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2. 調査課題とその背景

2.2 米国の連邦政府の研究開発支援構造とその背景

 米国の研究者は従来から、オリジナリティを研究における重要な条件と考えてきた。また、同時に税金を用いた研究開発では、その情報公開を研究者の納税者への義務または、モラルのように考えてきた。戦後、ヨーロッパや日本が焼け野原となった中で、国内産業を無傷で残した米国は、世界の富と技術を集め、寛容なフロントランナーとなり、広く科学技術や宇宙、国防などの分野に研究開発投資を行った。その研究成果は、税金を用いた研究成果は公開するという原則もあって、基礎研究の成果については、戦後復興に力を注ぐ日本の研究者などにも寛容に公開された。
 米国の民間産業も、特に国の支援を必要としないほどの余力をもち、Made in USAは世界を席巻していた。プロパテント政策が敷かれる時代以前には、米国の国、大学、民間企業は、現在ほどに連携してはいなかった。
 このような米国にとってよき時代は、日本やドイツの製造業が復興し、輸出競争力をつけ、米国市場に進出を始めるにつれて終焉を迎える。これが、1970年代になるとさらに明確となり、繊維、家電、鉄鋼、そしてDRAMに至るまで、米国産業は次々と市場を失っていった。多くの産業が、安い労働力を求めて中南米やアジア諸国へ製造拠点を移し、国内は空洞化し雇用が失われた。まさに、現在の日本が直面している状況である。
 米国は、国を挙げて産業構造の変革と競争力の回復を目指す政策をとった。まず、日本やドイツについての徹底した調査が行われ、日本産業の強さの秘密が分析され、対抗策が検討された。その報告書の中でも有名なのが、大統領産業競争力協議会が作成し1985年に発表されたヤングレポートである。このレポートは、科学技術立国とプロパテント政策を骨子とし、国の産業投資や官産学の一体化を進めるという基本方針を打ち出した。
 重点分野をコンピュータと通信(ネットワーク)、ソフトウェア技術の基礎研究に絞り、この分野を米国の新たな中核産業とすることとした。同時に基礎研究成果を商品化する段階の支援強化と、成果の権利化(IPR化)を徹底して、競争相手国への安易な技術移転を阻止する戦略を立て実行に移した。この戦略を具体化するために専門家が総動員され、産業と政府の関係は強化された。
 現在の日本との違いは、その政策や戦略立案の速さと、それを素早くやってみるという思い切りの良さである。また、国際競争力を失いつつある産業への投資は減らし、もっぱら将来の発展が期待できる分野へ投資を集中させている点も、日本との違いであろう。
 国の研究開発の仕組み、法制度も次々と改革し、国の政策や戦略決定に専門家を総動員した。政府の研究投資や産業戦略に関する政策立案や政策評価を実施する部門へIT専門家を取り込み、研究の方向や内容の判断はもちろん、予算の使途、人の雇用などを研究の現場へ権限委譲し、官僚的支配や形式的事務処理を排除し、市場価値の生産を第一とし、研究者に研究者を管理させ、競争原理によりその効率を担保するという実利的な研究管理体制を作っていった。
 研究開発や産業育成の仕組み、法制度は、ソフトウェアやIPRを産み出すことに適したものへと改革し、上は大統領情報技術諮問委員会から、下は各省庁のプログラムマネージャによる管理、特許審査、会計検査院の検査などを、ソフトウェアやIPRなど無形の知識や技術の中身を評価できるものへと改革していった。この「知識創成の時代」に向けた構造改革にすでに10年以上の時間をかけており、現在もさらに改革中である。
 IT革命達成のための重点投資分野の切り替えについての、トップレベルの意思決定に長時間を費やしているわが国とは比較できないほどの短時間で、調達規則などの法制度までも改革してしまったことは大きな脅威である。
 わが国は、現在においても、ITへの真水の投資は、数千億円規模であり、道路建設投資2兆円の1−2割に留まっている。国の研究開発の仕組み、法制度も相変わらず、箱物作りの時代のままであり、研究開発予算の執行の細部まで、依然として財務省や各省庁の行政官が管理権限を握っており、ITの専門家が政府の重要ポストに就くこともなく、プログラムマネージャも不在である。米国が、国全体の構造をIT革命に向けて改革し、国の組織全体をあたかも一つの新技術開発とそれに基づく新市場創生を行うマシンに変革してしまったのとは大きな違いである。
 とはいえ、わが国でも、省庁間の上に首相直轄の、IT戦略本部や総合科学技術会議が作られ、国を挙げての改革に立ち上がった。大学改革に向けて学術会議などでも活発な議論が展開されるようになった。これら会議の事務局は、当研究所の米国の仕組み、法制度や研究開発動向についての報告書や調査資料のユーザでもあり、米国を競争相手として意識した改革提言が表立って議論され、一部は実現に向けて動き出している。
 総合科学技術会議が打ち出した、非公務員型の独立法人化や、国のプロジェクト予算による人の雇用の規制解除は、我々を大いに元気づけるものである。今後、このような改革論議がどのように展開し、実現していくのかを、まずは、ITの関係者が注意深く見守っていくことが重要である。

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