ここでは、その他の省庁によるHuCS関連研究を、幾つか紹介する。
2.5.1 DARPA関連のテーマ
(1)戦場認識(Battlefield awareness)
戦場認識の研究開発は、DARPA Text、Radio、Video、and Speech(TRVS)プログラムの一部として実施されている。画像から情報を抽出し、ニュース放送を理解し、さまざまなデータ・ソースからの情報を統合する技術を開発する。
研究者達は、次のような自動化されたニュース情報処理技術の開発、デモ、評価を行っている。
抽出された情報との効果的な対話が可能となるように、さまざまのTRVS入力からコンテンツを抽出するための、プラグ・アンド・プレイのフレームワークを開発中である。
DARPAの長期目標は、話し言葉の会話を傍受して、敵のソースからの情報を得るために自動的にデータを処理することである。解析アルゴリズムでデータを処理することによって、軍は敵の計画に関する重要な事実を抽出して、敵の意図を推論することができる。
(2)移動自律ロボット・ソフトウェア(MARS:Mobile Autonomous Robot Software)
DARPAは、移動自律ロボット・ソフトウェア(MARS:Mobile Autonomous Robot Software)の研究開発に資金を提供している。
この研究は、移動ロボットが、 無人軍事システムの、現実的な動的で組織立っていない作業環境において、安全で信頼性高いリアルタイム操作のようなタスクが遂行できるようにするためのものである。これらのタスクには、プラットフォームの移動性、ナビゲーション、障害回避、ペイロード・オペレーション(航空機・宇宙船等の搭載機器操作)、および人間のオペレータの介在を必要としない人間とロボットの対話などがある。
MARSの技術は、偵察、監視と標的取得、地雷撤去や爆弾処理、物理的な安全保護、物資補給支援作業などの領域に役立つ。
このソフトウェアを使ったロボットは、次のような能力を示す。
2.5.2 DOE関連のテーマ
DOEの材料ミクロ物性共同実験室(MMC:Materials Microcharacterization Collaboratory)は、全国の6つのDOEユーザー施設の機器をリンクしたものであり、科学者や研究者が、最先端のツールにリモートからアクセスして、金属、セラミック、合金の原子や分子レベルの構造と構成を研究することができるようにしたものである。
DOEの他の研究所や大学の科学者は、Lawrence Berkeley National LaboratoryのNational Center for
Electron Microscopyにある2台の電子顕微鏡をインターネットからリアルタイムに操作することができる。
たとえば、アルミニウムと鉛の合金をリモートから、Kratos EM-1500トランスミッション電子顕微鏡を使用して相転移の観測をしながら、鉛の融点まで熱することができる。このKratos
EM-1500は、米国で利用できる最高の加速電圧を使用しており、4オングストロームの分解能をもつている(1オングストロームは、1ミリメートルの1千万分の1。ほとんどの原子の距離はおよそ2オングストローム)。
この共同実験室は、国中の物性研究者達が、はんだ付け、溶接、蝋付けなどの生成工程を、よりよく理解するのを助けている。このデモの独自性は、オンライン解析のための高性能計算能力を装置のそばにもたらし、その解析を閉ループ制御のために使うことによって、インターネットの向こうの顕微鏡を用いた動的なリアルタイムの実験が行えることにある。
DOEは共同作業環境で使用される電子ノートブック(Electric Notebooks)に関する研究開発を続けている。 これらの電子ノートブックは、相互運用性(interoperability)、複数の技術の統合、異機種のコンピュータ通信システムの使用を必要とし、リモートの器具を使用する実験を記録、共有する研究者に、共同作業における科学的な調査やエンジニアリング設計のための媒体として提供される。
ノートブックが、発明の特許記録等に使われる場合には、不当なアクセスを検出するために、セキュリティ技術も必要である。今後の研究開発では、使いやすさ、プライバシー、セキュリティ、および複数のノートブックへのアクセスを調整するツールに重点が置かれる計画である。
2.5.3 NLM関連のテーマ
(1)統一医学用語システム(UMLS:Unified Medical Language System)
インターネットを経由して文献目録や、全文テキスト、および実データ等を提供するコンピュータ化されたデータベース・リソースの数が急激に増加してゆく中で、データベース間で異なる、面倒なアクセス・プロトコルや検索言語のせいで、ユーザーが必要な情報の場所をつきとめて処理するのは、往々にして難しくなっている。生体臨床医学においては、異なった電子ファイル中で使用されている生体臨床医学用語が不統一であることが、開業医や研究者が、生体臨床医学文献、臨床記録、医学データバンクや専門家知識ベースのような情報源から生体臨床医学情報を検索してまとめる上で、妨げとなっている。 異なった自動化システムごとに、関連情報が異なった方法で分類されているが、NLMは、これを補うために長期プロジェクトで、統一医学用語システム(UMLS:Unified Medical Language System)を開発している。知的エージェントの仲介によるゲートウェイが、ユーザーに、単一ポイントからの情報アクセスの機能を提供する。これによって、ユーザーは、複数の情報源に精通する必要がなくなる。 NLMの研究者達は、自動的な情報源選択のための新機能、およびNLMのWebサイトとその検索サービスInternet Grateful Med(IGM)、PubMed、およびTOXNETを経由して利用可能な、複数のデータベースからの情報を検索、ソートするための新機能を開発し配布し続けている。NLMは、健康に関する専門家、研究者、および一般のためにアクセスを容易にすることに焦点を当て、2000年度の計画には、「UMLS知識ソースの利用」と「複数のマルチメディア情報ソースのコンピュータベース患者記録システムへの統合」の研究開発が含まれている。
参考
(2)Medline Plus
NLMは、Medline Plusという普通の病気や症状に関する情報をもったインターネット・サイトや、医学ライブラリで使用されるWebサイトへのリンク、医学辞書、および参照ツールを開発してきた。Medline
Plusの開発者は、現在、生体臨床医学情報と参照情報をパッケージ化している。これは、医学の知識やバックグラウンドのない人達にも役にたつものである。
Medline Plusは、エイズ、癌、糖尿病、飲食機能の異状、パーキンソン病、喫煙、および結核を含むおよそ50の健康に関する話題の情報を含んでいる。NLMは、Medline
Plusの適用範囲をおよそ400の健康に関連する話題にまで増やしつつある。そして、207の公的図書館からの支援を受けて、サイトをさらにユーザーが親しみやすいものにしている。
参考
(3)Visible Humanプロジェクト
新しいコンピュータベースの技術は、従来の2次元の生物学イメージを、ユーザーが見、回転させ、裏返して調べることができる動的な3次元イメージに変えることを可能にした。Visible
Humanプロジェクトの一部として、NLMは、コンピュータ断層エックス線撮影(CT)と磁気共鳴(MR)イメージのための医学イメージ・システムと高度なコンピューティングと通信技術を統合することによって、人間の解剖学的構造のディジタル画像ライブラリを構築して評価している。NLMは、そのような大規模なデータセットを格納するための圧縮技術と、より速くそれらをインターネットの上で伝送するための通信技術の両方を研究している。
この進行中のプロジェクトにおけるNLMの1999年度の活動には、
が含まれている。
2000年度の計画には、
が含まれている。
参考
本章では、最近の米国政府のハイリスクの長期的基礎研究重視の動きを考慮して、HPCC Blue Book 2000でとりあげられている研究テーマについて、特にNSF関連のHuCS領域の研究開発に焦点を当てて、調査を行った。「21世紀情報技術(IT2)」イニシアチブのITR(Information
Technology Research)プログラムについては、まだ助成プロジェクトが確定・公表されておらず、今回は、特別に章を設けて取り上げることはしなかった。
ITRでは、$500K超の大プロジェクト提案と、$500K以下の小プロジェクト提案に分けて公募が行われており、フル・プロポーザルの締め切りは以下のようになっている。
●$500K超 : 2000年4月17日
●$500K以下: 2000年2月14日
2000年度の助成予測額は、$35M〜$105M予定されており、その上限に近い場合と下限に近い場合のそれぞれについて、助成プロジェクトの構成比率が想定されているので、助成件数を推定してみると以下のようになる。
●もし下限に近い時、(例 $36M)
約1/6(=$6M)------ 約 $2M-$3M/Year (約2〜3億円/年・件) 約2〜3件
約2/6(=$12M)----- 約 $1M/Yr (約1億円/年・件) 約12件
約3/6(=$18M)----- 約 $150K/Yr (約1500万円/年・件) 約120件
●もし上限に近いとき、(例:$102M)
約30 %(約$31M)--- 約 $2M-$4M/Yr 約8件〜約15件
約40 %(約$40M)--- 約 $1M/Yr 約40件
約 30 %(約$31M)--- 約 $150K/Yr 約200件
やはりITRと同様にNSF全体のクロスカッティング・プログラムであったKDI(Knowledge and Distributed Intelligence)が1998年度に40件、1999年度に31件であったのと比べると、特に上限に近い場合には、かなりのプロジェクト数の増加になることがわかる。
米国の研究開発支援について、学ぶべき点の一つは、助成機関の側が、重点的に研究開発すべき分野に対応した組織構造とそれに属する助成プログラムを持ち、研究のすぐれた専門家であるプログラム・マネージャが、その分野のプロジェクトを継続的に見ていくことであろう。各プロジェクトの成果や経験が、他のプロジェクトの選択や運営にも反映され蓄積されてゆくし、それにより、ビジョンがいっそう明確化、洗練化されていくと思われる。さらに、ワークショップによって、多くの専門家、多くの関連専門領域の研究者とのディスカッションにより、学際的な研究、より実践的で先進的な研究への方向付けを行うということが、うまく行われているように見える。