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米国の連邦政府R&D計画における省庁間の役割分担と連携の仕組み

米国の連邦政府R&D計画における省庁間の
役割分担と連携の仕組み

 

第1章 はじめに

本調査は、近年における米国連邦政府研究開発イニシアチブの省庁間連携プロセス、すなわち、複数の政府機関の関係を調整して連携を図るプロセスを中心課題としている。その意味では、本書を、情報技術 (IT) 関連領域における米国の研究開発プログラムを詳細に調査した前回の報告書の続編として利用することもできる。たしかにこの2つの調査は関連しており、相互に補完する部分もあるが、今回の調査は前回とは完全に異なる問題を扱っており、政府機関同士のコラボレーション (協同作業) と、それが研究の成果や技術の発展に及ぼす潜在的影響との関連性をめぐる諸問題をテーマとしている。

米国連邦政府内では、多数の省庁/機関が、国家の福祉にとって重要度の高い多様な領域における研究開発の責任を負っている。各機関は、それぞれ特定の (多くの場合は他の機関が肩代りできない) 防衛、エネルギー、保健医療、教育、通商などのミッションを担っており、その達成のために独自の研究開発計画を必要としている。一方、こうした政府機関の多くは、各機関の研究ポートフォリオを構成している多様な科学工学領域の広い範囲にわたって、研究開発の目標と特性を互いに共有し合っている。この共通性に鑑みれば、研究開発プログラムの実施に多種多様な運営手法や長期的な投資が必要となるような分野では、省庁間連携を1つの戦略として検討することが必要となり、また望ましくもなってくる。連邦政府が研究開発に携わってきた50年近い歴史の中では、さまざまな形態の省庁間連携が実施されてきたが、その成否の度合いも一通りではなかった。しかし、異なる政府機関の間で調整と連携のメカニズムを確立するための本格的な施策が講じられるようになったのは、近年になってからである。その結果、最近の連邦政府による研究開発イニシアチブは、特に、情報技術、生物情報学 (バイオインフォマティクス)、ナノテクノロジーといった新興領域において、それ以前とは著しく異なるアプローチで運営されるようになっている。

そのような連携の仕組みが、なぜ有益であり、どのような形で効果を発揮するのかを理解することが、本調査の主な目的である。次に、検討の対象とする問題の一部を示す。

- 省庁間の機関横断的なイニシアチブはどのような方法で構想され、形成されるか。
- 参加機関はプログラムの定義と開発にどのような役割を果たすか。
- 複数の省庁や機関にまたがるプログラムとプロジェクトはどのように運営されるか。
- 参加機関の間で資金と責任がどのように委譲されるか。
- 研究者や研究施設の側では、省庁間プログラムをどのように見ているか。
- プロジェクトとプログラムの成否をどのように評価すべきか。
- 予算管理機関 (例:連邦議会) はどのような役割を果たすか。
- 行政機関はどのような役割を演じるか。

こうした問題を論ずる上で重要なことは、少なくとも2つのレベルの分析を通じて、省庁間連携プロセスを理解することである。まずマクロ・レベルでは、人材、資金、プロジェクトがどのように機関の境界を越えて流れているか、つまり、省庁間の壁がどのような形で取り除かれているのか、という点に注目したい。ミクロ・レベルでは、省庁合同体制の下で、特定のプログラムとイニシアチブが、どのような場面でどのように機能しているか、そしてどのような形で調整と連携のプロセスに (それぞれが独自のあり方で) 貢献しているかに注目する必要がある。この2つの相補的な観点を組み合わせることで、全体として、研究と技術革新を支える1つの特異なプロセスである省庁間連携という仕組みの内部的な働きを、より明瞭な形で表現することが可能になる。

こうした論点をマクロとミクロの両レベルで検討するために、今回の調査では、3つの視点から成るアプローチを使用することにした。第一に、米国の研究開発の機構全般を概観することによって、調査の背景となる枠組みを設定する。そのために、特に、連邦政府の助成組織と、省庁間の調整活動のために設けられた管理構造を中心として考察する。この視点を通じて、どのような要因が (内部と外部の両方の要因を含めて) 省庁間の連携を推進し、どのような要因が阻害するのかを、より明確に理解することが可能になる。第二に、マクロ・レベルで、連邦政府が新しいテクノロジーの開発で果たしている独自の役割に注目した分析を行う。すなわち、大学における基礎研究を立ち上げ、インセンティブとパートナー関係によって産業界の参加を促し、そうした研究活動が最終的に製品やサービスとして結実するように導く、という政府独自の役割を明らかにする。このような研究開発環境に、複数の機関が (同時期に、あるいは異なる時期に一定の期間にわたって) 参加することによって形成されている技術革新システム全体を、本調査ではイノベーション・パイプラインと呼んでいる。第三に、ミクロ・レベルで省庁間プログラムの細部に立ち入って検討するために、情報技術分野を詳しく取り上げる。2004会計年度の計画も含めて、情報技術は、常に最優先の省庁横断研究開発イニシアチブの1つとして扱われてきた。情報技術研究開発は、おそらく、過去10年間で最も順調な発展を遂げた省庁間イニシアチブの1つであり、調整と連携の複雑さに伴って発生するすべての課題を具体的に示してくれる事例でもある。

このようなアプローチを基盤として、データを収集し、資料を調査し、実際にプログラムに携わった主要な関係者への面談調査を行った。調査は、主として、以下のような設問に沿って行われた。

1. 上流から中流、下流、そして商業化へと向かう研究開発の流れ
・ イニシアチブはどのように形成されるのか。
・ 何が助成の優先順位を決定するのか。
・ 助成プロジェクトの成否をどのように判定するのか。
・ 成功した研究プロジェクトは、産業界と商業化の領域にどのような影響を及ぼしているか。

2. 複数の機関による研究助成の目的とそのメリット

・ 省庁合同プログラムの恩恵と利点は、調整や連携の困難さとコストを補って余りあるほど十分に大きいのか。

3. 省庁間の調整を担う組織の役割と意思決定プロセス

・ 各機関の役割はどのように決定されるのか。
・ 研究計画は誰が決定するのか。
・ ミッションや目標が複数の機関の間で衝突する場合、どのように優先順位を設定するのか。

4. 政府機関ごとの助成方式、管理スタイル、組織文化の相違

・ こうした相違をどのように折り合わせるのか。
・ プログラム・マネージャは、省庁合同プロジェクトの実施中も、助成の権限 (プロジェクト選定、打ち切りなど) を保持するのか。

5. 複数の機関からの財政支援を求める研究者の立場とそれが連携に及ぼす影響

・ 複数の機関が同じプロジェクトに助成することは可能か。
・ 参加機関内で生じた予算やプログラムの変更は、助成体制に影響を及ぼすか。

6. こうした調査結果から、結論として何を導き出せるか。

本書の構成 − 本書では、調査結果と結論を次のような構成で編集した。まず、第2章では、この序論 (本章) の後を受けて、省庁間連携の背景と推進要因を見定める。すなわち、米国の研究開発助成機関をめぐる背景状況、各省庁/機関のミッションの多様性、そしてさまざまな省庁の共通特性について検討する。第3章は、省庁間の連携を成り立たせている主な要素をテーマとして扱い、ニーズの競合というエネルギーを共同目標と共同計画へと転換することに貢献しているプロセスと組織構造について検討する。また、過去のプログラムで実際にあるいは実験的に使用された調整/連携のさまざまなモデルについても論じる。第4章と第5章は、技術革新の歴史と事例研究を中心とした考察であり、過去 (および近年) に実施されたIT関連分野の機関合同活動や省庁間プログラムに焦点を合わせる。第4章は、複数機関の参加がイノベーション・パイプライン全般の維持拡大に果たした役割について検討する。こうした役割は、あまり広く知られていないが、省庁間のコラボレーションがどのような効果をもたらすかを調査するときには見過ごせない重要ポイントである。第5章は、大小さまざまなプログラム・イニシアチブの代表例の詳細な分析であり、各事例が省庁間連携プロセスに対する独自の展望を示してくれる。なお、今回の調査で行った分析は、研究開発の管理プロセスとそれが連邦政府の研究開発投資に及ぼす影響を中心テーマとしており、技術的な内容や研究テーマ自体を対象としたものではないことに留意されたい。技術的/内容的な側面の詳細は、前回のAITEC調査報告書で扱っている。

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