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米国の連邦政府R&D計画における省庁間の役割分担と連携の仕組み

4.2 連邦政府機関の役割

NRCのCSTBが2002年に発行した資料、"Information Technology, Research, Innovation, and E-Government" [7] では、この図が更新され、ITのイノベーション・パイプラインに関する最新の状況が示してある。最新の図は付録1に示す。この図には、新しい技術として、リレーショナル・データベース、並列コンピューティング (およびデータベース)、ポータブル通信システム、World Wide Web、音声認識、ブロードバンド・ラストマイルが追加されている。この場合も、大学における政府主導の研究活動と同じパターンによって産業界の参加が可能となり、最終的には新技術とビジネスの誕生に結び付くことになる。表4.1には、この最新の図に基づいて、さまざまな形態で実施される機関同士のコラボレーションが、イノベーション・パイプラインの確立と維持にどのように貢献してきたかを簡単にまとめた。具体的には、各新規IT領域ごとに、その発展を推進する上で関係政府機関が果たした役割、そして大学と産業界が果たした役割について検討する。

表4.1 主要ITテクノロジーの進化と政府機関の役割
出典:NRCの報告書、"Evolving the High Performance Computing and Communications Initiative to Support the Nation's Information Infrastructure" の内容から作成
主要テクノロジー 当初の目標 予想外の結果 現在および将来 政府、産業界、大学の役割
タイムシェアリング (時分割) 多数の人々が1台のコンピュータを自分専用のマシンであるかのように使える。コストが共有化できる。 大部分の人々が、1台のコンピュータに自分のデータを保存し、情報を容易に共有できる。ユーザーやアプリケーションが多様化しても、コストを削減できる。 PCでも、各種のアプリケーションを時分割して使用できる。共有化した情報は「サーバ」上に存在する。タイムシェアリングにより、グリッド・コンピューティングが可能になる。 DODは、MITにおける研究開発を支援した最初の機関であった。これに続き、その他の機関も参加した。政府主導の支援によって産学のコラボレーションが可能になった。
コンピュータ・ネットワーキング 国防関連の研究のために、適度な数のコンピュータの間で負荷を分散する。 電子メール、ソフトウェア/データの共有化の普及、数百万台のコンピュータの相互接続ネットワーキングにより、データの共有、専門技術へのアクセス、電子商取引のためのWorld
Wide Webを実現。数多くの予測できないアプリケーションに対応する無限の潜在能力
  DODは、
ARPANETを支援した最初の機関であった。続いてNSF、
DOE、その他の機関が参加したことにより、今日のインターネットや関連する分野への発展に結び付いた。機関合同型のITRイニシアチブの中核である。
ワークステーション 対話型グラフィックスを実用化するのに十分な演算能力 これ以外の処理装置や端末の大部分が不要になる。PC、およびマルチメディア・プラットフォームに直接結び付いた。 科学、エンジニアリング、およびビジネス・コンピューティングの分野で数百万台規模のコンピュータが利用されている。将来的には、クラスタとグリッド・コンピューティングをリンクする。 研究開発は当初、産業界と大学によって支援されていた。NASAやDOEなどの政府機関が大規模なユーザーとして継続的な成長を支えている。
コンピュータ・グラフィックス コンピュータ上で画像を作成する。 "WYSIWYG"、ハイパーメディア・ドキュメント、ダイナミック・モデリング、シミュレーション、仮想現実への発展 事実上あらゆる種類の画像が表示可能。現在のムービー制作、TVプログラミング、エンジニアリング・デザイン (Boeing 777など) を変革。将来的には、ヒューマン・インタフェースと高性能コンピューティングにおける進化を目指す。 DODとNSFが早期の段階から大学の研究を支援した。以降、産業界が続く。DOE、NASA、その他が実用化を主導。1990年代中ごろ、仮想現実に関する省庁間タスクフォースとNRCの研究により、さらに進化を果たした。
「ウィンドウとマウス」のユーザー・インタフェース 多数のアプリケーションやドキュメントに容易に同時アクセス コンピュータの全体的な使いやすさとネットワークへのアクセスが大幅に向上、多様なアプリケーション・ソフトウェア・プログラムの統合 あらゆるコンピューティング・プラットフォームについて標準的な使い方が可能になる。ユーザー・インタフェースの将来は、音声、その他の通信手段にある。 当初、大学での研究はDOD、NASA、NSFによって支援されていた。以降、産業界の研究 (Xerox PARCなど) が続く。人間中心の研究は、機関連携ITRイニシアチブの中核となる。
VLSI設計 集積回路技術に対応した新しい設計手法 「シリコン・ファウンダリ」への容易なアクセス、コンピュータ・デザイン、シグナル処理アプリケーションにおけるルネサンス VLSIデザイナーを教育する学校の増加、産業界でも普及、新興分野 (ナノテクノロジーなど) に適用できる運用モデル DODがまず「シリコン・ファウンダリ」のためのMOSIS (注1) を設置し、のちにNSFが参加。大学 (USC/ISI) は、ファウンダリ間の「仲介者」の役割を果たす。
縮小命令セット (RISC) コンピュータ 同等のコストで実行速度を2〜3倍に高速化 ハードウェアとソフトウェアの「共同設計」による劇的な効率化により、パフォーマンスを大幅に改善 数百万台が稼働中。現在も普及が拡大中。RISCの進化は、次世代のマイクロプロセッサも継続的に発展 産業界で研究を開始。のちにDOD(および
NSFが一部)が 大学での研究に資金援助を提供した。
SEMATECH (注2) プログラ
ムの成功の陰には、政府機関連携の活動があった。
RAID (Redundant Array of
Inexpensive Disks)
同等のコストでディスク・システムの転送速度と信頼性を大幅に改善 RAIDの優れた経済性も実証。大容量のデータ・レポジトリが、PCやワークステーションの価格性能比の波に乗る。 大規模データ・ストレージの主流をなす。将来的には、デジタル・ビデオ・サーバなどの民間利用が拡大する。 まず、産業界が研究を主導。この後、大学での研究に向けた政府の資金援助 (DODやNSF)
が続く。
並列コンピューティング コンピューティング能力の大幅な改善により、国家的な問題 (グランド・チャレンジ) に対応する。 並列デスクサイド・サーバ・システム、トランザクション処理、金融モデリング、データ・マイニング、自動推論、知識発見など、予想外の応用 多数のコンピュータ・メーカーが並列コンピューティングを標準として搭載。今日の高性能コンピューティングのバックボーンをなす。将来的にはスーパーコンピューティングに向けて急速に進化する。 初期の研究はDOD、NSF、DOEが支え、のちに産業界の研究開発が続く。機関連携のITRプログラムの主要コンポーネントとなる。
音声認識 音声認識と言語処理の機能により、コンピュータのコミュニケーション能力を改善 音声認識と言語処理のテクノロジーは連動が不可欠。副産物として音声出力。情報のアクセス/検索、ユーザー・インタフェース以外のデータ集約的アプリケーションなどの予想外の利用 今日のシステムは、具体的なアプリケーションを想定して設計されている。携帯電話、金融サービスなど特定の通信機器やコンピューティング・プラットフォームに向けた展開。将来的には、より強力なシステムに発展する。 連邦政府主導の研究は、DODとNSFが支える。この後、産業界の研究が続くが、大部分が連邦政府の支援に依存する。現在、いくつかの機関連携プログラムが進行している。
電子図書館 (DL) 大学、図書館に保存されたあらゆる情報に対するマルチメディア (テキスト、画像、オーディオ、ビデオ) のアクセス、情報の検索/発見に不可欠なツール Web検索エンジン (例:Google) の開発に対する予想外の貢献。「図書館」の概念を塗り替え、電子的未来に対応した図書館科学が実現 インターネット・プラットフォームに対応した新しい情報サービスが開発中。未来のDLがもたらす知識ネットワークにより、教育、仕事、娯楽のあり方が変わる。 機関連携
(NSF、NASA、DOD/DARPA、NIH/NLMなど) が支える。電子政府プログラムへの発展。DLテクノロジーは、文化間の橋渡しとなる点でグローバルな価値を持つ。
出典:米国学術研究会議 (NRC)、"Evolving the High Performance Computing and Communications Initiatives"、National Academy Press、1995年、より作成
注:
1. MOSIS - Metal Oxide Silicon Implementation Service (金属酸化膜シリコン実装サービス)
2. SEMATECH - 半導体製造装置の研究開発を支援する目的で、当初半導体メーカー各社と政府の援助のもとに組織されたコンソーシアム。発足後10年を経た1997年には、完全な独立採算に移行。

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