エグゼクティブ・サマリー
米国連邦政府による科学技術への研究開発投資の規模は、世界最大である。こうした投資は、過去50年間、米国の経済、国家安全保障、そして国民の福祉に計り知れないメリットをもたらしてきた。米国政府による研究開発投資の戦略は、民間部門から十分な資金援助が得られない研究活動を対象として複数の政府機関を通じた助成を行う、という点で一貫している。たとえば、リスクの高い新興分野、長期的な取り組みを必要とする研究、前例がなくコストが高い最先端のインフラストラクチャや設備、新しい知識の発見と水平展開を目的とした学術研究プログラムといった活動が助成の対象となってきた。このような省庁連携型のプログラムの最大の特徴は、複数の連邦政府機関の間で対話と連携が展開され、すべての機関が科学技術研究ポートフォリオ全体の作成と維持に参加してきたことである。このアプローチには、連邦政府資金によるすべてのプログラムと同様に、明らかな長所と短所がある。しかし、このシステムが国家目標の達成に貢献してきたことは疑いのない事実である。特に、近年の省庁横断プログラム・イニシアチブは、連邦政府の研究開発ポートフォリオに多大な影響を及ぼしてきた。その結果として、優先順位の変化、基幹インフラストラクチャの構築、新興分野の研究の加速、無駄や重複の減少といったメリットも実現されている。残念なことに、利害が競合する省庁間の連携では、人材と施設の両面で資源を調整することが、難題として各機関の前に立ち塞がるのが常である。しかし、連携が効果的に作用すれば、コストを上回るメリットが期待できることは明らかである。
目的と範囲
本報告書は、前回のAITEC調査報告書の続編として、米国において複数の政府機関が合同で実施している近年のプログラム・イニシアチブを支える連携プロセスについて、包括的に調査した結果をまとめたものである。本調査の目的は、そのような連携プロセスが、なぜ有益であり、どのような形で効果を発揮するのかを、省庁間プログラムの運営/管理面に注目しながら検証することである。次に、今回の調査で取り上げる主な問題の一部を示す。
- 省庁間の機関横断的なイニシアチブはどのように構想され、形成されるか。
- 参加機関は共同プログラムの定義と開発にどのような役割を果たすか。
- 複数の省庁や機関にまたがるプログラムとプロジェクトはどのように運営されるか。
- 参加機関の間で資源と責任がどのように委譲されるか。
- 複数の機関による財政支援の中に身を置く研究者や研究施設の側では、省庁間プログラムをどのように見ているか。
- プロジェクトとイニシアチブ全般の成否をどのように評価すべきか。
- 予算管理機関 (例:連邦議会や行政府の担当部局) はどのような役割を果たすか。
- 省庁間の調整を担当する部局や、プログラム・マネージャの草の根的な活動の役割は何か。
本調査では、こうした問題について、マクロ・レベルとミクロ・レベルの2つの視点から考察する。まずマクロ・レベルでは、人材、資金、プロジェクトがどのように各種のプログラムや機関の境界を越えて流れているか、つまり、省庁間の壁がどのような形で取り除かれているのか、という点に注目する。ミクロ・レベルでは、省庁合同体制の下で、特定のプログラム要素やイニシアチブが、どのような場面でどのように機能しているか、そしてどのような形で調整と連携のプロセスに (それぞれが独自のあり方で) 貢献しているかに注目する。この2つの相補的な観点を組み合わせることで、全体として、研究と技術革新を支える1つの特異なプロセスである省庁間連携という仕組みの内部的な働きを、より明瞭な形で表現することが可能になる。
調査の枠組み
こうした論点をマクロとミクロの両レベルで検討するために、今回の調査では、3つの視点から成るアプローチを使用する。第一に、米国の研究開発の機構全般を概観するために、調査の背景となる枠組みを設定する。その際は、特に、連邦政府のさまざまな助成組織と、省庁間の調整活動のために設けられた管理構造を中心として考察する。この視点を通じて、どのような要因が (内部と外部の両方の要因を含めて) 省庁間の連携を推進し、どのような要因が阻害するのかを、より明確に理解することが可能になる。第二に、マクロ・レベルで、連邦政府がコア・テクノロジーの開発で果たしている独自の役割、すなわち、大学における基礎研究を立ち上げ、産業界の参加を促し、そうした研究活動が実を結ぶように (つまり、市場化されるように) 導く、という役割に注目して分析を行う。複数の機関が (同時期に、あるいは異なる時期に一定の期間にわたって) 共同研究に参加することによって形成されている技術革新システムを、本調査ではイノベーション・パイプラインと呼んでいる。第三に、省庁間プログラムの細部をミクロ・レベルで検討するために、情報技術 (IT) 分野を詳しく取り上げる。ITは、2004会計年度の予算請求も含めて、過去10年近くの間、常に最優先の省庁横断研究開発イニシアチブの1つとして扱われてきた。情報技術研究開発は、おそらく、過去10年間で、最も順調に発展し、最も適切に運営されてきた省庁間イニシアチブの1つであり、調整と連携の複雑さに伴って発生するすべての課題を具体的に示してくれる事例でもある。主な調査結果
以上の枠組みに従って、データを収集し、資料を調査し、実際にプログラムに携わった主要な関係者への面談調査を行った。以下に、今回の調査から得られた主な結果と結論を示す。
1. ミッションは異なるが、目標と特性は共通している
これは、科学技術領域のあらゆるタイプの省庁間活動を後押しする最大の原動力である。各機関は、それぞれが異なる固有のミッションを遂行するために必要とする研究開発ポートフォリオを作成する任務を担っているが、目標とその達成手段は類似している。具体的には、次のような目標が省庁間で共通している。
- 長期的な基礎研究を支援する。
- 大規模なインフラストラクチャの構築に向けた活動を支援する。
- 知識移転を目的とした産学連携を確立する必要がある。
- 外部の資源を有効利用して、機関固有のプログラムを改善し、プログラム・ポートフォリオ内の助成格差を解消し、新興分野の研究に着手する。
- 補完的な知識と管理形態を取り入れて、組織力を強化する。
- 研究開発の成果を研究開発機関以外にも水平展開して、一般社会での実用化を目指す必要がある。
上記のどの共通目標も、単独では他の機関に協力を依頼するだけの説得力ある理由にはならないが、全体として見ると、適切な機会が生じた場合に省庁間コラボレーションを採用する強力な論拠になる。
2. リーダーシップは議会、行政府、そして各省庁レベルから発動されている
米国で省庁横断的な研究開発プログラム・イニシアチブが次々と誕生するにあたっては、政府の強力なリーダーシップが大きな役割を果たした。このリーダーシップは、さまざまな方向から発動された。まず第一に、連邦議会が、省庁間プログラムの発足に結び付く法案を採択したことである。この法案は、複数の機関の参加を必要とするプログラムの発足とそれに対応する管理構造の実現を求めるものであった。現在のネットワーキング/情報技術研究開発プログラム (NITRD) の前身である高性能コンピューティング/通信イニシアチブ (HPCC) は、議会の立法措置の結果として誕生したものである。第二に、行政府も行動を起こし、国家科学技術会議 (NSTC) を設立し、科学技術政策局 (OSTP) と行政管理予算局 (OMB) が担っている省庁間調整の役割を強化するという措置を講じた。ここでのキーワードは「政策」、「予算」、「管理」である。この3つの要素が適切に結合することで、機関連携プログラムの推進に必要な動因が提供された。第三のリーダーシップは、機関の管理者層そのものから発動された。上層部からの奨励策や促進策を受けて、さまざまな行政機関の上級管理職や中間管理職は、省庁間の連携を自分の仕事の中心課題と考えるようになったのである。
3. 複数の機関から、多様性、資源の増強、相互補完性というメリットが得られる
複数の機関が取り組みに参加する最も明白な利点は、選択肢の多様性が得られること、そして、通常は単独の機関では実現できないような新しいプログラムを立ち上げる機会が得られることである。今回調査した省庁間プログラムの場合、この利点の一部は、実施されたプログラムの幅広さに現れている。しかし、省庁間のコラボレーションには、単なる選択肢の多さや資源の共有を超えた要素も含まれている。常に観察される事実は、参加機関が、個々の機関の能力を超えたレベルに設定された共通の研究課題や実施計画を達成しようと努力することである。たとえば、電子図書館研究イニシアチブ (DLI) では、国立医学図書館 (NLM) や連邦議会図書館 (LOC) といった機関が参加することによって、全米科学財団 (NSF)、米国航空宇宙局 (NASA)、国防高等研究計画局 (DARPA) などの科学技術専門機関が提供できない能力が補完されている。同様に、NITRDイニシアチブの場合も、政府の主要な研究開発機関が多数参加して大規模な相互補完的体制を形成しているために、資源の共有、研究対象範囲の広さ、管理手法の相違といった問題に対処することが、どの参加機関にとっても非常に大きな課題となった。しかし、連携の方針を慎重に考案し、それを適切に実施したことによって、こうした課題は、連邦政府の研究開発ポートフォリオの大きな財産へと変貌したのである。
4. 異なる活動モデルがコラボレーションの柔軟性を実現する
今回の調査は、省庁間の取り組みが多様な形態を取ることを示している。まず、連携プロセス自体が2つ以上の機関の非公式の話し合いの結果として生じ、それが最終的に共同プログラムへと発展するケースがある。そうした事例は、(通常は) 二者間のコラボレーションから成り立つ小規模なイニシアチブの一部で実際に見られるものであり、人間言語資源イニシアチブ (HLR) におけるNSFとDARPAや、計算神経科学プログラム (CNS) におけるNSFと国立衛生研究所 (NIH) などがそれに該当する。逆に、さまざまな機関の上層部局の指導の下で公式の折衝が実施された結果として、省庁間の連携が開始されることもある。共同プログラム (例:電子図書館研究イニシアチブ) への助成に合意する正式の文書を取り交わすことによって、各参加機関 (DLIの場合は6機関) は、予算、人事、およびその他の資源に関して、一定の義務を負うことになる。この公式の手続きに従うと、ときには労力と時間を取られることもあるが、高い継続性が得られるとともに、プログラムの実施中に不愉快な紛争が生じるのを防止することができる。また、トップダウン方式とボトムアップ方式を対比したモデルも、実情を適切に説明するものであった。むしろ、状況によっては、2つの方式の組み合わせが、省庁間プログラムに最も有利に働くこともある。その最適な例はNITRDプログラムであり、NITRDの方式が成功したことで、その後、他の多くの省庁間プログラムがNITRD方式をモデルとして踏襲しようと試みるようになっている。NITRDの場合、多数の機関にまたがって長い間地道に実施されてきた草の根レベルの活動が、後年の大規模な共同イニシアチブの礎石を築くことになった。こうした長年にわたるボトムアップ活動があったからこそ、その後、この多機関合同のプログラムが確固としたシステムへと発展できたのである。連邦政府の研究開発階層の最高レベルからトップダウンで方向付けと管理が実施されるNITRDの現在の姿は、そうした経緯の結果である。
5. 省庁間連携はコア・テクノロジーの開発とイノベーション・パイプラインの維持に重要な役割を果たす
今回の調査で、米国のコア・テクノロジー開発には省庁間の連携が決定的に重要な役割を果たしていることが明らかになった。これまで、多数の政府機関が、相当な年月にわたって、大学における基礎研究に助成し、大学間の連携強化を支援し、産学の連携を通じた共同研究を実施するように産業界を指導してきた。その結果、運に恵まれれば、研究成果が市場化という形で実を結ぶケースも生じている。こうした場合に政府機関が果たしている役割は、イノベーション・パイプラインを創造し、維持し、拡大するという役割である。このような連携の取り組みの発端は、意図的な場合、偶発的な場合、ときには御都合主義的な場合さえもある。しかし、どのような形であろうと、その結果として生じる影響は望ましいものであり、しかも長期的に持続するものである。過去30年間にわたるIT分野のコア・テクノロジー開発の歴史を振り返ってみると、この見解が裏付けられる。タイムシェアリングに始まり、コンピュータ・グラフィックス、超大規模集積回路
(VLSI)、データベースを経て、インターネット、音声技術に至るまで、技術革新がその着想から数十億ドル規模のビジネスまで発展していく経緯は、複数の政府機関からの助成を
(同時に、あるいは異なる時期に別々に) 受けながら実施される研究開発と同じ軌跡をたどっている。各政府機関の役割は異なることもあるが、常に相互補完的な機能を果たしている。たとえば、人工知能
(AI) の研究を支援した機関は、当初、DOD (主としてDARPA) だけであったが、その後、NSFが参加したことは、AIを正式な学問分野として存続させる上で、DODとは異なる面で非常に重要な役割を果たすことになったのである。今回の調査で明らかになったのは、いずれの場合でも、コア・テクノロジーの開発を後押しするこうした機関合同の取り組みが、大規模な先導的イニシアチブの基盤を築き、イノベーション・プロセスを促進してきたという事実である。
6. 省庁間研究開発ポートフォリオ全体は大小さまざまなプログラム・イニシアチブの混合から構成される
過去10年間にわたる連携プロセスを調べてみると、さまざまな種類のプログラム・イニシアチブ (たとえば、通常は多数の機関が参加する大規模なイニシアチブから、2つの機関あるいは比較的少数の機関だけが関わる小規模なイニシアチブまで) を組み合わせることのメリットが明らかになった。こうした各種のプログラムは、その貢献度や影響力の点でも異なる。大規模なプログラムは、先導的な役割を果たし、資源の有効利用、国家規模のインフラストラクチャの構築、無駄や重複の低減といった効果をもたらすほか、最も重要な点として、研究開発の優先順位と予算配分の変化を引き起こす。大規模プログラムの典型は、NITRDイニシアチブである (詳細は後の章で検討する)。一方、小規模プログラムの活動は、より大規模で長期的な連携を生み出す源泉となるほか、新たに出現する研究ニーズや各機関のミッション要件に対応する役割を果たす。この両極の中間には、電子図書館研究イニシアチブ (DLI) などの中規模プログラムが位置する (DLIについても後の章で詳しく検討する)。中間的なプログラムは、両極のプログラムの長所を兼備する傾向がある。すなわち、小規模イニシアチブに特有の柔軟性と形式主義からの自由、そして通常は管理の経費が少ないという利点がある一方で、適切に運営すれば、各機関や連邦政府の研究開発ポートフォリオに対して長期的かつ多大な影響力を行使できるということであり、DLIがその実例である。
7. 省庁間連携に寄与するその他の原動力
省庁間連携を推進する原動力の1つは、連邦政府の外部にある要因、すなわち、研究コミュニティ自体である。この力は、主として、連邦政府の研究開発プログラムに施設と人材の両面で資源を提供する研究系大学に由来するものである。実際には、ここでは2つの力が働いている。まず、大学の研究活動、特に、優秀な中核的研究センターで実施される研究活動は、複数の政府機関から助成を受けているのが普通である。なぜなら、助成機関は、最大限の投資効果が得られるように、最も優れた研究者と研究施設を投資先として選択するからである。このこと自体が、複数の機関の連携を促す力として機能する。もう1つの要因として、研究大学の側が、必要に迫られて、共同出資や共同管理の可能性を探るために複数の機関から支援を求めざるを得ないという状況がある。このような力は、ほとんどの政府機関内部で個別的プログラムの推進力として働いてきたが、近年では省庁間イニシアチブを推進する力としても機能するようになっている。現在、米国には研究系の大学が約200校あり、そのすべてが省庁間の連携を強化する方向で (大なり小なり) 一定の役割を果たしてきている。
8. 省庁間連携の強化に向けた政府の新しいアプローチ:「アメとムチ」
ミッションや利害が異なり、互いに競合している機関同士が連携することは、本来、難しい試みであり、しかも研究開発に充てられる資源が限られているとなれば、連携はもはや至難の技である。長年の間、省庁間連携は、米国政府にとって「絵に描いた餅」のような目標であり、一部の省庁間イニシアチブで一定の成果が上がるようになったのも、ごく最近のことである。それでも、こうした初期の成功によって、連邦政府は、同様の成功を他のイニシアチブでも実現するための処方箋を見出したように思われる。それは「アメとムチ」のアプローチである。まず「アメ」の部分は、すべての省庁の予算編成プロセスにOMBとOSTPを深く関与させることによって達成される。OMBとOSTPは、大統領の代理として、各機関の長に対する行政命令を発行し、国家の最優先課題である機関連携プログラムにどのように取り組むべきかを示す指針を提供している。この取り組みに参加しようとしない機関は、あらゆるものを失う立場に立たされる。一方、連邦議会は、研究開発プログラムの策定や管理に省庁間の連携が欠如していることを長年にわたって批判してきた。こうした批判に実効性を伴わせるために、議会は、過去10年にわたって一連の立法措置を講じてきた。その1つが、1993年に制定された政府業績成果法 (GPRA) である。現在、GPRAは、長年にわたる政府の逡巡に服してきた後に、ようやく全面的に施行されようとしている。GPRAは、無駄と重複を低減するために、省庁間の連携を要求している。また、GPRAは、各政府機関が、省庁間プログラムを優先的な活動として、また業績の評価基準として自発的に採用することを奨励する方策も提供している。今回の調査で明らかになった限りでは、これが省庁間の連携を「強制」する新しいアプローチの「ムチ」に相当する部分である。
結論
省庁間プログラム (機関横断プログラム) の創設と運営/管理は複雑な仕事であり、その実施に成功することは、現実には達成できそうもない幻の目標であった。それでも、国家がより賢明かつ効果的な科学技術投資を実施するための有効な手段になるという点で、省庁間プログラムは、やはり追求するに値する目標である。米国では、省庁間プログラムが必ず成功しているとは言えないが、近年では成功事例も生まれ始めている。今回の調査は、米国の幅広い省庁間活動の経験から教訓を汲み取ろうとする包括的な試みである。こうした活動は、コア・テクノロジーの開発支援から、草の根レベルの活動を通じた小規模プログラムの育成、そして大規模なイニシアチブに至るまで多岐にわたるが、いずれの活動も省庁間連携プロセスに対して独自の形で貢献してきた。省庁間活動業績マトリックスを使用して、このような諸活動の検証と分析を行った結果、効果的な連携を可能にする重要な因子と要素の一部が明らかになった。ただし、連携を確かな成功へと導く魔法の公式や処方箋が見つかったわけではなく、単に、将来同じ道を歩む者が少しばかり確かな足取りで進めるようになっただけであるが。