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第1編 国が支援する情報技術研究開発のあり方

2.4 国全体のIT投資のあるべき姿

■シナリオ作りの機関を創設し、出された提案を迅速に実行に移す行政を。
 国の研究開発支援を得るには、待ち伏せのシナリオを作ることが一番重要である。そのためには、一番上のターゲットの検討を普段から行っているようなシナリオ作りの機関を創設し、その機関から出された提案を短いリードタイムで実行に移す、より「経営の価値観を持った」行政を実施すべきである。

■国はインフラ投資の方向を研究開発に向けよ。
 研究開発のインフラ投資は国で負担すべきである。運用費用は受益者負担でよい。日本は、外国からは非常にキャパシティの高い国と見られている。田舎にいけば田んぼの中の道まできれいに舗装されているが、これはインフラ整備の方向が間違っていた。

■ITが重要という認識を予算に反映させ、省庁横断で実行面の議論を行うべし。
 国としてのITの重要性は認識されているものの、IT関連予算の金額が少なく、研究者やIT産業にとって魅力が無い。大事なITならば、別のところを削ってでも予算を突出させるといった総合判断が必要である。総合科学技術会議はトップダウンで検討する仕組みを作った。後は省庁横断で実行面の議論を行えるようにすべきである。

■国の研究開発投資は応用分野に拡大し、実証フェーズまで及ぶべき。
 今後の国の研究開発投資は、「国民に快適な生活環境を提供する」および「産業を創出し、雇用を創出する」という、国民の恩恵により主眼を置いた応用分野に拡大していくべきであり、投資の範囲は基礎研究だけではなく、事業化や国による調達を念頭に置いた実証フェーズにまで及ぶべきである。

■何を研究するかを考えることに、もっとも力を入れるべし。
 今や、研究のやり方よりも、何をやるかのほうが重要である。何をやるかを考える研究にこそ一番力を入れなければならない。そうしないと、今自分に出来ることだけを研究することになりがちである。

■プラットフォームのアーキテクチャの研究開発に国の資金を投入すべし。
 プラットフォームのアーキテクチャこそ国の金を掛けてやるべき研究ではないか。ターゲットをはっきりと決め、必要な資金が投入されれば勝つことは可能である。いい勝負が出来るかどうかは掛ける金額にかかっている。特にソフトウェアは金を掛ければ勝てる領域なのに、金を掛けないために負け続け、日本は自信をなくしている。

■全産業の共通基盤としてのITには、従来の公共投資に劣らぬレベルの投資をすべし。
 全産業の共通基盤としてのITの重要性を考えると、従来の公共投資、道路につぎ込んできたレベルに劣らない投資をすべきである。ITは縦割りの考え方ではうまく行かない。横串という位置づけで投資していくべきである。

■ソフトウェア分野への研究開発投資をもっと増やすべし。
 米国と競争していくにしては、ソフトウェア分野への国の研究開発支出は少ない。むしろ、だんだん絞られて、大きなソフトウェア研究開発プロジェクトはほとんど無くなってしまったと言っていい。日本では、IT投資というと、どうしてもハードウェアになってしまう。ソフトウェアの研究開発への投資をもっと増やすべきである。

2.4.1 A氏意見
(1) 国の研究開発支援を得るには、待ち伏せのシナリオ作りを常に行う機関が必要
 日本は団体主義であるが故に、半導体はチーム構成、シナリオ作りがよく出来ているように見えて、役人に安心感を与え、政府支援の研究開発費の多くを獲得している。結局、国の研究開発支援を得るには、待ち伏せのシナリオ作りが一番重要なのである。一番上のターゲットの検討を普段行っていれば、素材を集めてきてシナリオをすぐ作れる。だから、ソフトウェアも、シナリオ作りを行う機関を作る必要がある。
 アメリカ人はそれがうまい。米国では、PITACが、ソフトウェアデベロップメントデザインとか、インターネット上のソフトとか、超並列マシンのソフトとかが苦しくなりそうだと言うと、すぐ次年度に400億円位の金がついてしまう。すなわち、提案から実行までのリードタイムが短い。リードタイムを短くすることは、今の経営者にとって一番に考えなければならないことであるが、それが官では一番上位の概念ではない。行政にももっと経営の価値観を持ってこないといけないのである。PITACのレポートを出すのに、PITACの後ろにNCOという組織があり、ITだけに関して十何人かのスタッフを抱えている。それはターゲットクリエーションにお金を払っているのである。日本のソフト産業はそのようなクリエーションにお金を払っていないからいけない。

(2) インフラ投資は国が負担すべし
 インフラ投資は国費で負担すべきである。運用費用は受益者負担でよい。ただし、IT分野の特徴として、ボーダレスにインフラを使われる可能性があるので、そのただ乗りを排除する技術開発を並行して行わなければいけない。もしくは、ボーダレスに対応した受益者負担になる仕組みを考える必要がある。

(3) 日本はインフラ整備の方向が間違っていた
 日本は、社会保障がすごく充実していて、社会的には安定性をもたらしている。しかし、貿易収支は黒字どころか、赤字論議が出ている。おのずと、赤字の方向にいくと、にんじんとかねぎとかが買えなくなる。従って、国という概念がどれくらい続くのか、軍備がない国は滅びるのか、食料に対していざという時の備えが必要なのか、そういったことを並行して考えないといけない。
 シンガポールぐらい小さければ、自分のところで閉じられると思わないから、当然、オープンになって、農業をやらないとか電気を買ってしまうなどを実施し、都市国家になる。しかし、外から見ると日本のキャパシティはすごく高い評価で、潜在能力が高いと見られている。それなりの力があり、日本は一国でキャパシティを持っている。米国では首都圏でも道は穴だらけだが、日本では田舎に行っても田んぼの中の道まできれいに舗装されている。それは、インフラの整備の方向が間違っていたのである。

(4) 今の国の研究開発は企業にとって支出の多い慈善事業
 補正予算は、使いにくくてどうしようもない。人件費に経費を全然認めてくれない。それがネックで、実質4分の1しか払ってくれない。これでは、みんなやりたくない方向に行ってしまう。企業にとって国の研究開発は支出の多い慈善事業であり、特に今の企業の体力では、やっていられない。

2.4.2 B氏意見
(1) ITが重要だという認識を予算に反映すべし
 IT不況といわれるが、ITにも不況ITと好況ITが有り、国として伸びそうなIT分野をどうするか、将来を見据えて推進しないといけない。
 今はまだ国のIT関連予算の金額が少なく、研究者やIT産業にとっては魅力が無いので、今後何をすべきかとの深い議論にならない。将来大事なITだから、予算もこれだけ突出するいう風になって欲しい。財源が余分に有るわけではないのでどこかを削らなくてはならない。道路からとか、誰かが全体的に見て難しい総合判断をする必要がある。

(2) 総合科学技術会議が全体を見てIT予算まで決められる体制にせよ
 総合科学技術会議はトップダウンで検討をする仕組みを作ったが、まだ本来の役目を果たし切れていない。テーマの重要性は議論し、抽象論では非常に良いことを言っているが、誰がやるかとか、成果は何が見込めるかというような実行面の議論が深まっていない。内閣府のフィロソフィーまで練れる人材が必要かもしれない。やり方もまだ従来の枠に縛られ、最後は省庁に下りている。省庁横断で検討するようになって欲しい。少なくとも米国は省庁間に跨る組織で議論出来、予算を決定出来る体制になっている。

2.4.3 D氏意見
(1) 投資の対象を、国民の恩恵という観点から応用分野に拡大していくべき
 国のIT研究開発投資は、これまで、高性能コンピューティングといった、ハードウェアに近い技術開発に偏っていた。今後は、国民の恩恵という観点から、応用分野に拡大していくべきである。

(2) 快適な生活環境を実現するためには、多くの技術的課題を解決しなければならない
 国民の恩恵には2種類ある。一つは、国民に快適な生活環境を提供することである。日本が迎える高齢化社会に対応するための、デジタルデバイドの解消、医療、バイオテクノロジー、高度道路交通システム(ITS)、地域コミュニケーションといった、公共のためのさまざまな施策は、技術的な課題をたくさんかかえている。地球温暖化への対策としては、新しいエネルギーの開発が必要である。リサイクルやグリーンPCも大事であり、環境破壊防止も重要である。新エネルギー開発の分野でも、スーパーコンピュータで計算するアプリケーションが、相当に存在するはずである。つまり、こういった応用分野の研究開発をかなりやる必要がある。

(3) 国家が支援する研究開発によって、新しい産業を創出し、雇用を確保する
 もう一つの国民の恩恵は、産業を創出し、雇用を創出することである。国のIT投資の範囲は、基礎研究だけでなく実証フェーズにまで及ぶべきである。新しい産業を創出したり、ある産業で欧米に対して競争力が増したりすることは、公共分野への投資と同じく、国民に恩恵を与えるので、税金を使う価値がある。そのような産業の領域で、日本が世界のフロントランナーになるという旗印を掲げ、国が技術開発を支援する必要がある。

(4) 何を研究するかを考えることこそ、もっとも重要な研究テーマ
 いまや、研究のやり方よりも、何をやるかのほうが重要である。何をやるかを考える研究にこそ、ほかの研究と同じどころか、一番力を入れなければならない。そうしないと、今自分に出来ることだけを研究することになりがちである。大学においても同様であろう。その道の大家になるほど自分の専門領域だけの研究を進めることとなり、新しい領域には取り組まない。新しい研究をやるのはちょっと跳ね上がった先生ということになる。何を研究するかという点では、大学も大きく変わる必要がある。

(5) 国家によるIT投資の範囲には、基礎研究のみならず実用化も含めるべし
 これまでは、企業の研究所においてさえ、研究のテーマを選ぶときに事業化をそれほど念頭におかないケースもあった。技術志向でやり、あとから事業に結びつける方法を考えることが、仕方がないというよりも、望ましいこととされていた。企業の立場としては、遅まきながら大いに反省している。しかし、企業だけでなく、国のレベルでもはっきり事業化の目的を定めて研究しないと効率が悪い。米国では、最後には事業として具体的な成果が出てくる。日本でも事業化を考えてテーマを選び、研究を進めていく必要がある。研究の最終目的は事業化であり、その道筋を考えることも研究者の仕事であると広く合意を得る必要がある。
 過去の米国では、スーパーコンピュータなどのようにハードウェアに近いほうの技術は、軍事用途として中長期的に研究し、その結果をベースに商用化している。欧州では、通信分野におけるモバイルの標準などのように、デファクトスタンダードをとり、世界標準にしようという方針でやっている。応用分野といっても、バイオロジーや新エネルギーなど、相当に高度な技術が必要になる。応用分野においても企業の競争にまかせるのではなく、日本がフロントランナーになれるよう、国がリードするべきである。最終的に製品となって調達出来るくらいでないと成果とはいえない。最初の基礎研究から試作して実証するフェーズまでを、国のIT投資としてリーダーシップをとってリードして頂きたい。

(6) 基礎研究ではプラットフォームのアーキテクチャに国家の資金を投入すべし
 日本はこれまで、プラットフォームのアーキテクチャを制覇したことがない。これこそ、国の金をかけてやるべき研究ではないか。
 過去においては、OSなどソフトウェアでデファクトスタンダードを取れなかったが、やれば出来ると思う。相手と同じことをやれば、かならず勝てる。例えば、メインフレームの時代に、日本企業は20年ほどの時間をかけ、技術的に追いついた。ところが、追いついたときにはメインフレームの時代ではなくなっていた。そして、IBMは他の企業により作られたオープンな世界において、日本企業がやったような、技術的に追いつくという道を歩んだ。
 日本がターゲットをはっきりと決め、同じ金額を投資すれば、ちゃんとした勝負になる。しかし、いい勝負が出来るかどうかは掛ける金額にかかっている。特に、企業がソフトウェアにかけられる金額は、ハードウェアに比べると使いたい金額よりも不足している。このことは日本全体についても言える。国レベルのIT投資においても、望ましい投資額の2分の1、3分の1どころか、10分の1、数十分の1でしかない。ソフトウェアは、金をかければ勝てる領域なのに、金をかけないために負け続け、日本は自信をなくしている。

(7) ソフトウェアの重要性を認識し、ソフトウェアへの研究開発投資をもっと増やすべし
 プロジェクトの提案において、ソフトウェアは定量的にメリット、効果の説明が難しいが、ソフトウェアのIT産業の中での重要性を認識し、ソフトウェアへの研究開発への投資をもっと増やすべきである。

2.4.4 E氏意見
(1) IT投資を充実すべし
 IT投資は、公共投資とか新社会資本とかいろいろ言われてきたが、全産業に共通の基盤としてITが果たす重要性を考えたら、従来の公共投資、道路につぎ込んできたレベルに劣らない投資をやるべきだと思うし、やって欲しい。

(2) 情報はあらゆるものの横串−縦割りでは駄目
 常に問題なのは縦割りの部分。今まで日本が伸びてくるのにこういう制度が役に立ったであろうが、ITに関しては縦割りの考え方ではうまく行かない。例えば学会の例で言えば、情報処理学会というのが単独であるが、ほとんどどの分野も情報技術がベースにないと駄目なわけで、情報処理学会というのは横串の働きをする必要がある。従って、そういう観点で、公共投資のようなものも、それが何であっても横串という位置づけで情報技術に金を出していかないといけない。

2.4.5 F氏意見
(1) ソフトウェアの研究開発への支出を増やすのが第一歩
 米国と競争していくにしては、ソフトウェア分野への国の研究開発支出は喧伝されているほど多くはないというのが実態である。むしろ、だんだん絞られて、大きなソフトウェア研究開発プロジェクトはほとんど無くなってしまったと言っていい。日本では、IT投資というと、どうしても通信回線や装置などのハードウェアになってしまう。新しいソフトウェアの研究開発への投資をなんとかしなければならない。

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