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3. 技術研究の優先課題

 

3.1 ソフトウェアの研究

ソフトウェアは、情報化時代を支える新しい物理的なインフラストラクチャである。経済面での成功、科学技術の研究、国家の安全といった面でソフトウェアは不可欠の要素となる。また産業、通信、情報アクセス、国家の物理的なインフラストラクチャという面でも、ソフトウェアの重要性はしだいに増してきている。安価で高速のマイクロプロセッサが登場したことにより、ソフトウェアで実行できる機能も飛躍的に向上している。

たとえば、電話システム、インターネット、またカメラや自動車といった装置は、いずれもソフトウェアがなければほとんど正しく動作しない。私たちは、ソフトウェアが故障せずに正しく動作し、必要に応じて変更でき、かつ性能の改善に向けて一貫して機能が強化されることを期待している。

しかし、ソフトウェアに対する要求が飛躍的に高まってきた結果、必要とされる資源が多過ぎ、開発が間に合わなくなってきている。この結果、必要不可欠のソフトウェアも開発できないのが現状である。また、国家は現在、強度と信頼性に欠け、しかも開発、テスト、進化といったニーズに対応しにくい労働集約的なソフトウェアに依存し過ぎている。必要なソフトウェア・システムを構築し、米国経済の中核としてしだいに複雑化するシステム・ソフトウェアの性能を分析/予測する能力は、きわめて不足している。必要とされるソフトウェア2を供給する専門の人材が十分に育成されていないことに加え、構築作業の効率と品質を改善するための努力も十分になされていない。短期的な応用向けの研究開発を重視する最近の政策により、商品化に利用できる高度なソフトウェア・テクノロジが減少しつつある。

 

3.1.1 調査結果

調査結果: ソフトウェアに対する要求が、国家的なソフトウェアの生産能力を上回っている。

情報テクノロジの爆発的な成長により、新しいソフトウェアに対して、かつてない水準にまで要求が高まるようになっている。インターネットを介して基本サービスを提供し、重要な国家の問題を解決できるような新しい製品をサポートできるように、無数の既存システムと新たに実用化されるシステムをサポートするソフトウェアが求められている。一方、こうしたソフトウェアを開発するための資源は、高まる要求に応じられる水準にまでは追い付いていないため、「ソフトウェア・ギャップ」と呼ばれる現象が生じている。

このソフトウェア・ギャップの原因は、次のようなさまざまな要因の相互作用によるものである。加速化するソフトウェアへの要求、労働集約的な開発、労働力の品質の変化、労働力不足、強力な開発を支援する適切な科学技術の不足といった問題がある。ハードウェアにおけるコスト効果のある方向で改善される結果、ソフトウェアに対する要求も高まり、しだいに加速化していく。今日のシステムやアプリケーション・ソフトウェアは従来に増して、一段と複雑化している。ソフトウェア・システムは今や、人間工学がもたらす最も複雑な構造物の1つになりつつある。

こうした現状は、最近の情報テクノロジにおけるブームの進行を抑制することにもなる。また、ソフトウェア集約的な問題(たとえば、航空機操縦の安全性や危機管理といった問題)に対する解決策を実現する速度が低下するために、国の医療や福祉の問題までが危機に晒されることにもなる。

連邦政府は、ソフトウェアの研究という分野への投資をさらに強化して、こうした状況の打開策を打ち出す必要がある。「ソフトウェアの研究」によって得られる効果は、単にソフトウェア開発の生産性を改善するための新しい戦略を考えるだけのものではない。これ以外に、情報の管理、商取引のサポート、コンピュータをさらに使いやすくするためのソフトウェアの開発、埋め込み型デバイスや新規アプリケーションに適用するソフトウェアの作成、さらに各ソフトウェア・システムの効果的な相互運用性を実現するための研究を支援するツールに関する詳細な調査も当然含まれる。すなわち、ハイリスクではある反面、多大な影響を与える可能性のある斬新な手法として明確に定義されたアプローチが必要になる。これには、斬新で「外部的」なアプローチを考案するための概念上の打開策が不可欠になる。連邦政府は、優れたソフトウェアの開発に従事できる情報テクノロジ専門の人材を拡充しなければならない。

調査結果:脆弱なソフトウェアに国家が依存している。

国家は強力なシステムを必要している一方で、私たちのシステムが依存しているソフトウェアは、脆弱であるという問題がある。ソフトウェアの脆弱さは、長期的な環境の変化や制御できない環境の変化という面を適切にあるいはまったく考慮しない開発傾向に起因するものである。こうした脆弱さは、ソフトウェアの信頼性、セキュリティ、パフォーマンスの低下、エラー、アップグレード時の難しさといった面で露呈する。

ソフトウェアの脆弱さを表す例は、航空管制用の大規模な情報システムから、デスクトップ用パーソナル・コンピュータ、国防総省やIRS(国税庁)に至るまであらゆる側面で見られる。またソフトウェアのセキュリティ不足の問題は、十代のハッカーが電話システムや軍事システムにいとも簡単に侵入できることからも明らかである。現実に、ソフトウェア・セキュリティの問題は、予測できる外部攻撃の水準をはるかに越えている。FAA(Federal Aviation and Aeronautics:連邦航空局)やIRSのシステムでは、アップグレードの困難さという問題が明らかになっている。これまでにも、大規模な通信ネットワークが故障したり、銀行のシステムが電子的に侵入されたりする事例があった。多額のコストを投じて大規模がテストを実施しても、市販のソフトウェアは、「バグ」と呼ばれるエラーを含んだまま出荷されている。ソフトウェア製品は、中に潜在するエラーの発見について実際に使用するユーザーの手に委ねていることが多いため、システムがクラッシュする可能性も高くなっている。

市販の製品が不十分であるのと同様に、プロセス自体も十分ではない。Standish Group3では、ソフトウェア関連のプロジェクトのうち73%が、スケジュールの遅れ、予算オーバ、打ち切り、頓挫といった問題を含んでいると報告されている。また致命的な混乱を招く可能性があると指摘される「西暦2000年の問題」は、まぎれもなく信頼性の欠如を表す問題であり、新しい環境へのアップグレードに伴う困難さと犠牲を示した好例である。企業は、システムの破壊を招くリスクを避ける目的で、オンライン・データをバックアップするための多大なコストを投じている。

国家は今、こうした現状をそのまま許している余裕はない。信頼性、フォルトトレランス、セキュリティ、進化、保守、コスト効率といった問題に対応できる強力なシステムの構築に必要な科学、テクノロジ、および手法を積極的に開発しなければならない。

調査結果:信頼性と安全性に優れたソフトウェアを構築するためのテクノロジが不十分である。

過去40年の間に、コンピューティング・ハードウェアの性能は、少なく見ても8桁の水準で改善されてきた。反面、ソフトウェアの開発能力は、ハードウェアの進化がもたらす機会に追い付いていない。必要とされるシステムを構築する能力、そして、コア部分で複雑化する巨大なソフトウェア・システムの性能を予測する能力がまさに不足している。

巨大化するソフトウェア・システムはもはや、私たちが正確に予測できる範囲を越えている。この結果、構築の作業を自動化する余地はほとんどないことに加え、すでに開発されているコンポーネントが再利用されることはほとんどない。また正確なエンジニアリング分析を実施したり、大規模なソフトウェア・システムがどの程度までテストされているのかを確認する手段もない。

標準化された動作仕様を有効な方法で確立することにより、ソフトウェア・システムの特性を見極めたり、より完全なテストを低コストで実施したりできるようになる。残念なことに、こうした仕様が実際に使用されることはほとんどない。仮に仕様があった場合でも、ソフトウェア自体との間に効果的な対応が取られていることはさらに少ない。ソフトウェアの動作仕様や欠陥は、プログラムの実行時にしかわからない。仮に実行時であっても、特定の状況にならない限り、問題が再現されないこともある。こうした状況で作成されたプログラムは、強力なシステムを目指す開発努力の阻害要因になることに加え、生来の脆弱さの問題を含むことになる。

ソフトウェア開発は、あらゆる設計作業と同様に、個人の才能と創造力に依存する。この傾向は今後も変わらない。しかし、ソフトウェアの開発、テスト、保守といったプロセスは絶えず変化するものであることが明らかになってきた。一貫性のある仕様と実装を確立できるように、実践的で意味のあるテスト手法をサポートするソフトウェア開発への科学的に健全なアプローチが必要になる。これには、デジタル・ハードウェアのためのコンピュータ支援設計を成功させたのと同様に、標準化されたマルチレベルの機構を実現する言語、理論、シミュレーション、解析、テストの手法について、長期的に研究する必要がある。

ソフトウェア・コンポーネントについて強度、仕様、モデリング、テストといった面から実証済みのライブラリが構築され、利用可能になれば、新しいソフトウェアの開発作業では大きな支援となる。すでにビジネス・アプリケーションの開発に向けたソフトウェア・コンポーネントのライブラリが、商用として開発され始めているものの、まだ適応できる分野はごく限られている。

調査結果:ソフトウェア・システムは、急速な勢いで多様化と洗練化が進んでいる。

コンピューティング能力の飛躍的な発展、コンピューティングとコミュニケーションの統合、さらに各種テクノロジの大幅な低価格化といった動きによって、従来とな異なる新しい形態のソフトウェア・ベース・アプリケーションが登場するようになっている。こうした新しいアプリケーションが定着するには、必要なアルゴリズムや情報構造を中心とした研究活動も強化する必要がある。たとえば、輸送システム、天候/気象システムの観測、遠隔医療といった分野には、リアルタイム・コントロールが不可欠になる。国家の安全保障の上では、シーン認識システムが非常に重要な役割を果たす。また、遍在(ubiquitous)コンピューティング、協調的意思決定システムなどは、軍事用をはじめ、民間向けのアプリケーション用として幅広い重要な意義がある。ソフトウェアの目的がシステム指向(たとえばオペレーティング・システムやワイヤレス通信用のプロトコルなど)であろうと、アプリケーション指向(たとえば課金システム、音声インタフェース、シミュレーション)であろうと、ソフトウェア・テクノロジは引き続き発展させなければならない。

調査結果:一般的な市民にとって、ソフトウェアへの依存度はしだいに高まりつつある。

今から20年ほど前、コンピュータは仕事を中心として使われていた。今日は、人々は金融、財務、娯楽、旅行の手配、友人や家族との連絡、電話連絡に至るまであらゆる場面でコンピュータを利用している。利用するサービスの信頼性や可用性を提供することに加え、物理的にも知的な面からも十分な使いやすさが確保されていなければならない。ソフトウェア・プロセスが、従来の手作業に取って代わるようになり、既存のプロセスの重要な特性は保護しなければならない。例として、履歴レコードの保持やエラーや欠落の回避、必要なサポートの提供、また、一部完了した作業を中断し後で再開できなければならないということがある。

コンピュータによって、電話機、ミュージックプレーヤ、テレビ、ビデオテープなど従来は独立した専用の装置が必要とされた領域では、コミュニケーション/情報アクセスが可能になっている。こうした装置をさらにインテリジェントな機器として発展させるには、機能豊富な使いやすいユーザー・インタフェースが必要になる。こうした新しい装置の登場によって、私たちは人間のあらゆる知覚を駆使しながら、実世界と変わらない感覚でコンピュータ・アプリケーションを操作できるようになる。コンピュータは、一般的な消費者向けの装置に比べ、はるかに複雑な機器であるため、今後新しい形態の対話操作をコンピュータのユーザー・インタフェースに組み込むときに、さらに複雑さが増すようであってはならない。たとえば、コンピュータを使って音楽を再生したり、新しいコンピュータ・ベースのクライアント・デバイスを操作したりする場合にも、今のCDプレーヤを使う場合と変わらずに、あるいはそれ以上に簡単でなければならない。

使用経験のないユーザーのニーズが、よく理解されていないという問題がある。使いやすさの要素とは何かをよく考えた上で、新しい形態の操作方法を開発する必要がある。ヒューマン・コンピュータ・インタフェース、あるいは人間主体の情報管理という領域での詳しい研究が必要とされている。コンピュータはもとより、ATM(自動現金引き出し・預け入れ装置)、スマート・フォン、電子キオスク・システムといったコンピュータ組み込み型の装置なども、自然な形で直観的に使用できなければならない。また、個別に開発されたサービスの統合もシームレス(継ぎ目なし)に行う必要がある。さらに、複雑なアプリケーションのスクリプト化や総合的なシステム・インテグレーションといった面の支援も含め、相互運用性を実現する標準的なインタフェースとサービスを完備したミドルウェアに関する研究も進める必要がある。

調査結果:ソフトウェアの基礎研究に向けた国家の投資が不足している。

ここ10年間を振り返ると、米国は新しいソフトウェアの基礎技術の開発に向けた研究に対する投資を怠ってきた4。今日実現されるソフトウェア・テクノロジの大部分は、15年以上も前に実施された研究開発の成果に基づくものである。今後、長期的なハイリスクの研究に対する投資を怠るとなれば、いったい西暦2015年の時点で実用化できるアイデアは、何を基礎とするのであろう。

最近、連邦政府が主導している情報テクノロジ構想では、研究課題のソフトウェア面について組織的な投資が不足しているため、理論上実現できる機能と、実際のハードウェア性能の間に大きなギャップが生じていることを指摘しなければならない。たとえば、連邦政府のHPCC(Federal High Performance Computing Program)プログラムでは、「大規模並列アーキテクチャに合わせて高性能コンピュータを実現するには、ソフトウェアの進化が不可欠」5と謡っている。しかしHPCCの研究は、Grand Challengeについて、その成果を即座に応用するための半生産用の並列コンピュータ・システムの研究が主体となっている。こうした即効性を求める短期的な戦略では、特定の科学技術に関する問題やシステムに関する問題の解決を図るソフトウェアには重点が置かれるが、各種のコンピューティング・アーキテクチャどうしでの相互運用性といった広範な問題の解決に必要となる基本的なソフトウェア・テクノロジの開発は軽視されている。

また、長期的なソフトウェア研究に対する投資が不足しているという事態は、ソフトウェア関連の専門研究者を育成する道が断たれることになる。当委員会では、研究開発に向けた投資を強化することにより、若手の有望な研究者を育成する大規模な骨組みを構築すべきであると考える。

3.1.2 推奨案

ソフトウェアは、人間の社会構造にますます重要な部分として組み込まれつつある。私たちが開発し、使用するソフトウェアの品質、そしてこれを開発するためのプロセスを改善していかないと、今後、国家は危機に瀕することになる。米国内のソフトウェア産業を強化するために、長期的な研究が不可欠となる。今、この種の研究に対する支援はとても十分とは言えない。国家のインフラストラクチャを意図的な攻撃から保護するために大統領の命を受けて提唱されたクリティカル・インフラストラクチャ・プロテクション構想に基づく研究とも緊密な連携が必要になる。

当委員会では、ソフトウェアの品質と開発プロセスの面で根本的な改善を図るための多方面にわたる追加投資を行うことを推奨する。特に、ソフトウェアの開発、検証、妥当性チェック、保守、コンピューティング・システムへのユーザー・インタフェース、電子媒体による情報、ハイエンド・コンピューティングに対応するソフトウェア、新たに登場する遍在/協調的コンピューティングを支援するソフトウェアの手法を抜本的に改善しなければならない。

ソフトウェア構築のためのテクノロジは、まず私たちがどのようなソフトウェアを構築すべきかを認識する必要があるための全体的なソリューションの一部に過ぎない。現在のコンピュータ・システムは使いやすさの面で、さまざまな問題がある。情報アプライアンスの操作を簡素化するための理論や手法を考案することが緊急の課題である。これには環境を理解し、認識するための手法、コンピュータ・システム内で情報を表現し、編成するための手法、また情報を分析、要約、および説明するための手法が必要になる。

第1章では、情報テクノロジが科学技術、医学、商取引、行政、教育といった面でどのような変化をもたらすかについて説明した。こうした変化を支えるには、新しいアルゴリズム、ツール、そして従来にないコンピュータの使用形態が必要になる。新たな発想や試作品構想について研究することが、こうした変革の原動力となる。今や、試作品の商品化に向けた多大な圧力が避けられないため、優秀な大学教授陣や研究者の不足が深刻化している。いわば、作付用のとうもろこしを食用に回しているような状況である。当委員会では、長期的な課題に取り組む大学での研究活動に向けて財政支援を強化することを推奨する。

主な推奨案:ソフトウェアの基礎研究を最優先課題とする。

当委員会では、連邦政府がコンピュータ・システム・エンジニアリングとアプリケーションの両方に利用できるソフトウェアを探る基礎研究を実施して、国家的に最優先の研究課題として検討することを推奨する。また当委員会では、第5章に提案するあらゆる調査課題の必須の要素としてソフトウェアの研究を組み込むべきだと考える。さらに現行の資金枠の中で研究部門に対する割り当てを大幅に増やし、ソフトウェアの基礎研究を集中的に実施する案を推奨する。

推奨案:ソフトウェアの開発手法、およびコンポーネント・テクノロジに関する基礎研究に向けた投資を強化する。

当委員会では、特にソフトウェア開発/保守の自動サポートを中心としたソフトウェアの手法についての研究を積極的に実施することを推奨する。こうした研究により、次のような成果が期待される。

推奨案:ヒューマン/コンピュータ・インタフェースと相互作用に関する基礎研究を支援する。

コンピュータ・アプリケーションの多くが、人々に情報を伝達することを目的としている。さらに、私たちの情報や指示が必要となるコンピュータ・アプリケーションが大部分である。人とコンピュータの間の対話は、いまだにキーボードの操作をはじめ、マウスやタッチ・スクリーンといったポインティング・デバイス、ディスプレイへのテキスト表示や簡単なグラフィカル形式の出力など、単純な操作を介した基本的な動作や出力に限定されているのが現状である。今、人々は豊富な対話操作ができるようになっている。極端に言えば、人間は環境について調和的な理解を図りながら、多様な視覚系統を備えた知覚型の生物である。人間の脳は知覚神経と運動神経系が密結合されているが、コンピュータ・システムの場合は入力(人間の運動系による操作)と出力(人間の知覚系による認識)はそれぞれ独立した関連性のない動きとなる。

人間とコンピュータの価値は、これだけにとどまらない。人間の知覚/運動系、認識、注意力、パターン認知、意思決定に関する基礎研究は、人間とマシンの間の対話操作に劇的な改善をもたらす可能性を残している。

今日提供されている民間航空機、軍用システム、ゲームなどのシミュレータには、将来的に何が可能になるのかについて、いくつかの例を見ることができる。フル・イマージョン型の環境も、こうした領域を探った実例と言えるが、この潜在能力の実現に向けた基礎研究を継続していかない限り、今日のシステムの限界を越えた次へのステップを進めることはできない。さらに、こうした研究の成果として、エラーや誤解の低減、複雑なコントロール設定の強化のほか、知覚、運動、認知上の障害を持つ人々が抱えるアクセス上の問題も一部、解決されることになる。

ヒューマン/コンピュータ・インタフェースと相互作用には、さまざまな側面がある。経済環境、身体的な障害、知的レベルなどを問わず、あらゆる人々に対して容易なアクセスを提供しなければならない。このためには、テキスト形式のインタフェース、手先の器用さといった面ではなく、ヘルプ・システムや推論といった機能を通じて、コストの低減、オーディオ・ビジュアル装置の小型化、自然言語のサポート、ユーザー支援の強化といった利点に基づいて、ユーザー・インタフェースの大幅な改善を図らなければならない。使いやすさの改善は、基盤となるハードウェア・デバイスの進化に合わせて、ソフトウェアを発展させる例の1つである。

推奨案:情報管理の方法に関する基礎研究を強化することにより、次のことが可能になる。
(1)情報の収集、編成、処理、分析、および説明
(2)無数のユーザーへの情報の提供

私たちはすでに、膨大な量の情報にオンラインでアクセスすることができる。今直面している問題は、いかに効率的に適切な情報を検索し、いかに効果的にこれを利用するかである。私たちのニーズに応じて必要な情報が提供されることが理想的である。当委員会では、情報の収集、編成、処理、および運用の面を中心とした基礎研究への財政支援を強化することを推奨する。情報管理は、データ構造とアルゴリズムを改善した従来のコンピュータ科学の手法と、デジタル・ライブラリ、データベース、知識発見、データ・ビジュアリゼーション、情報集約的アプリケーションに関する理論と新しいアプローチを組み合わせて実施する。またインテリジェンスを高め、生産性を向上するためのソフトウェア・ツールは、今後の国家の繁栄のためには重要な要素となる。次の領域での研究を進める必要がある。

推奨案:主な情報テクノロジ関連の研究構想の中に、ソフトウェアの研究を主要な課題として位置付ける。

これまで、HPCCなどの主な構想は、ソフトウェア研究に対する資金不足が原因で期待される成果が得られなかった。この章で後述する新しい構想を検討する場合は、必ずソフトウェアを中心とした研究課題を取り入れる。

たとえば、構築するネットワークで実際のサービスを提供するソフトウェアについて十分が投資がなければ、スケーラブルな情報インフラストラクチャは実現できない。このため、当委員会では第3.2項で、スケーラビリティ、分散性、信頼性を強化する新しいソフトウェアへの投資を実施することを推奨している。

同様に、ハイエンド・コンピューティングのユーザーがアプリケーション・ソフトウェアを開発し、このソフトウェア・ソリューションを別のアーキテクチャに移植できる水準をさらに強化する必要がある。したがって、第3.3項では、こうした研究活動を支援するソフトウェアへの適切な投資の必要性を指摘している。

端的に言うと、連邦政府主導の研究支援プログラムには、ソフトウェアの研究開発を成功させるに必要十分な投資が行われていないということである。新しい情報テクノロジ構想を、国家規模のニーズに対応させるには、これまでの傾向を逆転させなければならない。

予算に関する推奨案:2000〜2004年の5か年の間に、ソフトウェア研究に関連する現在の財政支援をさらに強化する。

当委員会で推奨するソフトウェア研究の予算拡大を進める場合に、次の2つポイントを考慮に入れる必要がある。まず、上級の研究者に割り当てる年間平均予算として最低100,000ドルの増額をただちに実施する。2つ目に、上記の推奨案に示す技術的な目的に応じて、研究者の数を約1,000人規模で拡大し、大規模な研究コミュニティを支援する。この2つ目のポイントは、5年間の期間をかけて段階的に実施する。

下表の値は、当年(1999年度)支援水準に加算して算定した。

ソフトウェア研究に向けた財政支援の拡大(単位:100万ドル)

 

FY 2000

FY 2001

FY 2002

FY 2003

FY 2004

ソフトウェア・エンジニアリング/コンポーネント・テクノロジ
ヒューマン・コンピュータの統合/情報管理

112

268

376

472

540

当委員会では、新たに配分する予算の相当部分をテーマ中心のプログラムに充当することを推奨する。構造型の管理体制を敷いた大規模なセンターを設立するのではなく、テーマ型のプログラムによって、集中的な研究業務を実施できる小人数精鋭型で、しかも「クリティカル・マス」の水準を維持できる適正規模の各グループを財政支援する。各グループには、担当のスタッフのほか、大学院生、大学生などを含め、上級の研究者を数名配置する。上記の重要なソフトウェアの問題に本格的に取り組めるように、長期的な財政支援を保証するものとする。

3.2 スケーラブルな情報インフラストラクチャ

今後数十年の間に、本報告書の冒頭で触れたさまざまな形態の変化が、国家規模での劇的な変革をもたらすようになる。この変化の中核となるのがインターネットである。

3.2.1 調査結果

情報インフラストラクチャに対する国家的な依存度は、しだいに高まっている。

今後20年の間に、インターネットは、電話、ラジオ、テレビ、輸送、電力供給ネットワークなどを含め、従来のネットワークには見られない形式で私たちの社会に深く浸透するようになる。インターネットは私たちの日常生活にとって不可欠の部分を占めるようになる。電子メールが当然の通信手段となって、電話やファックスよりも優先的に使われるようになる。間もなく、銀行、金融取引、商品/サービス、娯楽、知人、家族、仕事相手との連絡、その他行政や医療サービスなど重要なサービスに至るまで、日常的なサービスを提供するための情報インフラストラクチャに依存するようになる。ユーザーが日常的にインターネットに依存するようになり、数十億ドル規模の金額が電子商取引を介してやり取りされるようになると、国家の秩序維持のためにも情報インフラストラクチャは不可欠の存在となる。したがって、情報インフラストラクチャを管理・制御する能力は、現在の配電システムを扱う能力と同じように重要になってくる。情報インフラストラクチャは今や、人間生活の経済/社会的な下部構造の重要な要素になりつつある。

情報テクノロジや通信技術の開発と応用の面で、今後も米国が主導的な役割を果たしていくにあたり、こうしたテクノロジへの投資を続けていくことが不可欠となる。今後、米国が国家の安全保障と防衛を強化するための基礎研究/応用研究を主導すると同時に、経済の安定化を図り、グローバルな市場で競争力を維持していく能力を身に付けられるかどうかは、まさにテクノロジにかかっている。

調査結果:インターネットは、もともとの設計者の意図や私たちの理解のレベルをはるかに越えて成長し、もはや自信を持って拡張を続けられなくなっている。

まず、インターネットの規模が急速な勢いで拡大している。1985年の時点で2,000台のコンピュータを結んでいるとされたインターネットには現在、7,000万台ものデバイスが接続され、ここを通過するトラフィックも、100日ごとに倍増していると言われる。今日、インターネットを使っている米国民は5,000万人に達し、21世紀初めには全世界で10億人になるものと予測されている。私たちにかつて、これほどの規模で、この水準の情報資源にアクセスが提供された経験はない。共通のサービスやグローバルなネームスペース、さらに双方向のアクセスを効果的に組み合わせることにより、かつて例のないグローバルな規模の文化的環境が生まれることになる。

第2に、インターネットは、その容量の面でも、大きく成長している。これに伴い、その用途も多様な方面に広がっている。まず、電子メール・サーバの普及によって、「時間を問わない」通信が可能になっている。また衛星/ワイヤレス・システムでは「場所を問わない」接続が提供される。World Wide Webディレクトリや検索サービスを利用すれば、人間が知り得るあらゆる情報が即座に手に入る。電子決済サービスでは、全国規模の商取引を数多く扱えるようになっている。オーディオやビデオのストリーム処理も普及している。新しいアプリケーションに適用できるビルディング・ブロックが開発され、機能の拡張と応用も進められている。電子署名、安全なトランザクション、高度なモデリング/シミュレーション・ソフトウェア、協調処理用の共有仮想環境、インテリジェント・エージェントによる情報サーチ/検索用ツール、音声認識、低コストのネットワーク・センサなどさまざまな応用が考えられる。

最後に、インターネットを拡充するにあたり、なかなか解決しにくい難しい問題も現れてくる。つまり単に既存のテクノロジを拡張して、今よりはるかに複雑な種類の情報を扱う桁違いの新しいネットワークや情報システムにまで拡張することはとてもできないということである。また、現在米国内で提供されている電話システムで保証される水準の品質と信頼性を維持することなど、とてもできない。将来的なインフラストラクチャを構成する個々の要素についてはある程度理解できるが、こうした各要素を、高度な信頼性、効率、強度を保持する方向でどのように連携させるかについてはまったく知識がない。スケーラブルなサービス(たとえば、エクサバイト規模のデータに索引を付けたり、1日あたり数百万規模のトランザクションを処理できる検索エンジンなど)を構築して、スケーラブルなアプリケーションを既存のインフラに適用しようとすれば、さらに深刻な問題が生じるのは明らかである。

調査結果:高度な信頼性とセキュリティを完備した大規模で複雑なシステムを構築・利用する方法を探るには、研究が不可欠である。

インターネットを基盤とした未来の情報インフラストラクチャでは、しだいに数が増加するコンピュータどうしで、優れた性能、強度、信頼性、安全な接続機能を保証しなければならない。種類の異なる多様なソフトウェアを実行したコンピュータ・システム・ネットワークの特性を組み合わせただけでは、容易な理解は期待できない。こうした動作の特性を理解するには、複雑で大規模なシステムを詳細に分析する必要がある。

情報インフラストラクチャの拡張に伴って、運用とトラフィックに関するさまざまな条件の急速な拡大にも柔軟に対応できるように、ネットワーク・リンクとコンピューティング・システム・ノードを構築するための詳細な科学的基盤が必要になる。これには、インターネット上で10億人規模にまで増加するユーザーが必要とするグローバルで遍在的(場所や時間を問わない)な異機種インフラストラクチャと、現在の最新技術の間に、統合、データ機密の保護、セキュリティ、信頼性、使いやすさ、管理のしやすさといった面での技術的な障害が多数存在する。

ネットワークに関する研究活動によって、これまでに例のない急速な勢いでインターネットの機能の発展を支えられるようになる。これまで長年にわたりパフォーマンスとテクノロジの要件に従って予測を立てることによって半導体業界を導いてきたムーアの法則から、今後はインターネットのスケーラビリティとパフォーマンスが求められていることがわかる。しかしインターネットの成長は、ムーアの法則による予測よりもはるかに速いため、通信関連の研究者は、インターネットの成長曲線に遅れることがないように、単に新しい進歩的な構想だけにとどまらず、革命をもたらすような開発が求められている。

急速に高まる情報インフラストラクチャへの要求と依存度に対応すべく、スケーリングに関する研究活動をさまざまな観点から実施する必要がある。

以上のような研究活動は単にネットワークの構築という面にとどまってはならない。全体的なエンドツーエンド型システムの操作を統合する必要がある。ネットワークと大規模な情報サーバの利点を有効利用するための方法が理解できるようなアプリケーションの研究が必要になる。一例として、国家規模のネットワーク上に分散した各種のコンピューティング・システムを使用する場合に、最も効率的な科学技術用アプリケーションの開発が考えられる。次に、アプリケーションとネットワークのパフォーマンスを改善するネットワーク管理用ソフトウェアと連携できるネットワーク対応型のアプリケーションなどの研究も必要であろう。3つ目に、大規模トラフィック・サーバの設計が挙げられる。4つ目に、分散データ・ストアと、これらのデータにアクセスするアプリケーションの間で行われるデータの流れを効率的に管理する手法の研究がある。オリジナル・データから始まり、処理、公開、運用に至るまでの情報の流れを管理することにより、科学技術用、商用、政府用の各システムの中核となる情報環境が形成される。情報テクノロジが持つ潜在能力の全面的な有効利用を考えるならば、こうしたシステムの構築と運用についてさらなる研究を進めなければならない。

3.2.2 推奨案

この節では、情報インフラストラクチャの分析/モデル化、ミドルウェア/スケーリングによる実装、テストベッドでの展開に至るまで、スケーラブルな情報インフラストラクチャのあらゆる側面について、具体的な推奨案を論理的な順序に従って説明する。当委員会では、以下に挙げる推奨案を研究プログラムの中に同じ優先順位をもってバランスよく組み込むことを提案する。

推奨案:グローバルな規模のネットワークと関連する情報インフラストラクチャの動作に関する研究活動の財政支援を提供する。この場合、パフォーマンス・データの収集と分析、およびネットワーク動作のモデル化とシミュレーションについても検討する。

これまで電話通信の業界が、電話回線ネットワークを設定、管理、また将来的なプランといった課題に効果的に対応できる数学モデルを開発するまでに、30年以上の年月を要した。残念なことに、こうした数学モデルはインターネットには適用できないことに加え、電話回線の用途がファックスやインターネットの領域にまで拡大していくに伴い、電話回線固有の仕様では十分に対応できないことがわかってきた。電話回線ネットワークは、こうした用途には理想的とは言えないまでも、現在ではインターネット接続での主要なアクセス手段となっている。とは言え、電話回線ネットワークの限界によって、将来的な展開がしだいに制限されるようになっている。電話回線とインターネットの基本的な違いは次の点にある。

現在のところ、インターネットの個々のノードをはじめ、連邦政府、商用、社内サブネットのいずれのレベルを取っても、こうした複雑なシステムをモデル化する段階には至っていない。今後、新しいモデルを考案する必要がある。これには、データ収集、数学/統計学に基づくモデリング/シミュレーション手法、ツール、および分析方法を開発するための長期的な研究が必要になる。また、ネットワーク・サービス・プロバイダ各社の間で、データを共有化できるようなアプローチも必要になる。

推奨案:ネットワークの物理的な機構に関する研究活動を支援する。具体的には、光学技術、ワイヤレス、衛星、有線接続、ケーブル、関連する帯域幅などの課題がある。

伝送技術の改善が進むことにより、ネットワークの分野における多様な発展が支えられる。いかに速く、いかに遠くへ、いかにクリアにデータ・パケットを転送するかといった問題が解決されると、情報インフラストラクチャが対応できる応用の幅に大きな影響を及ぼすことになる。こうした面の改善には基本的に、物理学、信号処理、波形、信号品質、製造技術など各分野での研究が必要になる。特に、光学、ワイヤレス、ローカル・ループ伝送といった課題への対応が急務とされている。今日の研究開発が成果を上げれば、将来的なインターネットの品質、速度、遍在アクセスといった要件にも対応できるようになる。

推奨案:インターネットのスケーリングに対応できるプランの研究活動を支援する。

現在のインターネットで最大の課題とされるのは、スケーラビリティの問題である。測定の方法にかかわらず、インターネットの規模と多様性が拡大しているのは否定しようがない。具体的には次のような方向で拡大している。

今後の研究課題は、次のように要約することができる。

以上のような問題を解決するには、従来にない画期的なデータの分散化、モデリング、シミュレーション、実験、テストベッドに対応できる数学/統計学的な理論が不可欠になる。

推奨案:大規模なシステムを実現するミドルウェアに関する研究開発を支援する。

スケーラブルな情報インフラストラクチャに適用するミドルウェアとは、ソフトウェアの開発プロセスを改善するとともに、インフラストラクチャの適切で効率的な動作を保証し、しかも新しい大規模なソフトウェア・システムを支援する共有ソフトウェアとルールを集合したセットのことを言う。ミドルウェアによって、共通した機能を実行する再利用可能なソフトウェアが提供されるため、ソフトウェアの開発工程をより効果的に進められるようになる。この結果、アプリケーション・ソフトウェアの開発担当者は、データの伝送やコンピューティングといった副次的な問題から解放され、本来のアプリケーションの開発作業に専念できるようになる。また、各アプリケーションの開発工程どうしで、相互の情報のやり取りも可能になる。インフラストラクチャ自体の調整や管理を行うサービスを通じて、環境の変化にも対応できるミドルウェアも開発できるようになる。ミドルウェアに関する研究課題は、次の2つに大別される。

情報管理

スケーラブルで多様性のあるアプリケーションの情報管理サービスでは、膨大な量の情報を編成/管理できるシステムを構築する必要がある。必要とされるテクノロジは次のとおりである。

情報とサービスの耐久性

国家の安全、商業活動、教育、および利益はしだいに情報インフラストラクチャへの依存度を高めている。したがって、悪意のある攻撃、ウイルス、装置やソフトウェアの故障、過負荷といった問題を回避すべく、インフラストラクチャの耐久性を保証することが不可欠となる。耐久性とは、必要に応じてサービスの可用性を保証し、タイミングよく情報を提供するためのサービスのことを言う。サービスは常時適切に動作しなければならないことに加え、サービスが提供する情報には高度な品質を保証する必要がある。品質が損われる場合は、問題の原因を適切に識別できなければならない。また耐久性という側面では、情報の長期的な保護に加え、基礎となるストレージ・テクノロジや情報表現の進化、あるいは数百年もの長期にわたってアクセスされない情報についても、履歴上の優先順位に従ってドキュメントを保護するという課題にも対応する必要がある。
耐久性関連の主なテクノロジは次のとおりである。

推奨案:大規模なアプリケーションとスケーラブルなサービスに関する研究活動を支援する。

今日の超大規模なアプリケーションには、現在のテクノロジではとても対応できないような独自のニーズを伴うことがある。こうしたアプリケーションの開発工程では、管理や製品の品質保証の面で大きな問題があることがわかっている。現在の市販のテクノロジでは、このような大規模なアプリケーションに対応するためのスケーラビリティが不足している。また、大学レベルの研究業務でも、こうした課題には十分対処できない。スケーラビリティを中心とした研究開発が必要とされている。

こうしたアプリケーションは一部、エネルギー省(DoE)が主導しているASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative:アクセラレーテッド戦略コンピューティング構想)のStockpile Stewardship Program、NASA(アメリカ航空宇宙局)のEarth Observing System Data and Information System(EOSDIS:史上最大級の複雑なデータ処理システム)、およびFAA(連邦航空局)の航空管制システムを含め、科学技術関連の任務を帯びた連邦政府の担当部局が中心になって開発されている。これらのアプリケーションによって通信集約的、データ集約的、計算集約的な要件が統合される。

この種のアプリケーションは今日の基準からすると、数に限りはあるものの、その規模は大きい。また開発期間が20年間というのもきわめて一般的である。一方、今日の要求度の高いアプリケーションの規模が巨大化し、スケーラビリティの要件が高まるに従って、長期的な研究開発が必要になる。

連邦政府が中心となる大規模な科学技術関連のアプリケーション用として開発された主なテクノロジは、大規模な認定プログラムの効果と効率性を改善するための非科学系アプリケーションや、現段階ではまだ着手されていない非政府系のアプリケーションに対応する上で有効な手段となる。当委員会では、こうしたアプリケーションを2つ取り上げて詳しく検証している。

アプリケーションA:国家規模のデジタル・ライブラリ

National Digital Library(全米デジタル・ライブラリ)は、書籍、刊行物、音楽、フィルム、非公式の「ドキュメント」などを含め、あらゆる知識ソースを収載した電子図書館である。国家規模のスケーラブル情報インフラストラクチャによって、この共有型情報ベースを管理できるようになる。当面は、全国の科学技術関連の文献を集めたデジタル・ライブラリの構築から始める。こうした文書の費用は大部分が税金で賄われ、その内容は科学者、エンジニア、学生の間でも一般的でない情報が中心となる。このようなライブラリは、ユーザーには常時、最新の情報を提供し、作業の負荷やコストを軽減する以外に、将来的には膨大な知識ベースが構築されるため、科学技術関連の研究開発には多大な貢献となる。1994年から政府が助成して大学が中心になって進められているデジタル・ライブラリ・プロジェクトが構築したベースをもとにライブラリの開発が進められている。全米デジタル・ライブラリには、次のような課題が残されている。

アプリケーションB:次世代のWorld Wide Web

今日提供されているWebとブラウザは、情報インフラストラクチャの最も基本的な要素となっている。当初は、現在の規模やアプリケーションの用途の広さを予測だにしなかった原始的な設計であった。西暦2010年に向けたWebの設計と開発を進めるにあたり、今日の水準をはるかに越えた機能、柔軟性、パワー、耐久性、スケーラビリティを中心とした研究課題が残されている。次世代Webには、上記の情報管理やデジタル・ライブラリに共通した研究課題があると同時に、固有の問題にも対応しなければならない。具体的には、各国間の異なるプロトコルや規約の変換、また円滑な移行パスの保証といった面での研究開発を進める必要がある。

推奨案:ネットワーキングに関する研究、および可能にする情報テクノロジや高度なアプリケーションのニーズに対応できるバランスのよいテストベッドと研究インフラストラクチャを財政的に支援する。

連邦政府はこれまで、NGI(Next Generation Internet:次世代インターネット)構想の一環として、2つのテストベッドの財政を支援してきた。1つは100か所のサイトをエンドツーエンド形式で接続し、1997年のインターネットに比べ、100倍相当に速度で動作する。もう1つは、20か所サイトがエンドツーエンド形式で接続され、1997年での水準の1,000倍の速度で動作する。前者は主に、「革新的な」アプリケーションの開発業務、また後者はネットワーキング・テクノロジの研究活動に用いられている。これらのテストベッドを相互接続することにより、さまざまな特性が得られる。

100倍のテストベッドでは、NSF、vBNS、DoEのESnet、NASAのNREN、DoDのDRENを含め、各種の連邦政府向け研究用ネットワークが接続されている。これらの各ネットワークでは、MCI、WorldCom、Sprint Communications、AT&Tの各米国企業がそれぞれ開発したサービスが提供される。現在、テストベッドは約100校の大学と主な研究開発用の機関によりアプリケーションの開発用として利用され、マルチキャスト・プロトコルをはじめ、サービス、プライバシ、セキュリティの面での差別化を図るための各プロトコルといった新しい機能を対象に国家規模の実験用環境を提供している。また、ベンダー各社が提供するネットワークの相互運用性、耐久性、スケーラビリティに加え、相互接続した各ネットワークの管理機能を検証するための実験台としても利用されている。このテストベッドでは、現在の商用インターネットの水準をはるかに越える高度なネットワーク・テクノロジが応用されている。こうしたテクノロジは、連邦政府の当局やプロバイダ各社が協力した作業によって、安定性と強度が大幅に改善されている。この研究はネットワークの可用性とパフォーマンスに依存しているため、全国規模の各NGIサイトから提供される高度な可用性とパフォーマンスが保証されるようになっている。

1000倍のテストベッドは、未来の世代(次世代を超えた)のインターネットに向けたネットワーク・テクノロジを模索するものである。このテストベッドによって、現在、開発中の新しいテクノロジに見られる限界を見極めなければならない。100倍のテストベッドに比べ、規模が小さく、より脆弱であるため、さまざまな障害に遭遇するものと思われる。

情報インフラストラクチャの施設は、科学技術者にとって、ここ数十年の間に共有型の大規模な物理計測器に似た役割を果たすようになっている。NSFやDoEといった部局では、国の望遠鏡、顕微鏡、原子加速器などの場合に見られるとおり、多方面の分野の専門家が研究活動を進められるように、最先端のIT施設に、ピアどうしで相互に監視できるアクセスを提供している。この種の施設は、内部に最先端の設備を完備して初めて、国家規模の研究活動を主導していく上で大きな効果を発揮する。ただし、ハイエンド・コンピュータ、ハイパフォーマンス・ネットワーク、大規模のデータベースなど専門のIT設備を常時拡張するというニーズは、連邦政府当局が、当該の施設で実施している基礎研究の支援と直接的に衝突することがない方向で管理する必要がある。

当委員会では、テストベッドと研究用インフラストラクチャの活動について定期的に検証することを推奨する。これにより、財政支援とその意義が、当初設定された研究課題の主旨から外れていないことを確認できるようになる。この検証プロセスには、Federal Large Scale Networking Working Group(連邦政府大規模ネットワーキング作業グループ)をはじめ、各資源を提供する連邦政府当局、ユーザー・コミュニティ、および該当する民間部門コミュニティの代表者で構成する。

推奨する財政支援レベル

スケーラブル情報インフラストラクチャは、急速な変化を伴う比較的新しい分野であるため、研究業務やテストベッドに関するニーズを評価することが難しい。前の節で取り上げた研究課題の数の多さは、過去にまったく扱われなかった問題やほとんど対応していない問題も含め、新しいインターネットの機能を求める要求の拡大という点からも、スケーラブル・テクノロジを中心とした研究に相当な意義があることを実証するものである。この分野における急速な変化に対する連邦政府の対応も、この傾向を裏付けるものと言える。政府はこれまで、要求に応じてテストベッドの規模を拡大したり、研究開発のスケジュールを早めたり、また民間部門では対応できない問題(プロバイダどうしの相互運用性の問題など)について一貫した対策を講じたりして、プランの修正を加えてきた。

スケーラブル情報インフラストラクチャに向けた予算を編成するときに、インターネットの成長の速さ、民間部門からの実質的な貢献がもたらすコスト節減の程度なども考慮に入れる必要がある。当委員会では、スケーラブル情報インフラストラクチャの研究、およびテストベッドに向けた財政支援は、現在の年間約2億ドルの水準から、2000_2004年度までの間に年間5億ドルのペースで線形的に増額することを推奨する。研究のテーマは、ネットワーキングの分野を中心とする。研究の内容は各プロジェクトの規模別に構成(小規模は年間平均10万ドルまで、年間の増額が20万ドルまで、中規模は年間平均100万ドルで、年間の2倍までの増額、大規模は年間平均400万ドル以上)し、2か所の"Expedition Center"(探求センター:それぞれの年間予算500万ドル)の一環として実施するネットワーキング関連の研究を追加する。また規模別のプロジェクトの配分は、大規模1:中規模4:小規模20とする。アプリケーション開発用テストベッドの費用は、可能な限り、アプリケーション・コミュニティと共同負担できるようにする。

下表の値は、当年(1999年度)支援水準に加算して算定した。

スケーラブル情報インフラストラクチャの研究に向けた財政支援(単位:100万ドル)

 

FY 2000

FY 2001

FY 2002

FY 2003

FY 2004

スケーラブル情報インフラストラクチャ

60

120

180

240

300

 

3.3 ハイエンド・コンピューティング

High Performance Computing Act of 1991法のもとで設立されたHPCC(Federal High Performance Computing and Communications)プログラムは、米国がテクノロジ上のリーダーシップを保持する上で大きく貢献してきた。このプログラムにより、技術革新のスピードアップ、国家安全保障の強化、教育の促進、地球環境に関する認識の強化といった面でテクノロジの開発と普及に向けて成果が見られた。さらに、ハイパフォーマンス・テクノロジを中心としたこれまでの技術進歩は、今日のミッドレンジ・コンピューティングや通信システムのうちの重要なコンポーネントとして応用されている。HPCCは、多様な科学技術部門に向けた専門の努力を重ねた結果、将来的に対応できる基盤を構築する成果を上げている。

歴史的に、ハイパフォーマンス・コンピューティングは、コンピュータ産業のうちの特化した市場部門として、科学技術や国防関連の具体的なニーズに対応してきた。ハイパフォーマンス・スーパーコンピュータは、計算集約的なアプリケーションの要件に合わせて最適化した独自のアーキテクチャとテクノロジに基づいているため、メインストリームのコンピュータに比べると高額になる。とは言え、過去数年の間にハイパフォーマンス・コンピューティングの応用化は、純粋に計算集約的なアプリケーションに始まり、データ/通信集約的なアプリケーションに至るまで大きな変化を遂げてきた。この焦点が広がるに伴い、「ハイパフォーマンス・コンピューティング」の意味も「ハイエンド・コンピューティング」にまで拡大され、科学技術や防衛といった分野に限らず、多様なアプリケーションが統合されるようになっている。

ワークステーションやサーバに搭載される強力なマイクロプロセッサの出現とともに、ハイエンド・コンピューティング市場の大部分は、専用のプロセッサを搭載したスーパーコンピュータから、マイクロプロセッサ搭載型のシステムに移行するようになっている。連邦政府が10年間以上にわたって、研究業務を財政支援してきた成果として、現在では必要な部品を搭載したシステムが、初期のスーパーコンピュータ・システムのわずか数分の1の価格で提供されるようになっている。しかし、技術上、経済上のさまざまな理由から、TeraOpsレベル(1012オペレーション/秒)の範囲を越える潜在能力を持つ高度なパラレル・システム(プロセッサ数100〜1000個)は、重要なハイエンド・アプリケーション向けには実用化されるには至っていない。

ハイエンド・コンピューティングに関する研究は、社会に多大な利益をもたらした。現在のハイエンド・コンピューティングの応用については、前回の報告書6で詳しく取り上げた。具体的には次のような分野が考えられる。

ハイエンド・コンピューティングは、次の3つの独立した、しかも相互に関連し合う市場とみなすことができる。いずれの市場にもそれぞれ独自の力学と問題がある。

 

3.3.1 調査結果

調査結果:ハイエンド・コンピューティングは、科学技術の研究には不可欠である。

HPCCプログラムが成果を上げたことにより、自然現象を理解したり、エンジニアリング設計の調査や最適化を行う手段として、コンピュータ・シミュレーション/モデリングが幅広く普及するようになった。今後数十年の間、コンピュータ技術は国の科学技術に向けた基礎研究/応用研究活動にとって、民間レベルでも、国防レベルでもますます重要な役割を果たすようになる。現在、ハイエンド・コンピューティングを利用した研究には、一部、DoE(エネルギー省)など当局の主導で実施されているものがあるが、その大部分はNSF(National Science Foundation)からの資金援助を受けている。科学技術の基礎研究を進め、この成果を実際に応用化できるように、研究機関は、最先端の機能を備えたシステムにアクセスできなければならない。さらに、こうしたシステムのパワーは、たとえばDoE ASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative:アクセラレーテッド戦略コンピューティング構想)など、当局に提供されるシステムに匹敵するものでなければならない。またハイエンド・コンピューティングの利点を引き続き、科学技術の分野で生かしていくためには、コンピュータとコンピュータ科学者が協力して、最先端のコンピュータ技術を科学技術の研究でも利用できるようにしていく必要がある。

調査結果:ハイエンド・コンピューティングは、米国の国家安全保障プログラムのうちで有望視される要素である。

スーパーコンピュータ・システム市場の少なくとも半数は、これまで市場を支えてきた国家安全保障プログラムにかかわる政府関連の顧客が占めている。これらのプログラムは、国家にとってもきわめて重要な意味がある。行政当局は現在、担当の業務の遂行に支障を及ぼすことなく、新しいハイエンド・アーキテクチャに、既存のアプリケーションを移行させる課題を抱えている。こうした移行作業は技術的な難題を伴うほか、成熟したソフトウェアが不足していることが事態を一層深刻なものにしている。DoD HPC Modernization Program、Department of Energy (DoE) Accelerated Strategic Computing InitiativeおよびNational Security Agencyは、政府がハイエンド・コンピューティングを採用した事例の1つである。

国防総省では、DoD HPC Modernization Programを通じて、米国軍部に最先端のテクノロジを提供すべく、ここ5年の間にハイエンド・コンピューティングに向けて10億ドルを超える投資を行ってきた。このプログラムの結果、DoDの研究者には高度なハードウェア、コンピューティング・ツール、およびトレーニングが提供され、最新のテクノロジを利用して、戦闘機の支援などの面で応用できるようになった。ハイエンド・コンピューティングの統合によって、米国は最先端の防衛システムを実用化する全体的なコストを削減しながら、兵器システムの設計における技術的な優位性を今後も維持できるようになった。

エネルギー省(DoE)のASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative)プログラムは、Stockpile Stewardship Programのうちで最も重要な要素となる部分である。ASCIは、地下実験が実施できないときに、原子力の備蓄に伴う安全性、信頼性、および性能を保証するときの支援となるように考案されたプログラムである。ASCIプログラムで開発されたコンピュータ・テクノロジと製品は、国家の安全保障という用途以外に、幅広い国家のニーズに向けて応用されている。またASCIが開発するコンピューティングの手法には多大な潜在性があるため、民間の研究者の間に普及するようになれば、環境問題の調査、生物学、薬剤の開発、自動車/航空機の設計、消費者向け商品の安全性、情報管理とアクセスなど多岐にわたる分野で経済的/技術的な利点をもたらす。

ここ数十年間にわたり国家安全保障局(NSA)は、ハイエンド・コンピューティングの分野に大きな影響を与えてきたと同時に、最先端の商用コンピュータ、ストレージ、およびネットワーキング・システムを高度に利用する早くからのユーザーでもあった。NSAの使命は、国家の情報システムを保護し、国外の諜報活動を支援することにあるため、国内の最重要課題の一部について産学の両面でのシミュレーションを進めてきた。NSAの研究テーマは、数学と信号処理の分野における知識に基づいて、大幅な改善を実現する手法とアプリケーションの模索を中心としたものである。新しい概念の考案から、試作品の制作、また最先端の商用製品の機能強化に至るまで、研究活動の範囲は広い。

調査結果:ハイエンド・コンピューティングの新しい応用分野を模索する時機を迎えている。

従来のハイパフォーマンス・コンピューティングを中心とした長期的な研究課題を推進することに加え、当委員会では、これまでに手付かずとなっているハイエンド・コンピューティングの応用分野について詳しく調査することにより、世界に関する認識を深めると同時に、あらゆる市民に提供するサービスを強化する必要があると考える。ハイエンド向けのアプリケーションが拡大することには、コンピュータ、ソフトウェア、およびアプリケーション関連のベンダー各社を引き付けて、ハイエンド・コンピューティングの健全な市場を維持していく作用がある。今日、ハイエンド・コンピューティングの市場は、情報テクノロジ市場全体の部門として見ると、縮小傾向にある。ハイエンド・コンピューティングによる多大な成果が期待できる分野は次のとおりである。

調査結果:米国のハイエンド・システムの供給業者は、過剰な市場圧力に瀕している。

上記の問題が解決されれば経済や社会にもたらす利点が大きいことはわかっているが、ハイエンド・コンピューティング・システムの市場は複合構造になっている。ハイエンド市場(ワークステーションやサーバ)のうちのローエンド/ミッドレンジ部門は、財務上好調ではあるが、ハイエンド(場合によって、その起源を反映して「スーパーコンピューティング」と呼ばれることもある)部門は伸びておらず、年間の売上は20億ドルに満たない。歴史的に米国のベンダーによって支配されてきたこの部門(仮に、世界中でインストールされているコンピュータのうち最も高速なマシンの上位100を例とする)は、ここ数年の間に激しい統合の期間を経てきた。この結果、国内ベンダーではSGI(Crayの子会社も含め)とIBMだけが残っている。これ以外に米国には、技術系のハイパフォーマンス・コンピューティングを中軸とした大手ベンダーは存在しない。最近設立されたTeraやSRCといった企業も、まだ採算ベースに達してはいない。

同時に、海外のベンダーは超ハイエンドの市場における拡大を目指しているため、今後、専門のハイエンド・システムとして国外ベンダーに依存する可能性が大きくなる。たとえば、1998年11月現在で、ワールドワイドにインストールされているコンピュータ、上位500のうち、米国以外のメーカーの比率はわずか10%程度であるのに対し、ハイエンド系の上位100に限って見ると、米国外のシェアは25%に達する。当委員会では、米国が今後のリーダーシップの強化に向けて産学が協力して、研究開発プログラムへの投資を実施しない限り、この傾向は続くものと考えている。

調査結果:ハイエンド・システム、アプリケーション開発ソフトウェア、アルゴリズム、プログラミング手法、コンポーネント・テクノロジ、およびコンピュータ・アーキテクチャにおける革新技術が不可欠である。

こうした分野における技術革新は、実用のアプリケーション、プログラミング機能、使いやすさ、スケーラビリティの面で一定水準以上のパフォーマンスを維持することを目的とした画期的な手法の考案を目指したものである。ソフトウェアやアルゴリズムの研究開発に向けた財政支援が不足したり、短期的な研究があまりに重視されたりすると、ソフトウェア・ベースが一握りの積極的なユーザーだけに著しく限定される結果になる。

現在、革新的なハイエンド・アーキテクチャとテクノロジの研究に向けた連邦政府主導のプログラムは、規模が小さ過ぎることに加え、この10年の間に著しく縮小されてきた。上に挙げたアプリケーションでは多くの場合、ペタフロップス・レベルのコンピューティングが不可欠となる。ペタフロップス規模のコンピューティングを実現するために、アーキテクチャをはじめ、システム・ソフトウェア、アルゴリズム、プログラミング手法、およびハードウェア・テクノロジの面で革新的な進化が求められている。

調査結果:現在、民間部門の科学技術コミュニティで提供されているハイエンド・コンピューティングの能力は、最先端の水準には遠く及ばない。

今日、情報インフラストラクチャの施設は、科学技術者にとって、ここ数十年の間に共有型の大規模な物理計測器(国の望遠鏡、顕微鏡、原子加速器など)に似た役割を果たすようになっている。NSFやDoEといった部局では、多方面の分野の専門家が研究活動を進められるように、最先端のIT施設に、ピアどうしで相互に監視できるアクセスを提供している。

過去10年間を振り返ると、民間のアプリケーションを中心とした科学技術関連の研究者が利用できるコンピューティング能力の水準は、国家安全保障のコミュニティに比べると、1/2〜1/5程度にしか過ぎない。こうした状況を生んだ原因には、民間アクセス用のマシンに向けた予算が極端に少ないこと、また最初に実用化されたシステムをまず国家の安全保障用に充当するという条件などが考えられる。最近では、民間部門における科学技術コミュニティのコンピューティング能力が、たとえばASCIプログラムなどに導入されている大規模なシステムに比べ1/10〜1/20にも満たないと言われる。またNSFスーパーコンピュータ・センターの数も4か所から2か所に削減し、残りのセンターに設置したハイエンド・システムへの増額はなくするという決定が下された結果、学界での研究者に提供される総合的な能力は著しく低下することになる。

こうした施設は、その機能を最先端の水準に維持していくならば、国家の研究活動を主導していく上でも不可欠となることは明らかである。しかし、連邦政府の当局は、IT施設の機能水準(たとえば、ハイエンド・コンピュータ、ハイパフォーマンス・ネットワーク、大規模ネットワークなど)を、基礎研究の支援と直接的に衝突することがない方向で、引き続き改善できるように、設備機器に関するニーズに対応しなければならない。

3.3.2 推奨案

ハイエンド・コンピューティングでは、通常の情報テクノロジの部門と同じように、今後数十年先を見据えた新しい業務体系パラダイムに対応できるハイリスクの画期的な基礎研究を強化する必要がある。特にハイエンド・コンピューティングにおけるシステム・ソフトウェアとアルゴリズム・レベルのソフトウェアや、斬新なアーキテクチャ、デバイスの研究のほか、学界や連邦政府が、最高水準のパフォーマンスを備えたコンピュータの基本的な研究開発を実施することが最も必要な課題となる。ハードウェア、ソフトウェア、およびアーキテクチャに関する研究は、西暦2010年までに実現可能なペタフロップス/PetaOpsレベルの達成に向けた構想によって効果的に主導できる。

また最大の成果を得るために、NSTCのコンピューティング/情報/コミュニケーション小委員会は、連邦政府の担当部局全体を対象として、ハイエンド・コンピューティング・システムに関する研究活動とアクセスの面で、調整作業を行う必要がある。具体的には、プログラム・プランニングのプロセスを調整して、提案される推奨案をもとに作成する各プログラムを密結合しながら、相互の連携を強化する。たとえば、アーキテクチャとソフトウェアの開発は相互に依存する工程であるため、PetaOpsの推奨基準をもとにハードウェアとソフトウェアの双方の作業を連携して進められるようになる。

推奨案:画期的なコンピューティング・テクノロジ/アーキテクチャの実現に向けた研究の財政を支援する。

最近のスケーラブルな並列アーキテクチャでは、演算に伴うメモリ・アドレスの参照が不定期に行われたり、演算処理をサポートするために膨大なデータをメモリから転送する必要のある重要なアプリケーションには効果的な対応ができないことが明らかになってきた。こうした制限に対応するために、当委員会では新しいコンピュータ・アーキテクチャの実現に向けた研究開発のための財政支援を強化することを推奨する。特に、今日のアプリケーションや将来的なアプリケーションで要求されるメモリ帯域幅を維持しながら、アクセスの待ち時間を短縮、または抑制できるメモリ構造の設計に向けて実質的な研究が不可欠となる。この領域での改善が進むことにより、ほぼすべてのプログラムのパフォーマンスが向上するほか、ハイエンド・ソフトウェアの開発工程もさらに容易なものになる。

当委員会では光学ベースの量子/生物/ニューロ・コンピューティングといった今後有力視される画期的なテクノロジの研究開発を支援することを推奨する。最終的にシリコン・チップ・テクノロジは、物理学の法則と衝突する。この問題がいつ生じるかは、正確には予測できない。いずれにせよ、デバイスがしだいに分子サイズのレベルにまで縮小していくに伴い、コンピューティング・コンポーネントとコンピュータの処理速度が上がるため、科学者には難題がつきまとうことになる。具体的な投資先として、現実のアプリケーションの処理負荷を想定して、アーキテクチャ・デザインの模索や検証ができる画期的なアーキテクチャやフルシステムの研究に利用できるシミュレーション/解析ツールの強化などが考えられる。また、21世紀に向けてコンピューティング能力を引き続き強化するために、新しいテクノロジへの投資も始めるべきである。ハイエンド・コンピューティングに対応したアーキテクチャは、ハードウェアとソフトウェアのテクノロジに関する研究と連携して、反復的に開発する必要がある。またハイエンド・コンピューティングの研究に伴う財政支援の形態も、それぞれの分野との連携を反映しながら考えなければならない。規模の大きいプロジェクトでは、実用面における重要な洞察は産業界からしか期待できないため、業界の参加も重要な要素となる。技術革新に向けた研究が一定の成果を収めた段階で、以降は産業界が実際にこの新しいアーキテクチャとテクノロジをオープンな市場で展開していくことになる。

推奨案:ハイエンド・コンピューティングの性能改善のためにソフトウェアに対する研究開発の財政支援を強化する。

当委員会では、ハイエンド・コンピュータの性能と処理効率を改善するために、ソフトウェアに対する投資を大幅に増強することを推奨する。ソフトウェアへの投資は次の2つのカテゴリに分けて考える。まず、システム・ソフトウェア、アルゴリズムの開発、統合システムを管理するソフトウェアのバランスという点である。システム・ソフトウェアの言語、コンパイラ、実行時ライブラリ、オペレーティング・システム、ファイル・システム、I/Oドライバ、デバッガ、プログラミング・インタフェース、パフォーマンス調整ツールなどを中心としたシステム・システムへの投資によって、処理効率や性能を改善しながら、ハイエンド・システムを大規模なユーザー・コミュニティに提供できるようにする。もう1つはアルゴリズムの開発という領域である。この領域に対する投資は、最先端のマシンを効率的に利用する上でも続けていく必要がある。ソフトウェアとアルゴリズムに関する研究開発によって、メモリの階層構造の有効利用が可能になる。

最大限のパフォーマンスを得るために、コンピュータ環境は、資源の割り当てを実行するソフトウェア、並列の入出力、超高速/大容量のインテリジェント・ストレージ、科学技術用データ管理機能、およびビジュアリゼーションで構成する必要がある。ハイエンド・コンピュータと周辺装置の間に生じる可能性のあるボトルネックの原因を解消することにより、全体的なシステムの処理効率を改善できるソフトウェアについて調査する必要がある。たとえば、ペタフロップス・コンピュータでは、エクサバイト(10の18バイト)規模のデータが生成されるため、まずシステムを高速ストレージにただちに転送して、ユーザーが利用できるようにしなければならない。これらのツールのスケーラビリティは、ハイエンド・コンピュータに搭載するプロセッサが開発されるペースに合わせる必要があるため、重要な要素となる。こうした開発努力は、使いやすさを改善するだけに限らず、国家の安全保障や新しいコンピュータ・アーキテクチャの開発などを含め、アプリケーションの移行を促進する上でも、不可欠となる。

最近登場しつつあるテラスケール・システム(1012オペレーション/秒)を効率的に有効利用するには、ソフトウェアに関する研究開発および展開の面で、大幅な改善を図らなければならない。ソフトウェア、アルゴリズム、ライブラリに対応する効果的なビルディング・ブロックがないと、ハイエンド・ハードウェアは、有効利用のできない単なる高額のテクノロジに過ぎなくなる。実用に耐えるソフトウェアは、積極的で着実で、しかも持続性のある長期的なソフトウェア研究プログラムの成果として初めて生まれるものである。ソフトウェアの問題は、2010年、またはそれ以前にPetaOps(1015オペレーション/秒)レベルの性能が達成されれば、一段と重要になってくる。ペタスケール・ソフトウェアの方向を積極的に探るべき時期は今以外になく、ハードウェアのプロトタイプができ上がってからでは遅い。

またハイパフォーマンス・ソフトウェアの研究に対する財政支援に限界があると、一部の研究グループには、潤沢な支援の得られる別の領域にテーマを切り替えるところも出てくる。テラスケールやペタスケールのソフトウェアを模索する知的集団を拡充、または維持していく上で、政府は長期的なソフトウェア研究に向けた財政支援を強化する必要がある。

推奨案:西暦2010年までにバランスの取れたソフトウェア/ハードウェア戦略を通じて、実用向けのアプリケーションでPetaOps/ペタフロップスのレベルを維持しながら、ハイエンド・コンピューティングの研究に向けた財政支援を強化する。

当委員会では、CIC/HECC(High End Computing and Computation)プログラムで提案されたペタフロップスの活動について検証してみた。このプログラムが主導している暫定調査では、2010年までに期待される性能を達成するには、テクノロジの飛躍的な発展が不可欠になると結論付けている。重要なアプリケーションでPetaOpsまたはペタフロップスのレベルでの性能を持続できるシステムの構築を目標とすることにより、ハードウェア・テクノロジ、新しいアーキテクチャ、ソフトウェア・システム、およびこうしたシステムを実現するためのアルゴリズムについて研究を進めるための有効な手段となるものと考える。したがって、このプログラムの財政支援をさらに強化して、アルゴリズム、システム・ソフトウェア、アプリケーション・レベルのソフトウェア・コンポーネント、ハードウェアの面で必要とされる技術的発展を支えていく必要がある。

PetaOps/ペタフロップス・レベルの性能を維持するための目標は、それ自体が目的ではなく、テクノロジを発展させるための原動力として認識することが重要である。現実にこのレベルの性能は、単なるハードウェア・テクノロジの高速化と、ハードウェアの並列化だけでは達成できるものではない。この水準の性能を達成するには、ソフトウェアとハードウェアを密結合したバランスのよい設計が不可欠になる。単にPetaOpsレベルの性能を発揮するコンピュータ・システムを開発しても、全面的なハイエンド・アプリケーションに応用できるソフトウェアやアルゴリズムがなければ、意味がない。たとえば既存のアーキテクチャと、将来的に有望なアーキテクチャ(たとえば、プロセッサ・インメモリ型のコンポーネントを搭載したアーキテクチャ)を技術的な側面から比較・検討できる適切がプログラムが必要になる。また、数万〜数十万個のプロセッサを搭載したコンピュータをプログラムするためのソフトウェア上の課題や、メモリ中の階層構造にも適切に対応できような設計も必要となる。

十分な財政支援を提供することにより、主要なハードウェア/ソフトウェア・テクノロジへの直接投資と開発を強化すれば、仮にこれが中短期的なスケールのコンピュータ・システムには即座に応用できない場合でも、ペタフロップス・プログラムが、長期的な観点から見たコンピューティングの目標に意義があることを実証することによって、ペタフロップス水準の実現に向けた進化が一段と早まるようになる。

推奨案:科学技術関連の研究を支援できる強力なハイエンド・コンピューティング・システムの実現に向けた財政支援が必要である。

ハイエンド・コンピューティングは今、科学技術の研究開発の幅を拡大する上で重要な要件となっている。先ごろ、コンピュータ化学の分野でその成果が広く応用されている開発努力を続けた先駆者的なコンピュータ研究者2人に、ノーベル化学賞が授与された。こうした分野での研究活動の貢献に基づいて、私たちは新素材の動作を解き明かしたり、生物構造の理解を深めたり、人間の生活環境の認識や向上を図ったりできるようになる。

今後、米国が世界のテクノロジ・リーダーとしての位置を保持していくには、科学技術関連のエンジニアは、最高の性能を持つコンピュータにアクセスできなければならない。したがって、当委員会では連邦政府が主な施設共有センターを通じて、引き続きこうした高性能のコンピュータを研究グループに提供していくことを推奨する。科学技術に関連する分野を問わず、長期的な基礎研究を拡充するにはまず、研究コミュニティ全般にとって最も効果のある方向でセンターのコンピューティング能力を強化することを第一優先に考える必要がある。具体的には、NSFのPACI(Partnerships in Advanced Computerational Infrastructure)センター、およびNSF National Center for Atmospheric Researchなどの特定の分野を支援する専門センターなどがある。

ハイエンド・コンピューティングを調達する場合、まず学術向けコンピュータのパフォーマンス・レベルを特定の任務のある当局の水準に極力近つけることを最優先に考える必要がある。たとえばDoEのASCIプログラムは、コンピュータ・パフォーマンスを表す最新のベンチマークとされている。第2に、専門のミッション・センターの能力を強化する必要がある。DoD、DoE、NASAといった特別任務を帯びた当局では、ハイエンド・システムを調達するための追加資金を確保しなければならない。当委員会ではNSF PACIセンター、および特別任務のある当局が協力して、支援団体からは独立した方向で、科学技術にコンピューティング能力を提供することを推奨する。

また、情報テクノロジに関する研究を支援できるようにハイエンド・コンピューティングの用途を広げる方向での努力も不可欠となる。提案されたペタフロップス/PetaOpsアーキテクチャのシミュレーションを実行することは、こうしたシステムで使用するソフトウェアを開発する上でも必須の条件となる。ただし、こうしたシミュレータ自体も、最高水準の性能を発揮するコンピュータがなければ、単純な演算カーネルを実行することさえできなくなる。当委員会では、第5.3項で説明する"Expeditions into the 21st Century"(21世紀への探求)の研究開発活動を支援すべく、ハイエンド・システムの投資をさらに強化することを推奨する。ハイエンド・システムによって、真の技術革新に向けた研究が可能になるため、21世紀に向けてハイエンド・コンピューティングの技術を利用できる研究者グループを育成する上でも効果がある。また、ハイエンド・システムにより、新しいアプリケーションに対応する環境も実現されるため、米国内の重要なハイエンド・コンピューティング市場に対応するニーズの拡大にも貢献する。

推奨案:NSTC CICのHECC(High End Computing and Computation)作業グループの調整プロセスを強化して、政府のハイエンド・コンピューティングに対する投資の主な要素にすべて対応できるようにする。

当委員会では、連邦政府が実施しているハイエンド・コンピューティングに向けた研究開発、調達のための投資予算、計画をすべて、NSTC CIC小委員会の作業グループに提示することを推奨する。現在、エネルギー省のASCIプログラムや国防総省のHPCMP(High Performance Computing Modernization Program)のハイエンド・コンピューティング・プログラム、およびNSAの一部のプロジェクトでは、大規模な投資が決定的に不足している。したがって、こうしたプログラムでは、連邦政府の部局間のハイエンド・コンピューティングに向けた調整作業が欠如する結果になる。大規模な投資が不足する結果、ハイエンド・コンピューティングに向けた調整や研究開発活動のプランが難しくなるという現状がある。

予算に関する推奨案:ハイエンド・コンピューティングの研究および調達について、2000〜2004年度の間に、現在の財政支援水準をさらに強化する。

ハイエンド・コンピューティングに向けた開発業務を支援する予算は、次の3段階のステップを追って編成された。まず、革新的テクノロジ/アーキテクチャ、ハイエンド・ソフトウェア、PetaOps/ペタフロップス・レベルの維持、ハイエンド・コンピューティングの調達という4つのテーマ別に各小委員会を設置した。次に、本報告書のこの章で説明する調査結果に基づいて、各小委員会が独立して、基本的な推奨案に関する技術上の目標を定めた。第3に、各小委員会が、それぞれの目標を達成する上で必要となる予算を算定した。下表に示す予算は、最初の3つの小委員会を合わせた予算額を示すものである(4つ目の調達に関する予算は別途設けた)。

下表の値は、当年(1999年度)支援水準に加算して算定した。

ハイエンド・コンピューティング関連の研究に向けた財政支援(単位:100万ドル)

 

FY 2000

FY 2001

FY 2002

FY 2003

FY 2004

ハイエンド・ソフトウェア、
アーキテクチャ、
PetaOpsコンピューティング

180

205

240

270

300

ハイエンド・コンピューティングの調達

90

100

110

120

130

合計

270

305

350

390

430

上の表は、4つの推奨案のうち最初の3つのテーマを合わせたものである。なお5番目の推奨案では、現在のHECC相互調整プロセスに含まれていない研究課題は対象外としてある。

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