米国の連邦政府R&D計画における省庁間の役割分担と連携の仕組み
本章の目標は、省庁間プログラムがどのような経緯で発展し、どのように実施されているか、またその影響評価がどのように実行されているかを分析することである。ここでは、事例研究として、電子図書館研究イニシアチブ (DLI) とネットワーキング/情報技術研究開発 (NITRD) プログラムを取り上げながら、省庁間協力の諸段階をたどってみる。また、複数の政府機関にわたるコラボレーティブな取り組みの発展を促している他の要因についても検討する。こうした要因を分析することによって、価値ある洞察が得られ、効果的な省庁横断プログラムを構築する重要な手がかりをつかむことができる。
DLIプログラムは、特定分野に関心を持つ連邦政府組織内と組織間で開始された草の根的な行動からどのような形で機関合同プログラムを構築できるかを具体的に示してくれる、連邦政府の研究開発部門における少数の事例の1つである。1994年に開始されたこのプログラムは、現在、活動の10年目に入っている。DLIは、特に別個の予算項目を設けることなく、通常の予算編成プロセスの中で本格的な研究助成プログラムを実現しようというコンセプトとビジョンから発展してきた。それにもかかわらず、このプログラムは、何年間にもわたって確実に継続され、現在では、2つのフェーズの研究開発助成活動の成功の後を受けて、さらに次の世代の研究計画に着手しようとしている。現在、NSFの主導によって、他の省庁や研究機関の参加を得ながら、電子図書館 (DL) 研究の将来と知識社会におけるその広範な応用に関する斬新な計画を作成する作業が進められている [8]。このプログラムが過去に一定の成功を収めてきた要因は、初期の計画立案からプログラムの実行、プロジェクト管理、そして継続的な発展まで一貫して進められてきた、非公式のボトムアップ・プロセスである。本項では、こうしたプロセスについてやや詳しく検証し、データやその他の証拠が得られる場合は、それも提示することにする。ここでの議論の中心は、当然ながらDLIプログラムの管理面に置かれている。DLIとその研究開発成果の技術的な領域をより包括的に扱う分析については、別のAITEC調査報告書を参照されたい [9]。
インターネットとWorld Wide Webが1990年代初頭に普及し始めた頃、国家規模の情報技術研究開発 (IT R&D) には「情報」インフラストラクチャという大規模なコンポーネントも組み入れる必要があることが明らかになった。この時代は、高性能コンピューティング/通信 (HPCC) 研究プログラムが、もっぱら演算処理に関する課題だけに注力する姿勢を大きく軌道修正し、国家と社会のニーズを反映した重要課題を組み込んだ、より幅広い研究計画に重点を移そうとしていた時期に当たる。HPCCの国家調整局 (NCO: National Coordination Office) は、新しい省庁間作業部会 (ワーキング・グループ) である情報インフラストラクチャ/テクノロジー・アプリケーション (IITA: Information Infrastructure and Technology Applications) タスクフォースを召集し、拡大されたHPCCのための研究計画と実施計画を作成する任務を委ねた。その目標は、文字どおり、新しい「情報」コンポーネントを当時のHPCCに追加することであった。この作業部会は、NSFとDARPAが共同で議長役を務め、他のすべての主要な研究開発関連の政府機関から大勢の代表者が参加したが、数ヵ月にわたる討議の後、1994年2月に、"Information Infrastructure Technology and Applications" (情報インフラストラクチャの技術と適用) と題する報告書を発表した [10]。この報告書は、最も影響力の強い文書の1つとなり、HPCCとその後継プログラムの性格と範囲を再定義するのに貢献した。この報告書の中で、「電子図書館 (デジタル・ライブラリ)」は、9つの主要な「国家的課題」の1つとして挙げられ、「米国の福祉と競争力に広範かつ直接の影響を及ぼす情報集約的なアプリケーション」として定義された。また、この報告書は、電子図書館の全般的なビジョンと研究計画の概略も提示した。次に、この報告書の記述の一部 (18ページ) を示す。
「電子図書館は、高速ネットワークを通じた多種多様なデジタル情報の制作、保存、そして利用を大きく前進させる、テクノロジーとアプリケーションの両面における取り組みから成り立つ。電子図書館は、物理的な建造物のない知識センターであり、1日24時間常時利用可能であり、ネットワークを通じてアクセス可能である。研究領域としては、先進的な大容量記憶装置、マルチメディア・データのオンライン・キャプチャー、インテリジェント・フィルタリング、ナレッジ・ナビゲーション、効果的なユーザー・インタフェース、システム統合、そしてプロトタイピングと技術の実証などがある。」
このIITAタスクフォースの取り組みは、実際、電子図書館研究イニシアチブを始動させる省庁間の協力作業の最初の部分であった。そして、このIITAの報告書の文言が発端となって、大規模な連邦政府研究開発プログラムが発展し、後年に、他の連邦政府機関を省庁間のコラボレーティブなプログラムの追求へと向かわせる原動力となったのである。
NSFとDARPAは、IITAタスクフォースで共同議長役を務めた関係を活かして、両機関の資源 (予算、研究コミュニティ、プログラム管理) を結合した電子図書館共同研究プログラムの開発の実現可能性に関する、非公式ながら本格的な対話を開始した。議論が進行するにつれて、NSFとDARPAの両者は、NASAを第三の機関として加えれば、NASAの特徴によってさらに研究体制が強化され、プログラムの始動に必要な最小限の資源プールを完成させることができる、という感触を強めた。この場面で、NSF、DARPA、NASAの三者が後援機関となることは、連邦政府の研究開発では稀であった相補性が、次のような形で達成されることを意味していた。
1. NSFの特徴は、科学工学分野の基礎研究への注力、そして研究と教育の統合性である。一方、DARPAの主な特徴は、大学と産業界をパートナー関係を通じて結び付け、大規模な実験的活動を実施する能力にある。この組み合わせは、両機関の正規の事業範囲から逸脱することになるとはいえ、計画中のDLIに新興分野として取り組むための強力な手段となることが期待された。
2. NASAの特徴は、長年にわたる宇宙/地球研究プロジェクトから構築された多数の科学データベースの集合とそのデータベースの管理経験にある。こうした資源は、大規模な実験事業のための大型データ・レポジトリへのアクセスというNASA以外では得られない機能を研究コミュニティに提供する。
3. この3つの機関すべてが、当時、積極的にHPCCプログラムに関わり、IITAタスクフォースのメンバーとして活動していた。緊密な実務的関係によって、省庁横断的な議論や交渉で発生しやすい個人的/組織的な障壁を克服することが可能になる。
それと同時に、NSFの主導によって、研究計画の作成や、多年度にわたる機関合同プログラムのために必要な資源の予測に研究コミュニティを参加させる動きが進められた。これは、さまざまな研究分野と産業界の交差領域からの代表者を交えた一連のワークショップと諮問会議によって達成された。そのような研究計画と行動指針に基づいて、3つの機関は、DLIの結束強化に向けた次のステップに踏み出した。
1. 3つの機関のプログラム責任者は、このイニシアチブの予算総額と各機関の負担額について合意に達した。
2. 3つの機関は、基本的に、NSFを、助成対象プロジェクトの選定から、資金管理、助成開始後の監視と評価までにわたってイニシアチブを運営する主幹機関とする管理構造について合意した。機関合同プログラム・チームが、各機関やイニシアチブ全体に関連する方針やその他の意思決定を行うための調整/連携機関として設立された。
3. NSFの幹部は、NANAおよびDARPAの幹部と覚書 (MOU: Memorandum of Understanding) による協定を結び、共同プログラムを正式に発足させるための手続きを完了した。
この覚書は、たとえプログラムの進捗とともにプログラム・マネージャや予算を巡る状況が変化しても、3つの機関はそれぞれに課された任務を遂行する義務を負う、という確約の役割を果たした。このような覚書は、省庁間に無用な議論や紛争を起こすことなく、省庁横断的なプログラムを適切に機能させようとする場合に、必要不可欠である。
省庁間で公式の合意が成立した後、DLIプログラムは直ちに実行に移され、省庁間の大規模な集中管理型プログラムに付き物の運営や政治的な都合による空白は生じなかった。3つの機関の幹部層から干渉が (ほとんど) なかったことは、当時のプログラム管理チームにとって画期的な成果であった。これは、プログラムの迅速な進捗を可能にした。プログラムのスタッフ、研究コミュニティ、そして3つの機関からのその他の構成員が同じ方向を目指して進むように、DLIプログラム・チームは、次のような重要な施策を講じた。
1. この省庁間イニシアチブに関して、共同プログラムと提案募集の発表を各機関の事業所を通じて行った。
2. 新興分野としての電子図書館 (DL) のビジョン、目標、そして研究計画をテーマとした説明資料を共同制作した。
3. 作成した資料を利用して、3つの機関が共同で、さまざまな地域で公開説明会を開催し、提案の作成、提出、評価の詳細について説明した。また、こうした場を利用して、3つの機関が協力してこのイニシアチブを後援している理由も説明した。
4. 3つの機関は、NSFが主導機関として提案を処理し、助成対象プロジェクトの選定プロセスと実際の助成を管理する任務を担うことに合意した。
1994年9月、DLIのフェーズ1は、最初の6つの主要な助成プロジェクトの選定を4年間で総額約2,500万ドルに達する規模で実施した。これらの助成プロジェクトと、それぞれの研究テーマ、そして個別的/総合的な研究成果の詳細な内容については、他のさまざまな資料で検討されている。ここでは、引き続き実施された省庁間の協議と、フェーズ2への発展に関連する主な問題について、その要約を簡潔に示すことにする。
これらの4年間にわたるプロジェクトは、カーネギーメロン大学、カリフォルニア大学バークレー校、ミシガン大学、イリノイ大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、スタンフォード大学を中心として実施された。どのプロジェクトの取り組みも、各地の大学の研究者と利用者を、他の組織
(他の学術研究機関、図書館、美術館/博物館、出版業者、政府系図書館、州政府機関、中等学校、コンピュータ企業や通信企業など) の研究者や利用者と結び付けるものとなっている。産業界からも多数の企業/組織が研究パートナーとしてこのイニシアチブに参加したが、これはフェーズ1の間にDLIプログラムが達成した大きな成果の1つであった。このような企業は、たしかにそれぞれこのプロジェクトに参加する独自の理由を持っていたが、全体として、企業の関心、専門知識、そして企業に特有の産業上の観点は、当時の、そしてその後の長年にわたるDLIの研究の道筋を定めるのに役立ってきた。もちろん、企業がプログラムに投入した追加的資源が有用であったことは言うまでもない。DARPAとNASAは、常に産業界からの参加が大きな部分を占める形で研究開発を実施してきたが、こうしたコンソーシアム設立の段取りで影響力を持った。
民間部門を含めた研究コンソーシアムは、基礎研究プロジェクトから通常は期待できないような別のタイプの成功を導き出すことにも寄与した。つまり、起業精神に富んだ学生と教員が企業の研究者と日常的に接触する中で得た経験が、新しいアイデアの大きな源泉となったのである。その後、DLIが始動して2年が経過したとき、大学の研究からスピンオフ企業が誕生し、企業からの貢献が産業界に還元される形となった。たとえば、検索エンジンのGoogleとLycosは、当時のDLIの助成プロジェクトまでその起源を遡ることができる。Googleの場合、DLIの助成を受けたスタンフォード・コンソーシアムにおける研究は、2人の大学院生の研究成果を
(まだ数十億ドル規模のビジネスではないにせよ) 数十億ページ規模のWebページ検索エンジンへと変貌させた (Googleの検索対象範囲は、2003年1月現在、3,083,324,652のWebページであると報告されている)。
このイニシアチブを担う3つの政府機関にとって、電子図書館 (DL) 研究を前進させるための連携作業は、6つの助成研究プロジェクトの選定で終わるものではなかった。各プロジェクトが期待どおりに着実に進捗しているか、またすべての研究から得られた成果を適切に調整し、共有し、水平展開することでタイムリーな効果の実現が図られているかを確認するための事後的な施策が考案され、実施された。こうした施策としては、プログラム・マネージャや同じ分野の研究者グループによる定期的なプロジェクト・レビューや、進捗の報告と主要な成果の公開デモンストレーションを実施する定期的な (6ヵ月ごとの) 共同プロジェクト・ミーティングがあった。さらに、6つの研究コンソーシアムは、すべてのプロジェクトに関係がある活動やテーマ (例:メタデータ、ユーザー・インタフェース、研究業務用のDLなど) に取り組むプロジェクト間作業部会 (ワーキング・グループ) を編成するように奨励された。こうした作業部会は、どのプロジェクトも単独では必要な活動資源を賄うことができない領域で研究を進捗させる特別な手段としての役割を果たした。3つの政府機関にとって、これは、思わぬ副産物であり、共同投資から得られた特別な成果であった。
しかし、3つの機関がプロジェクトの選定後に実施した最も重要な取り組みは、DLIの全面的な始動の後、時を置かずに、DLIのさらなる前進を期してプログラム・チームが取った一連の迅速かつ果断な行動であった。こうした行動は、DLIのフェーズ2 (DLI-2) の最初の布石となった。顧みると、ここで取った行動は、当時、直接の関係者以外にはほとんど知られていなかったが、それでも、DLIを効果的に継続し、より適切で幅広い研究開発ポートフォリオへと拡大する上で、決定的に重要であったと言える。つまり、このイニシアチブが始動して1年後に、プログラム・チーム (多くの場合は、NSF、DARPA、NASAの主要な代表メンバーだけから構成されたチーム) は、非公式ながら定期的に会合を開き始め、DLIの進捗について議論を重ねていたのである。4年の存続期間が過ぎた後、プログラムが目指している領域で、研究テーマが急速に変化したり、終息を迎えていることが予想されたからである。間もなく、DLIフェーズ2の構想が誕生し、プログラム・チームは、研究コミュニティ (6つのプロジェクト・コンソーシアムの内部と外部の両方) やその他の公的部門からの協力を求めることを決定した。これは、1997年3月の「分散環境における知的作業環境に関する省庁間計画ワークショップ」(Interagency Planning Workshop on Distributed Knowledge Work Environments) の開催へと結び付いた。このワークショップは、次期のDLIプログラムの枠組みを決定するコンセンサス・ロードマップの作成を任務とするもので、「サンタフェ・ワークショップ」(Santa Fe Workshop) とも呼ばれている。ワークショップの結果として発表されたサンタフェ・レポート [11] は、それ以来、DLI-2の方向性を決定付ける文書となった。このコンセンサスから生じた主要な提言は、後日、フェーズ2プログラムの中に組み込まれたが、以下にその一部を示す。
1. DLI-1は、技術の進歩とインフラストラクチャの開発に重点を置いて実施された。新しい重点は、人間中心、コンテンツ/コレクション主体、システム統合という3つの主要研究テーマ領域に置かなければならない。
2. さまざまな社会部門間の連携 (国際協力を含む) の重要性を重視しながら、グローバルに分散化/ネットワーク化された情報資源の活用度と有用性を高める。
3. 既存および新規の研究コミュニティが革新的な知識集約的なアプリケーションに注力するように奨励する。
4. 電子図書館のライフサイクル全体 (知識の作成から、アクセス、利用、アーカイブ/保存まで) に取り組む。
5. DLI-1の3つの機関を補完するようなミッションと資源を擁する他の連邦政府機関の参加を取り付けることによって、財務的な資源を拡大する。
こうした提言は、次期のDLIプログラムの範囲と目標を具体化する上で大きな役割を果たした。この中で、後援母体を拡大する必要性は、最も重要かつ困難な課題であった。サンタフェ・ワークショップ後の2年間に、省庁間プログラム・チームは、他の政府機関をメンバーに加える目的で立案された多数の活動を行った。DLI-1の場合と同じように、こうした活動すべてが、やはり草の根的な性質のものであり、主として他の機関のプログラム・スタッフに働きかける形となった。そして、2つの重要な会合が、国立医学図書館
(NLM: National Library of Medicine) の館長室と、議会図書館 (LOC: Library of Congress) の館長室で開かれた。そこで、この2つの図書館は、主要な後援機関となることの意義に納得し、資金と人員の両面で長期的な支援を提供することを確約した。これによって、DLIは、フェーズ2
(DLI-2) と呼ばれる第2次プロジェクト募集に正式に取り掛かることが可能となり、プログラムの諸活動と電子図書館の将来構想が大幅に拡大されることになったのである。
電子図書館イニシアチブのフェーズ2 (DLI-2) は、1999年に開始され、その研究は今日に至るまで継続している。DLI-2は、2度にわたるプロジェクト公募を経て、30を超える助成プロジェクトから成るバランスのとれた研究ポートフォリオを実現している。6つのプロジェクトから成るフェーズ1と比較して、DLI-2は、規模と範囲が拡大したプログラムとなっている。最も重要なのは、このプログラムを支える政府機関が、国立医学図書館
(NLM)、議会図書館 (LOC)、国立人文基金 (NEH: National Endowment for Humanities) を加えた6つの正式な後援組織
(助成機関) から成り立っていることである。さらに、資金以外で協力するパートナーとして、博物館/図書館サービス協会 (Institute of Museums
and Library Services)、スミソニアン協会 (Smithsonian Institution)、国立公文書館 (NARA: National
Archives and Records Administration) という3つの機関が参加している。これらの新規参加機関は、DLI-1の成果を見た結果として参加を決めた。そして、これら機関の参加によって、電子図書館の取り組みを特に医学と人文科学の分野まで拡大することが可能になったのである。これは、プラスのフィードバックがさまざまな政府機関の間に働いて、優れた研究成果がさらに多くの連携と資金を他の機関から引き付けた、という明確な事例である。
過去8〜9年間のDLIの成果の多くは、後援機関となった省庁間のコラボレーティブな取り組みの直接的な結果である。こうした成果としては、多様な形態の研究の産物だけでなく、研究活動の対象範囲が拡大したことも含まれる。複数の機関からの資源が結集されることで、単なる部分の総計 (共同の計画立案や実施を行わない場合の単純な総和) をはるかに上回るレベルの財務的、人的、組織的な支援が実現された。以下では、こうした事情に即して、省庁間の対話と協力関係がどのような形でDLI研究の成果に影響を及ぼしたか、また逆に、そうした成果が省庁間協力にどのような効果としてフィードバックされたかを要約する。
DLIポートフォリオ:完了したプロジェクトと進行中のプロジェクト
前述のように、DLI-1は、少数の大規模な実験的プロジェクトに焦点を合わせた結果、米国初の電子図書館 (DL) テストベッドを生み出したが、これには現在でも研究用にアクセス可能である。こうしたテストベッドは、それぞれが、将来新しい研究プロジェクトを立ち上げるのに適した、他に類例を見ないDLインフラストラクチャとなっている。後援機関の数と助成金総額の両方がほぼ倍増したことによって、DLIのフェーズ2は、DL研究を量と範囲の両面で著しく拡大することになった。表5.1に、2つの活動フェーズを比較したプログラム統計の要約を示す。この統計に現れていない情報としては、DLI-2プロジェクトが新しいタイプのメディアに対応してきたこと、そして新しい主題領域のコンテンツに取り組んできたことであるが、これは主として、さまざまな機関がそれぞれ異なる方向でアプリケーションへの関心を示してきたことから生じた。たとえば、テキサス大学は、人類学のモデルと画像、ケンタッキー大学は文学の原稿、コロンビア大学は患者管理、そしてカリフォルニア大学デービス校は民俗学、といった具合である。
また、多様な資金源が多彩な支援方式へとつながり、小規模な個人助成 (NSFの注力先) から中規模グループへの助成 (NIH/NLMの注力先)、そして大規模な実験プロジェクト (DLIの注力先の拡張) まで、幅広い支援が実現された。単一の機関 (例:NSF) だけでも、同様の助成戦略を実施することは可能であったかもしれないが、6つの機関による共同作業と同レベルの成果を達成するのに必要なすべての資源を単独で出動できる機関は1つも存在しないだろう。
| プログラムの構成要素と成果 |
DLI |
|
フェーズ1 (1994〜1998年) |
フェーズ2 (1999〜2004年) |
|
| 後援機関 | NSF, NASA,DARPA |
NSF, NASA,DARPA, NIH/NLM, LOC, NEH |
| 全機関の資金拠出総額 (概数) |
2,500万ドル (4年間) |
5,000万ドル (5年間) |
| 助成対象プロジェクトの数 (国内のみ) |
6 |
33 |
| プロジェクト当たりの平均助成総額 | 420万ドル | 150万ドル |
| 支援/研究の形態 | 大学主導の大規模コンソーシアムへの助成 | 小規模個人助成、中規模グループ助成、大規模コンソーシアム助成 |
| プロジェクト当たりの助成額の範囲 (最小〜最大) | 360〜480万ドル | 30〜540万ドル |
| 出典:NSF、DLI Program Office (www.dli2.nsf.gov) |
もう1つ統計に現れていない事実として、こうしたケースにおける省庁間の共同運営が、プロジェクト選定や助成打ち切りの確固としたメカニズムを採用するのに役立っていることがある。DLIの発足当時のすべての参加機関は、提案の評価と助成対象の選定にNSFの実績評価プロセスを使用することに同意した。このプロセスは効果的に機能し、特に、フェーズ1からフェーズ2に移行する際に、新しい提案の殺到 (提案総数は230件、予算申請総額は4億ドル超) による熾烈な競争が生じたときには、DLI-1の助成対象プロジェクトのうち数件が選考から外れるという結果が生じた。これは予想外の結果であったが、すべての関係機関が共同で遂行することを決定した原則、すなわち、公平かつ断固とした実績評価プロセスによって、最適であると判断される研究開発ポートフォリオを生み出す、という原則に沿ったものである。DLI-1プロジェクトの大半は、この選定プロセスを通過し、その後の期間も、新しいタイプの影響を省庁間協力に及ぼすという、やはり予想外の形でさらに貢献し続けた。
研究が他の政府機関に与えた波及効果
DLI研究の副産物は、プロジェクトの成果を省庁の管轄範囲やミッションを超えて水平展開するという形で、参加機関以外の連邦政府機関にも波及効果を及ぼしたということである。その適例が、カーネギーメロン大学の「インフォメディア」(Informedia) プロジェクトである。当初の6つのDLI-1コンソーシアム・プロジェクトの1つであるインフォメディアは、ビデオのインデックス付けと検索に焦点を合わせた研究であり、音声認識、画像処理、そして自然言語認識技術を独自に結合することで、リニアビデオを自動的に転写、区分、インデックス付けしようとするものである。研究の第1段階である「インフォメディアI」では、新しいDL技術に結び付く画期的な成果が実証され、複数のスピンオフ企業の誕生という形で技術が民間部門に移転された。DLI-2の選考を通過して始動されたインフォメディアIIは、ビデオ情報へのアクセスと認識の方式だけでなくアプリケーションの領域にも新しいパラダイムを導入することで、研究の拡大を行った。このプロジェクトは、分散化されたビデオ資材の動的な抽出、要約、視覚化、プレゼンテーションを高度化し、テキスト、静止画像、音声、ビデオから単一の抄録へとドキュメントを要約した「コラージュ」と「ドキュメンタリー」を自動的に生成しようとする。こうした新しいアプローチと技術革新に大きな魅力を感じた他の連邦政府機関や組織は、それ以降、インフォメディアIIへの助成を増額することを決定している。図5.1に、インフォメディア・プロジェクトの発展の様子を、DLIの支援を受けながら中途で達成したさまざまな重要成果とともに示す。研究の途上でも、このプロジェクトが教育、保健医療、多言語技術、知的情報収集、そして人間の活動の調整と認識といった領域で実施した取り組みが、委託研究に資金を提供している他の政府機関に波及効果をもたらしてきた。これは、異なる機関やアプリケーション領域にまたがって生じた研究の相互交流の中でも、DLIが必ずしも意図的な構想ではなく副産物として育成してきた性格のものである。

図5.1 インフォメディアIおよびII:研究の中途成果が他の領域に与えた波及効果
出典:Informedia Webサイト:www.informedia.cs.cmu.edu/index.html
(Webページ内のプロジェクト・アイコンをクリックすると詳細情報を表示できる)
今後の展開
DLIプログラムが今後1〜2年で終結に向かおうとするにつれて、研究コミュニティに属する多くの人が、次のような疑問を提起し始めている。電子図書館研究はどこへ向かって進むのか。この有望な新興分野の将来はどうなるのか。米国の新しい省庁間プログラムは、次世代のDLの構想をより大胆かつ広範な形で生み出すことに資する道を切り開くことができるのか。こうした問題は、連邦政府内の多くの機関が解決しようと取り組んでいる課題でもある。ここで想定されるシナリオは、電子図書館に関する研究が、DLIの下で支援を受け、世界の各地で実施されながら、第4章で説明したような形で、過去30年間にIT技術の多くが歩んできたのと同じイノベーション・パイプラインの道筋をたどる、というものである。たしかに、連邦政府の研究助成全般は大きな役割を果たし、複数の機関/省庁間の連携はDLの研究成果の多くを生み出す上で重要なポイントとなった。しかし、その他のイノベーションの原動力、たとえば、産業界の研究、製品開発といった要因が存在することも必要不可欠な条件なのである。図5.2は、DLミドルウェアの研究開発の方向性、すなわち、DLのあらゆる要素を結び付けて単一の新興技術へと統合し、さらには10億ドル規模のビジネスへと変貌させる機能としてのDLミドルウェアの研究開発がたどる道筋を示す仮説的シナリオを描いたものである。明らかに、省庁間協力の継続は非常に重要であるが、次期プログラムでは、グローバルな政府横断的な取り組みが主導権をとる必要が生じるかもしれない。

図5.2 イノベーション・パイプラインに加わる電子図書館:10億ドルビジネスの構成要素