASAはK−12(Kindergarten to Twelve)プログラムを推進している。NASAは、インターネットを利用した教育に関し、教師の研修から技術サポートまでを含め、幅広く活動している。K−12の目標として、以下が挙げられている。
NASA K−12の活動内容は、次のとおり。
(1)教室とNASAをオンライン接続
(2)インターネットに関する教育ビデオの作成
(3)学校への技術支援
(4)教師に対する地球科学教育、コンピュータとインターネットの教育
(5)地球システム科学コースECOlogicaの開設と普及
(6)遠隔地の天体望遠鏡を使った教育
(7)Internet Library Information Assembly
Database(ILIAD)システムの開発と保守
(8)ローコストでLANをインターネット接続するための開発
(9)教師によるコンピュータ教室の運営を支援する
コンピュータラボの開設
(10)広帯域、ローコストを目指したRF帯無線による
インターネット接続の実現
インターネットを利用した教育は、参加する学校の数も増え、着実に成果をあげている。しかし、教えることと学ぶことの道具として、教師も学生もコンピュータやインターネットの使い方を知っていることが必要である。現状では、インターネットで提供されるリソースの多くは知識ある人によって作成され、自分の思うようにインターネットを使いこなすには、たくさんのことを覚えなければならない。そのため、米国では教師の研修とともに、小さいうちからコンピュータやインターネットに慣れるよう、教育環境を整えてきている。ただし、人によって使いこなす能力に差があるのは当然であり、アプリケーションに応じてその都度操作を覚えるのも負担になる。このことから、今後もインターネットを利用した教育を推進するためには、誰にでも簡単に使えるユーザインターフェースを提供することが、必要であろう。