2.企業の目から見たわが国の大学、国研
今年度の調査研究では、わが国のこのような仕組み・制度上の欠陥に対して、国、および企業は如何に対処して行くべきか、その方策を見出すことを目指した。すなわち、大学や国研にどのような改革を望むか、さらに、当面、産業のシーズとなる技術を如何に入手するのか、といった問題に取り組むこととした。このため「わが国企業は、産業の技術シーズをどこに求めるのか?」という調査課題を設定して、企業や大学の有識者のヒヤリングを行った。これらの調査結果の概要を下記に述べる。
ヒヤリングなどの調査の結果、企業は、わが国の大学や国研について、従来とあまり変わらない、次のような考え方をしていることがわかった。
2.2 企業の持つ大学や国研への期待と企業の抱える問題について
以下に、企業が大学や国研をどのように認識しているか、どのような期待をもっているか、また、企業自身は産業のシーズとなる技術をどのように入手するのか、企業の抱える研究開発上の問題は何か、など、いろいろ出た企業側の意見のうち、主だったものを集約して以下に列挙する。
1) 大学・国研が産業の技術シーズ供給源となる上での研究開発体制に関する問題と提言
a) わが国産業の閉塞状況の突破口としての大学・国研改革
情報通信分野の技術革新がもたらす急激な環境変化の中で、企業は産業の技術シーズを社内自給からアウトソーシングに切り換える必要に迫られている。そのため、わが国においても米欧のように大学・国研が初期研究の重要な担い手となることが期待される。現状では、これら研究機関の研究開発体制の弱さが技術・産業競争力における劣勢の一因であるが、その改革は、糸口が見えないわが国の情報通信産業の伸び悩みを打開するための突破口となり得る。
b) 研究者の絶対数確保と研究の活性化
日本の情報通信分野は、米国に比べ研究者数が桁違いに不足しており、現状ではその点だけでも勝負にならない。公務員削減の影響により、大学・国研の研究体制はさらに弱体化しつつある。国の事業は研究者層の強化も長期的目標に含めて考えるべきである。
研究開発予算で柔軟に研究者やサポート人員を雇用できるよう、会計制度の改善が強く望まれる。また、大学における研究開発の実働部隊であり、次世代の技術や産業の核ともなる大学院生が、質の高い研究に専念できるような資金的援助も必要である。海外からも優秀な人材が集まる環境・制度の整備をしなければならない。
大学・国研における研究の活性化には、産業との交流を欠かせない。特に、研究者が大学・国研での成果を民間に移って製品化したり、逆に企業で先端的開発をした人が大学へ行って教えたりするなど、実際に人材が移動できることが求められる。その際、シンクタンクの、産学連携における橋渡しとしての役割にも注目すべきである。
c) 経営の改革
独立行政法人化や学生数の減少などの変化は、大学・国研にとって改革の好機となり得る。特に経営変革が重要であり、教育・研究と経営の責任者を分離する、あるいは教育と研究を分離し研究は成果主義に基づく報酬とする、などの取り組みが重要となる。そのためには、経営者の任免権等の再検討も求められる。第三者による評価も必要となるだろう。
最終的に大学・国研は、産業や納税者にとって価値の見える存在であり続けなければならない。大学・国研を劇的に変えていくには、日本の現状・風土を踏まえつつも、グランドデザインをうち立て、その下で雇用制度や法律の改善を大胆に実行する必要がある。
d) 価値観の改革
現在、産業と大学・国研とは疎遠である。原因は両者の価値観の乖離であり、その解消が必要である。
まず研究開発における時間尺度を、情報通信技術の置かれている現状に合わせ、近づけなければならない。大学・国研からの、産業への積極的な貢献も図るべきである。具体的には、実践的能力を備えた学生の育成、事業化を想定したテーマへの取り組みや企業への提案、製品化を目指した完成度の追求などが必要である。
求められる価値観のあり方を、産学間の関係について言えば相互の「チャレンジ&レスポンス」の精神、つまり近い将来に目標を置いたテーマ提言とその創造的実現であり、大学・国研自身について言えば「役に立つ」意義の再認識であろう。世界を念頭に置いた評価指標も重要である。
TLOは、現状での活用は少ないものの、大学で産業を意識した研究開発が活発化する契機として期待される。
e) 国の支援制度の改革
国のプロジェクトにおいて技術革新のスピードに見合った機動的な研究開発を可能にするために、現場裁量権の大幅な拡張と、現実に即した会計制度が必要である。大学・国研に技術成果を求めるならば、特にもの作りの場合、相応の設備投資も行なわれるべきであろう。
国家プロジェクト一般の問題として、成果に対する認識の改革も必要である。従来は成果として大量の書類提出を求められてきた。米国では、投資の結果、企業が成長して税金の回収額が大きくなれば納税者への利益還元がなされると考える。また、成果をオープンなデータとし、より多くの活用を図っている。日本でも同様の発想が必要である。
これらの実現の上での共通的障害となっている、官公庁の縦割り・硬直的な体質の改善も望まれる。
2) 企業が大学・国研に期待する役割
f) 従来の産学交流
従来、企業にとって大学・国研は、大学の卒業生を人材供給源としてきたのが主な関わりであった。情報通信技術、中でもソフトウェアは人材への依存が大きいため、それだけでもメリットは大きかったと言える。また、それらの機関の研究者から、広範な、あるいは最新の知識とこれに基づく提言も得られた。
しかし産業に直結した先端研究は、残念ながら日本では脆弱であり、大学・国研発の技術シーズ導入は少ない。
g) 大学・国研に期待する役割および研究
企業は大学・国研に対して、パラダイムシフトの見極めに基づく産業の進路の先導や、メタレベル製造技術開発、日本からの技術発信に対する助力等の形での産業貢献を期待している。
知的関心を動機とする基礎研究にも広く取り組むべきことはもちろんであり、コストやニーズを無視した研究、長期間を要する研究、将来性の不明な研究などを絶やさないで欲しい。ただし、企業との協同研究には、価値観の共有が必要である。
3) 産業界が競争力強化のために取り組むべき内部課題
h) 市場・情勢の認識
日本の企業には、まだ旧経済的な仕組みや発想が残っている。グローバル競合時代への適応を促進して、競争のみならず企業間協力や市場認識など、すべてにおいて世界を視野に入れていく必要がある。米国の世界戦略に対して、アジア固有の経済圏に注目することも、そうした捉え方の一つであろう。
i) 人材の活用
日本の情報通信産業は、優秀な人材が集まり、育ち、活用される仕組みを再構築する必要がある。現在は、給与体系だけを見ても技術者が優遇されていると言える状況からほど遠い。最近の成果主義の動きも、この問題の解決手段としては速効を期待できない。人材の理工系離れが、日本の情報通信産業の低迷や企業の製造能力低下に関係している事態を、深刻に捉えて対処しなければならない。
人材の流動的な活用の点では、現在は退職金制度が大きな足枷となり、日本の社会が情報化時代の速さに適応する上での阻害要因となっている。
知的活動や技術、ソフトウェアなどの価値に関する社会的教育も重要である。
4) 当面の産業の技術シーズやテーマをどこに見いだすか
j) 当面の技術シーズ獲得法
企業の当面の技術シーズ獲得は、海外企業との協同・協調や技術導入などのグローバル協同が基本になる。要求の大きい領域には人材もシーズも育つから、そこに着目して双方を取り込むのが効率的である。米国を主とする海外技術の追撃と並行して、日本やアジア固有の文化・価値観・ニーズを活かす等、柔軟な発想に基づくテーマも探られるべきであろう。
k) 国に期待する視点と役割
今日の情報通信分野の研究開発では、大きい装置・高度な技術よりも、社会的・文化的な影響の大きさに関心が向かっている。また、平準化された共通意見よりも個人の発想の重要性が増している。国の支援においても、これらの特質が考慮されなければならない。ただし産業競争力や技術力の建て直しには、明確なビジョンを示し、これを強力に推進することが必要である。
具体的なテーマとしては「ユビキタス・コンピューティング」等が重要な候補になるが、テーマで縛らずに、優秀な研究者に自由に基礎研究させる考え方も必要だろう。企業は、直近のテーマには自ら取り組んでいるので、それらと競合しない計画を国に望む。そのような観点からは、国のプロジェクトで取り上げて欲しいテーマとして、5〜10年先を見た基礎研究、高速ネットワークや研究機関のサーバ等の基盤整備、遠隔医療等の受益者は多いが薄利のシステム、国の文化の保護、などを挙げることができる。
企業がグローバルに活動していく上での支援、たとえば日本発の標準化に向けた活動の支援、留学生の受け入れの促進、国際的な産学協同研究の場の供給なども、国が担うべき重要な役割である。