米国の連邦政府R&D計画における省庁間の役割分担と連携の仕組み
省庁共同のプログラムやイニシアチブは、国家目標を達成する手段としての役割のほかに、研究開発の優先課題とその順位を、機関の内部で、また機関の境界を超えて設定する役割も果たすことが多い。前述のように、連邦政府の研究開発ポートフォリオの多元的な枠組みは、科学技術投資システムのプラスの側面であると言えるが、その理由の一部は、高いリスクと大きな利益の両方が見込まれる研究に助成する可能性が増大することにある。一方、この枠組みは、連邦政府全体にわたる研究開発プログラムの予算調整と優先順位設定のためのプロセスを改善する手段も提供する。この改善は、省庁間連携という課題に即した現行システムの分析で明らかになる弱点の解決を図りながら、現行システムの長所を伸ばすことで達成できる。
主要な研究開発機関が研究開発の優先順位を設定する方法と、そうした機関が省庁間プログラムに関与する程度の間には、相関関係が存在する可能性がある。表3.1は、次の点を要約することで、このような相関関係を目に見える形で表そうとした試みである。
1. 機関が優先順位を設定する方法 (資料で報告されている情報による)
2. 研究開発の優先順位を判定する方法
3. 機関が省庁間プログラムに関与している程度
| 機関(研究開発予算の提案の規模と順に配列) | 資料で報告された優先順位設定活動 | 優先順位の判定に使用される手法 | 省庁間プログラムに関与している程度 |
| 国防総省 (DOD/DARPA) |
国防研究技術部長 (DDR&E: Director of Defense Research and Engineering)とその研究部門であるDARPAの下で計画が立案される。NSTCに指針を求める。 |
DARPAは、相互審査 (ピア・レビュー) に準じる方式と特別な管理方式を使用。投資目標を達成するための審査。DODの技術領域審査査定局
(TARA: Technology Area Review and Assessment) が監督機能を提供する。 |
主要な省庁横断プログラムに積極的に参加。主要な委員会や作業部会の議長役を務め、防衛関係の領域で主導権を発揮。多者間/二者間の共同プログラムでは公式/非公式の両方の手法を使用する。 |
| エネルギー省 (DOE) |
DOEの各部局は、DOE全体の特別な注力に値する新規プログラムの発足に対する意見聴取に、外部の科学者による審議会や諮問グループを広範に利用する。 | 研究領域の選定では、科学局 (Office of Science) が相互審査プロセスを使用してすべての研究プログラムの審査を実施。諮問グループは監督役を担当する。 | 省庁横断プログラムに積極的に参加 (ただし、その目的の一部はDOEの研究開発ポートフォリオの拡充である)。主として正式な協定を結んで多者間/二者間プログラムを実施する。 |
| 米国航空宇宙局 (NASA) |
予算プロセスと連動する形、および特定プロジェクトの選定という形で、優先順位を設定。他の行政機関や他の国家目標からの影響より連邦議会から受ける影響の方が大きい。 | 優先順位設定は、内部スタッフによる評価と外部の諮問グループの組み合わせから決定。米国学術研究会議
(NRC: National Research Council) の提言も活用する。 |
省庁横断プログラムには選択的に参加。ボトムアップよりトップダウンを好む。多者間/二者間の両方の連携方式を使用する。 |
| 国立衛生研究所 (NIH) |
各研究施設 (合計約20ヵ所) の所長がNIHの全国諮問委員会の支援を得て助成の方向性を決定。政府の研究機関の中で最も政治的な影響を受けやすく、NIH自身の優先順位設定に有利にも不利にも働く。NIHの内部と外部の両方の研究によってミッションを遂行する。 | 優先順位は、連邦議会、NIHの科学担当者、諮問グループ、他の保健関連の公的組織などを含む、多数の関係者の意見によって設定される。NIH外のプログラムで質の高いプロジェクトを選定するために相互審査プロセスを使用する。 | 基礎科学技術を含めた保健関連分野の省庁横断プログラムに積極的に参加。議会からの新たな要請によって情報技術の研究とインフラストラクチャに投資。他の政府機関との多者間/二者間連携のために公式/非公式の両方のプロセスを使用する。 |
| 全米科学財団 (NSF) |
戦略的プランニングには、多くのレベルの諮問組織から寄せられた幅広い研究コミュニティの提言が盛り込まれる。全米科学委員会
(NSB: National Science Board) が全体的な方針を設定。目標は、部局レベル (研究分野レベル) の学問的機会と提案プロセスによって決定される。 |
研究助成の配分方針は、知的なメリットと広範な影響という2つの主要な評価基準に基づいた相互審査プロセスによって決定される。統合研究/教育、学際的活動、知識の発見と移転のための研究パートナーシップに重点を置く。 | すべての主要な省庁間プログラムに積極的に参加。多数の作業部会の議長役として主導権を取る。省庁横断的な助成では公式/非公式の両プロセスを使用。他の機関との間に多者間/二者間プログラムを数多く設立している。 |
| 商務省 (DOC)/ 国立標準技術研究所 (NIST) |
内部スタッフ、諮問機関、産業界の顧客からの提言に基づいて特定の分野における優先順位を設定する。 | 諮問機関は、産業界と学界からの標準化に対する要望に関するコンセンサスを確立することを目指す。NISTは、小規模な外部プログラムのみを実施しているが、先端技術プログラム
(ATP:Advanced Technology Programs) も運営 している。 |
省庁横断プログラムへの参加は少ない。省庁間作業部会では、主導的役割を担うことより、意見を発することの方に比重を置いている。 |
この表からは、以下のことが読み取れる。第一に、主要な研究開発機関すべての中で、研究開発予算が大きい機関ほど、省庁間プログラムに参加する傾向が強いことである。第二に、ほとんどの機関が、優先順位設定プロセスの指針と活動の監督役を外部の組織に仰いでいることである。外部の組織、特に研究コミュニティは、省庁間の連携からメリットを受ける傾向が強いので、外部からの提言は、各機関の意思決定を機関横断プログラムに参加する方向に進める原動力となる可能性が高い。第三に、一部の機関 (例:NIHおよびNASA) は、他の機関 (例:NSF) よりも優先順位設定プロセスの中で政治的な影響力を受けやすい。政治的な影響力は、機関の研究開発投資に対する順風にも逆風にもなり得る。各機関が省庁間プログラムに参加する能力に対する政治情勢の影響も、結果的に見て推進要因にも阻害要因にもなる。比較的明らかに思われる点として、NSFは、独立した機関であるために、政治的な影響力からの自由度が非常に高く、議会と政府の双方から幅広い支持を得ている、ということが挙げられる。また、NSFは、省庁間プログラムに最も積極的に取り組んでいる機関の1つであり、最も大きなメリットを受けている機関でもある。この点については、第5章で業績評価を論じる際に再び検討することにする。