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2 米国の研究開発動向

2.1 はじめに

 米国では、連邦政府の情報技術関連研究開発をHPCC研究開発プログラムとして推進している。これは、1991年に成立したHPC法とHPCC計画が、それ以前の研究も継承しつつ体系立てることにより現在に至る流れの起点となった。HPC法が失効した96年には、HPCC計画の成功を受けて、その後継のCIC研究開発計画が開始され、この時点で現在の5つの研究開発コンポーネントエリア(後述。1) HECC、2) LSN、3) HCS、4) HuCS、5) ETHR)からなる枠組みが形作られた。この枠組みの研究開発計画は、現在、再びHPCC研究開発プログラムと呼ばれており、NGI計画等も、この枠組みの中に含めて扱われている。
 また、2000年度には、情報技術の長期的基礎研究への投資を大幅増加すべきというPITAC(大統領情報技術諮問委員会)の勧告を受けて提案された「21世紀情報技術研究(IT2)」イニシアチブがIT R&Dと名称を変えて承認され、プログラムのプロジェクト提案公募が開始されている。PITAC は、1999年のレポートにおいて「米国政府の情報技術研究投資が深刻に不足している」とし、「長期のハイリスク研究に対するファンディング無しには、情報技術の米国の優位が脅かされる」と指摘した。その提言に基づいた動きである。米大統領は、2001年度の情報技術研究開発予算要求においても、2000年度に引き続き基礎研究重視の方針を打ち出し、さらなる増額要求を行っている。
 この基礎研究重視の風潮の中で、基礎研究でマルチ・エージェンシーの活動を主導するNSFに、特に大きな予算増額が行われている。2001年度予算要求では、省庁間で最大の増額(+$223M)要求であった。これは、NSF自体の歴史においても、NSF発足後のこれまでの50年間で最大の増額値の2倍を超える増額要求である。これは、NSFが他の省庁と異なり、(医学を除く)科学・エンジニアリング、および教育の全範囲をカバーする基礎研究・教育をミッションとし、ハイリスクの長期的基礎研究への継続的投資に対する障害が少なく、責任を持って戦略や方針を思い通りに素直に実装しやすいことによる。
 そこで今回はNSF関連のHuCS領域の研究開発に特に焦点を当て、それをサポートするのに関係するNSFの組織としくみ、及びHPCC Blue Book 2000でとりあげられているNSF関連の、最近成果の出つつある研究開発テーマ(助成プログラムや助成プロジェクト)についての調査に重点を置いた。他の省庁については幾つかの特に目立ったもののみを紹介するにとどめ、残りは付属資料3にBlue Book 2000の内容を紹介する。

 

2.2 HPCC研究開発計画

 HPCC研究開発計画の概要として、プログラムコンポーネントエリア(要素領域)とHPCC 研究開発計画組織につて、簡単に説明する。

 

(1)5つのプログラムコンポーネントエリア(要素領域)

 HPCC研究開発計画は、以下の5つの要素領域(PCA, Program Component Area)から構成されている。

・HECC (High End Computing and Computation)
・LSN (Large Scale Networking)
・HCS (High Confidence Systems)
・HuCS (Human Centered Systems)
・ETHR (Education, Training, and Human Resources)

ハイエンド・コンピューティング
大規模ネットワーク(NGIを含む)
高信頼システム
人間中心システム
教育訓練、人的資源

 

(2)HPCC研究開発プログラムの計画・執行組織

図2.2.1 HPCC研究開発プログラムの計画・執行組織 − CIC研究開発小委員会と5つのWG等

 HPCC研究開発プログラムは、CIC(コンピュータ情報通信)研究開発小委員会(Subcommittee on Computing, Information, and Communications (CIC) R&D)が計画、予算獲得・執行、レビューを行う。この小委員会は、HPCC研究開発計画に参会している12のエージェンシーの代表とOMB、OSTPの代表で構成されており、5つの研究開発コンポーネントエリア(Program Component Areas)に対応する5つのワーキンググループと幾つかのサブグループを持つ。
 連邦政府サービス/アプリケーション協議会(FISAC、Federal Information Services and Applications Council、最先端情報技術の研究開発成果を連邦政府の情報システムとサービスへ適用する手助けを行う)もこの小委員会に報告を行う。

 HPCC研究開発計画に参会している12のエージェンシーは通りである。

 

(3)その他の政府組織との関係

 最小限の関係組織のみ記述する。
 CIC研究開発小委員会は、NSTC(国家科学技術委員会、National Science and Technology Council)の技術委員会(CT)の監督下にある。NSTCは、連邦政府の科学技術投資のための国家目標確立を目的としており、研究開発戦略と予算提案を準備し、科学技術の各目標達成を支援する。1993年11月にクリントン大統領の行政命令によって設立された。目標達成の為に、NSTCは5つの委員会を設立しており、その中でHPCC計画に関係するのは、技術委員会である。
 技術委員会(CT、Committee on Technology)は、連邦政府の技術研究開発の総合的な生産性・有効性を増大させるために、NSTCに助言・支援を行う。連邦政府の技術研究開発部門と各省庁・機関の上級代表から構成され、省庁間にまたがる重要国策案件の調整を行い、バランスのとれた技術研究開発プログラムを計画する公式機関である。研究開発投資をより効率化するために技術パートナーシップを促進し、OSTP(科学技術政策局)とOMB(Office of Management and Budget)のディレクターに対して、総合的な技術政策、研究開発計画、予算の方向付けと指針を提供する。

 

図2.2-2 HPCC研究開発計画に関連する政府組織

 

2.3 HPCCにおけるHuCS領域の研究開発

(1)HuCS:人間中心システム(Human Centered System)

 HuCSの研究開発の目的は、「人間」、「コンピュータ・システム」、「情報リソース」の間のより効果的、透過的な連携を可能にして、コンピュータ・システムと通信ネットワークを、みんなが手軽に便利に使えるようにすることである。そのため、特に以下の点に焦点を当てた技術開発を実施する。

  1. 大量、多様なコンテンツを扱う世界規模の情報システムを作成・利用する能力の向上を図る。
  2. 人々がコンピュータを利用する上での有効性と快適性を増大させる。
  3. 社会のすべての人々に、コンピュータを利用可能にする。
  4. センサーや移動体が人間に適応(順応)する環境を作り、その結果、仕事がより早く効果的に遂行できるようにする。

 

(2)HuCSの研究開発の焦点

 HPCC研究開発計画の1999年、2000年度の研究開発テーマの概要がBlue Book 2000に紹介されている。これを省庁別に分類して示した表を付属資料4に示す。NSFおよび幾つかの省庁に関連する主要研究テーマについては、本章の後半で説明し、残りのテーマについては、付属資料3で説明する。
 2000年度の研究開発の焦点と、それに特に関連する研究開発テーマは以下の通りである。①から⑥は、いづれも基盤的な重要項目であり、各研究開発テーマは、通常、それらの複数のものを利用したり、複数のものに関係しているが、最も強調されている研究開発目的という観点から対応付けている。挙げられている項目は、レベルはまちまちであり、個別の要素技術も総合的技術も含まれている。

1)知識リポジトリ、情報エージェント、ディジタルライブラリ
  複雑なデータベースからデータ、イメージを収集、処理、分析、要約し、提示するための機能の向上を図る。

例:ディジタルライブラリ・イニシアチブ・フェーズ2(DLI2)、戦場認識(DARPAのText、Radio、Video and Speech
プログラム)、Visible Humanプロジェクト、統一医学用語システム、etc.

2)マルチモーダル・ヒューマン-コンピュータ・インタフェース
 音声認識ツール、オーディオ・インタフェース、視覚&触覚(タッチ・センス)デバイス等の研究により、人々が、身体的障害、教育、文化などにかかわらず、視覚、音、タッチやジェスチャでコンピュータとの対話を可能にする。

例:STIMULATE、ユニバーサル・アクセス、米国障害者リハビリテーション研究所、Webアクセッシビリティ・
イニシアティブ、etc.

3)多国語技術(Multilingual technology)
 外国語文献および音声-to-音声の翻訳、解釈、理解の機能を向上させる。また、国境を越えた共同作業の支援機能も含む。

例:スペイン語インタフェース、DLI2の中の国際ディジタルライブラリ共同研究プログラム、etc.

4)可視化、仮想現実感、3-Dイメージ・ツール
 シミュレーションや問題解決環境において人間の知覚と理解を増進する。

例:バーチャル・ロサンゼルス、医療手順をシミュレートするためのバーチャルリアリティ技術、ロボットによる外科
手術、NASAの「ソフトウェア・メス」とバーチャルリアリティ・ツール、NASAのコンピュータ化された乳癌診断ツール、共同作業と製造のための可視化とバーチャルリアリティ、バーチャルワールド、etc.
5)共同実験室(共同研究所、共同工場)、協同作業支援技術
 知識共有、グループ意志決定、リモート機器の制御、および大規模な分散システムにおけるデータ共有を容易にする。
例:製造アプリケーションのためのシステム統合(SIM)、MMC 共同実験室、生体臨床医学共同実験室、共同作業
環境のための電子ノートブック、etc.

6)データ・コレクションと注釈付け(annotation)
 どんどん増大するデータ・コンテンツや、従来ブラックボックスでしか扱っていなかったようなマルチメディア・データに、意味、注釈、制御情報などの情報を付与し、アクセスの容易化やアプリケーションでの高度の活用を可能にする

例:DLI2、etc.

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