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3.研究開発の発展を阻害する会計制度などの法・制度上の問題点

  わが国の大学や国研の研究開発能力の相対的な弱体化の元凶は、国の研究開発投資の不足とともに、その仕組み・制度面にも問題があることが考えられた。 情報革命の時代に入り、研究開発の現場では、その優劣が優秀な頭脳を持つ人材の多少により決定する。また、研究の進捗のスピードも大幅にアップしている。このような物作り中心から、頭脳労働中心への変化、また、アイデアや新技術の陳腐化の短期化に対して、会計制度や公務員制度など、法・制度が追随できないでいることが考えられたわけである。

 この明確化を意図して、国の研究開発プロジェクト実施の仕組み・制度を、研究目標の変更やそのチーム編成などの実施権限の研究リーダへの移管や、予算の使途変更や費目間流用など予算の執行権限や成果の利用の権利関係などに注目して、調査することとした。
 このため、米国の連邦政府予算で実施する研究開発計画(プログラム)における運営の仕組みや会計制度などの法・制度について、実際に採択されたプロジェクトを対象として調査し、わが国の仕組み・制度と比較した。

 比較結果は、日米の研究開発の仕組み・制度に関して、その運営方法や諸手続き、予算の実施権限、会計制度、成果の管理制度など多くの点で、米国の仕組み・制度が、日本のそれらに比べ合理的、かつ実質的であり、さらに日々進化していることがわかり、研究開発の実施上で、大きな日米格差が生じていることが明らかとなった。
  ここでは大きな影響を及ぼす差異について、研究開発の仕組み上の問題点と、法律を含む制度上の問題点に分けて、以下に示す。

 

1)組み上の問題点

a) 国全体の情報技術研究開発の将来ビジョンや戦略がない。

米国:
現役の学界や産業界の代表からなる大統領直属の諮問委員会や、省庁間の研究開発を横断的に統合・評価するOSTP、NSTPなどがあり、時代を先取りしたビジョンや戦略を指示し、それが政策となって迅速に実行される。 (特に、諮問委員会は強力で実効ある提言を行ってきた。古くはヤング・レポート、最近ではPITACレポートが有名)

日本:
科学技術会議や学術会議、首相直属の諮問委員会などがあるが、メンバーの多くが情報技術開発に携わる現役専門家ではなく、関係省庁の利害対立を超越し、時代を先取りしたビジョンや戦略を打ち出せず、実質的に機能していない。(メンバーの若返りと産業界や学界の第一線で活躍する現役の登用が必要)

米国における情報産業の技術開発
図1.1 省庁間の関連プロジェクト管理を一元化する機構の存在

 

b) 情報技術や研究開発の中身のわかる専門家が、研究開発計画の運営やその成果を活用した
起業支援などの実施を一貫して管理する仕組みができていない。このため研究面や経理面の責任の所在や研究評価基準が不明確で、情報公開や競争原理の導入も不十分。
 
米国:
研究開発を管轄する省庁側にプログラムマネージャやプログラムディレクタ(PM/PD)と呼ばれる大学の教授クラスの担当者がおり、研究テーマの採択、研究目標の変更、予算査定、費目管理、予算打ち切り、成果利用などを一元管理。急速に進歩する研究開発に機動的に対処している。

 

日本:
省庁側に専門家不在。大学教授など外部の有識者にテーマ採択や進捗評価、などをその都度依頼する。予算管理など運営は行政官が(2年ごとに交代して)実施する。このため責任者が不明確で、プロジェクトの運営方針も一貫しない。研究開発の現場担当者は、予算要求、計画変更などの説明、評価資料作成などの事務作業が膨大となる。成果利用の手続きも省庁ごとに細部が異なり、事務処理が複雑で迅速な商品化を阻害している。


図1.2 複数の省庁からの予算も代表する省庁のPM/PMのもとに一元化

 

表1.1 運営に関するほとんどの権限がPM/PDと現場へ移管されている。

1) プロジェクト研究領域の変更
2) 予算適用範囲
3) 予算執行の変更
4) 計画(プログラム)運営形態と成果の取り扱い
5) 大学等における知的財産権の取り扱い
6) 大学等における予算執行権限
7) 大学等における人事管理の権限
8) 大学等・企業間の協力関係の形成
9) 企業の参画形態

2)法律を含む制度上の問題点

a) 国の研究開発予算の使途(算入可能費目)の規制が厳しく、使途の変更などの裁量権が現場の
研究リーダにほとんど与えられていない。 特に人件費の規制がきびしく、研究開発の遂行に必要な人材を雇用し、希望する研究チームを組織できない。

米国:
人件費を含めほとんどの費目が算入可能。研究者や研究支援スタッフなどを自由に雇用し、強力な研究チームを組織可能。 使途の変更や費目間の流用も、PM/PDの合意を電子メイル等で得れば容易にでき、研究環境変化に機動的に対応可能。人件費については各企業の基準に従い、間接費用も算入でき、研究開発の受託がビジネスとして成立。

日本:
研究リーダは研究予算で研究者や支援スタッフを雇用できない。また、作業等を外注する場合も、仕様書を作成した上で見積書などの書類整備が必要。納品物は仕様書と一致していなければならず、変更が頻発する情報技術の研究開発では、仕様書は後から差し替えて対応。人件費については、間接費は算入不可。このため企業が、国の研究開発を受託すると赤字となる。企業の積極的参加を阻害している。


図1.3 プロジェクト予算で人の雇用が可能。ほとんどの費目が算入可能


図1.4 予算の使途の規制が少なく大規模な研究開発チームを組織可能

米国国立研究所の一例:ローレンスバークレー国立研究所
図1.5 米国の国研の人員構成例
研究を支援する管理者やサポートスタッフの数は、研究者の2倍近い。
日本の大学、国研では、このような支援スタッフはほとんど消滅。研究者は丸裸状態。

表1.2 予算の最重要費目は、人件費、労務費に関するものであり、手厚く支援 されている。
裸の人件費しか算入できない日本とは大きな違い。

国が負担する人件費関連項目

労務関連費用項目

 

b) 国の予算が単年度会計で毎年度末決算。各費目ごとに完全消化が要求される。
複数の省庁から得た予算を合算して使えず別々の会計で決算。成果物も分割して納入することが要求され、多大の事務量が発生。会計検査も書類不備など形式面を重視。

米国:
プロジェクト期間を通した通年度会計。予算の余りや不足は繰り越し可能。プロジェクトの最終年度に決算。異なる省庁よりの予算も合算でき、納入物を分割する必要もなし。しかし、各年度ごとに研究開発目標の達成度合いは専門家であるPM/PDより厳しく査定される。会計検査も形式より実質的成果重視。

日本:
単年度会計であり、費目間流用規制のきびしさ、予算の完全消化の要求、異なる省庁からの予算の合算不可、および成果物の分割納入は、研究開発の現場に多大な事務処理負担を課す。このため、人手不足の大学等の研究の現場は大きな研究開発予算をもらうと論文執筆ができなくなり、返上することもあり。(予算が増えても、研究パワーに転換不可)

予算執行への変更
図1.6 プロジェクト期間にわたる通年度会計
この会計制度は、試行錯誤がつきものの研究開発には不可欠の制度。予算も有効利用され、
研究の能率も向上する。さらに事務作業量も軽減。単年度会計の日本と大きな格差が生じる。

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