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2. 調査課題とその背景

2.5 わが国の研究開発段階の抱える問題点

 この問題のマクロな比較は、その段階に投資されている予算と人を見ることで可能である。研究段階の実施機関は、大学と国研であるから、それら機関の予算比較を示すと、図 2.2のようになる。
 この図に示すように、米国では、国(政府)から、大学や企業へプロジェクト予算の形で投資される資金が多く、日本と比較すると、大学に対しては10倍以上、企業に対しては5倍以上となっている。
 日本の大学は、プロジェクト予算ではなく、大学運営上の人件費や事務費などの固定費として国から資金の多くを得ていることがわかる。この中から、ITの研究費に当てられる割合は少なく、プロジェクト予算のような競争的資金の比率は極めて低いと言われている。米国では、固定的経費は少なく、多くは競争的なプロジェクト予算に頼っている。一部の事務的経費もプロジェクト予算でまかなわれており、相対的に事務的経費は低く抑えされている。


図2.2 日米の研究開発投資の比較

 この図に示された予算は、全分野についての比較であるが、米国の大学、国研では、プロジェクト予算が日本の10倍以上多く、さらに研究開発分野を柔軟に変更できるものとなっている。また、プロジェクト予算は、研究者や、研究や事務の補助者の雇用にも使うことができ、大学でも大きな研究開発チームを構成可能となっている。
 次に、大学、国研の抱えている研究者や、大学院学生に数についての比較を示すと、表2.1のようなる。

表2.1 情報分野の大学、国研の研究者数、大学院学生数の比較(単位:人)
  米国(注1) 日本(注2)
教員/研究者数 27,000 2,600
国研研究者数 約30,000 約1,000
学位取得者数 修士 21,000 2,500
博士 5,000 350
注1: US Dept of Education, National Center for Education NSOPF 1999
   フル・タイム+パート・タイムの雇用者数、コンピュータ科学学部のみ
注2: 総合科学技術会議 重点分野推進戦略調査会 第一回会合資料 情1-6
わが国には、米国のコンピュータ科学学部のようなカリキュラム上で区別した情報学部・学科の区別はない。公表された統計では、食品情報や流通情報学部なども情報系学部として含まれる。この値は学術会議がアンケート調査などで、米国のコンピュータ科学学部相当と判定した学部・学科の人数

 このように、大学、国研において、研究開発に従事する研究者数、および大学院の学生数についても、米国は日本の10倍以上の人数を抱えている。このような統計には表れないが、このような研究者のほかに、米国の有名大学や、国研には海外からの客員研究員が、世界中から集まっている。その規模は、DOEの研究所やNIHでは、1〜2千人規模(全分野)と言われている。IT産業における技術者数は、米国が209万人に対して、日本が51万人(後藤:第64回情報処理学会全国大会 e-Japanタウンミーティング講演資料)といわれており、日本のIT技術者不足の深刻さが裏付けられている。
 このような研究開発段階を担う研究者の不足が、米国のような、商品化を展望した完成度の高い実証システム試作や、大規模な実験を困難としている。このため、産業界は、大学に研究開発のアウトソーシングができず、特に、IT分野では、その傾向が顕著である。
 現在の産学連携研究や、大学、国研から企業への技術移転の状況を図示すると、図2.3のようになる。


1)米国: 技術移転は商品化を展望した実証システムの開発段階で行われる。企業も評価が
明確となり移転が容易。大学からの起業も成功率が高い。
2)日本: 大学の成果は基礎研究段階が中心。企業は移転後もさらなる研究投資とリスクが伴う。
図2.3 技術移転と産学連携研究における日米格差(IT革命以降の構図)

 IT革命以前は、日本のIT企業の代表であるコンピュータメーカーは、中研や基礎研を持ち、将来の産業の技術シーズを自己負担で産み出していた。また、まだ外国への技術流出に関して寛容であった米国等からの導入によって技術シーズを得ていた。
 従って、大学はポテンシャルを持つ人材の供給源であればよかった。すなわち、図2.3における企業のカバーする領域(右側の台形)が、R&Dの中流から上流にかけてせり出していた。
 しかし、グローバルコンペティションの開始とともに、わが国企業も、米国企業との競争に巻き込まれることとなった。その結果、米国企業が、技術シーズを大学、国研より安価に入手できるのに対して、わが国企業は、自前で作り出すか、高価なライセンス料を支払って購入せざるを得ない状況に置かれることとなった。研究開発は、ビジネスとしてみると、最も収率の悪い事業であり、この部分が国費負担の米国企業と自前の日本企業では、明らかに競争上不利となっている。
 わが国の大学や国研は人不足が深刻で、米国企業が享受しているような完成度の高い技術シーズ、もしくは商品化一歩手前の試作品を得ることはもちろん、即戦力の学生も得ることができない状況におかれることとなった。わが国の大学は、図2.3に見るように、研究開発の中流や下流までをカバーできず、さらに、企業もかつてのように、この分野まで自前でカバーする経済的余裕はなくなり、ここに大きな空白領域が生じることとなった。
 わが国が、研究開発の拠点を国内に持つための、ひとつの条件は、この空白領域を埋める方策を立てることである。これが調査テーマの背後に横たわる大きな問題の一つである。

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