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2. 調査課題とその背景

2.6 米国の商品化段階と起業段階における支援

 研究開発の最終段階は、開発成果の商品化である。開発者が自らベンチャー企業を起こす場合、起業、商品化、販売などのための資金が必要となる。このための資金の支援の仕組みがSBIRとSTTRである。

(1) SBIR
 SBIRは、1982年に、Small Business Research and Development Actに基づき開始され、2000年9月に2008年9月まで延長する法律が成立している。その目的は新技術を抱えたベンチャー企業を市場に送り出すことで、大学での研究成果の商品化と新産業創成を意図したものである。その支援方法は、図2.4に示すように、3つのフェーズに分かれている。
 1982年度に、フェーズ-Iの支援686件、金額にして$44.5Mで開始されたSBIRは、1997年度には、フェーズ-Iの支援3,371件、フェーズ-IIの支援1,404件、金額にして $1.1B (約1,300億円)と、爆発的拡大を遂げた。その開始からの投資額の累積は、$10B(1兆円)を超えている。


図2.4 SBIRの支援の3つのフェーズ
フェーズ-I,IIは、連邦政府の投資、また、フェーズ-II, IIIでは、民間資金やSBIR以外の連邦政府資金を集めて合算使用してよい

 

 SBIRでの支援は、フェーズ-Iは、金額が$100,000(約1300万円)で、期間が6ヵ月である。このフェーズの目標は、提案された研究開発の内容の商品としての利点や実現可能性を確実にすることである。フェーズ-Iで評価/競争に耐える成果を出すとフェーズ-IIへ進む資格が得られる。
 フェーズ-IIは、金額が$750,000(約1億円弱)で、期間が2年である。このフェーズでは、図に示すように、SBIR以外の連邦政府資金や民間ベンチャー資金の合算が認められる。このフェーズでの作業は、フェーズ-Iの成果をさらに発展させることである。フェーズ-IIIでは、もはやSBIR資金は与えられず、SBIR以外の連邦政府のファンドや民間資金を獲得して、商品開発や市場開拓を行い、ビジネスを開始することを目指す。
 SBIRの予算は、連邦政府機関の外部調達予算の2.5%を別枠として分離して、SBIR事業に当てることで構成される。対象となる連邦政府機関とは、外部調達の研究開発予算が、$100M(約130億円)以上の省庁である。現在、図2.5に示す10の省庁がSBIRに参加している。


図2.5 SBIRに参加している10省庁とその投資分野

 SBIRでは、図2.5に示すように、各省庁の投資分野や金額が、その省庁のミッションによって異なっており、投資分野は、将来の米国産業を背負うような分野に限定されている。このように、新しい市場創成にチャレンジするようなベンチャー企業を続々と市場へ送り込み、その一部が大きく成長し、新市場を形成するとともに、競争力を失いつつある既存企業と交代して市場規模を確保し、産業全体の新陳代謝を実現するというシナリオをここにも見ることができる。
 1983年度から、1998年度までの、分野別の投資額を、図2.6に示す。この図によると、米国は80年代より、未来志向のベンチャーを育成していたことがわかる。
 IT投資も、「コンピュータによる情報処理と解析」の部分と「電子工学」が分離されている。前者は、ソフトウェア、後者は、ハードウェア、半導体などが対応すると思われる。この期間に投資したSBIR資金の総額は、約$10B(1兆3千億円)とのことであるから、その15%、すなわち、おおまかではあるが、$1.5B(2千億円弱)がソフトウェアベンチャー育成に投資されたと推測できる。


図 2.6 SBIR開始から現在までの、SBIR資金の投資分野
総額が約$10Bであることから、ソフトウェア分野のベンチャー育成投資は、15%、約$1.5Bと推測できる。

 

 わが国においては、研究開発投資においてさえ、未だにIT投資のほとんどは、半導体などの電子工学やハードウェア分野に対して行われており、ソフトウェア分野への投資はきわめてわずかである。ベンチャー育成の支援について、このような、分野を未来志向に限定するような配慮にまでは、考えがおよばない状況にある。総合科学技術会議の選択した重点分野などを基準として、研究開発投資のみならず、ベンチャー育成投資なども、重点分野投資と一貫性を持たせるよう整理していくことが今後の課題であろう。

(2) STTR
 SBIRは、大学の研究開発成果の商品化、または、大学発のベンチャー企業育成に大きな成功を収めた。STTRは、この成功が動機になったと推測される、大学の研究成果をさらに木目細かに市場に吸い出すことを意図した支援の仕組みと考えられる。
 STTRは、1992年に成立したSmall business Technology Transfer Actに基づき、3年間のパイロットプロジェクトとして開始された。その後、1997年にこの法律は延長され、2009年の9月まで継続することが認められている。
 STTRの資金は、SBIRと同様に、外注のR&D予算が$1B以上の連邦政府機関が、年間予算の0.15% ( 2004年度より0.3% )を、分離してSTTR事業に振り向けることで確保されている。2004年度では、DOD、DOE、DHHS(NIH)、NASA、NSFの5つの省庁が実施している。1998年度では、フェーズ-Iが208件、フェーズ-IIが109件で、投資金額は$64.7M (約84億円)となっている。
投資分野については、SBIRと同様の先端的分野となっている。投資金額や期間は、フェーズ-Iが$100,000で期間は1年間、フェーズ-IIは$500,000で2年間である。
 STTRは、次の2つの点で、SBIRと異なっており、大学の研究者等が、より手軽に利用して起業できるような配慮がなされている。

SBIRにおいては、その代表研究者(Principal Investigator)は、資金の支援を受ける時、およびプロジェクトの実施期間に先立って、そのビジネスに従事する人を雇用していなければならない。これに対して、STTRは、この人の雇用が支援の条件として要求されない。要するに前もって人を雇わず、個人として応募できるという、より使いやすい仕組みとなっている。
STTRでは、そのビジネスに関して正式な協力関係を結んだ、大学や非営利研究機関に所属する共同研究者(Research Partner)を持つことが求められる。

 米国では、大学の研究者(職員)が会社を持つことができ、公的休暇(Official Leave)の期間内では、SBIRやSTTRを受け取る代表研究者になることもできる。よって、一人の大学の研究者が、自分の会社と自分の大学の間を行き来して、ビジネスを実行することも可能となる。大学の研究者が、そのポジションを確保したまま、STTRを利用して起業し、自分の研究成果を商品化することができるわけである。
 以上、大学等の研究者に、その研究成果をもとにベンチャー企業を設立させ、商品化させるための仕組みを紹介した。特に、大学のポジションを確保したまま、国の投資を受けて起業し、自分の研究成果の商品化を行えれば、失敗しても職を失うことを恐れる必要は無い。投資された資金も、得た利益も、一切、国に返却することは無い。使う人の身になって仕組み、法制度が作られているといえよう。 
 SBIRもSTTRも、大統領直下の技術局(Office of Technology)所属の中小企業管理局(Small Business Administration, SBA)によって、一括管理されている。実際に実施する機関は、いくつもの省庁にわたっているが、その仕組み、法制度がSBAにより、一括管理されているので、わかりやすく使いやすい。このような制度であるからこそ、爆発的に利用者が増え、仕組みも長続きしているのであろう。SBIRやSTTRの競争率は、8−10倍と高率である。
 わが国のベンチャー支援の仕組みは、米国のこのような仕組みと比較すると、各省庁はおろか、一つの省庁においても、いろいろな政策と絡んでおり、応募の条件、金額や期間、収益の一部返納などの有無、成果の権利の帰属、公的な支援の合算使用の禁止など、条件に一貫性がなく、その上、一つの制度が概して短命である。
 米国のように、使い勝手をよくすると同時に、投資分野を将来の産業の中心となると予測される分野に限定するなどの戦略を重ねた支援へと改革していくことが急務であろう。
 また、このような仕組み、法制度は、大学から産業界へ研究成果を流すルートを提供することであり、このようなチャンスの存在が、海外から優秀な学生を集めるインセンティブともなっている。近年、わが国の大学へのアジア諸国からの留学生が減少し、また、卒業後もわが国で就職せず、米国やアジア諸国へ去ってしまうのは、このようなルートが他国に比べ劣っているためと思われる。
 IT革命によって起こったグローバルな競争は、市場における新技術開発や新商品開発競争のみならず、国が提供する人材の育成や起業支援の仕組み、法制度についての競争をも引き起こしている。わが国が、国内に研究開発拠点を構築し、高付加価値の商品の製造拠点を持つためには、海外よりの人材の吸引力が重要であり、この方面での、より多くの投資と改革も急務となっている。

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