本年度は、本調査の初年度であることから、米国政府機関を対象として、先端情報技術への研究投資の現状について調査することとした。
米国政府機関としては、NSF、DOE、NASA、DARPAなどを中心に、
について調査した。
このような平成7年度の調査方針をとった背景として、先端的情報技術の米国の動向をみると、ここ十数年の間に創出された成果は、わが国と比較して極めて充実したものであり、しかもこうした日米格差がここしばらく拡大していくという見方があり、こうした日米格差が生じる原因の一つとして、情報技術の研究開発から実用化にいたる過程において日米間で基本的な構造の相違があるためではないかという認識がある。このような観点から、まず、米国の先端情報技術の研究開発の全体像を把握することを本年度の目標とし、次年度以降に、技術内容をさらに充実していくとともに、技術の過去・現在・未来についての展開を分析、予測なども本格的に取り組むこととした。
米国における政府機関の先端技術開発政策に関連する政策やプロジェクトの現状把握については、米国の調査会社であるArthur D. Little(ADL)に調査委託し、米国の政府機関が米国情報産業の基盤技術開発・育成のためにどのような研究投資を行っているか、技術開発動向はどうかについて調査した。
この調査結果は、第II部「米国政府による情報技術研究開発運営の現状と技術開発動向−ADL社調査結果−」にとりまとめた。
このADL社への委託調査を効果的に進めるため、また技術的妥当性の検証を行うため、表Ⅰ−1に示す「米国における先端情報技術動向調査委員会」を設置し、ADLの調査内容について、検討分析をお願いした。
この結果は、付属資料2「ADL調査結果に対する委員による分析結果」にとりまとめた。
この調査からも明らかになったが、現在の米国の情報技術研究開発の中心的プログラムは、HPCC(High Performance Computing and Communications)であり、この計画に連邦政府の情報技術研究開発関係予算27億ドルのうちの11億ドル以上がつぎ込まれている。
HPCC計画は、1991年から開始され、その後、拡大されHPCS、NREN、ASTA、IITA、BRHRの5つのアンブレラ・プログラムよりなる形となった。これらの中には、1993年より開始されたNational Information Infrastructure(NII)との調整もあり、科学技術的目標を持つGrand ChallengeとHPCCで開発される技術をインフラとして組み立てられる応用を指向した目標を持つNational Challengeをゴールとする研究開発が決定されている。
このため、本調査では、HPCC計画全体の把握とその中の応用指向の研究開発であるNational Challengeの現状把握を主眼として調査を実施した。この結果は、第III部「HPCCにおけるNational Challengesの現況」にとりまとめた。
以上の調査結果から、情報技術分野における米国連邦政府の研究開発プログラムの有用性について検討した。この検討結果は、第IV部「米国の先端的ソフトウェア研究開発における連邦政府プログラムの役割」にとりまとめた。
付属資料1として「情報技術開発を実施している米国主要連邦機関の概要」をまとめている。
また、ADL社への委託調査を進めるに当たっては、「米国における先端情報技術動向調査委員会」でADL社の中間報告を行い、調査の進め方等について検討した。委員会委員との議論の内容は、本調査を進めていく上での多くの示唆に富んだ重要な論点が集約されていることから、調査資料1「米国政府による情報技術研究開発運営の現状と技術開発動向−ADL社調査中間結果−」としてとりまとめた。
また、ADL社の最終報告についても、調査資料2「米国政府による情報技術研究開発運営の現状と技術開発動向−ADL社調査最終結果−」としてとりまとめた。
| ・米国の先端情報技術に関する調査研究 | |
| 第I部 | 平成7年度調査の概要 |
| 第II部 | 米国政府による情報技術研究開発運営の現状と技術開発動向 −ADL社調査結果− |
| 第III部 | HPCCにおけるNational Challengesの現況 |
| 第IV部 | 米国の先端的ソフトウェア研究開発における 連邦政府プログラムの役割 |
| 付属資料1 | 情報技術開発を実施している米国主要連邦機関の概要 |
| 付属資料2 | ADL社調査結果に対する委員による分析結果 |
| ・調査資料1 | 米国政府による情報技術研究開発運営の現状と技術開発動向 −ADL社調査中間結果− |
| ・調査資料2 | 米国政府による情報技術研究開発運営の現状と技術開発動向 −ADL社調査最終結果− |
| 主 査 | 新田 克己 | 電子技術総合研究所知能情報部推論研究室長 |
| 委 員 | 小長谷明彦 | 日本電気(株)C&C研究所 コンピュータシステム研究部研究課長 |
| 委 員 | 久門 耕一 | (株)富士通研究所 Pプロジェクト部 システム研究部主任研究員 |
| 委 員 | 武藤 佳恭 | 慶応大学環境情報学部助教授 |
| 委 員 | 田中 二郎 | 筑波大学電子・情報工学系助教授 |
| 委 員 | 宮崎 収兄 | 千葉工業大学情報工学科教授 |
| 委 員 | 樋口 哲也 | 電子技術総合研究所情報アーキテクチャ部 計算機構研究室長 |
| 委 員 | 平田 圭二 | 日本電信電話(株)基礎研究所情報科学研究部 主任研究員 |
| オブザーバ | 飯村 次郎 | 三菱総合研究所 経営システム研究センター 情報技術開発部情報基盤システム室 研究員 |
| 通商産業省 | 友定 聖二 | 通商産業省電子政策課 |
米国全体の政府と民間を合わせた研究開発支出は、1,820億ドルであり、このうち700億ドルが連邦政府の研究開発支出である。
連邦政府の研究開発支出のうち、科学技術の研究開発支出は375億ドルであり、さらにこのうちのIT(Information
Technology)研究開発支出は、約27億ドルである。
連邦政府のIT研究開発の中心的プログラムは、HPCC(High Performance Computing and Communications)であり、連邦政府のIT研究開発支出の総額、約27億ドルの約40%の11億ドルがHPCCに支出されている。
HPCCとして指定されている研究は12の省庁下での研究開発にわたっているが、その大部分の82%を占めるのが次の4省庁である。
(なお、DARPAについては、1996年2月にPublic Law 104-106により、ARPA(Advanced Research Projects Agency)からDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)に変更された。従って、それ以前の資料等では、ARPAとなっている。)
米国政府(連邦政府)の研究開発への出資の仕組みは、大きく見てトップダウンの流れと、ボトムアップの流れの両方が、有効にマッチする形で動いていると言える。
(a) トップダウン的政策
(b) 省庁レベルで行なうプロジェクトの選定・出資
(1)米国の研究開発政策
米国の研究開発政策というレベルでみると次の3つが基本的政策の方向として見て取れる。
まず第一に、自由市場・競争原理の仕組みを最大限取り入れ、各自のベストな能力を自然なインセンティブの下に引き出している。
第二には、研究開発成果の実用化による国民への利益を根本的な使命と明確に捉え、その成果の実用化のための仕組みを政策的に相当徹底して運営している。
第三には、実用化という国民利益の大目的のために、産業による商業化をその道とするということの明確な是認があり、最大限商業化を推進している。
こういった政策方針を達するために、数々の法令が出されている。いずれもその目的は何か行動を規制するのではなく、自由市場メカニズムをより良く働かせて研究開発活動及び商業化を推進するための仕組みを提供するためのサポートとなっている。

特に、1980年のStevenson-Wylder Actにより、大学や政府研究機関の民間への技術移転がミッションとなり、また、Bay-Dole Actにより、政府出資研究成果の知的所有権は、非営利の大学や政府研究機関に属することとなり、商業価値の高い研究を追及するインセンティブがあたえられた。さらに、大学側は、ライセンスやロイヤリティからの収入を教授陣と一部分け合うことができるようになり、実際の研究者に強いインセンティブがあたえられた。
米国の研究開発から実用化への仕組みの全体像は、下図のとおりであり、以下にそれぞれの概要を示す。

(a) 政府による研究開発プロジェクトの委託
| 産業界 | 45% |
| 国立研究所 | 34% |
| 大学 | 17% |
| その他 | 4% |
(b) 産業界における委託研究
イ:産業界への委託プログラム
ロ:産業界への委託からの社会還元
ハ:知的所有権の扱い
(c) 大学・国立研究所における委託研究
(d) 大学・国立研究所における研究開発の実用化
(e) スピンオフ
(f) 社会ニーズのフィードバック
(g) 基盤となる法体系
ここでは、米国の情報技術の研究開発動向とその特徴について示す。
ADLが注目すべき研究分野・研究プロジェクトとしてあげているものは以下の通りである。
米国の情報技術(IT)研究開発分野を大きく5つに大分類して、それぞれのホットな研究分野とキー・プロジェクトをあげている。ホットな研究分野としては、短期的に相当の商業化のインパクトがありそうかどうか、あるいは長期的にみて大きな影響を与える可能性のあるものという観点から取り上げており、これらは専門家へのインタビューや政府諮問機関の答申等と見比べたうえで判断している。
| 分 類 | ホットな研究分野 | キー・プロジェクト |
|---|---|---|
| 1. コンピュータシステム |
●群コンピューティング (hive computing) |
●NOW(Berkeley) FLASH(Stanford) |
| ●モービルコンピューティング (mobile computing) |
●Infopad(Berkeley) Dataman(Rutgers) | |
| 2. コンポーネント |
●スケーラブル・パラレルI/O | ●HPSS(Lawrence Livermore) SIO(Caltech) |
| ●半導体製造のコンピューター・ プロトタイピング |
●CP21SS(Stanford) | |
| ●分子コンピューティング | ●USC Princeton Xerox PARC | |
| 3. インテリジェントシステムとヒューマンインタフェース |
●マルチメディア・インタフェース | ●Human Language Interface Project (CMU) |
| ●バーチャルリアリティ | ●Vu Man(CMU) Virtual Retina Display (Washington) | |
| 4. インフォメーションマネジメント |
●分散マルチメディア・データベース | ●Digital Library(Berkeley) |
| ●マルチメディア情報検索 | ●Image Querying(Washington) | |
| 5. コミュニケーション |
●光ネットワーキング | ●Optical Networking(Princeton ) |
| ●ネットワーク・セキュリティ | ●NetBill(Princeton ) Secure Internet Routing(BBN) |
これらの研究プロジェクトの性質を、研究の段階(基礎研究、応用研究、プロトタイプ開発)の時間的な軸を横軸に、研究領域の広さを縦軸にしてマッピングしたのが、下図の研究プロジェクトの性質と分布である。

そして、この図の性質から分類して、つぎに4つのタイプに性格付けしている。
このうち、「システム総合開発」型のプロジェクトおよび政府のサポートの存在が、米国の強みとして一つ考えられると分析している。このタイプは3つの波及効果があり、国の研究開発活動全体に寄与する面がある。
まずこのタイプは、個々の「分野開発」的プロジェクトに全体的な方向性を示すことが出来る。全体としての統合、他分野との同調等の観点から、フィードバックを相互に受け与え出来る。次に、商業化へのつながりにも利点がある。システム全体を開発しているので商業化しやすいことに加え、産業との連携も早くからしやすい。そして商業化を近視野に入れた開発であることから、そこからの新たな課題等を、別の研究開発プロジェクトへフィードバックすることが出来る。勿論このタイプだけがあれば良いという訳ではないが、全体のタイプの配分の中で、最も米国のIT研究開発に寄与の大きい部分ではないかと考えられる。
ITのイノベーションのプロセスを見てみると、過去の技術の歴史を見ても分かるように、それは必ずしも基礎研究、応用研究、プロトタイプ開発、商業化といった順に進んでいくわけではない。
むしろ見て取れるのは、基礎研究と開発とのやり取りのフィードバック、あるいは大学・研究所と産業とのやり取りを通じた中で、ある所で予期しなかった発明がなされ、大きく商業化されるケースである。
そのように考えると、「システム総合開発」タイプのプロジェクトはこういったやり取り・フィードバックを活発に行なうのに最も適した形態であるとも言える。
政府による支援は、特定の研究トピックや特定の研究開発段階を対象にした場合ではなく、このフィードバックサイクルを回転させることを狙いとした時に最もその効果を発揮している。