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第1編 国が支援する情報技術研究開発のあり方

1.3 ヒヤリング調査の概要

1.3.1 質問項目について
 1.2節で述べたような背景と問題提起に基づき、「IT研究開発拠点の国内立地とその発展のための条件」という調査課題で、わが国のIT産業界において研究開発に従事している有識者に対するヒヤリング調査を実施した。
 この課題は、わが国の産業の空洞化をいかに防ぐか、すなわち、研究開発拠点や製造拠点の国内立地を可能とする条件は何か、現在の日本には何が欠けているのか、改革すべき仕組み、法制度は何かなどを調査することを意図しており、ヒヤリングは、調査課題に係わる、以下の7つの項目についておこなった。本節では、それぞれのヒヤリング項目に対する回答者の意見の要約を記載している。

【質問項目】

1.3.2 技術貿易時代への対応

■先回りして技術シーズを開発するための方法論と、そのための制度、組織を作れ。
 技術貿易時代に対応するためには将来を見越した技術シーズの開発が必要であり、そのためには、先回りターゲットの提案が出来るような方法論を考え、そのための制度、組織を作るべきである。さらに、弱い物いじめではなく、先回り開発による待ち伏せが当たった人を奨励してやるようなプロパテント政策を期待する。

■ボーダレスな経済の下で戦っていくためにはIPR戦略をより重視せざるをえない。
 ここ10年程の間に、主に米国からもたらされたモデルは、IPRでガードが掛けられて、従来のキャッチアップ戦略がとれないものになってきたため、日本のIT企業は一斉にソリューションビジネス指向に傾きつつある。これからは経済がボーダレスになるため、IPRをより重視して、今までにない多くの価値を生み出して行くことが、海外で戦っていくための条件となる。

■企業のIPR戦略の転換と同時に、国としてもIPR重視の政策を打ち出すべし。
 日本企業は特許出願件数は多いものの、防衛的な特許が多く、ライセンスがビジネスの主力となることはなかったが、今後は変わってくる。日本がIPRの使用目的を防御から攻撃に転換していく際には、特許出願件数の多さは有利な材料である。しかし、企業がIPR重視の戦略に転換していくのと同時に、国としてもIPR重視の政策を打ち出し、国全体の意識改革を進めていくことが必要である。

■企業はソリューションビジネスを指向しているが、融合領域への対応に不安がある。
 多くの企業は、ソリューションビジネスが一番儲かると思って、ソリューションに焦点を合わせているので、基盤部分を自分で開発しようという発想は無く、むしろどれだけ有利なアライアンスを組めるかが問題になっている。しかし、ソリューションも今後は融合分野に広がっていくと予測されており、この新しい分野のソリューションも米国に押さえられる危険がある。日本でも、総合科学技術会議では融合領域は大事であるとの認識があり、大学に期待が集まるが、融合領域に踏み出せるか不安がある。

■IPR、ソフト、ハード、ソリューションの最適なミックスを見つけるのが重要である。
 技術貿易の時代とは言っても、基本となるのは物作りであり、工場集約や製造の海外移転は、競争していくためには必要なことである。国内で生き残っていく方法としてソリューションビジネスへのシフトが進んで行くが、それだけでは駄目で、IPR、ソフト、ハード開発・製造およびソリューションの最適なミックスを見つけて利益を出すようにしなければならない。特に上流と下流に知恵を出すことが利益を上げるためには必要である。

■当面は現在の日本の強みを活かした方向性を探り、長期的には国際化に合わせて諸制度を改革すべし。
 制度を変えるのは簡単ではないので、ここ2、3年を考えた時には、米国を理想としてそれに追いつこうとする発想ではなく、「日本の強みを活かした方向性」を探るアプローチを選択すべき。ただし、長期的には英国のサッチャー政権のように、さまざまな改革を行って日本の諸制度を国際化していくことが必要である。

1.3.3 研究開発のフロントランナーとなるべきか

■国はフロントランナーとなるための研究開発のアウトソーシング市場を作れ。
 IT時代は先手必勝で、フロントランナーにならなければいけない。日本の企業は中長期テーマの研究が出来る実力を持っているが、現在の経済環境では目先のビジネスに向けた研究しか行えない。国が研究開発のアウトソーシング市場の形成を支援し、基礎研究がビジネスになることを可能にする仕組みを考えるべきである。

■ITの研究開発のアウトソーシング先は企業で良い。
 半導体、デバイス、IT等の研究開発の特性によって、適切な研究開発のアウトソーシング先は異なる。ITの研究開発のアウトソーシング先としては企業で良いと考える。問題は、国の研究開発戦略を決定する人が半導体、デバイスとソフトウェアを主としたITとの違いをよく分かっていないことであり、改善されてきてはいるものの、いまだに米国と比べると非常に大きな格差がある。

■フロントランナーを目指さざるをえないが、そのための改革は困難なものとなる。
 日本はもはやコストで勝負できなくなっており、フロントランナーを目指さなければ潰れる。米国に対抗してフロントランナーとなるには、従来の小規模かつ平準的な研究支援や、失敗もしないが大きな成功もないベンチャー投資などを見直す必要がある。さらに、中庸の重視や、既得権保護といった日本特有の文化を含めて、グローバルな戦いに対応出来るよう変革することが要求され、困難な改革となるだろう。

■重点テーマの羅列のみでなく、具体的目標を設定し、実行組織を整えよ。
 総合科学技術会議における重点テーマのように、ただ項目を並べるだけでは駄目である。個別の項目について、具体的かつ数値的な目標を定める必要がある。国が明確なビジョンを国民に示し、これに沿って大学や研究所が研究テーマを設定するというやり方が望ましい。あわせて米国のPITACのような組織を作り、そこにはメーカからも人材を投入して、産業のためになるテーマを具体的に創出し、実施させるような制度が必要である。

■フロントランナーとなるべき分野を絞って日米の共存共栄を図るべし。
 日本はフロントランナーとしてやって行けるし、やって行かないといけないが、すべての分野を等しい重要度で扱うことはできない。現状はあまりに総花的である。力を入れる分野、そこそこ頑張る分野、調達と割り切る分野などに色分けすべきである。米国を単に競争相手としてだけで捉えるのではなく、米国のパートナーとして共存共栄を図るという観点も重要である。

1.3.4 国全体のIT投資のあるべき姿

■シナリオ作りの機関を創設し、出された提案を迅速に実行に移す行政を。
 国の研究開発支援を得るには、待ち伏せのシナリオを作ることが一番重要である。そのためには、一番上のターゲットの検討を普段から行っているようなシナリオ作りの機関を創設し、その機関から出された提案を短いリードタイムで実行に移す、より「経営の価値観を持った」行政を実施すべきである。

■国はインフラ投資の方向を研究開発に向けよ。
 研究開発のインフラ投資は国で負担すべきである。運用費用は受益者負担でよい。日本は、外国からは非常にキャパシティの高い国と見られている。田舎にいけば田んぼの中の道まできれいに舗装されているが、これはインフラ整備の方向が間違っていた。

■ITが重要という認識を予算に反映させ、省庁横断で実行面の議論を行うべし。
 国としてのITの重要性は認識されているものの、IT関連予算の金額が少なく、研究者やIT産業にとって魅力が無い。大事なITならば、別のところを削ってでも予算を突出させるといった総合判断が必要である。総合科学技術会議はトップダウンで検討する仕組みを作った。後は省庁横断で実行面の議論を行えるようにすべきである。

■国の研究開発投資は応用分野に拡大し、実証フェーズまで及ぶべき。
 今後の国の研究開発投資は、「国民に快適な生活環境を提供する」および「産業を創出し、雇用を創出する」という、国民の恩恵により主眼を置いた応用分野に拡大していくべきであり、投資の範囲は基礎研究だけではなく、事業化や国による調達を念頭に置いた実証フェーズにまで及ぶべきである。

■何を研究するかを考えることに、もっとも力を入れるべし。
 今や、研究のやり方よりも、何をやるかのほうが重要である。何をやるかを考える研究にこそ一番力を入れなければならない。そうしないと、今自分に出来ることだけを研究することになりがちである。

■プラットフォームのアーキテクチャの研究開発に国の資金を投入すべし。
 プラットフォームのアーキテクチャこそ国の金を掛けてやるべき研究ではないか。ターゲットをはっきりと決め、必要な資金が投入されれば勝つことは可能である。いい勝負が出来るかどうかは掛ける金額にかかっている。特にソフトウェアは金を掛ければ勝てる領域なのに、金を掛けないために負け続け、日本は自信をなくしている。

■全産業の共通基盤としてのITには、従来の公共投資に劣らぬレベルの投資をすべし。
 全産業の共通基盤としてのITの重要性を考えると、従来の公共投資、道路につぎ込んできたレベルに劣らない投資をすべきである。ITは縦割りの考え方ではうまく行かない。横串という位置づけで投資していくべきである。

■ソフトウェア分野への研究開発投資をもっと増やすべし。
米国と競争していくにしては、ソフトウェア分野への国の研究開発支出は少ない。むしろ、だんだん絞られて、大きなソフトウェア研究開発プロジェクトはほとんど無くなってしまったと言っていい。日本では、IT投資というと、どうしてもハードウェアになってしまう。ソフトウェアの研究開発への投資をもっと増やすべきである。

1.3.5 IT研究開発拠点の国外流出の是非

■IT産業を国内立地するには空洞化の原因の大元を断つしかない。
 IT産業の国内立地が困難になった理由として、給与水準と物価水準がグローバルスタンダードになっていないということと、日本ではキャッチアップモデル(セカンドランナーモデル)がいまだに続いており、クリエイティブな仕事が出来ず、自前で研究ターゲットを創出していないということが挙げられる。
 この対策としては、①給与水準と物価水準とをシンクロナイズして下げる、②日本流の新たなキャリアデベロップモデルを考える、③研究ターゲットを開発するための専門研究所を作る、④研究開発に更なる競争原理を導入する、などが考えられる。

■国により研究開発の人材をプールする仕組みを作り、海外からの研究者を含めた人材を確保することを考えるべし。
 ITの研究開発における最も大きな問題は人材の不足であり、研究開発拠点を海外に求める大きな理由が人材の確保である。日本には、米国のように国のプロジェクトや資金によって大学や国研に研究開発の人材をプールし、維持する仕組みが存在しない。これが、特に基礎研究におけるIT研究開発者の層の薄さや、海外の研究者から見て、日本が魅力に乏しいと言われる大きな理由となっている。

■国の主導により、テーマ毎に適切な形態の研究開発拠点を設置することを提案する。
 海外に研究所を置いても実際に成果を出すのは難しいし、自分自身の技術の低下を招く恐れがあるほか、技術の輸出規制という阻害要因もある。研究開発部分は日本国内で実施していくべきである。研究開発拠点の国内立地に関しては、国はテーマを掲げるだけでなく、国の方針を具体的に示して、テーマ毎に適切な形態を持った研究開発拠点を設置することを提案する。

■ハードやソフトの製造の海外流出は、必ずしも国内の空洞化には繋がらない。
 製造は、企業であれば一番コストの低い場所を探すだけであり、海外への流出は自然の流れである。ただし、ハイテク領域や高付加価値の分野では、日本での開発/製造が今後も続くし、このような領域は相当残っている。ソフトウェアの海外発注も単純作業が多いので、それによって自社の技術力が低下するとは思っていない。

■頭の部分が日本にあれば研究開発を行うのは海外であっても良い。
 IT研究開発拠点の国内立地というのは、ある意味でどうでも良いことで、何を作るかを決める頭の部分が日本にあれば、それを実現するのは海外であっても良い。ただし、日本国内に立地した方が良い面も多分にあるので、国内で人を集めることを考えないといけないが、これはいろいろな問題があってかなり大変である。

■日本からの技術流出を阻止する方策を考えるべし。
 米国は、国策として国内産業の競争力強化を考え、実行してきたが、日本にはそれに対抗しようとする意思が感じられない。一方で、日本は強みとしていた半導体技術や製造技術を無原則に世界にばらまいてしまった。米国は国の宝になりうるという見通しの中で、黒を白と言ってでもコントロールするというようなところがあり、日本も参考にすべきである。

1.3.6 わが国の研究開発支援構造に欠けるもの

■「民が主体」、「実業モデル尊重」の発想が欠如し、民にとって邪魔な省庁間の壁。
 日本株式会社で良かった時代は官が主体という発想でもうまく行っていたが、今は民が主体という発想へ転換し、クリエイティブな構造を生み出すことが必要である。官には実業のモデルを尊重する発想が欠けていて、実際のビジネスではあり得ないような制度が存在する。また、省庁間の壁は邪魔な存在以外の何物でもないが、これを排除したり無くそうとする発想がない。

■省庁間を跨って予算等を議論できる機構を早急に整えるべし。
 ITのような新しい分野の政策を実行するには、「情報省」のような新しい組織を新設するぐらいのことをすべきである。総合科学技術会議を主催する内閣府は、プランニングはするが、省庁間の予算の調整をする権限も陣容もない。日本も米国のように省庁間を纏める部署を作り、そこに権限を与えることを早急に考えないといけない。

■ベンチャー向けに、米国並の支援の仕組みを作るべし。
 新しいビジネスは当初は小規模なのは仕方がないが、その代わり、大企業だと端金でもベンチャーにとっては十分な資金の支援を政府で行うことができる。米国並のベンチャー支援の仕組みを作る必要がある。

■省庁間の縦割り構造を超えた効果的な役割分担を望む。
 日本の研究開発プロジェクトでは、それぞれの省庁の役割がはっきりしない。縦割りになっていて、どの省庁も同じような結果を要求し、同じような企業に落ちてくる。企業を維持、発展させるための政策なのか、国の基礎研究をレベルアップさせるための政策なのかという区別が非常に分かりにくくなっている。縦割りで互いに喧嘩しているようにすら見える。これを何とかして欲しい。

■ベンチャーが生み出す新しいマーケットを育てる、国の支援制度が必要。
 日本はユーザや企業が保守的で、新しい技術を持ったベンチャーが出て来ても、なかなかマーケットが育たない。米国でも新しいマーケットを育てるにはリスクを伴うが、国の資金でビジネスになるかどうかの実験をしたり、官公庁が自ら調達を行うなどの制度を設けてベンチャーを育成している。日本にもこうした制度が必要ではないか。

■基礎研究を事業化、産業競争力強化にまで結びつける一貫した国の仕組みが必要。
 国全体として、産業競争力を強化するための先行的な技術開発が出来る仕組みとなっておらず、大学や国研では基礎研究を事業化に結びつけるインセンティブに欠けている。また、せっかく国の支援で開発した技術も、国が率先して活用する努力を行わなければ、無駄になることが多い。基礎研究を事業化、産業競争力強化にまで結びつける一貫した国の仕組みが必要である。

■研究開発支援においては、継続的視点を持つべし。
 日本では人が代わることにより、研究開発支援に関する政策がうまく繋がらなくなる場合が多い。全体からの視点、あるいは継続的な視点が欠けているのではないか。

■人材育成は金を出すだけでなく、その人の進路に応じたサポートの仕組みを。
研究者を育てるには金を掛ける以外に、その先、その人がどう育って欲しいのかを考えて、それをサポートする仕掛けを作る必要がある。起業家としてやっていく人に対しては、(融資でなく)投資がすぐに出来る仕組み、その人がもっと研究したい場合には、それに対して補助する仕組み等、その人がどう育つか、どう育って欲しいかによって、それぞれの道をサポートする仕組みがあると良い。

■企業が苦しい今こそ、国は基礎研究分野をおろそかにすべきではない。
 今や、企業は経営が苦しくて基礎研究への投資が困難になっているが、産総研など国研が独法化により独立採算的なことばかりを求められると、基礎研究がさらに弱体化していくのではないかという懸念がある。国は基礎研究をおろそかにすべきではない。

■全体のグランドデザインに基づいた国の仕組み・施策が必要。
 全体的視点に立って国の方針を考えないと、ベクトルが合わないし、継続性がなくなる。国としてのグランドデザインに基づく仕組み、施策が必要である。個別の制度、仕組みは徐々に改善されつつあるが、実質的な戦略立案部門というのがほとんど無いため、個別には部分的な解決がされても、全体としては解決されない。一番欠けているのは全体的視野に立った政策や戦略であり、国としての明確な大きな目標から、戦略、具体策へときっちり落としていく組織と仕組みが必要である。

■制約を最大限に取り払った国家プロジェクトを試行せよ。
 通常のプロジェクトでは、諸々の課題や制度など、足枷がいろいろあるが、適当な規模のプロジェクトを、可能な限りの枠を全部取り払って試行してはどうか。プロジェクトの進捗に伴って、いろいろな課題が出てくるし、解決策も見つかるのではないか。IPAの未踏ソフトウェア創造事業はこれに近い発想と思われるが、対象が個人レベルで予算規模も小さいので、効果が限られる。

■ソフトウェアの研究開発の特性に適合した予算化と実施制度を。
 ソフトウェア分野への国の投資はほとんどが補正予算で実施される。補正予算での研究開発では、短期間な割に規模が大きいものが要求されるため、中途半端な結果となってしまう。ソフトウェアの特性に適合した予算化と実施制度が必要である。

■日本の文化に合ったやり方を追求すべし。
 欧州や米国の仕組みは、各国の社会的、地理的要因によって決まってきた面がある。その仕組みを日本に部分的に持ってきても、どこまで機能するかは疑問がある。今の日本のやり方は、過去において我々がやってきた訳だから、それを簡単に捨てる必要はないし、捨てようがない。日本なりのやり方があるのではないか。

■国のプロジェクトの成果をより実質的に評価し、良いものには継続的支援を。
 日本の形式的なプロジェクトの評価に比べて、EUでの評価は実質的であり、審査はオープンな環境で行われる。そして、成果が良と判定されると次のプロジェクトに予算が付けられる。日本にも、もっと成果を実質的に評価して、優秀な研究については継続して支援を行えるような仕組みが必要である。

1.3.7 研究のゆりかごとなる大学の充実の必要性

■研究機能と教育機能との分離、産官学間の流動化が必須である。
 研究機能と教育機能との分離、及び、産官学の間の流動化が必須である。産官学の流動化が行われていないために、研究者は象牙の塔にいて、ビジネスを考えるのは卑しいと思う風潮が残っている。流動化がうまくいけば、ものつくりの場と教育の最前線の距離が短縮されて、情報科学系の大学教育にニーズ発想のすすめが可能になる。

■大学の制度改革には、キャリアデベロップメントモデルの作り直しが必要。
 大学が独法化しても、職員は公務員並で、定年制があるといった既得権が残ってしまうが、グローバルスタンダードの中では、それは通用しない。キャリアデベロップメントモデルをもう一度作り直す必要がある。抵抗が起こっても突破するしかない。

■大学は自らが意識を持って変革すべし。
 大学の改革は自らが行わないと結局は無理である。今一番必要なのは、人材確保のための大学院の充実である。また、大学院生への奨学金、マネジメントスタッフの充実、大学教員の論文至上主義の是正と、特許取得意識、事業化意識の向上が必要である。

■研究と同時に教育のレベルアップも必要。
 文科省の方針だと大学は研究で評価されるが、主な仕事は教育で、予算もほとんどが教育予算である。しかし、大学の先生になる人のうちで、「教育」そのものについて教育された先生はほとんどなく、資格も不要である。大学のレベルを上げるためには研究と同時に教育のレベルアップも必要である。

■情報系教育やベンチャー起業サポート等の教育の充実が急務である。
 日本の大学ではプログラミング・テクニックのような実務的な教育は軽視される傾向にあり、結果として日米の学生のプログラミング能力の差となって現れている。この差が米国との間のソフトウェア産業の差になっているのかも知れない。また、米国ではベンチャー起業サポートの教育にも力を入れており、実際にベンチャー関係者を外部講師として招いて教育を行っている。日本でも、こうした実務的な教育の充実が急務である。

■技術者の採用および評価基準に対する企業側の意識改革が必要。
 日本企業の多くは社員採用時に専門性を重視せず、入社後の教育で専門性を身に付けさせる。この方針は専門性を重視する米国と比べて、教育期間分の遅れや、教育資金などの負担を企業に課し、国際競争の激しい今では不利な面が多い。さらに社員採用時の専門性の軽視により、大学卒と大学院卒の待遇は年齢による差とあまり変わらないレベルであり、これが大学院への進学意欲を失わせる大きな要因となっている。
 例えば、プログラムテクニックなども採用基準とはならないし、専門能力としての評価は低い。プログラミング作業のレベルは下に見られていて、正社員にはやらせず、外注に出されたりしている。ソフトウェア技術者の評価が低いことが日本の情報関係における一番の問題かも知れない。

■ソリューションビジネスが育ちやすい教育環境の整備を。
 米国には各分野の専門家の中でコンピュータを使いこなせる人材が桁違いに多く、これらの豊富な人材からソリューションがどんどん出てくる。この背景には、米国との教育制度の差がある。日本でも複数専攻(経済学と情報工学等)を容易にするなど、学際的な人材を育成する環境を整備することが必要である。

■大学に優秀な人材が残れるようもっと資金投入を。
 日本の大学は、欧米と比較して人材が不足しており、優秀な人材を大学にもっと残すようにすべきだ。研究室を見れば、大学が貧乏であると分かる。もっと資金を投入して設備を充実させ、人も抱えられるようにしないと、企業にとっても大学を活用することが出来ない。大学に優秀な人が残って欲しいのは、良い成果を出して欲しいからである。

■カリキュラムの改革、大学間の講座共有などの思い切った施策を行うべし。
 情報系教育が重要なのは明らかであるから、他の講座をつぶしてでも、情報系の講座を増やす、理論に偏った旧態依然のカリキュラムをビジネス志向に改革する、e-Learningを活用して大学間で講座を共有するなどの思い切った施策が必要である。

■産業界と連携するための組織や制度を整備すべし。
 大学院では、産業界と事業化までを含めた共同研究を行うために、TLOや人員雇用などの制度の改革が必要である。大学のなかで事業化につなげたり、成果を産業界というビジネスの世界に移転したりするために、仕組みや制度を改革すべきである。

■企業は大学での研究成果を雇用時の待遇に反映させるべし。
 企業側も、優秀な成果を出した大学院生は、高待遇で雇用する必要がある。大学でいくらいい研究をしてもビジネスの世界で評価されないとなると、大学の研究からビジネスへという道は廃れてしまう。人材の金銭的な評価において、その人にしか出来ない技量があるにも関わらず、単なる工数として値段を計算するのは大きな問題である。

■大学間・産学の連携を志向した研究開発拠点作りを。
 これまで「大学の中でいろいろな知識が渦巻いていて、そこで新しい知識も生まれる」という考えに基づいて、学内での共同研究に期待してきた。しかし、実際には大学は学科や学部の縦割りが激しくて学内の共同研究がほとんど無く、多くは大学外のメーカや、他の大学の同じ分野の先生との共同研究である。こうした現状から、今はネットワークを介して大学・企業間を連携した分散型の研究開発拠点を志向するのが良い。

■日本は大学の研究者から企業への積極的なアプローチが少ない。
 欧州の大学の先生は、企業へのアプローチに関して日本の先生よりはるかにアグレッシブである。産学協同に対して何の躊躇もなく、積極的にアピールして企業から金をもらってきて、大々的に成果を発表したり、その企業に学生を送り込むことも行っている。
 英国の場合、大学の先生が学校で仕事をしながら、大学との契約以外の空いた時間を使って会社を起こし、そこで仕事をするというケースが多く、そういう先生が実質的な研究活動を展開している例をいくつか見ている。

1.3.8 国研の不在をどう補完するか

■民間の研究管理力を取り込んだ、流動性の高いプロジェクト組織を作るべし。
 国研よりは、むしろ流動性の高いプロジェクト組織を必要に応じて作って、そこで規模の大きな研究をすればよい。米国の国研の多くは所有者は国だが、運用は大学や民間企業に任されている。目的意識をはっきりさせ、評価をはっきりさせるために、民間の研究管理力を活用すべきである。そして、その組織は、産官学の流動性の中できちんと運用すべきである。

■日本の国研の状態は非常に深刻である。
 日本の国研といえば産総研であるが、情報系はわずか3部署、5%の100人にも満たない規模で、これで米国に勝てと言われても無理である。大学よりひどい状態になっており、今後は更に弱体化していくのではないかという懸念がある。
 企業も国研も、ソリューションビジネスに引っ張られて、基礎研究が少なくなっている。文科省関係はよりサイエンス寄り、経産省関係はより実用的になって、真ん中のフェーズが抜けている。国研がこの状態だと、大学に頑張ってもらうしかない。

■企業と国との方向性が合えば、国家支援の中長期の研究開発は是非やりたい。
 国研が不在だからといって、企業の研究所が、新規分野の研究から製品化における真ん中のステージを担当することは、金儲けを目的としている以上難しい。事業としての将来を見越して中長期の研究は続けていくが、国から支援される研究開発も国と企業の方向が合わないとやっていけない。国との方向性が合えば、委託としての研究費補助は大歓迎である。米国ATPのような公募型の研究であればどんどん応募していきたい。

■基礎研究から実証実験、事業化までを通し、産学が連携できる仕組みが必要である。
 日本では、研究の上流工程と下流工程の間にギャップが出来ている。米国では国研がここを埋めているが、日本には国研がほとんど無い。このことから、基礎研究から実証実験、事業化までをとおした産学連携の仕組みが重要である。シーズ型の基礎研究については、大学、国研がリードして企業は参加するスタイルとし、一方、ニーズにあった事業化フェーズの研究については企業がリードし、大学が参加するスタイルとするのが良いと思われる。

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