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2. 連邦政府主導の研究に向けた優先課題

政府が支援する情報テクノロジ関連の研究活動はこれまで、技術革新を支える上で計り知れない成果をもたらしてきた。こうした研究の成果は産業界でもただちに応用されるようになっている。産官学が関与する実験レベルの活動は、技術移転を支援する強力な原動力の役割を果たした結果、民間部門、産業界、政府、国家では多大な利点を享受できるようになっている。

かつてアイゼンハワーやケネディの政権当時に着手された情報テクノロジ関連の長期的、かつ広範な研究に向けた投資の成果として、今日私たちは経済、戦略、社会などさまざまな側面でその利益を享受できるようになっている。こうした地道な投資が、今国家的に多大な経済的メリットをもたらすものである。この論拠は、経験的にも疑いのないところである。最近の情報テクノロジ(IT)部門における成長は、経済のどの部門をも陵駕している。連邦準備制度理事会では、ここ5年間で、コンピュータ、半導体、通信機器の各分野における生産は、かつて業界全体で28%の成長率を達成したときに比べ、4倍相当に増加したと報告している。これら3つの部門だけで、1992年以来、全体の成長の1/3を占めている。

米国経済の成長全体を見ると、これに匹敵する部門はほかにない。またこうしたテクノロジをきっかけに誕生したビジネスでは、製造/情報処理の関連分野で数100万人規模の雇用を生み出し、全国平均を上回る賃金レベルを維持している。

歴史を振り返るとわかるとおり、ビジネスを成功させるには、連邦政府による研究開発に向けた投資を柔軟な形で維持しなければならない。また連邦政府では、長期的な技術開発を支援、促進、そして調整していく必要がある。連邦政府主導型の研究開発(R&D)プログラムは綿密な設計のもとに考案すると同時に、民間部門が効果的に対応できる部分まで助成することがあってはならない。業界が見落としている部分や、連邦政府の各部局の役割が相互に交差することで、通常の業務では見過ごされるような重要なテクノロジへの投資を励行する必要がある。

 

2.1 調査結果

情報テクノロジ関連の研究開発に向けた連邦政府の投資は十分ではない。

ハイテク関連部門の成長率(インフレを除外)は、今後米国が世界のリーダーシップを維持し、賃金水準の高い仕事を提供する新しい全体的な新しい市場を創出していく上で重要な要素となる。また、情報テクノロジの意義は、国家の多くの優先課題に対する解決策をもたらすという意味で、単なる経済的な側面だけにとどまらない。とは言え、連邦政府の研究開発関連の投資額は、応用研究が重視される傾向の犠牲にもなっている。当委員会では、情報テクノロジの研究開発に向けた連邦政府の投資水準は、ITの国家に対する経済、戦略、社会的な重要度の高まりには対応していないと考える。

コンピュータ科学や情報テクノロジの分野における提案の数を見ると、いかにも研究開発の業務に向けた財政支援が不足しているという問題が明らかになってくる。たとえば、NSF(National Science Foundation:国立科学財団)が支援しているKDI(Knowledge and Distributed Intelligence:知識/分散インテリジェンス)の競争入札では、わずか75件のプロジェクトしか助成が認められないことが発表されていても、高い関心を示す問い合わせが1100件を超え、850件を超える提案の応募があった。またASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative:アクセラレーテッド戦略コンピューティング構想)に基づくレベル2のセンターの入札でも、同様の応募が寄せられた。こうした関心の高い反応は、情報テクノロジの予算がきわめて逼迫している実態を表すものである。研究者は、一見適切と思われる競争には、半ば強制的に参加させられる。最終的に、研究者は本来の研究課題はさて置いて、提案書の作成といった多大な時間を費やすことになるため、せっかく優れた発想があっても適切な助成を受けられない結果になる。

以上のような傾向自体は、情報テクノロジ関連の研究者にとってはそれほど害はないが、国家にとってはいかにも大きな損失となる。研究開発に充当する投資が不足する結果、信頼性のあるソフトウェアを作成し、情報ネットワークを構築し、国家がこれを運用しながら、科学技術、エンジニア、防衛といった高度な用途に向けたハイエンドのコンピューティング・システムを生産し、同時にこうした革新技術がもたらす社会/経済面での効果に関する理解する能力とが脅かされる結果になる。研究開発を怠ると、問題は単に基礎的な知識の蓄積が枯渇するだけではとどまらなくなる。全体的な研究開発システムの長期的な効果が期待できなくなり、21世紀に新たに確立する情報ベースの経済において、もはや米国は主導権を保持できなくなる。

調査結果:連邦政府が実施しているIT関連の研究開発は、短期的な考えが重視され過ぎている。

NSFでは、基礎研究の意味を次のように定義している。

「プロセスや製品への具体的な応用はせずに、現象や客観的事実の基本的な側面を追求する研究のこと」

これに対し「応用研究」では、実際のニーズに対応するための具体的な手段を追求することが主眼とされる。「開発」とは、有効な素材、装置、または手法を作り出すための知識に関する体系立てて活用することを言う。以上のような定義は、連邦政府の政策や予算報告の中でも広く使われているが、正確には研究開発の特性のごく一面を表したものに過ぎない。研究開発(R&D)とは、概念と理論、データと実験、新しい製品とプロセスの間に見られる非線形の複雑な相互作用にかかわるものである。このうち基礎研究は、こうした複雑に入り組んだ系のきわめて重要な部分を占める。

ここ10年の間に産業界も政府も、テクノロジ関連の基礎研究と、開発/商品化に向けた後工程の間におけるバランスをシフトさせてきた。これと同時に、大企業も基礎研究に対する経費を削減してきた結果、研究スタッフは中央の研究室から実用向けの製品やプロセスに密接にかかわる実用面での業務にシフトしつつある。公共部門、民間部門はいずれも、相互に関係し合う理由として、次の3つを挙げている。

(1)予算削減の圧力
(2)ミッション指向への移行
(3)長期的研究から短期的な製品への移行に伴う効率の悪さ

連邦政府の研究開発に向けた全体的な支出は安定しているものの、応用のための研究開発を支援する動きが顕著になってきている。たとえば、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防総省高等研究計画局)では、1980年代は革新技術を支える助成を積極的に行ってきたが、1990年代に入ると、あらゆる情報テクノロジに関する支援について、ミサイル攻撃に対する影響という観点から判断するように、優先順位が変わってきた。こうした変化が進むに伴い、潜在的な技術移転に割り当てる時間枠が制限されるようになっている。1990年代初めに、DARPAでは特定の軍用システムのニーズに対応するために、情報テクノロジ局と情報システム局を切り離した。にもかかわらず、DARPA情報テクノロジ局における基礎研究への全体的な財源は、局全体の2億ドルという予算のうち、わずか2,000万ドルに満たない。ここでも投資の不足という事態がうかがわれる。DARPAが打ち出した新しいリーダーシップ・プランはまさに、こうした流れの逆転を図るものではあるが、最近の傾向として政府の研究部門が緊縮予算という厳しい条件下で、長期的な研究か、短期的な任務遂行型の開発か、という二者択一を迫られると、担当部局の責任者が任務遂行を優先されるのは止むを得ないことでもあろう。

1990年代初期にかけて、産業界や政府が地球規模の市場における競争力を高め、当時はもとより、将来的な競争相手に対抗していくために、研究開発に向けた投資予算の再編成は不可欠の課題であった。しかし、こうした再編成はかつて高い代償を伴った。基礎研究に向けた活動が低下するという問題である。コンピュータ科学に関する研究開発が、その好例である。1995年、連邦政府では独自の調査1を実施した結果、コンピュータ科学を中心とした学術関連の研究に向けた政府予算の2/3以上が、応用技術の方面に充当されていることが明らかになった。

当委員会では、情報テクノロジ関連の研究開発に関する連邦政府の検討課題が、短期的な応用研究の方向に移行し過ぎているため、実際の現場が直面している基本的な問題を中心とした長期的でハイリスクの基礎研究が犠牲になっている事態を指摘しておく。現在、研究開発関連の資金は、主たる目標が情報テクノロジ関連の知識ベースの開発ではなく、それぞれの管轄当局が直面している当座の問題に対応するために、ミッション指向の当局の研究予算を財源としているところが多過ぎる。一方、情報テクノロジは、その他の分野に比べ、変化の速度が著しく速い。将来的な課題を逸早く察知できるように、目先の前進ばかり重視するのではなく、柔軟性のある目標を設定する必要がある。情報テクノロジの分野に関する限り、スケーラブルな情報インフラストラクチャという領域では変化の速度がきわめて速いため、長期的な研究目標に合わせた伸縮性を確保することが重要になる。

経済成長と防衛におけるリーダーシップは、従来の研究結果を基礎とした改善を主体としている限り、維持することはできない。また、最先端の情報テクノロジに基づく経済効果を追求していく上で、諸外国がこれを黙認していくはずがない。当委員会の試算によると、基礎研究に向けた支出は、情報テクノロジを中心とした研究開発向けの予算全体から見れば、わずか5%に過ぎない。この結果、短期的な技術開発の目標が優先されるため、長期的な視野に基づいた将来性のある研究は先送りになる。

今まさに、振り子の方向を逆転させ、適切なバランスを保つべき時期に来ている。今後10数年の間に、新しい専門分野のパラダイムに実践できるアイデアと手法を実現する画期的なハイリスク・ハイリターン関連の基礎研究が必要になる。今後40年の間に、実利の期待できる賢い投資が不可欠になる。

調査結果:情報テクノロジ関連の研究開発に向けて連邦政府が行ってきた研究開発への支援の内容は不十分である。

現在、行われている財政支援のポートフォリオはバランスのよい配分になっていない。まず複数年にわたる時間枠を取って、研究課題に取り組める多分野型の研究プロジェクトに向けた支援が十分でない。長期的で規模の大きいプロジェクトを支援することが、連邦政府の研究開発プログラムには不可欠になる。大規模なプロジェクトを実施することにより、学界や連邦政府関連の研究機関など多方面からの複数の研究者を集めて、産官学が協力して実験を実施したり、概念の証明を行ったりできる。長期的なプロジェクトによって、複数年にわたる時間枠で研究課題に取り組めるため、予定外の重要な発見を導くことも考えられる。

連邦政府の投資には、従来のPI(principal investigator:単一テーマ)型の研究をはじめ、多様な専門分野にわたる多分野型研究プロジェクトを複数年かけて推進していくことにより、補完的な財政支援の道を確保することが重要となる。これにより、相互に補完できる研究活動が支援されるため、問題の解決に向けて幅広い展望が開ける結果、新しい発見の可能性も広がる。

 

2.2 研究事業に関する推奨案

情報テクノロジに関連する最近のブームは、今から10年以上も前に実施されたコンピュータ科学関連の基礎研究による成果によって支えられている。今、知識ベースを拡充すべき緊急の課題がある。情報テクノロジに向けた綿密な計画と統制に基づくインテリジェントな投資により、従来の形態から脱却し将来の世代に向けて、情報化時代における役割を果たしていく対応が不可欠になる。

推奨案:長期的な情報テクノロジ関連の研究開発に向けて戦略的な構想を考案する。

当委員会では、大統領が主導してコンピューティング、情報、コミュニケーションといった基本的な課題を中心とした長期的な研究を支援すべく実質的な追加投資を敢行して、戦略的な構想を策定することを推奨する。こうした構想では、最初の5年間を経過した段階で、助成額を年間20億ドルを超える水準にまで拡大する必要がある。連邦政府の予算当局は展望性に富んだハイリスクの研究開発を促進すべく、予算を増額しなければならない。この目標は、かつて上位の担当部門に見られた活気のある研究活動を大学や研究機関でも回復することにある。

連邦政府が提案した西暦2000年度の予算案では、"Information Technology Initiative"(IT2:情報テクノロジ構想)を通じて、IT研究活動の成長を維持していく積極的な方針が打ち出されている。こうした積極的な取り組みは、革新的な研究成果をもたらすために、研究費用を拡大し、新しい管理システムを創造するという連邦政府側の努力を持続する上でも重要な第一歩となる。しかし、研究活動は決してここで終わるわけではない。長期的な研究に向けた投資から生まれる問題を解決すべく、さらなる拡大と洞察の継続が必要になる。21世紀に向けて米国がリーダーシップを維持していく上でも、重要な社会問題を解決する上での重要性と経済面での優位性に合わせて、情報テクノロジに対する連邦政府の支援を強化していかなければならない。

推奨案:ソフトウェア、スケーラブルな情報インフラストラクチャ、ハイエンド・コンピューティング、社会/経済/労働市場に対する影響に関する研究への投資を増強する。

研究課題全般のうち、特に次の4つの分野に注目して、これらを戦略的構想の主要部分として捉える必要がある。

●ソフトウェア
あらゆる種類の高品質ソフトウェアを効率的に開発/保守し、米国経済の中心として重要なインフラストラクチャ(人とコンピュータ・ベース・システム/装置の間を結び、情報を管理/運用するための情報基盤)を提供する複雑なソフトウェア・システムの信頼性を保証するための手法
●スケーラブル情報インフラストラクチャ
通信システム、インターネット、大規模データ・レポジトリ、その他新たに出現するシステムも含め、国家規模の情報インフラストラクチャの信頼性と安全性を保証するとともに、今後20年の間に広帯域幅が要求される新しい大規模なユーザーやアプリケーションに対応して円滑な成長を支える必要がある。
●ハイエンド・コンピューティング
高速で強力なコンピューティング・システムの開発に向けて投資と技術革新を引き続き支援する。こうしたハイエンド・システムは、航空機の設計から、天候/気象モデリングに至るまで重要なアプリケーションを実現する上で必要になる。
●社会/経済面での問題
社会、政治、労働力の面における情報テクノロジの影響を調べる研究を財政支援する。さらに、情報テクノロジの潜在的な問題を解決し、利点を最大限に引き出すための手法を集中的に研究する。

当委員会では、国家の経済、防衛に関する具体的な優先課題を中心とした投資を増強し、第3章に示す通り、米国のリーダーシップを維持していくことを推奨する。

推奨案:プロジェクトの規模と期間を拡大するための財政支援を確保する。

私たちは今、新しい世紀を迎えようとしている。まさに、情報テクノロジが経済的にも、軍事的にも決定的な要因として重要な役割を果たす時代である。こうした21世紀の新たな課題に対応するために、連邦政府が支援する研究開発活動の形態をさらに拡充する必要がある。コンピュータ科学と情報テクノロジはともに、相互に連携する分野である。よって、学際的かつマルチ機関から成る研究チームとともに、各種テクノロジを将来に向けて発展できる大規模な研究活動を中心とした多数の機関において、研究者を積極的な参加と支援が不可欠となる点を特に強調する必要がある。

本報告書の第5章では、次の目標を達成するために研究活動への支援を多様化するための方法について説明する。

以上のようなアプローチによって、政府は重要な研究目標に合わせて財政支援のメカニズムを適合できるようになる。

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