全体的にADL報告は米国における研究投資の現状を知る上で、簡潔で示唆に富む良い報告といえよう。計算機関係で言えば、現在、私自身が注目している技術およびプロジェクトはほぼ全体的に網羅されており、また、ここ数年来のメガトレンドであるコンピュータ技術の通信シフトについても各所で言及されている。逆にいうと、全く予想外というトピックはほとんどなく、私自身が理解している米国研究状況と同様な報告がなされたという安心感と、本当に大事なことを見落としていないだろうかという懸念が半ばしているというのが正直な感想である。以下、報告書の順に気づいた点をコメントする。
財政支出の抑制、国防予算の縮小が叫ばれている中で、米国のR&D投資が実質的に増えているのか減っているのかを統計情報から判断するのは非常に難しいといえよう。また、情報技術(IT)と一口にいっても内容は多岐にわたっており、できれば、その中身の変化についてももう一歩突っ込んだ分析があれば、より的確な予測ができたのではないかと思う。例えば、本報告ではHPCCに焦点をあてているが、情報関連でこれまで中心的役割を果たしてきたスーパーコンピューティングセンターについてもNSFは再編を計画しているという。今後さらに、通信分野が強化されるのか、コンピュータ分野であらたな動きが出てくるのか判断が難しいところである。SGIによるCRAY買収、MyricomのようなWS/PCクラスタ用高性能LANの台頭、$500端末やTV-PC融合の動きは何を物語っているのか。一方で、ペタflopsマシンプロジェクトの話が浮かんでくる背景は何なのか。いずれにしても、高性能計算(HPC)研究は一つのターニングポイントに来ており、これまでのように単純に研究費拡大というわけにはいかないであろう。本報告も、HPCCとその他というくくりでなく、情報と通信という視点で区分してみると、もう少しトレンドが明確になったのではないだろうか。
米国の政府出資の仕組みとして、トップダウン的政策とボトムアップ的研究提案がうまく協調しているという分析はまさにその通りと思う。さらに、DARPAのプロジェクトマネジャー制度やNFS的なピアレビュー制度による短期研究評価と長期研究評価の棲み分け等、日本が学ぶべき点は多いと思われる。しかしながら、このような研究評価制度が機能している背景には、流動性の高い雇用関係、ミッション指向の業務体系、明確な個人の権限と責任といった米国の持つ社会的文化的要因も大きいと思われる。本報告の守備範囲ではもちろんないが、日本から、世界を動かすようなビッグサイエンスを発信したり、独創的な研究を推進させるためには単に制度の改革にとどまらず、「出る杭を生かす」ような風土作り、ひいては、「個性」を尊重するような教育制度にまで踏み込む必要があろう。
本報告の中で特に協調されていた事項の中に、「実用化研究への支援」がある。従来、大学での研究成果は「公開」が原則であったから、研究開発者へのロイアリティの付与は180度の方向転換となる。しかしながら、この点ばかりが協調されすぎると本質を見誤る可能性があると懸念する。まず、第1に、大学研究の内、実用化に結びつく研究は極めて少ないということである。第2は、実用化研究は大学ではなく、ベンチャー企業として別組織で行なわれるということである。すなわち、少数の成功した研究者のビジネスをいかにして支援するかということがロイアリティ付与の目的であり、これを持って米国の大学研究が変わったと結論づけるのは早急であろう。私自身は、米国の情報産業の強さは、やはり大学(non profit団体およびnot for profit団体)の持つ「公開性」にあると考えている。大学という公開の場で議論されるからこそ、新技術が生まれ、育成されるのだと理解している。
本章は、時間の都合上、個々の技術の紹介まではなされなかったが、報告書の内容は良くまとめられていると思う。以下、専門分野の立場から気づいた点だけ指摘しておく。
Hive computingは、MPPに代わるものとして紹介されているが、これは、CM-2、Masspar、n-cubeのように数千PE、数万PEからなる超並列マシンとは違うというように解釈すべきである。IBMのSP-2、IntelのParagon、日本の Cenju-3、AP3000、SR2100といった並列マシンは実際にはhive computingにカテゴライズされるといって良いだろう。また、バークレー大学のNOWとプリンストン大学のSHRIMPは既存の WS/PCの利用を考えているが、スタンフォード大学の FLASH(magic chip)は専用のプロセッサボードを設計するための技術である。
Virtual factoryやtechnology CADと呼ばれている設計技術は今後大きな発展が期待できる領域の一つであろう。ただし、現段階では要求される計算量が巨大すぎて、実現できる範囲とのギャップが大きい。重要なテーマではあるが、半導体ビジネスとの関連が強いため、企業内研究向きテーマといえよう。研究の初期段階であれば研究組合のような形での研究推進も可能かとは思われる。
DNA computingに関しては、何故、ここで注目テーマとして挙げられたのか理解に苦しむ点がないわけではないが、インタビューされた研究(管理)者の分子生物に対する期待感がそれだけ高いということであろう。過去においても超伝導材料がブームになったことが何度かあったが、プロセッサ材料としては、コスト等の要因でシリコンの適応領域がさらに拡大しつつあるというのが現状である。DNA computingは計算原理が従来型プロセッサと異なるという点では評価できるが、組み合わせ的検索が高速化できるというだけでは工学的価値はそれほど高くない。もし意味ある形で実用化されるとしたら、現在CMOSで実現されているような計算がより高速にできるということではなく、もっと質的に異なる計算(もはや計算と呼ぶような代物ではないかもしれない)が行なえる場合であろう。分子材料、遺伝子工学にはそれだけの魅力と可能性は確かにあると思う。
Human Interface/Intelligent Systemsにおいて、「知識処理」が不人気であるのは予想通りであった。「知識」そのものの「科学的研究」から「知識工学」にシフトした際に、顕著な功績を残せなかったことがその一因であろう。研究者の関心が「自然言語処理」、「音声認識」、「画像認識」といったヒューマンインタフェースにシフトしたのは当然の成りゆきと思う。ただ、調査資料2第Ⅲ章の表の中で、DARPAのプログラムの中にartificial naural network technologyが残っていることは意外であった。AIの下降とともに、NN研究も下火になったと理解していたが、DARPAのプロジェクトとして推進すべき研究課題が、まだ、残っていたということであろうか。少し気になるところである。
Communicationにおいて、高性能ネットワーク、モバイル、情報サービスが重要という指摘はまさにその通りと思う。電子通貨、セキュリティ、分散リアルタイム処理など解決すべき課題は多い。ただ、本報告ではどちらかと言えば要素技術の紹介が多いようである。情報技術の視点からの分析ということで対象からはずされているのかもしれないが、今後の通信技術の発展、ひいてはコンピュータ技術へのフィードバックの大きさを考える上で、「放送」と「通信」との融合あるいは相互乗り入れの影響は十分検討すべき課題と考えている。
米国のホットプロジェクトを時間軸(stage of research)と技術領域(scope of research)の広さという2軸にマッピングする分析法は本報告独自のユニークな手法であり興味深い。このような軸による分類がどれだけの意味を持つかについてはあえてコメントを控えさせて貰うが、本報告が指摘する通り、米国における情報技術の活性化の原点は大学の「システム開発」への重点投資にあることは疑いの余地がない。大学でシステム開発が行なわれることは、産業界へは実用化へのスムーズな技術移管を大学サイドには、人材育成の機会提供、研究ニーズの明確化、技術の伝承および伝播をもたらす。残念ながら、現在の日本の大学でのシステム開発力は極めて脆弱であり、産業界からのニーズを満たすことは困難である。その要因として、大学自身が伝統的にアカデミック指向が強いということもあるが、博士課程学生が少ない、プロジェクトごとに研究要員を確保できない、講義コマ数が多いなど、様々な制度的弊害もあろう。
幸い、一部の大学では、米国型のシステム開発を目指す動きが始まりつつある。このような開発体制は一朝一夕には構築できないと思われるが、情報技術の発展のために、是非とも実現して欲しいものである。システム開発力に関しては、国内メーカー研究所は米国大学以上の力を有しているが、人員規模、技術の公開性に限界がある。日本全体の情報技術のレベルアップにはより大きな人材プールでの技術の継承、伝播を支援する仕組みが不可欠である。そのためには、情報の公開が容易な大学での最先端システム開発の支援がもっとも早道と考えている。米国のように、「情報の囲い込み」を行なうのは情報公開が定着してからでも遅くはない。
先端情報技術研究所からの委託によりアーサ・D・リトル株式会社が行なった「米国政府による情報技術研究開発運営の現状と技術開発動向」に関して、4月26日に行なわれた最終報告に基づき、
にかかわるコメントである。
ADLの報告の中でとくに目を引くのが、国が研究投資を行なう対象と実用化に対する考え方の違いである。米国では企業が技術を実用化できる技術を開発する段階まで、国が投資を行なっている。ただし、本当に商品化する段階では補助を行なわず、最後の商品化リスクは企業に負わせている。技術が実用化される事で始めて研究投資が成功したと見做すためである。日本株式会社でなく、米国ベンチャー会社とでも言えるものだ。
「最後のリスクは自分で負え」「実用化される事で国民の利益となる」は、日本にも同じような理念はあるだろう。しかし、「実用化=商品化」である事をはっきりと認識していると言う点が米国の特徴だと考える。更に、重点テーマ選定に関して、国としての統一見解を持ち、大枠での方向付けと方向の見直しが、メンツに因われず行なわれていると言う印象がある。そう言った意味で、国としての方向付けと研究者からの提案がアクティブに行なわれているようだ。
通常、日本で考えられる「国が投資するのは、直接利益が見えないため企業が投資するのが難しい、長期・基礎研究である」との相違が目立つ。商用化を目前にするまでの間の研究援助方法が、具体的には良く分からない。
日本において、国家が研究投資を行なう場合、投資の安全性や効果などの予見から、大企業や有名大学に投資が偏る傾向がある。しかし、大学はともかくとして、大手情報関連企業に対しての投資はあまり有効であるようには見えない。
なぜなら、
などからである。
したがって、企業側には研究投資に対しての緊張感は余りなく、ハングリーさが欠けているのではないかと考えられる。
一方、大学では、実用化が見えるようなテーマは選ばれない傾向が強く、そのテーマの成果が企業により実用化されるケースは、計算機技術関連ではあまり見受けられなかった。
日本の大学で、実用化に近いテーマが選択されないのは:
などだと考えられる。
大学で基礎的な研究を行ない、企業で実用化研究を行なうという分担がうまく働いているとも思えない。それは、企業への投資(補助金?)の財布と大学への投資の財布の出どころが異なるため、相互の投資に関連がなく投資効率が悪いことが理由だと思える。
国として、研究を進めてゆく方向を定めるための手段を明確化することが、第一に必要とされる事である。例えば、米国の情報ハイウェイ構想を打ち出すには、技術的な裏付けと見通しが必要だったはずだ。そのような情報をどのように入手し、構成したのかを理解する事は国としての投資を考えると重要なことである。この点に関してADL調査に明確に回答がないのが残念である。
また、大枠の方向性が定まった後に、その方向性を個別のテーマにブレークダウンしてゆく手法は、トップダウンで出来る作業ではない。ここで言うトップダウンとは、(中央省庁+有識者)を指す。この点に関して、米国が複数の研究投資対象を競合させて成果を刈り取る方法を採用しているのは、最前に近い方法なのかも知れない。
ADLの報告とは関係ないが、あるソフトウェアCAD開発のベンチャー企業の方から、求人に関しての相談を受けた事がある。その内容は、「会社がある程度大きくなった段階で、大学卒の優秀な人材が極めて取りにくくなった」と言うのである。
理由は:会社が出来たての頃は、ある意味で創業者の片腕として会社に入社するので、やる気のある人間が取れる可能性がわずかながらある。しかし、100人規模程度に成長した段階で、悪く言えば中小企業と見做されてしまうため、有名大学卒の学生が見向きもしなくなってしまう。そう言った会社に求人に来る人間は、大手会社で先が見えて来た管理職など、バリバリの技術者と言うにはトウが立っている人だけになってしまう。以前に比べ、技術者の定住指向は弱まってはいても、大手指向が強い事を示している。
一方、投資をする側も受ける側も、従来の大型国家プロジェクトの枠から抜けていないため、こう言った会社が国から研究投資を受けるような仕組みは、今の日本にはない様に見える。
米国流の投資・開発スタイルがそのまま日本で有効に作用するのかは不明である。しかし、最低限「公開の原則」は周知しなければならない。
たとえば、大学や、企業に対しての研究投資の結果を分かりやすく、入手しやすい方法で、公開する。学会発表などで、個別に公開されてはいるが、国の行なった研究投資という枠組でまとめて公表する事は重要である。
さらに、大枠の方向付けを行なうような重要な決定に関しては、決定前から広く内容を公開し、批判、意見を得るための体制を作る事。
成果の定義を見直す。実用化研究を重視するのことに対しては、異論が多いと思うが、研究のプロポーザルに対しての評価を行なうのと同様に、成果に対しての評価を行ない、広く公表する事が必要であろう。
企業においては、国からの委託研究内容を自社で利用することに対しての本能的な恐怖意識が存在する。これは、米国で「実用化されて初めて投資が回収される」との意識と根本的に異なるもので、「お上の金を使って懐を潤す」と言う事に対する罪悪感ではないかと思う。
この事は、国の態度だけではなく、国民的コンセンサスの問題なので、企業、(特に)大企業での実用化研究は苦しい内容になると思われる。
(1)報告では、アメリカの研究の評価は「商用化されたか否か」が非常に重視されているとのことである。これは、「技術は、実用化されて始めて公共の利益になる」という思想の反映である。これは、研究支援を行うスポンサー(納税者)にとって、非常にわかりやすい評価基準である。また、研究者にとっても、商用化されれば、研究者自身の利益にもつながることになる。
同様のことは特許制度にもよく現れている。先願主義をとる日本と欧州の国は特許制度が非常に似ているが、アメリカは長い間、先発明主義に固執し、そのため、特許制度の世界的な統一が行われていない。先発明主義は、発明者に対する利益が非常に高い反面、発明内容を秘密にする傾向が助長され、公開が遅れる傾向にある。従って、発明者の利益と公共の利益のバランスを考えた時、発明者に非常に偏った法制度になっている。
このような実用化を重視するアメリカの評価基準は、短期的に成果を出すという点では利点が大きい。しかし、反面、基礎研究がおろそかになる、という危険がある。人工知能のブームが去ってから、「最近の人工知能研究はアメリカよりも日本の方が面白い」という声が聞こえるが、短期的な視野でしか、研究支援を考えないアメリカの欠点が現れているものと考える。
(2)研究補助プログラムの審査・評価体制については、日米の相違が非常に大きい。というのは、アメリカでは、35歳程度のマネージャが研究補助金の分配についてかなり裁量権を持っているからである。これは、日本における補助金配分の審査体制とかなり異なる。
日本では、最近、情報処理分野について、いくつかの研究補助プログラムがスタートした。しかし、補助金額の高さから、応募が殺到し、審査がなかなか追い付かないようである。このような研究補助プログラムでは、書類審査の段階で、国立研究所や大学の研究者に採点を依頼しているようであるが、忙しい研究者が多くの書類を渡されて、どこまで丁寧に審査できているか疑問である。実際、これらの研究補助プログラムについては、応募して落選した場合、どのような点で評価されなかったかの説明が全くない場合もあり、どのような採点基準が用いられたかも明らかでない場合もある。また、権威があって、ある程度の年齢の複数の採点者がつくことによって、個性的な研究は平均点が低くなり、無難な研究テーマが選抜される可能性が高い。また、優秀な研究者を一定期間、ボランティアで審査に専念させるには無理がある。
アメリカの場合、35歳という若い年齢の研究者にマネージャをさせることによって、応募書類の中から新しい研究の芽を独断で発見し、伸ばしていくことが期待できる。
しかしながら、日本でアメリカと類似の制度を導入するには無理がある。日本では、アメリカほど研究者の流動性がないため、マネージャをしたことがキャリアとみなされず、研究者に復帰できない可能性があるからである。
(3)米国では、NSFとDARPAが性格の異なる研究補助プログラムとして機能している。日本では、NSFと類似した制度が文部省の科学研究費であり、DARPAに似た制度がIPAの研究補助制度である。
文部省の科学研究費については、いくつかの問題がある。例えば、重点領域研究に採用されるために、多くの先生が参加した研究体制を組むことがしばしば行われている。多くの先生方の参加された研究チームでは、研究予算が個々の先生に分配されると、極めて少額になってしまい、予算があまり有効に活きてこない。また、これらの研究チームがあまり有機的に機能せず、個々の研究の進展には寄与したとしても、全体としては、ばらばらの成果でしかないこともあるようである。あまり人数の多い研究チームは、本来は分割して、複数の研究チームに重点領域予算をつけ、競争させることも必要だと思われる。
また、科学研究費においては、備品は購入できても、機器のレンタルは制限されるなど、非常に使い勝手が悪いことが問題である。その結果、古い機器が山積みされて有効に利用されない、という事態も生じる。
DARPAが長い歴史を持つのに比べて、わが国の IPA の研究補助制度は始まったばかりであり、その評価はこれからであるが、どこまで長期的に続く制度なのかは未知である。
(4)日本の研究補助プログラムで問題であるのは、一度、当選してしまうと、その研究の中間段階や研究終了後の評価が適切になされないことである。補助金を出す前の審査と同様に、研究の中間段階や終了後の評価も丁寧に行うべきである。研究の中間段階で成果があがらず、最終的な成果も期待できないプロジェクトは補助の打ちきりを大胆に行うべきである。
研究評価を行う場合、研究テーマによっては、論文数だけでなく、役に立つソフトが開発されたか、その分野でインパクトがあったか、など多角的な評価基準を用いる必要がある。
(5)アメリカと日本の相違で重要なことは、日本の大学や国立研究所の研究が実用化や商用化を重視していないということである。
その原因の一つは、研究予算が十分でないため、基礎的な研究しか行えないということにある。研究者に流動性があれば、会社で実用化研究を行った後で、大学で基礎研究を行うこともできる。しかし、現在の日本では、基礎研究や応用研究の役割分担が固定化されすぎていて、一人の研究者の視野が狭くなってしまう傾向にある。
しかしながら、大学や国立研究所が民間会社と共同研究を行うことについては、問題が多い。例えば、(1)で述べたように、日本や欧州では、研究者が利益をあげることについて、アメリカほど割り切った考えができないからである。
また、日本の大学や国立研究所で商用化を重視しない別の原因は、「実用化は企業がやるものである。大学や国立研究所は基礎研究をやる所である。」という役割分担論が強く主張されているからである。これは、ある点ではそのとおりである。しかし、この報告書でもあげられていたように、研究は、基礎研究、応用研究、実用化、の3段階で進展していくのではない。 実際は、1つの研究分野が同時に進行し、各段階でのブレークスルーがあって、互いの段階に影響を及ぼしながら研究分野全体が発展していくのである。その場合、効率良く互いの段階に影響を及ぼしあうためには、「良いアイディアを思いついた基礎研究者がスピンオフして、産業界に入る」ような人間の交流が活発であるか、または、「大学や国立研究所においても、商用化研究を積極的に行なう」などの発想が必要である。
(6)報告書において、いくつかの研究プロジェクトを2つの基準(stage、scope)で整理した点は大変興味ある分析である。ただし、scopeについては、少しわかりにくい点もある。例えば、「研究テーマそのものは幅の広いものではないが、応用範囲が広いため、その波及効果が非常に広く及ぶ場合はどうなのか」、「オリジナリティが非常にある場合と改良研究の場合を区別することはできるのか」などがあまり明確でない。他の整理の基準も必要なのかも知れない。
これまで個人的にはNSFやDARPAに関して断片的にいろいろと聞いていたが、今回のADL報告書のように全体的にはとらえていなかったので報告書を読ませていただいて、とても参考になった。
以下では、2.で、「日本の情報技術を発展させるためには今何が必要か」に関して、公募型研究について私見を述べる。3.では今回の報告書の調査結果についてのコメントとして、今ホットな研究領域と、米国政府の研究開発姿勢自体についての客観性について述べる。
「日本の情報技術を発展させるためには今何が必要か」については、「政府として何をすべきか」という制限条件の上で考えると、提案公募型研究の促進ではないかと考える。報告書を読んでみて、アメリカのやり方は基本的にはそうではないかと理解した。報告書では、NSFではunsolicitedな提案が多く、それらはピアレビューによって採用されること、DARPA、DOE、NASAでは solicitedな提案が多く、strong program manager方式がとられている。solicitedな提案の場合でも、4大機関が具体的なテーマを提示し、それを公募すると理解したが、いずれのケースにしても、研究者が公募し、それが、おそらくはフェアな過程を通して、テーマ採録決定が行なわれるという印象を受けた。
もっとも、昨年度から日本でもこのような方向での研究投資ははじまっている。NEDOの提案公募型研究、科技庁の戦略的研究(戦略的基礎研究推進事業)、IPAの公募などである。
NEDOは、1研究テーマあたり、5,000万から2億円であり、ちょうどNSFのピアレビュー方式と予算的に同額である。情報分野に限らず、医療などの計8分野での公募であり、約2,300件の応募があって、そのうち105件の研究テーマが採録された。このうち情報分野は約10件であり、おそらく情報分野の予算小計は10数億円ではないかと推測される。(NEDOの公募には昨年度、第1次と第2次があり、上記は第1次に関するものである。第2次については、予算額は1件あたり、数千万円程度ではないかと思われる。また採録数については知らない。)
NEDOの公募型研究は、大学、国公立研究機関が対象であるが、おそらく規模としても日本ではじめてのものであったろうし、結構注目を集めた。私がNEDO公募について優れていると思う点は3つある。
一つは、NSF的なピアレビュー方式をとっていることである。大学からの提案は国公立研究機関の研究者が審査し、その逆に国公立機関からの提案は大学側が審査したが、このような、オープンな形での審査が行なわれたことはこれまで日本ではあまりなかったことではないかと考える。審査の公平性が確保されるならば、新規性に富む優れた研究テーマであれば採録される可能性は高いものとなるであろう。
一般に地方の県単位の研究機関ではその性質上、あまり先進的なテーマは取り組まれにくいが、私の知るその種の機関の方も応募していることを知り、こういっては非常に失礼かもしれないが、とても驚いた記憶があり、それだけこの制度が好感と興味を持って受けとられた証左ではないかと考える。
二つめは、研究応募に関わるオーバーヘッドの少なさと、決定までの早さである。NEDOへの応募は確か昨年7月末で、決定は9月末であったとように記憶している。また公募のための書類準備も、それほどの負担とはならなかったが、これらの利点は、緊急性を要するテーマの立ちあげにとっては極めて重要なことであると考える。
三つめは、ポスドク研究者の雇用など、研究人員確保の面での自由が、研究テーマ推進者に許されていることで、これは欧米では当たり前でも日本ではかなり革新的なことである。
逆に改善すればいいと思うことも三つある。
一つは、せっかくのいい制度でありながら、補正予算ベースではじまったことであり、制度自体にある程度の永続性が見えないことである。たしかに今年度もNEDO公募はあるが、ずっと額は減り、総額で25億円程度のはずである。来年度についてはどうなるのか、私はまだ知らないが、より恒常的な形での制度の定着を是非図るべきであると思う。
二つめは、単年度会計から来る制約である。これは国家予算である以上、仕方がない面もあるが、NEDOの第1次募集分については、変則的ではあるが、予算執行は2年にまたがることを許されているので、もし提案公募制度の定着化を図るならば、この点の改善は必須であると考える。
三つめは、これはNEDOのせいではないが、ポスドクなど、研究者雇用の難しさである。日本人でポスドクをとろうとしても、なかなかいい人がいないというのが現状である。インターネットで募集を行なっても、私の経験では、中国、ロシア、イランが多く、しかもその大半がドクタをとったばかりで、生まれた本国では就職先がないから応募したという形であり、そういう人たちが果たして即戦力となりうるかは疑問である。欧米からの応募というのは極めて少ないが、かといって特にヨーロッパでは、研究ポジションが決して豊富なわけではない。そこで、ある程度国家的なサポートとして、人材データベース的なものがそろえられれば、いざ研究テーマがたちあがったときなど、極めて有効ではないかと考える。
以上をまとめると、NEDOが最初となった提案公募型研究は、審査の公平性、立ち上がりの早さ、人材雇用の面で優れたところがあるが、それを生かすためにはある程度 NSF などのように恒常的な形での制度定着を図り、予算執行についても余裕を残すべきである。またポスドク採用などについて、人材データバンク的なものを組織的に整備することなども重要であると考える。
私は、この報告書を読んで、さらに是非知りたいと思ったことは、米国政府の研究投資自体が、米国産業界全体から、どのように評価されているかということである。米国政府の研究投資は、米国全体の総額の3%にすぎないわけで、果たしてこの程度の影響力で将来の研究シードの育成なりを有効にやっていけているのであろうかが知りたい。
日本でも通産省主導で情報産業界を引っ張るという図式が成立していたのはかなり前のことであると思われるが、これだけ変化の速い現在では米国政府の投資自体も、産業界への影響力という点では低下しているのではないかと考える。そのように私が思ったのは3章の、現在ホットな研究分野のところである。これは「米国政府が研究投資対象とするところ」の「現在ホットな研究分野」であるような印象を受けた。つまり、現在の、産業界を含めた世の中の最前線とはいささか距離があるような気がした。
私のコメントを要約すれば、NSFのピアレビュー的な公募型研究の制度的定着を国として図るべきであるが、国によるホットな研究領域の設定は、現在のように変化の激しい世の中ではなかなかトップダウンには行かないものであると考える。ボトムアップな斬新な研究提案をただちに吸いあげ、実行に移すだけの制度を作りあげれば国としてやることは十分であると思う。それだけでも十分に研究者の意欲は活性化されるものと考える。
日本ではインフラというとすぐに情報インフラに注目しがちであるが、過去10年余の間アメリカでは次に説明する6つのインフラに関して次々と整備してきている。アメリカで議論/実行されてきたこれらの6つのインフラ整備を、日本でも議論し同様なプロセスを踏まなくてはいけないだろう。つまり、日本で快適な情報ネットワーク社会あるいはサイバー社会を向かえるためには、少なくとも6つのインフラ整備を早急に具体化していくことが必要である。
6つのインフラとは、法律・政策・税制・教育・NFPO・情報インフラを指す。
世界マーケットで自国の競争力をどのように付けるかまたは向上させるかは重要な案件であるが、各方面の専門家と各省庁の横断的な手腕と強力な指導力が必要である。世界戦略を考慮に入れた政・産・学・官の緻密な連携が必要である。
情報ネットワーク社会構築を念頭に税制上の優遇措置を早急に整備する必要がある。通信機器の原価償却が10年では外国と対抗できない。Not-For-Profit-Organizationなどの税の優遇措置は必ず必要である。
教育上のインフラ整備は一番重要なものであり、また、6つのインフラ整備の中で最もお金と時間がかかる。コンピュータ(道具)がいかに発達しても人間が道具について行けなくては、コンピュータもゴミとなってしまう。情報社会における読み書きソロバンや知的所有権、あるいは情報ネットワーク社会におけるルール(ネチケット)等の知識を我々は身につけておく必要がある。義務教育において知的所有権(パテント等)の訓練は国際社会において必修科目である。
米国ではDISA、AIIM、EMAのような非営利団体(not-for-profit organization)の組織が企業・大学・政府機関の要(かなめ)となってエレクトロニックコマースの普及に弾みをつけてきている。政府指導でない非営利団体組織は日本にとって必要不可欠である。例えば10年目を迎えたDISAの組織団体はEDIを中心に拡大をし続け現在800以上の団体会員を抱えている。DISAの組織はASC X12 や EDIFACTやUN/EDIFACTの標準化に貢献してきている。DISAを中心としたエレクトロニックコマースの標準化に日本の標準化団体や企業が参加していないのは、後に問題になってくるだろう。米国政府の意向がDISAの活動に強く影響するかどうかという質問に対して、DISA理事長のカダレット・ロジャー氏は“DISAのメンバーに登録されればたとえ米国政府の1機関であってもDISAの1メンバーにすぎない”と語った。米国ではDISAのような非営利団体組織がリーダーとなって、政府および業界を引っ張ってきている。別の言葉でいうとDISAでは関係諸団体が、その非営利団体組織のなかでエレクトロニックコマースにおける標準化(ASC X12やEDIFACTおよびUN/EDIFACT)およびビジョン作りを行なってきている。米国では中小企業活性化のために政府の援助でECRCセンターが11カ所設立された。中小企業がエレクトロニックコマースへスムーズに参入できるように設立された非営利の支援団体である。エレクトロニックコマースに関係して非営利団体組織で最も成功している例は、OCLCであろう。1967年に設立されたOCLCの組織は現在世界の63カ国にまたがり、2万1千以上の電子図書館にサービスを供給している。文字情報だけで14テラバイトのデーターベースをかかえている。電子図書館の標準規格である、z39.50の電子図書館サーバーのソフトウエアをOCLCは世界へ供給し始めた。日本では電子図書館の世界標準規格であるz39.50がほとんど知られていないのはどうなっているのであろうか。
最後に
この善し悪しが、今後の国の競争力に強く影響してくる。米国では、世界戦略を念頭に先に述べた5つのインフラを整備しながら情報通信インフラの整備に怠りはない。政府の役割で重要になってくるのが電子図書館の整備であり、各省庁が持っているデータベースの構築と電子アクセスは必須事項である。例えば、特許情報などはインターネットでリアルタイムに今日付けの特許情報をアクセスできないと意味がない。www.loc.govまわりの膨大なデータベースを日本は学ぶべきである。官邸に載せてある外務省のホームページなどは典型的な例で、ネットワーク社会の常識を理解していない。外務省とは外国に対する日本の窓であるべきであるが、自らのドメインあるいはサーバを持たないことは、日本のネットワーク社会への取組を露呈しており、たいへんまずい事態である。
米国では、政治家の仕事は法律を作り、国家のビジョンを創造することである。国民は上院・下院の法案を見ることによって、情報をシェアーできる。
米国の国会で最近議論されている項目を整理してみると、以下のとおりである。
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