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第1編 国が支援する情報技術研究開発のあり方

2.2 技術貿易時代への対応

■先回りして技術シーズを開発するための方法論と、そのための制度、組織を作れ。
 技術貿易時代に対応するためには将来を見越した技術シーズの開発が必要であり、そのためには、先回りターゲットの提案が出来るような方法論を考え、そのための制度、組織を作るべきである。さらに、弱い物いじめではなく、先回り開発による待ち伏せが当たった人を奨励してやるようなプロパテント政策を期待する。

■ボーダレスな経済の下で戦っていくためにはIPR戦略をより重視せざるをえない。
 ここ10年程の間に、主に米国からもたらされたモデルは、IPRでガードが掛けられて、従来のキャッチアップ戦略がとれないものになってきたため、日本のIT企業は一斉にソリューションビジネス指向に傾きつつある。これからは経済がボーダレスになるため、IPRをより重視して、今までにない多くの価値を生み出して行くことが、海外で戦っていくための条件となる。

■企業のIPR戦略の転換と同時に、国としてもIPR重視の政策を打ち出すべし。
 日本企業は特許出願件数は多いものの、防衛的な特許が多く、ライセンスがビジネスの主力となることはなかったが、今後は変わってくる。日本がIPRの使用目的を防御から攻撃に転換していく際には、特許出願件数の多さは有利な材料である。しかし、企業がIPR重視の戦略に転換していくのと同時に、国としてもIPR重視の政策を打ち出し、国全体の意識改革を進めていくことが必要である。

■企業はソリューションビジネスを指向しているが、融合領域への対応に不安がある。
 多くの企業は、ソリューションビジネスが一番儲かると思って、ソリューションに焦点を合わせているので、基盤部分を自分で開発しようという発想は無く、むしろどれだけ有利なアライアンスを組めるかが問題になっている。しかし、ソリューションも今後は融合分野に広がっていくと予測されており、この新しい分野のソリューションも米国に押さえられる危険がある。日本でも、総合科学技術会議では融合領域は大事であるとの認識があり、大学に期待が集まるが、融合領域に踏み出せるか不安がある。

■IPR、ソフト、ハード、ソリューションの最適なミックスを見つけるのが重要である。
 技術貿易の時代とは言っても、基本となるのは物作りであり、工場集約や製造の海外移転は、競争していくためには必要なことである。国内で生き残っていく方法としてソリューションビジネスへのシフトが進んで行くが、それだけでは駄目で、IPR、ソフト、ハード開発・製造およびソリューションの最適なミックスを見つけて利益を出すようにしなければならない。特に上流と下流に知恵を出すことが利益を上げるためには必要である。

■当面は現在の日本の強みを活かした方向性を探り、長期的には国際化に合わせて諸制度を改革すべし。
 制度を変えるのは簡単ではないので、ここ2、3年を考えた時には、米国を理想としてそれに追いつこうとする発想ではなく、「日本の強みを活かした方向性」を探るアプローチを選択すべき。ただし、長期的には英国のサッチャー政権のように、さまざまな改革を行って日本の諸制度を国際化していくことが必要である。

2.2.1 A氏意見
(1) 技術シーズの先回り開発をせよ
 技術貿易時代に対応するには、先回り開発しかない。先回りターゲットの提案が出来るような方法論を考えて、そのための制度、組織を作るしかない。シーズ開発が新規の付加価値を生むものであるから、シーズ開発をやるべきである。この際、慣例的なルールを見直す必要がある。
 中国も含むアジアが興隆してくると、昔の日本が欧米に安値攻勢をかけたのと同じことが起こる。そうなると、かつて1980年代に、デトロイトがつぶれてしまうとして米国が行ったプロパテント政策を実施するようになる。しかし、弱い者いじめのプロパテント政策には賛成しかねる。むしろ、待ち伏せが当たった人を奨励してやるようなプロパテント政策なら、待ち伏せをするための努力につながるので賛成である。米国は意地悪のように見えるけれども、多様性があるので、DNAの配列を見つけたらすべて特許を認めてしまうというようなことを行うと、自己矛盾を起こしてしまい、その結果、特許を認めなくする方向に向かう。そして、最終的には米国の中で新たな知恵を出して、生産性が上がり、新産業が出来る方向に向けていくから、それがグローバルモデルになる。

2.2.2 B氏意見
(1) キャッチアップ時代とIPRに縛られる現在ではモデルを変える必要がある
 昭和30年代、40年代は米国のモデルをキャッチアップすれば良く、IPRも厳しくなかったから、それをまねて品質、性能を良くすれば成功した。しかしこの10年でいうと、米国は新しいモデルを自分でどんどん作って、日本は輸入するだけとなった。日本は、米国が始めたモデルをかみ砕いてものにすることが出来なかった。特にソフトウェア産業とシステム産業はこの傾向が著しい。さらに米国もIPRでガードをかけて簡単にはモデルを導入させなくなってきた。
 日本もそのころ目覚めて、IPR対策に早く手を打っていれば良かったが、反対に半導体の分野では無分別にアジア諸国にコア技術を渡してしまっている。IPRでガードをかけることをしなかったので、今や窮地に陥っている。米国のように外には出すが、そこはきちっとIPRでガードをかけることが必要だ。

(2) 今はソリューションビジネスの方が得
 今は、MicrosoftとかOracleが成功したモデルがあるから、これをまねしてやろうとしても良いはずだが、日本の企業はどこもやっていない。同じものを作って、品質が良いとか性能が良いとかで勝負しても良いはずだがやっていない。それは、彼らがソースコードをオープンにしていないし、IPRでも守っているので同じものを作るのは今や難しいからである。もはや昔のようにはいかない、ものすごいガードがかかっている。
 日本企業は、データベースでOracleと同じものを作るより、その上に何かを作るソリューションビジネスをしたほうが得だと思っている。

(3) 経済のボーダレス化がIPRの重要性を高めている
 日本もコンシューマ系のSONYとかCanonは、IPRでは世界を舞台に良く戦っている。ただ、インフラ系である大企業電機メーカは主に国内の争いをしていたので、海外で戦うにはライセンスが重要だというのをあまり理解していなかった。だがこれからは、経済がボーダレスになるので、そうはいかなくなる。
 IPRは今までにない多くの価値を生み出して、会社の見えない価値のかなりの部分に貢献するようになるのは間違いない。

(4) 攻撃的な特許出願へのシフトが重要
 米国の特許トップ10に日本の企業はたくさん入っており、特許の数だけは多い。ただしお金を生み出しているのは少ない。日本では自社のビジネスが成り立てば良いという防衛的な考えが強く、クロスライセンスで済ますことが多かった。それで裁判沙汰になることが少なく、裁判にも慣れていない。今後、ライセンスを主力にビジネスをするには裁判も覚悟しなければならないだろう。その文化的バックグラウンドでは欧米とアジアで大きな差があり、まだまだ時間は掛かるだろう。
 米国も日本の特許が多いのを警戒はしている。特許の数は多いので、この勢いで防衛から攻撃に転換していけば道は開けてくる。

(5) 国策としてのIPR保護は米国と10年から20年の差
 米国はバイオの新しい所とかソフトウェア等の大事なノウハウ、自分の存在意義に関わる所では、IPRで押さえて技術を外に出さなくなってきている。これを15年ぐらい前からやってきていて、いま芽として出始めている。新しい分野も特許を取ってしまう。これがだんだんシステマティックになってきていて、ノウハウとして社会の中に溜まりだした。
 日本のIPR重視については、企業は企業として変わらなければならないが、国としてもIPRを重視した政策を打ち出し、国全体の意識改革を進めることも必要である。

(6) ソリューションビジネスは有利なアライアンスを組めるかが重要
 多くの企業はソリューションビジネスが一番儲かると思っている。パッケージは「Best of Breed」と言って世界で一番優れているものを導入品として揃える。ソリューションに焦点が合っているので、基盤部分を自分で開発しようという発想は無くなっている。むしろどれだけ有利なアライアンスを組めるかが問題になっている。
 将来的にも、基盤部分は自前で開発することにはならないだろう。投資効率を考えると出来合いの基盤の上にソリューションを構築した方がいい。
 ソリューションは付加価値も付けやすく、海外まで進出して米国が部品屋になるストーリも考えられなくはない。ただソリューションは地場産業だから輸出は難しいが。

(7) ソリューションも今後は融合領域が焦点
 ソリューションも今後は融合分野に広がっていくと米国も予測しているが、この新しい分野のソリューションも米国に押さえられる危険がある。米国もここは人材(New Generation of Researcher)が不足しているらしい。
 日本でも総合科学技術会議では融合領域は大事であるとの認識があり、大学に期待が集まるが、融合領域に踏み出せるか心配である。
 ソリューションについても米国に変革を突き付けられており、日本も変革を進めるしかない。

2.2.3 D氏意見
(1) 21世紀においては、ITのなかでもソフトウェア関連の分野が主戦場となる
 ひと口にITといっても、大きく3種類の分野に区分される。1番目は、半導体、液晶ディスプレイといった、電子部品やデバイスの分野である。2番目は、コンピュータ、ストレージ、IPルータ、情報家電といった、ハードウェア装置やシステム装置の分野である。3番目は、ソフトウェア、サービス、ソリューションといった、ソフトウェア関連の分野である。21世紀においては、3番目の分野が主戦場となる。
 収益性も、3番目の分野がもっとも高い。企業の決算で見ても、ハードウェアは価格の低下が早く、特に、薄利多売のパソコン等のコモディティ製品は利益率が低く苦しい。一方、システムソリューションは順調に立ち上がっている。1番目、2番目の分野もシェアが高ければ高収益が得られるが、世界で第1位や第2位になるのはなかなか難しい。もっとも、パソコンの場合はベスト10に入れば勝負出来る。ただし、コモディティ化するまでの時間が短く、それまでの勝負となる。

(2) OSなど、基盤ソフトウェアの領域で勝つことは、かなり大変である
 3番目のソフトウェア関連分野は、現在のところ完全に米国に牛耳られている。この分野では、製品がデファクトスタンダードにならないと利益が生まれない。特に、OS、データベース管理システムといった基盤ソフトウェアの領域では、世界で第1位か第2位のシェアをとる必要がある。Microsoft、IBM、Sun Microsystems、Hewlett-Packardなどが今後も勝ち残るかどうかはLinuxの出現もあって予測出来ないが、これらの会社の間に食い込むことは、かなり大変である。
Microsoftに勝つためには主戦場を変える必要がある。パソコンの次の主戦場はどこにあるだろうか。ひとつは、IntelとWindowsの組みあわせを破壊することである。Intelよりもコストパフォーマンスが10倍高い新しいアーキテクチャを作れば、あらためてOSを主戦場と出来る。もうひとつは、ミドルウェアでの勝負である。Microsoftもすべてが強いわけではない。データベース管理システムでは、SQL Serverよりも、Oracleなど、独立系ソフトウェアベンダ(ISV)の製品の方がはるかに強い。そういうミドルウェアで、デファクトスタンダードをとることは可能だ。
 デファクトスタンダードの代替を狙ったOSを開発しても、機能的には同じようなものになるだろう。ビジネスとして成功するためには、むしろ、事業の戦略が問題となる。デファクトスタンダードを覆すような事業のやり方が、今から可能だろうか。LinuxはWindowsとは異なる戦略をとっているので可能性が0ではないが、まだまだである。ソフトウェアにはレイヤがいろいろとあるから、下位のOSをとられても上位の別のレイヤを全部とってしまうことが可能である。これが主戦場を変えるひとつの方法である。ただし、あるレイヤをとっても、Microsoftが下位から順にとっていって、最後には全部とってしまう危険はある。例えば、データベースのレイヤをOracleが押さえていても、SQL ServerをOSにバンドルして出せば、Microsoftがとってしまう可能性も大きい。事業の戦略は、製品の善し悪しと同じくらい、ビジネスの勝敗に影響する。

(3) アプリケーションやソリューションの領域では十分勝機がある
 OSの優秀性だけでなく、OSの上に載るアプリケーションも問題となる。Microsoftの勝因は、アプリケーションを取り込んだからである。IBMのOS2は、製品の優秀さではWindowsを凌いでいたかもしれない。しかし、独立系ソフトウェアベンダのとりこみが弱かったため、アプリケーションが載らなかった。現在も、アプリケーションは機能が優れているかどうかに関係なく、シェアの高いOSに移植される。逆に、独立系ソフトウェアベンダのアプリケーションが載っているから、そのOSが選択されるというサイクルになり、ますます強いところに集中する。ソフトウェアの事業では、製品の善し悪しは成功における3分の1程度の影響しかない。残りの3分の1は販売網、あとの3分の1はパートナーシップが確立出来るかどうかにかかっている。
 より上位のミドルウェアやアプリケーションパッケージにおいては、勝負の余地が十分に残っている。最近では、インターネットやブロードバンドネットワークの普及によって、ビジネスの領域が上位にシフトしている。OSはハードウェアにバンドルされ、ユーザに対してはハードウェアとインテグレーションして販売される形態がほとんどである。つまり、OSの上のミドルウェア、アプリケーションで勝負出来る時代がきている。
 例えば、GridはOSではなく、もう一つ上位のミドルウェアである。これは、一つのコンピュータではなく、地理的に分散した多数のコンピュータの上で計算を実行するネットワークモビールである。このようなネットワークコンピューティングの領域では、サービスプロバイダからブロードバンドネットワークを介して全世界に発信して、ヘテロジーニアスな環境でもっとも性能を出すためにはどうすればよいかなど、競争出来るポイントが相当ある。

(4) チャレンジャブルな企業ではソリューションへの投資が増加
 日経新聞の9月の調査か何かで、ITへの投資額を業種別に比較すると、自動車と薬品がいちばん多いという記事があった。薬品とは、すなわちバイオテクノロジーである。チャレンジャブルな企業は、バイオテクノロジーを使った新しい製薬の技術に投資している。IT投資には2種類ある。一つは、バイオテクノロジー、エネルギー、環境といった、公共的な領域の技術に対する投資、もう一つは、インターネットを利用してリアルとバーチャルを融合させ、新しいビジネスをシーズベースでやっていこうという動きである。いろいろな企業活動を、すべてインターネットでバーチャルにやるのではなく、ある部分はインターネットで、ある部分は現行のリアルビジネスでやる。大企業だけでなく、中堅企業も、新しい、チャレンジングなビジネスに取り組んでいる。

2.2.4 E氏意見
(1) 技術貿易時代になっても物作りが基本
 技術貿易の時代とは言っても、ある程度自分のところで物づくりをやってみないと、机上の空論になりかねない。メーカーとしては、やはり物作りが基本である。全体のバリューチェーンを考えたときに、一部は、たとえば中国などで作ってもらうのも一つの手段であるが、やはり自分のところでやっていると言える形にしたい。そのような中で良いものを見つけライセンスしていく。

(2) IPR、ソフト、ハード、ソリューションの最適なミックスを見つけることが重要
 工場集約や製造の海外移転は、ある程度やらないと競争していけなくなっている。では何で生き残っていくかというと、一言で言えばソリューションビジネスへのシフトである。
しかし、ソリューションだけで良いわけではない。いわゆるIPRから、ソフト、ハードの開発・製造、それとソリューション、これらのミックスだと思う。どれか一つだけやっていけばいいというものではない。その比重は、製品ごとに異なるバリューチェーンがあるため、製品に応じて決める必要がある。一番いいミックスを早く見つけて利益を出すようにしなければならない。

(3) 上流と下流に知恵を出して利益を上げる
 一般には、上流と下流に利益が出て、中流のところは利益が出ない構造になって来ている。特に、上流と下流に知恵を出して、そこで利益を上げていく必要がある。

2.2.5 F氏意見
(1) 日本の強みを活かしたアプローチを考える(当面の課題)
 「理想としての米国」と「それに追いつけない日本」という発想が一般的にあるが、そうではなく「日本の強みを活かした方向性」を探るアプローチへの転換が必要と考える。
それでは「日本の強みを活かしたアプローチ」とは何かということになるが、あまりよくわからないのが問題。ただ、米国と同じことをやろうとしても、諸条件が違うのでうまくいかないだろうから、実際に何かをやろうとすると、厳然と存在する日本的諸条件や諸制度を考慮せざるを得ないことは確かである。
 自動車産業は、コンピュータ産業と違って日本がかなり強い産業である。日米の自動車産業を比較してみると、この分野の識者の考えでは、日本は濃密なコミュニケーションによって統合能力を発揮するというようなパターンが得意で、部品設計や開発・生産の相互調整のようなところに非常に力を発揮する。一方、米国はオープン型・モジュラー型であるとして、インターフェイスを標準化してその組み合わせの妙で力を発揮するのが得意で、パソコン、インターネット系などに典型的に現れているとしている。
 自動車産業がこういう擦り合わせ型でいけるのは、一種の成熟産業で、あまり変える余地がないからである。一方、ソフトウェアは成長的な分野だから、まずアーキテクチャを決めようとなるが、日本人はこれが苦手である。20〜30年経つとソフトウェアが成熟して、インターフェイスはもう変わらないとなると、こんどは擦り合わせ型が生きてくる時代がくる可能性があるのではないか。

(2) 日本的諸制度の国際化を(長期的課題)
 ただ、「日本の独自性」をあまり強調しすぎると、「ボーダレスな国際社会の中でも独自の制度を固持すべし」と言っているような印象を与えるが、決してそうではない。なかなか制度は変わらないから、ここ2、3年のことを考える時は、現実的には現状の諸制度を前提に考えざるを得ないという立場である。
 英国のサッチャー政権(1979年〜1990年)はいろいろ改革を進めたが、政権後半の1988年に行政執行部門のエージェンシー化を行うことができた。またOECD諸国では1990年代後半から、複数年会計とか業績結果法のようにインプットコントロールからアウトプットコントロールへといった改革が盛んに行われた。改革には結構時間が掛かっている。日本は15年遅れで、エージェンシー(独立行政法人)化の段階である。これからが大きな制度改革の時期であり、日本的諸制度の国際化を期待したい。

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