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第1編 国が支援する情報技術研究開発のあり方

2.5 IT研究開発拠点の国外流出の是非

■IT産業を国内立地するには空洞化の原因の大元を断つしかない。
 IT産業の国内立地が困難になった理由として、給与水準と物価水準がグローバルスタンダードになっていないということと、日本ではキャッチアップモデル(セカンドランナーモデル)がいまだに続いており、クリエイティブな仕事が出来ず、自前で研究ターゲットを創出していないということが挙げられる。
 この対策としては、①給与水準と物価水準とをシンクロナイズして下げる、②日本流の新たなキャリアデベロップモデルを考える、③研究ターゲットを開発するための専門研究所を作る、④研究開発に更なる競争原理を導入する、などが考えられる。

■国により研究開発の人材をプールする仕組みを作り、海外からの研究者を含めた人材を確保することを考えるべし。
 ITの研究開発における最も大きな問題は人材の不足であり、研究開発拠点を海外に求める大きな理由が人材の確保である。日本には、米国のように国のプロジェクトや資金によって大学や国研に研究開発の人材をプールし、維持する仕組みが存在しない。これが、特に基礎研究におけるIT研究開発者の層の薄さや、海外の研究者から見て、日本が魅力に乏しいと言われる大きな理由となっている。

■国の主導により、テーマ毎に適切な形態の研究開発拠点を設置することを提案する。
 海外に研究所を置いても実際に成果を出すのは難しいし、自分自身の技術の低下を招く恐れがあるほか、技術の輸出規制という阻害要因もある。研究開発部分は日本国内で実施していくべきである。研究開発拠点の国内立地に関しては、国はテーマを掲げるだけでなく、国の方針を具体的に示して、テーマ毎に適切な形態を持った研究開発拠点を設置することを提案する。

■ハードやソフトの製造の海外流出は、必ずしも国内の空洞化には繋がらない。
 製造は、企業であれば一番コストの低い場所を探すだけであり、海外への流出は自然の流れである。ただし、ハイテク領域や高付加価値の分野では、日本での開発/製造が今後も続くし、このような領域は相当残っている。ソフトウェアの海外発注も単純作業が多いので、それによって自社の技術力が低下するとは思っていない。

■頭の部分が日本にあれば研究開発を行うのは海外であっても良い。
 IT研究開発拠点の国内立地というのは、ある意味でどうでも良いことで、何を作るかを決める頭の部分が日本にあれば、それを実現するのは海外であっても良い。ただし、日本国内に立地した方が良い面も多分にあるので、国内で人を集めることを考えないといけないが、これはいろいろな問題があってかなり大変である。

■日本からの技術流出を阻止する方策を考えるべし。
 米国は、国策として国内産業の競争力強化を考え、実行してきたが、日本にはそれに対抗しようとする意思が感じられない。一方で、日本は強みとしていた半導体技術や製造技術を無原則に世界にばらまいてしまった。米国は国の宝になりうるという見通しの中で、黒を白と言ってでもコントロールするというようなところがあり、日本も参考にすべきである。

2.5.1 A氏意見
(1) IT産業を国内立地するには、空洞化の原因の大元を断て
 IT産業を国内立地するとすれば、なぜ空洞化が起こったかの大元の原因を断たないと、絶対に国内立地出来ない。なぜ日本に優秀な外国研究者が来たがらないのか、その根本に戻らないと米国並みのクリエイティブな力が出てこない。
 国内立地論に関して言えば、立地しない理由が二つある。一つは、給与水準と物価水準がグローバルスタンダードになっていないということが大元にある。国内立地しないもう一つの理由は、クリエイティブな仕事が出来る場所になっていない、自前で研究ターゲットを創出していないということである。

(2) 国内立地しない理由①
・保護された農水産業で決まる高い物価水準、給与水準の日本
 バブル前から、農業、水産業については保護政策がずっと続いていた結果、グローバルスタンダードの物価の水準からずっと離れて並み外れて高くなっていた。一方、エレクトロニクスなど、自動車も含めて製造業はグローバル競争の波にさらされて、そこでも戦える価格レベルにならざるを得なかった。このような状況で、給与水準は農業、水産業から決まってくる生活費によって決まる。日常食っていけるかどうか、電力費、水道費がいくら位かによって、給与がいくらかが決まってしまう。日本は、農業、水産業の保護政策で、日常の食物が結構高い。それに合わせて、他の日常品の価格、電気、水道の値段といったインフラコストが決まってしまう。庇護されていると「もやし」になるし、国際競争にもまれると強くなるということの長年にわたる積み重ねの結果が、給与は国際水準並み、物価だけ極端に高いという日本の状況である。研究開発部門のスタッフにとって、そこで生活するのは心地良くなく、長期間止まるサイトとしての魅力を持たない。

・日本企業の海外展開は必然
 日本の企業は、世界のトップ技術を海外に移転し、空洞化を招いている。経営者の経営ロジックからいったら、海外展開すれば得られる製品の原価が全然違うので、海外に持ち出すのが必然である。単純に目先の利益を追って、本来は守るべき技術を外に出していってしまったわけではない。生活費等のバランスを根本的に変えない限り、外に出すのは必然である。企業としてはその方が儲かる。ノウハウを出さないと、安いアジアコストを享受出来ない。アジアコストがなぜ安いかというと、アジアの生活費が安くて、それに見合った給与を出していればよいからである。
 すべての議論は、物価水準、給与水準がグローバルスタンダードになっていないことから始まり、全面的なグローバル化が遅れているからこそ、海外展開せざるを得ないのである。

(3) 国内立地しない理由②
・キャッチアップモデルでターゲット設定力なくクリエイティブな仕事が出来ない
 日本では、海外の論文を勉強して研究をやったというたぐいが多い。最初のニーズ指向のターゲット設定というところは技術者が軽んじて、そんなマーケッティングとか営業とかには熱心に取り組まなかった。独自研究を展開するノウハウが日本には余りにも少なすぎるのである。もともと日本が持っていたキャッチアップモデルがいまだに続いている。一部は、政府の指導を仰がなかったSonyとか、Hondaとかは、それを脱していたけれども、それが続くかどうかも怪しい。独自研究を展開するノウハウを持っていない研究指導者がリーダー層になってきたので、下にも繋がらなくなった。それは、教育のせいというよりも経営の効率化を言い過ぎるあまりかもしれない。明日、明後日の飯より今日の夕飯を用意しろという時代になりつつあるからである。これが独創力ある研究者が育ちにくいという状況を作り出している。先端のIT研究は収穫逓増モデルが成り立つ分野で、優秀なターゲット設定力を持っている研究所にはたくさんの優秀な研究者が集まりやすく、そうでないところには集まらないという、一人勝ちのモデルが成り立つフィールドである。後追いの研究機関では魅力がないし、短期視野の研究ターゲット設定にも魅力が感じられないというのが二番目の理由である。
 この二つの理由から、ITを国内立地すると言っても、その根本が直らない限り、どんな施策をやっても変わらない。クリエイティブな仕事は、米国だったらNSFが萌芽的研究をサポートしている。そういう国全体の中で萌芽的研究をサポートするメカニズムがあるから、次に続けることが出来る。

・セカンドランナーモデルから脱却出来ていない
 松下のセカンドランナーモデルが1980年代の成功のモデルだった。その頃、米国は今のようにIPRを徹底的に保護してなるべく外に出さないという状況よりははるかにおおらかであったから、このモデルが成り立った。米国は、やられたときに、日本に限らず、後から追いかけてくるドイツなどを徹底的に分析してクリエイティブな研究体制を作り、プロパテント政策でともかく先取りし、すべてを取ってしまうWinner-take-allの世界にしようとし、それを実現しつつある。日本はセカンドランナーで頑張って、最後に勝つのだという戦略では勝てなくなり出した。ライセンスがあって、いざ製造にかかったら儲けのほとんどを持っていかれてしまった。
 米国では、クリエイティブな研究体制としてNSFあたりがグラントを出し、かなり国の費用を投資している。日本の政府はそれを安上がりで済ませてきた。研究開発は後追い研究で、技術導入の窓口だった。それはキャッチアップであるから、その時代のモデルとしては効率が良かった。
 今後は、時代が変わったので、そこを組替えていかない限り駄目である。後追いを研究と定義する国の考え方が間違っていることを説明し、そういう基本的なところを国民のコンセンサスにしないといけない。それが政府の役目である。だが、政府はそれを理解する人がトップにいないため、そう考えてはいない。
 米国では、SRIとかランドといった研究所が、米国が世界の中でどういう科学戦略をとるのがいいのかを常に考えている。アフガニスタンを攻めることも考えていたかもしれない。彼らは、ビジョンとか、モデルとか、コンセプトとかを考えるのが好きである。日本人は、どちらかというとそれが得意ではない。コンセプトを考える方向へ持っていくことを次に考えないといけない。

(4) 国内立地の解決策① (国内立地しない理由①に対して)
・物価、給与を下げる
 国内立地させる方法は、先ず、グローバルスタンダードからの物価水準、給与水準のずれに関して言えば、物価も給与も下げるというのが解決策の一つである。
 給与水準と物価水準とをシンクロナイズして下げる施策が必要である。庇護、保護を受けている産業の自立化を推進する施策をやらないと、IT産業も、製造業も立ち上がらない。物価を抑えるために、規制をはずすとか、戦後の焼け野原になるというショック療法などといった方法以外に、もっといい方法があると考える。
 今、デフレになっているが、根本に戻って、何のためにデフレを解消しなければならないのか、デフレをさらに続けるべきかを議論しなければならない。要するに国の構造モデルを変えるという大元に戻らないといけない。苦しいからデフレを止めてモグラたたきをやれば、別の苦しさが出て来るはずである。物価をどんどん上げれば空洞化は進む。
 中国でも、生活水準が上がれば人件費が上がる。台湾から、半導体とかパソコンの組立ラインが中国に移ってきている。経済原理で移るだけであるから、その時にどれだけグローバルスタンダードをうまく取りこめるかである。
 米国では、国内においては、R&Dと極めて高級なものに特化している。しかし、彼らは或る程度の物価の安さは保てた。安価な労働力のスペイン系移民を使って、大規模製造業を行い、日本にも進出してきている。GEは白物家電は止めて、より付加価値の高いものに寄せている。しかし、いずれ追いつかれるから、やはり新しいものを作っていかねばならない。
 歴史的に見ると、第二次世界大戦で日本がやられたから、なにか手段を考えた。その後、日本とドイツが成長を遂げて、大英帝国が沈んでしまった。戦争に勝ったけれども、沈んでしまったのは、技術革新、社会構造の変革があったからである。結局、イギリスが変わったのは、サッチャーによってであった。小泉首相がサッチャーになれるかどうかが問題だ。

(5) 国内立地の解決策② (国内立地しない理由①に対して)
・日本流の新たなキャリアデベロップモデルを考える
 解決策の二つ目は、日本流の新たなキャリアデベロップモデルを考えろということである。
ベンチャービジネスモデルというのは、モデル自身は既に米国の二番煎じである。米国がうまくいっていれば、日本でもうまくいくだろうと考え勝ちであるが、持ってきたところでうまくいかない。米国と質的に違うところは、日本では、その日暮らしで食っていけるベンチャーは出来るけれども、大きな成長力や速い立ち上げ力など、質の高さを兼ね備えたベンチャーが育ちにくいことである。従って、米国流のベンチャービジネス+オプション株による出世物語みたいなモデルの代わりに、日本流の新たなキャリアデベロップモデルを考えなければならない。転職によるサラリーアップモデル、特許成金モデル、中村さんがやられたような事業成果フィードバックモデルといったネーミングのモデルを考えないと日本のこの分野での将来がない。
 米国は、研究開発の成果を国が取り上げてロイヤリティを取るといったケチなことをしないで、どんどんメーカに商売の種を与えて税金で回収しているが、日本にその米国のモデルを持ってくる際には、競争ということが活力を生むという本質を踏まえた上で、取り込まないといけない。持ってくるにしても、年功序列とか既得権とかいった日本の仕組みを考えた上でしっかりと持ってこないと、いろいろなところで問題が出来て、スッポリはまらなくなる。良いところを部分的に持ってくるモグラたたき的な持ってき方ではなく、もう少しシナリオを持って持ってくるべきである。つまり、元気の出るような生涯ライフプランを立てられるようなモデルをクリエイトすべきである。経済産業省がすべきことは、こういうモデルを提案することである。米国のベンチャー制度がいいからそれを持ってくるというのはお手軽すぎる。

・日本でクリエイトする人材を蓄積するには欧米で勉強させる
 セカンドランナーモデルから脱却するには、クリエイティブな人をもっと増やさなければならない。それは簡単で、受け入れられる限り先進国である欧米にIT人口を送り込めばいい。そこで勉強させて日本に戻せばよい。
 IT先進国に勉強に行けということは、技術者はグローバルスタンダードなところでやらないとどうしょうもないという意味合いである。中国は、キャリアデベロップメントのモデルがそうなっている。MITに行くために、MITの予備校の清華大学に行くモデルが確立している。そのモデルが日本ではまだ確立していない。
 米国は、IT労働者500万人のうち、100万人は外国からの労働者で、シリコンバレーの30%はインドからの労働者である。そして、インド人が結構ベンチャーを起こしたりしている。
 今は価値観の変化時期である。失業して、日本にジョブがないとすると移民に行ってしまう。魅力がなければ、日本の大学で学ぶことは不利になり、4年間を無駄に過ごすことになる。日本にいてもしようがなくなる。この魅力のなさが存在する限り、日本には人材はこない。その魅力のなさの大元は、サラリーと生活費にある。

(6) 国内立地の解決策③ (国内立地しない理由②に対して)
・研究ターゲットを開発する専門研究所を作る
 二番目の、自前のターゲットを出してない点に対する解決策は二つある。一つは、研究ターゲットを開発するための専門研究所を作るということである。経済シンクタンクはたくさんあるが、科学研究シンクタンクはあまりにも少ない。先端情報技術研究所はそれに近いが、今は必ずしもそうではない。テーマ発掘プロジェクトにお金をつけて、この専門のシンクタンクが事務局ではなく、主役として働くべきである。技術進化のシナリオ作りと、それを待ち伏せ研究に結び付けることがミッションの研究所にする。
 IT分野の技術戦略は、結局、待ち伏せ戦略である。大概の人がほとんど同じような技術を手にして、同じようなアイデアを最終的に手に入れる分野であるから、時間軸でどれだけ早く実現したかで勝負がつく。待ち伏せ戦略を実行するということは、皆が後に付いて来る共通の王道ターゲットを早く見つけるということであり、それは難しいことである。やっと、先のターゲットを見つけたと思っても、後ろを見たら誰もついて来なかったら、それは「インチキターゲット」である。
 そういうシナリオ作りと皆がついて来るテーマ設定が出来れば、プロパテント戦略も楽に出来る。プロパテント戦略で注意すべき点は、本来の権利を主張するのではなくて、屁理屈で権利を主張することがある点である。Qualcommのように製造部門は全部売ってしまってパテントだけで商売していると、いくらでも値を吊り上げて、相手を饅頭の薄皮ぐらいは食える程度まで追い詰めることが出来る。そういうのが金儲けとしては効率がいいから、誉めそやす技術マスコミがいる。そういうやり方は長続きしないはずであるが、短期的には一つのプロパテント成功例とも言える。
 日本はそういうところにパテントやライセンスを取られているので、もっぱらMicrosoftといったところにお金を貢ぐモデルになっている。これは、自前でターゲット設定をすることをしなかったからである。日本は製造で生きられればいいと、国のお金で10ミクロンオーダーの製造技術の研究などを行っている。しかし、製造技術でも、徐々にモデル特許とかアルゴリズム特許とかいったソフトウェアが入ってきており、日本は製造でも弱くなる。すなわち、成熟し、技術自身が古くなってくると、価値が低くなることを認識して、常にブラシュアップする努力をしないといけないということである。その技術の新しくなり方の一つがソフトウェア指向である。
 日米の大きな差はクリエイティブなターゲット設定力にある。クリエイティブなターゲット設定力を持つためには、研究の意義を理解し、過去のプロジェクトの良いところ、悪いところを含めて深掘りし、分析することが一つの方法である。日本では第5世代コンピュータの研究でやっていたことだが、今頃になってインテリジェントエージェント等が話題に上がってきている。日本はこれをばっさりと切ってしまったが、米国では、細々と続けている研究者がいた。米国は、失敗かも知れないプロジェクトでも終ったものについての評価をきっちり行っていて、その中で価値を認めたものに対しては、細々とではあるが継続してファンディングをおこなっている。
 米国は、幾つかツールとか方法論を持っている。方法論を重視する米国は、その方法論が次に継承されて新しい場面でまた適用される。今日の夕飯のことばかり考え、方法論を持たない日本は伝えようがないから、後の人はその時々の価値観でターゲットを設定し、結局、クリエイティブなターゲット設定が出来ない。

・ターゲット設定には先行待ち伏せ戦略を効率よく行う方法論が必要
 日本では、Eコマースをやりたいということで新日鉄が頑張ったが、鉄屋さんどころか、新日鉄傘下のグループ企業、下請け企業さえも徹底出来なかった。その理由は、Eコマースのようなものは、やはりカルチャーまで変える必要があるということ。そのカルチャーが定着するには、諸々の生活習慣を含めていろいろなことに時間が掛かる。それが待てないので無理だということになる。従来からあるところを変えるような形で電子化しようとしても、あまり成功しない。やはり、新しいビジネスが起きつつ、その中で取り込まれる形でEコマースを発展させていかないと、産業構造全体への展開に至らない。例えば、JRのSuicaは、今までの磁気カードをただ単に無線化しただけではなくて、Suicaカードで通ることによって、今までと違う情報、例えば、キセル防止なども取り込めるようになっている。このようなものが生まれる背景には、シーズが先にあるわけではなく、シーズをしっかり研究して、クリエイティブなターゲットを見つけ出す努力が不可欠である。日本の電子政府のような、総務省からいきなり請負発注という形では出てこない。
 結局、最終的には先行待ち伏せ戦略が必要である。先行し、待ち伏せして、ターゲットを的中させなければいけない。ターゲットを間違えてはいけない。従って、ターゲット設定のための研究が、これからの日本にとっては命綱になる。
 数打てば当たる的なターゲット設定方法もあり得る。例えば、米国のNSFは、グラントで2000万円、3000万円のポケットマネーをばらまいている。しかし、日本の経済力では、それをやっている余裕はない。ターゲット設定を効率良く行って、ようやく日本が勝てる。そして、米国も反省して日本を学ぶというサイクルが次に来て、そこでやった競争が前進を生む。
 先がどうなるか分からないときには、或る程度数打たなければだめか、それとも方法論が別にあるかは、研究所を作って、然るべき人が運営して初めて判る。どこの森がいいのか、森を当てることと、森がわかったら、森のどの木がいいのかを当てることの両方をやらなければいけない。森の木を全て一本づつ調べだしたら、これは相当体力がないと出来ない。ここら辺という能力をつける方法論を持たないといけない。米国は、日本と比べるとそれをうまくやっていることは確かである。体力のない日本がうまくやらなければ負けるのは当たり前で、もっとそこに力を入れるべきだと主張したい。
 しかし、誰がやるのかも問題である。大学の先生は、閉じこもっている方が楽である。この楽がグローバルスタンダードからはずれていくことになる。個人として既得権にすがって楽をすることは、全体を駄目にすることであり、それを無くさないといけない。幸い、現在、無くなりつつあるが、それでも30年はかかると言われている。それを、今回の議論を通じて、提案して仕掛け、速めるしかない。しかし、提案しても、現場における経営とか、技術自身の問題に帰着する前に、政治的に動く人によって政治的判断をされてしまうこともある。従って、間違ったときに対する突っ込みが出来る仕組みを考えておかなければならない。隠したら進化はない。米国はオープンにし、駄目なら裁判にする。そして、その反省がすばらしい。痛い目に合わせればいつかは直るけれども、それを能動的に自ら変えていくようにしなくてはいけない。だからこそ、それを考える研究所を作ることを提案したい。その研究所では、実際に研究して商品を出すことを通じてターゲット設定するしかないが、今の日本のIT産業の規模でいうと、日本に1ヶ所作って、その成果を全ての企業が共有し、その中で具体的な製品を作る競争をすれば良い。

(7) 国内立地の解決策④ (国内立地しない理由②に対して)
・研究開発に競争原理を導入する
 自前のターゲットを出してないという問題の二つ目の解決策は、研究開発への競争原理の導入である。日本における研究開発の問題の一つに、競争がまだ甘いということが挙げられる。アイデア提言に対して、建築分野のコンテストのようなものがない。
 研究成果の評価をオープン化するのが甘い。もっと可視化し、極端に増幅して見えるようにしなければならない。失敗プロジェクトの原因追求も徹底して行い、新しい提案をつけて出し直すところまでを義務付けるといったことも必要であろう。今は、失敗したか失敗しなかったかさえも分からないような格好で終っている。結局、あまり使われなく、使われない理由もはっきりしないままで終っている。その原因追求の過程で、新しいクリエイティブなターゲットが生まれるのではないか。
 研究開発の競争原理導入に向けて、オープン化と共にグローバル化が必要である。
 海外の人が日本の大学に来て何を期待しているのかといえば、大学で自分が研究した成果を日本のマーケットに出して、そこでビジネスが出来るということである。しかし、日本のITビジネスは非常にローカライズされていて、グローバルなITビジネスは日本にはない。非常に日本的な慣習をいかにITで実現するかというビジネスはたくさんある。しかし、グローバルなものは世界のスタンダードの中で作らなくてはならず、世界市場に向かわなければいけないのに、日本ではそれがない。従って、海外の人が日本にくるメリットは少ない。
 グローバル化に向けては、鹿島アントラーズにジーコを呼んできて何億円かの価値を生んだように、NSFの元プログラムディレクター等を呼んできて、プログラムマネージャをお願いするのも一案である。それにより、モデルを変えるとか、発想転換が生まれるとかの価値を生むことが期待される。モグラたたきをするために呼んで来ては駄目である。グローバルになったから、過去のものを壊し、その選手のその時の能力がお金になるように値段をつける仕組みを作らないといけない。
 いくつかの分野は既にグローバルになっている。ゲームソフトの世界がいつまでもバイタリティを失わない理由は、そういうところにある。強い分野は、これぞグローバルだという世界に持っていける。フォローばかり行っていた分野は、いくらグローバルだといっても、方法論を知らないのだからやりようがなく、それこそ留学するしかない。

2.5.2 C氏意見
(1) 日本には研究開発の人材をプールし、維持していく仕組みが不足
 ITの研究開発において最も大きな問題は、人材の不足ということに尽きる。IT関係の基礎研究を行う研究者の数は、ITが重点分野の一つになっている現在においても農業関係の研究者に比べてはるかに少ない。米国は最近になってITやバイオで特に強くなったように思われがちだが、実は米国にはそういう人材が昔から多くいて、たまたまそれが最近脚光をあびるような世の中の流れや技術の流れになってきたということに過ぎない。
 米国では国のプロジェクトや資金によって大学や国研に研究開発の人材をプールし、維持する仕組みが出来ており、それが国のプロジェクトにおける大きな使命の一つとなっている。そして、そこに維持されている人材が、基礎研究を行っていく上での大きな推進力となっている。日本にはこのような人材プールの仕組みが存在しないため、人材のプールを企業に依存する割合が高く、必然的に基礎研究を行う人材が少なくなる。特にIT関係における研究開発の人材の層は、米国に比べて非常に薄い。
 特に、国が実施する研究開発プロジェクトにおいて、研究費を使用して研究者側が自由に人を雇用出来ないという問題が、研究開発の人材を維持していくための大きな障害となっている。

(2) 海外からの研究者を引きつけるための仕組みの変更を
 米国ではシリコンバレーにアジア系人種が目立つように、ITや半導体などの製造業においては海外の人を大量に受け入れて優秀な研究開発の人材を確保している。これに対して、日本は海外の研究者から見ると魅力に乏しく、海外研究者の数が少ないため、国内で研究開発の人材をまかなうことになり、人のレベルが必ずしも維持出来ない状況にある。
 海外、特にアジアから日本に来る研究者は、大学、大学院等で技術を身につけた後にすぐに帰国するか、米国へ渡るケースが多い。これは大学、大学院等で技術習得後に起業する、いわゆる米国型ビジネスモデルを頭に描いて来日しても、日本では研究者を維持したり、ベンチャー企業を支援し育成する国の仕組みが極めて未完成なため、日本での自己のキャリアアップが困難であると判断したことが大きな理由であると思われる。海外からの研究者を増加させるためには、国の資金で研究者を維持し、さらにベンチャー企業を支援、育成する有効な仕組みが必要である。

2.5.3 D氏意見
(1) 研究開発は国内で実施すべき、国主導によりテーマに合った研究開発拠点の設置を
 研究開発拠点を海外に設置しようとするとき、二つの目的が考えられる。一つは、製造と同じく、市場がそこにあるからそこに行って研究する、というものである。もうひとつは、その国にすごく優秀な研究者がいるから共同で研究しよう、というものである。
 しかし、海外に研究所を置いても、アンテナショップとしての役割は果たせるかもしれないが、実際に成果を出すのは難しい。また、研究開発拠点まで海外に立地すると、使う技術ばかりになって、自分でやることをしないことになり、使う技術すら落ちてくる。研究およびその開発部分は、日本国内で十分に実施していくべきである。
 米国同時多発テロによって、最近は輸出規制がかなり厳しくなっている。いままでも厳しかったが、ある軍事分野とか、限られた技術領域だけとか、特定の地域とかに限られていた。それが、アフガニスタンの問題で、スーパーコンピュータなど、特定の領域だけでなく、全領域に規制がかかるようになっている。海外での研究開発には、技術の移転という面から、輸出規制を受けるという阻害要因もある。
 ひとつの企業がどこに研究拠点を置くかという議論とは別に、日本に研究拠点を置いたとき、海外の優秀な研究者が、欧米とのベンチマークで、日本にはなかなか来たがらないという問題もある。
 国はテーマを掲げるだけでなく、国の方針を具体的に示して、世界のフロントランナーを目指すべきである。産業界と大学のトップが共同で、公募制でテーマを選定し、国に提案して予算化する。分散研と集中研のどちらにするかは、テーマごとに決める。基本的には、少数の企業と大学が連携し、分散研の形態でやる。分散研のほうが、意思決定をスピーディに行えるメリットがある。
 ニースのEurecom大学院大学に研究者を送りこんで、モバイルコンピューティングの共同研究をしている。あるテーマのもとに集まって研究をやるのは効果があると実感している。欧州でも米国でも、広い場所だから、集まるのが良いのかもしれない。同じことを国内で出来ないかと考えたが、日本では電車に乗ればすぐに会える。わざわざ特定の場所に集まってやる必要はなく、連絡をとりあって十分顔をつき合わせられる。それぞれが自分の住みやすい環境にいたまま、テーマさえ共通にやればよい。
 Gridのような、金の掛かる大きなテーマについては、必要なインフラストラクチャに個々の企業や大学が投資出来ないので、テストベッドを備えた研究開発拠点を作る。いろいろな研究を集中研でやれたり、インフラストラクチャをオープンに利用出来たりする仕組みを作る。テーマの実施については、企業と同じように途中で見直しをかけ、中止したり増強したりといった、ダイナミックなプロジェクトマネジメントをおこなう。

(2) 製造拠点は多くが海外に移行するが、ハイテクノロジーの領域は国内に残る
 電子部品やデバイスの分野とハードウェア装置やシステム装置の分野については、製品を製造する場合、低廉な人件費を求めて中国などのアジアで生産する領域もある。あるいは、ターゲット市場で現地生産するために、ノックダウンと呼ばれる日本から部品を持って行って現地で組み立てる方法がとられる領域もある。企業はコスト競争にさらされており、かなりの領域でこのような形態を取り入れなければならない。製造は、企業であれば当然一番コストの低い場所を探すだけである。高いのに無理して日本で製造するようなことは、競争力が落ちるから絶対にやらない。日本国内で安く出来るという道を作って、その上で、日本も使うということはあるだろうが、それを目標にするわけではない。
 ただし、LSI、光技術、ストレージといった、核となるハイテクノロジーの領域は、日本での開発と製造が今後も続く。このような領域は相当残っている。日本が得意とする情報家電、応用機器といった応用技術では世界をリードしており、かなりの領域で勝つことが出来ると考えている。また、インターネットやブロードバンドネットワークの時代には、ただ単に装置をシステムとしてインテグレーションするだけでなく、性能を出したり、信頼性を高めたりする、ハードウェアとソフトウェアの両面からの高付加価値インフラストラクチャソリューションが求められる。これを、プラットフォームソリューションと呼んでおり、大きなビジネス領域になってきている。

(3) ソフトウェアの製造を海外に発注しても国内の技術が空洞化する心配はない
 インドにかなりの量のソフトウェアを発注している。当初は、製造単価が国内の10分の1であった。発注内容を説明したり、完成品を検収したりという、前後の工程をすべて含めた費用では、3分の1ぐらいになる。発注する内容は単純作業だけである。今のところ、発注する側の技術力は落ちてはいない。インドにおける単価が上昇し、中国に変えたとしても、同じことである。要は使い方であり、発注する側の気の持ちよう、覚悟のしようではないかと考える。
 Hewlett-Packardは、完全にインドで作らせている。それが出来るのは、同じ英語を使っているからであろう。そうなると、技術力の落ちる心配が場合によっては出てくるかも知れない。 しかし、Hewlett-Packardの技術力が、それによって低下しているようには見えない。
したがって、空洞化の心配はない。受注する側が何から何までやって、発注する側は、こういうことが出来るものを作ってくれ、お金はこれだけ、というだけで、技術的に何もわからない人、というわけではない。発注するからには、相手以上にわかる人が必要である。ただし、わかる人の数が減少する心配はあるかもしれない。

2.5.4 E氏意見
(1) 場所にはこだわらないがいろいろな要因があり、難しいテーマ
 IT研究開発拠点の国内立地というのは、ある意味でどうでも良いことである。別に、場所が日本かどうかはあまり重要ではない。「何を作ればいいか」という頭の部分が日本にあれば、それを実現するのはどこであってもいいと思う。
 しかし、日本に有った方が良い面はもちろんある。頭以外もやはり日本にも少しは無いと困るだろう。では、どうやって人を集めるかと考え出すと、問題が広がり、大変なテーマとなる。

2.5.5 G氏意見
(1) 研究開発拠点を積極的に海外に移すことは考えていない
 我々が海外に研究所を作ったのは、「いいとこ取り、つまみ食い」をしてみようか、というのがベースにあって、本格的に海外に研究所を作って日本の研究所をクローズしようとは思っていない。
 会社としては、日本の研究所が海外の研究所からの刺激を受けて成果を出して欲しいと思っているが、現実はそうなっていない。今のところ、それぞれの研究所がライバルである。海外の研究所は基本的には日本に成果を持って帰ることを目的にしている。

(2) 日本からの技術流出を阻止する方策を考えるべき
 ヤングレポートからプロパテント政策に至る米国の戦略は、世界を自分の都合の良いように持っていこうとしている訳だが、日本にはそれに対応しようとする意思が感じられない。セカンドランナーをやって成功していたから、ITについても成功するだろうと思っていたが、真似させてくれなくて、ライセンス料ばかり取られる。パソコンなどは丸裸にされてしまった。半導体なども技術を仕分けしないで台湾に持っていってしまったから、それがそのまま中国に行ってしまった。DRAMも12インチウエハーのように韓国に一歩先を越されてしまった。日本は持っている技術を分類整理して、自分の付加価値をリファインすることの努力が足りない。自分が何を持っているかわからないまま、技術を移転してしまう。イギリス人は、アングロサクソン全般に言えるかも知れないが、何でもきちんと分類する性向があるが、日本人にはない。
 かつて米国は、トロンへの圧力とか、プロパテントとかに見られるように、かなり国策としてきちんと考えていた。日本は強みとしていた半導体技術や製造技術を無原則に世界にばらまいてしまったが、米国だったらやらない。国の宝になりうるという見通しの中で、黒を白と言ってでもコントロールするというようなところがある。そこは日本も考えるべきところである。

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