【前へ】

第1編 国が支援する情報技術研究開発のあり方

2.3 研究開発のフロントランナーとなるべきか

■国はフロントランナーとなる為の研究開発のアウトソーシング市場を作れ。
 IT時代は先手必勝で、フロントランナーにならなければいけない。日本の企業は中長期テーマの研究が出来る実力を持っているが、現在の経済環境では目先のビジネスに向けた研究しか行えない。国が研究開発のアウトソーシング市場の形成を支援し、基礎研究がビジネスになることを可能にする仕組みを考えるべきである。

■ITの研究開発のアウトソーシング先は企業で良い。
 半導体、デバイス、IT等の研究開発の特性によって、適切な研究開発のアウトソーシング先は異なる。ITの研究開発のアウトソーシング先としては企業で良いと考える。問題は、国の研究開発戦略を決定する人が半導体、デバイスとソフトウェアを主としたITとの違いをよく分かっていないことであり、改善されてきてはいるものの、いまだに米国と比べると非常に大きな格差がある。

■フロントランナーを目指さざるをえないが、そのための改革は困難なものとなる。
 日本はもはやコストで勝負できなくなっており、フロントランナーを目指さなければ潰れる。米国に対抗してフロントランナーとなるには、従来の小規模かつ平準的な研究支援や、失敗もしないが大きな成功もないベンチャー投資などを見直す必要がある。さらに、中庸の重視や、既得権保護といった日本特有の文化を含めて、グローバルな戦いに対応出来るよう変革することが要求され、困難な改革となるだろう。

■重点テーマの羅列のみでなく、具体的目標を設定し、実行組織を整えよ。
 総合科学技術会議における重点テーマのように、ただ項目を並べるだけでは駄目である。個別の項目について、具体的かつ数値的な目標を定める必要がある。国が明確なビジョンを国民に示し、これに沿って大学や研究所が研究テーマを設定するというやり方が望ましい。あわせて米国のPITACのような組織を作り、そこにはメーカからも人材を投入して、産業のためになるテーマを具体的に創出し、実施させるような制度が必要である。

■フロントランナーとなるべき分野を絞って日米の共存共栄を図るべし。
 日本はフロントランナーとしてやって行けるし、やって行かないといけないが、すべての分野を等しい重要度で扱うことはできない。現状はあまりに総花的である。力を入れる分野、そこそこ頑張る分野、調達と割り切る分野などに色分けすべきである。米国を単に競争相手としてだけで捉えるのではなく、米国のパートナーとして共存共栄を図るという観点も重要である。

2.3.1 A氏意見
(1) フロントランナーになるために、研究開発のアウトソーシング市場を形成せよ
 IT時代は先手必勝で、フロントランナーにならなければいけない。儲け方は儲ける種が出来てから考えればいいことであって、最初から儲け方を考えて研究開発をやるかやらないかを決めるのは、順序が逆である。ただし、日本の国力では研究開発を全面展開するのは難しいが、企業の研究所は現在その企業の目先のビジネスに向けた研究しかしていないので、国が分相応の規模でITの研究開発を行う必要がある。MPEGとか半導体とかはうまくいった例で、共同研究のお墨付きさえもらえれば、日本の企業には中長期のテーマを研究出来る実力がある。むしろ、それをどのように行うべきか、手段を考えるべきである。
 国が中長期テーマを支援するようになった時、国は研究開発を企業にアウトソーシングすることになるが、研究開発のアウトソーシング市場のようなものを国が奨励して作っていないのが問題である。基礎研究を私のところでやらせて下さいと多くの企業が手を上げられる環境が出来ていれば、いくらでも選べるようになる。そのために、基礎研究だけでビジネスになるようなことを可能にするための仕組みを考えなければならない。
 米国では、研究プロジェクトの中から必要に応じて人件費を確保出来る。しかし、日本は裸の人件費(直接費)しか認めていないから、もともと仕組み自身がおかしい。科学研究費は間接費を30%認め、増やす動きがやっと出てきた。そして、その人件費が何倍かの利益を生むような仕組みさえ作ってくれれば、アウトソーシング市場も出来るのではないか。大元の仕組みが裸の人件費ではいい人が集まらず、クリエイティブな研究が出来ないようになっている。

(2) 研究開発のアウトソーシング先は企業で良い
 裸の人件費のみならず、間接費も支払われるような仕組みは、今後がんばって直していくとして、次はアウトソーシング先が問題になってくる。米国では、アウトソーシング先は主に大学であるが、日本では大学でなくて、企業でいいと考える。国研にいたってはほとんどゼロで、アウトソーシング先として見たときには無いに等しい。また、あまりにも国研ということで甘えすぎている。ITは極端に大きな設備は必要でなく、国研でないと出来ないということはない。ほとんど人件費ディペンデントな分野で、人さえいればいい。独立法人化以降は、国研と民間研究所は段々区別が無くなっていくであろう。ただし、半導体やデバイスは設備ディペンデントで、かなり大きな投資をしなければならないから、それは国研、大学が適しているかも知れない。
 このような、半導体やデバイスとITとの違いが分かってもらえない。そういう分野の人が判断する立場に立っていない。そこが問題である。政府の中枢にそういう人を送り込む仕組みが米国には出来ている。国としてのポリシー、戦略の決定を総合科学技術会議でやっているが、IT分野の代表メンバーがエネルギー専門の人ではどうしようもない。そこには、米国のPITACと比べてどうしようもない格差がある。それでも、この会議がなかった時代よりはましになっているが。

2.3.2 B氏意見
(1) これからの企業はフロントランナーを目指さざるを得ない
 今や日本は世界一賃金の高い国なので、コストではもはや世界に対抗出来無い。間違いなくフロントランナーを目指さざるを得ず、これが出来なければ潰れるしかないだろう。
 フロントランナーになるにはそれに見合う研究開発は必須である。今までは5000万円で20件やるとか、平準的な研究がたくさん走ることが多かった。しかし、今後は省庁間に跨る大規模な研究開発プロジェクトの実施が米国に対抗するには必須である。
 ベンチャーに対する投資にしても、日本は失敗もしないが大きな成功も無いということが多く、フロントランナーになり得ていない。米国並の、失敗してもまたやればいいというダイナミズムが必要となるだろう。

(2) 国、企業ともに変化に強い体質への転換が重要
 日本は既得権を守る意識が強く、変化を嫌う体質があるので、新しいことをやる場合でも組織も中身も変えずやろうとし、うまくいっていない。片や米国は組織まで変えてトップダウンに、更に市場原理に任せてやるのでうまくいっている。事業を切り捨てる話とか継続する話をメリハリを付けて実行することが重要である。
 日本は中庸を重視したり既得権を守る意識が強く、改革等も中途半端になり易い。更に、長老が引退した後も後ろに控えているような世界であることも多い。米国は多民族国家であるし、このような束縛はない。グローバルな米国と戦うには、企業の文化も米国に合わせて戦っていかないと生きていけない。日本だけで通用する企業では、戦いに参加も出来なくなる。
 の変革には日本の文化を含む変革を要求されており、困難なものになるだろう。例えば、年功序列の弊害は観念では分かっているが、企業内での実践は難しいのが現実である。役割に対してお金を払う風にはしてきているが、それを運用する人の意識がそこまでついてきていない。最後は年齢を考慮して操作してしまうことが多い。

2.3.3 D氏意見
(1) 目標を具体的に設定し、それに沿って研究をすすめる必要がある
 総合科学技術会議において、重点テーマの8項目があげられているが、項目を並べるだけではだめである。個別の項目について、具体的に、いつまでに何を実現するといった数値的な目標を定める必要がある。国が「この分野のITはフロントランナーになる」といった明確なビジョンを国民に示し、これに沿って大学や研究所が研究テーマを設定するというやり方が望ましい。

(2) 目標を具体的に設定するため、米国のPITACに相当する組織と制度が必要である
 米国のPITACは具体的な目標を掲げ、それを達成するために何をやるかという、次の目標にブレークダウンする。日本も重点8項目を並べるだけでなく、例えば、寿命を120歳にするといったような具体的な目標を掲げないといけない。あわせてPITACのような組織を作り、そこにはメーカからも人材を投入して、産業のためになるテーマを具体的に創出し、実施させる。以前から主張しているように、そういう制度が必要である。

2.3.4 E氏意見
(1) フロントランナーにならないと生き残れない
 ライセンスの問題を別にしても、1位にならないと生き残れなくなってきた。フロントランナーでないとやって行けない時代になっている。2番手、3番手では、結局、利益の出る上流部分の比率が非常に少なくなる。

2.3.5 F氏意見
(1) フロントランナーとなるべき分野を絞って日米の共存共栄を図る
 日本はフロントランナーとして勿論やっていけるし、やっていかないといけない。ただ、すべての分野を等しい重要度で扱うことはできない。現状はあまりに総花的である。力を入れる分野、そこそこ頑張る分野、調達と割り切る分野と色分けしないといけない。PC世界ではニッチな領域(日本語、メディア処理など)しか対象にならない。ポストPCで日本の特徴を活かす道を考える。米国を単に競争相手としてだけで捉えるのではなく、米国のパートナーとして共存共栄を図るという観点も重要。米国から見ると技術のポテンシャルは日本が一番高く、米国には、日本が基礎科学にもっと投資するように仕向けて、米国のより良いパートナーにしようという発想もある。

【次へ】