わが国政府は、コンピュータ産業、及び情報産業の重要性については、早くから認識し、その研究開発支援や産業育成のための諸施策を実施し、ハードウェア技術については大きな成功をおさめ、わが国のコンピュータや半導体製造技術を世界のトップに押し上げた。しかし、ソフトウェア技術の開発支援やソフトウェア産業の育成については、国の諸施策はハードウェアほど顕著な効果をあげることができなかった。このためもあって、わが国のソフトウェア産業は、ソフトウェアの受託開発とシステムインテグレーション(SI)事業を中心とするビジネスとなり、新技術を盛り込んだパッケージソフトウェア開発とその事業は、米欧等企業が市場を席捲することとなった。
コンピュータ技術の中心がコンピュータの本体(メインフレーム)技術から、パソコンやネットワーク、情報家電、電子商取引きなど応用範囲の拡大につれ、情報技術の中心が、ソフトウェア技術やコンテンツ開発技術へと移行した。このため、このソフトウェア技術とソフトウェア産業の世界レベルとの較差は、深刻なものとして受け止められるようになった。
今やインターネットに代表される国際ネットワークや種々の地域ネットワークは数億とも数十億人ともいわれる人々(コンピュータ群)を結合しており、電子商取り引きや電子モールなど経済活動を大きく変革しつつある。いわゆるディジタル経済の時代の到来である。この経済的変革は全産業や、さらに行政などを含む社会活動や構造の変革へ波及しつつある。情報技術は全産業の生産性向上と競争力向上において不可欠の、水道や電気と同様の基盤インフラとなることが明確となった。
わが国が経済、技術、文化などの先進国であり続けるためには、先端情報技術に基づく、情報インフラ整備、及びそれらを活用し、最新の情報技術を駆使したディジタル経済に向けての、全産業の武装を進め国際競争力を維持しなければならない。
今日、実用化されている情報技術やソフトウェア技術は、米欧に多くその根元を辿ることができる。それらは、10年から20年前に種子が播かれ、幾多の類似技術間の開発競争を勝ち抜き、さらに市場獲得競争を勝ち抜いてきたものが中核となっている。そして、その技術の元となった種子(アイデア)を発芽させ、育成する段階では、国の研究開発支援が大きな原動力となってきた。コンピュータ技術や基本ソフトウェアがそうであるし、インターネットまたしかりである。また、米国では新技術の企業化や新市場創造の段階においても、国の支援が大きな力となっている。
米欧の他にも、最近ではシンガポール、インドなどのアジア諸国も情報産業振興に向けて、先端技術の研究開発投資やネットワークなどのインフラ整備、電子商取り引きなどディジタル経済社会に向けた法制度や行政システムなどの改革に、国を挙げて邁進している。(第2編 第4章 先進諸国の情報化ビジョンに関する動向を参照)
一方、わが国においては、従来から、情報産業の振興、特に、ソフトウェア産業の育成に関しては、国(主に通産省)は、力を入れてきた。研究開発の支援のみならず、ソフトウェアハウスやコンピュータメーカの経営基盤を強化するための財政的支援や税法上の特典を与えるなどの諸施策も実施してきた。しかしながら、これらは、今日のソフトウェア産業、及び、情報産業の国際的な競争力のレベルを見ると、効果的であったとは言い難い。
わが国の情報技術やソフトウェア技術は、以前より世界のトップレベルとかなりの較差があったが、これがさらに拡大傾向にある。これまでの調査によれば、これは、情報関連技術の研究開発投資の較差とともに、その研究開発、及び企業化支援の仕組み、制度の非効率性によることが大きいことが明らかとなってきた。
特に、米国は、大統領が先頭立ち、情報産業を21世紀の基幹産業と位置づけ、積極的な研究開発投資を行い、National Information Infrastructure (NII)の構築を進めた。その結果、民間投資も活発化し、米国の情報関連産業は市場において、圧倒的なシェアを確保し、民間による研究開発投資も活発化している。最近では、これを受けて、「21世紀IT計画(IT2)」をスタートさせた。これは、短期的な技術開発は、民間に任せて、国の投資を中長期的な研究開発へより多く振り向けようとするものである。(第2編 第5章 5.3 及び 付属資料 9) このような状況を考えると、わが国が緊急になすべきことは多く、国の役割はきわめて重要となる。
本調査は、本章の始めで述べたように、1990年代半ばから2000年代の半ばにかけて、情報技術が、経済のディジタル化など、多くの産業やわれわれの住む社会活動や構造に一大変革をもたらし、それは第2の産業革命に匹敵するという認識のもとに、省庁の縦割り構造などの従来の枠組みにとらわれず、大きくかつ自由な視点から、「わが国の研究開発の仕組み、制度が抱える問題点」を明らかにし、かつ、今後、わが国が確立すべき、「新しい研究開発の仕組み、制度のあるべき姿」を提言しようとするものである。
本年度までの調査では、この分野において世界をリードしている米国の連邦政府支援の研究開発や新産業育成の仕組み、制度、及びそれに参画している産官学の関係者の持つ意識や哲学を明らかにしてきた。それらをわが国の場合と比較し、わが国の仕組みや参画する人々の現状認識や思考方法などに内在する問題点を調査し、改善策を提言してきた。(平成8年度、同9年度の同名の報告書を参照されたい。)
本年度は、特に通産省が実施してきた諸施策に焦点を絞り、それらに参画し現在においても、指導的立場にある産官学の人々を対象としたヒヤリング調査を実施した。重点調査項目は、国が行う情報技術開発支援の諸施策の立案、実施の仕組み、制度、運営方法、それに参画する人々が感じ、かつ経験した問題点、及びその改善策とした。問題点の抽出は、その焦点を明確化するために、米国の仕組みに存在し、わが国の仕組みに欠如しているような機能や制度に注目し、質問の中心を以下の点に絞り込んだ。
1)国が将来社会と技術開発に関わるビジョンを広く国民に提示し、研究開発投資を行う重点分野(アンブレラ)を明示する点について
2)研究開発予算を握る行政側が先端技術の専門家(プログラムマネージャ)を抱え、研究開発プロジェクトのための有望テーマの発掘や応募テーマの採択決定、予算配分、評価に関する責任を持たせ、プロジェクト運営の一貫性を保持する制度を持っている点について
3)研究開発予算の立て方や予算の使い方、計画の変更など研究開発の運営の柔軟性、事務処理オーバヘッドの低減、及び迅速かつ徹底した情報公開について
4)税金を用いて実施した研究開発の成果は商品化し市場投入して、はじめて納税者への利益還元になるという基本思想に基づく起業支援や、商品化を第一と考えて運用される成果、及び知的財産権の管理方法について
ヒヤリングは、まず、産業界の有識者に対して行い、産業界から見た国の研究開発支援施策が抱える問題点を指摘してもらった。ヒヤリングは、通産省の実施したプロジェクトに指導的立場で参画した有識者を対象に行った。
(このヒヤリング結果は、第1編の第2章、第3章に述べたように、わが国の仕組み、制度についての深刻な問題を提起している。)
次に、国の機関や大学に所属し、国のプロジェクトを指導する立場にあったか、または、現在もそうである人々からも、別途ヒヤリングを行った。この結果、お金を出す側、研究を指導し評価する側、研究開発を実施し成果を商品化しようとする側の3者の意見が得られた。
異なる立場からの問題点指摘は、問題の解決が一筋縄ではいかないことを示す興味深いものとなり、その解決方法の検討の有益な指針が得られた。このヒヤリングは、特に重要な問題である、国のプロジェクトの知的財産権に関わる問題を中心にして、国のプロジェクトの役割や運営に関して質問した。(この結果は、第2編 第1章 1.3、及び付属資料3にまとめた。)
また、上記の1)から4)までの、各項目について、米国等の諸国がどのような仕組みや制度によって、対処しているかの調査も別途行い、わが国の仕組みや制度と比較検討し、評価するための材料とした。対応を示すと次のようになる。
1)将来ビジョンと重点項目(アンブレラ)
→ 第2編 第4章 及び付属資料 6 並びに 第5章 5.3 及び付属資料 8、9
2)行政側における研究開発の専門家(プログラムマネージャ)活用制度
→ 第2編 第2章 及び付属資料 4
3)研究開発予算執行や運営及びその情報公開制度について
→ 第2編 第2章 及び付属資料 4 (特にプログラムマネージャ制度について)
4)知的財産権の扱い、及び起業家支援や新産業育成のための施策について
→ 第2編 第1章、第3章、付属資料 1, 2, 及び5
米国の情報関連技術の研究開発とその成果の商品化支援の仕組み、制度を念頭に置き、わが国の国が支援する情報技術の研究開発の仕組み、制度、運営方法などについて、上で述べたような産業界、大学、それに諸施策を担当する国の機関の関係者のヒヤリングを実施した。
その結果は、現在のわが国のプロジェクトや支援策が、その大枠においても、日常の細かな運営においても、様々な問題を抱えていることを示している。
これらの意見は、全体として、現在の国の研究開発プロジェクトや関連する諸施策は、その実施の仕組み、制度が、産業構造の変化や技術進歩について行けず、有効に機能していないことを明示しており、早急な仕組み、制度、運営方針などの変革を迫っている。
本調査では、極めて多岐にわたり、かつリアルな実例を含むこれらの意見を無理に集約せず、問題点の指摘(第2章)と、今後はこうあるべしという提言(第3章)に分けて、類似する意見をおおまかにグループ分けして列挙するにとどめている。また、当事者達の生の声を、その主張をトーンダウンせずに記録する方針を取った。これら指摘された問題点のかなりのものは、以前から、当事者の間では明示的、または、暗黙的に知られていたことが多いと思われる。しかし、このような問題点が報告書の形態で記録され、広く公開されることは、あまり行われなかったと思われる。
今や、情報技術は、インターネットや高機能パソコンを普及させ、われわれの経済活動や社会活動を、否応なくボーダレス、グローバルなものへと移行させつつある。このような大きな変革の時代へ適切に対応するには、多くの人の様々な知恵が必要であり、また、試行錯誤を繰り返し、われわれの進む先を定めねばならない。
そこにおいて、重要なのは正確な現実認識の共有と、それに基づく、オープンな議論である。そして、そこには単なる技術や仕組みの議論と共に、わが国の慣習や文化をグローバルスタンダードに合ったものへと変えて行くための議論も求められている。本調査が、生の声の記録と公開に強い思い入れをしているのは、これがわが国の仕組み、制度を改革する議論の出発点として活用されることを切望しているからである。
本調査の示すわが国の研究開発の仕組み、制度等は、根本的な変革を必要としており、その変革は、通産省など、一つの省庁のみでは対処できない、大きな枠組みの議論と役割の再検討を必要とする。従来の省庁縦割り構造を超えたところでの議論が不可欠である。それをどのように実現し、実効あるものとするかは、ひとえに関係者の現状認識の正確さにかかっている。
第2章、第3章では、次のようなおおまかな分類で問題点や解決策、将来に向けての国の役割などをまとめた。
a) プロジェクトの目標設定や実施体制決定の仕組み、評価制度等の問題
b) 複数省庁の連携、産学連携、プロジェクト運営方針の一貫性維持など運営に関する問題
c) プロジェクト実施における国の負担と民間負担の切り分けや間接経費と直接経費の切り分けのルール改善、予算実施の現場裁量権の拡大などの会計制度上の問題
d) プロジェクトの成果物の扱いの柔軟性拡大と事務処理オーバヘッド軽減、発明者への実施優先権賦与など知的財産権の扱いに関する問題
e) 新技術を持つ起業家に対する補助金制度、情報関連の新規参入企業への優先的政府調達枠の設定など、ベンチャー企業支援策や制度に関する問題
f) 今後の研究開発における国の果たすべき役割の提言や要望等
これらの問題点の主要なものに関しては、4.1の終わりの方で述べたように、米国などにおいて、どのように対処、もしくは解決されているかを別途調査した。指摘されている問題には、事務処理オーバヘッドの低減など、容易に解決可能と思われるものも多く含まれている。実際、米国では、事務処理の簡素化や迅速な情報公開を義務付ける法律やそれを怠った省庁への罰則規定が国の法律となり、その実施を監視する機関までもが設置されている。
では、なぜこのような自然と思える事がわが国ではおこらないのであろうか。日米の文化的背景の違いなどをその原因に上げる説もあるが、本調査による分析では、当事者が、そのような問題の存在やその発生の根源的な要因を関係者以外、場合によっては、国民一般に対して広く説明し議論し、根本的な解決をはかることを嫌うためであると結論づけた。
当事者にしてみれば、広く議論することは時間も手間もかかる。よって、根本的な解決策を講じる方がよいことがわかっていても、小手先の対処方法で切り抜けてしまおうとする。本調査で指摘されている問題の中には、ひとつの課や局、さらには、ひとつの省庁の管轄分野や権限の中では解決できないものも多い。このような問題についてはなおさらである。しかし、小手先の対処方法を重ねてきたために、問題が深刻化してしまったものも多い。
ソフトウェア技術の研究開発においては、その成果物としてソースプログラムを納入せよというルールがある。ソフトウェア開発は今や白紙状態から、書き始めることは無く、市販されているものや既存のものを、そのまま、もしくは一部変更して再利用し、新規に作成する部分は多くない。このような現実を考慮せず、ソースプログラムの新規作成部分のみの納入を求めるのは実質的意味を持たない。しかし、ルールは依然生きており、開発現場では、既存部分と新規開発部分の切り分け作業に追われ、混乱の元となっている。(第1編 第2章 2.1、2.3参照)
広く議論することで、よりよい根本的な解決方法を見出すことは、多少の時間がかかっても長い目で見ると、得るところ大である。そのような意味で議論を喚起するきっかけを作る情報公開の厳格な実施は、将来に向けてきわめて重要である。
わが国の研究開発の仕組み、制度の抱える問題の解決や、研究開発の実施においても、今後はますます、その直接の関係者のみならず、広く国民一般の支持を必要とする場合が増える。その理由のひとつは、情報技術の先端的応用が、直接、われわれの社会活動や日常生活に影響するようになるからである。そして、その技術の研究開発においては、その技術ニーズの明確化や開発した技術の評価のために、一般国民を巻き込んだ社会システムとしての実証実験等を必要とし、ここでも国民一般の協力を必要とする。
いずれにしても、これからの情報技術の研究開発や新産業の育成のシナリオは、従来のような、担当官庁や一部の大手メーカ、それに大学の専門家などの少数の人による議論のみでは、有効なものは作成できないであろう。これは計画作成において、考慮すべきパラメータがきわめて多くなることによる。このため、社会の一部を巻き込んだ実証実験を行い、試行錯誤を繰り返し、国民一般の支持と参加を得ながら適切なシナリオを作成して行くことが必要となる。そして、このような実証実験においては、そのための社会環境の整備が重要であり、これは今後の国(行政側)の重要な役割となると思われる(第1編 第3章 3.1(2))
このように指摘された問題の解決方法を見出すことは容易ではない。 しかし、このような問題点がなぜ発生したのか、また、このような状況に、なぜ立ち至ったかを考察することは可能であり、解決策を考える上で有益であろう。
第2章、及び第3章で、指摘された問題は、一見すると、極めて多岐にわたり、その解決のためには、それぞれの問題に個別に対処して行かねばならないように思える。しかし、それらの問題を発生させている要因の多くは、いくつかの根源的な要因に帰着できる。
これらの根源的要因の解消は、ひとつの省庁の権限の範囲では不可能で、複数省庁、もしくは、国を挙げて取り組まねばならないものである。であるからこそ、永いこと手付かずに残されてきたとも言えよう。
ここでは、これらの要因のうち、かつて、国の研究開発の基盤となり、徐々に変りつつあるものの、今日においても実質的に国のプロジェクト実施の基本思想となっている「キャッチアップ型」政策目標設定と「護送船団方式」による政策実施体制を、まず取り上げる。そして、指摘された問題との関連を考察する。「キャッチアップ型-護送船団方式」は、わが国のコンピュータ産業を世界のトップへ押し上げることに成功した方法である。ここでは、そのプラス面とマイナス面を検討し、今後の国の研究開発の仕組みや制度を考える土台とする。
その他の要因として、わが国の行政組織、特に、各省庁の役割や権限の分担範囲と、その管轄する産業分野や技術分野のミスマッチ状態が生じていることがある。近年、産業分野の統合、拡大、新分野の誕生などが急である。また、遺伝子情報処理が製薬業界やバイオ業界の重要技術となるなど産業の中核技術の変遷も急である。このような変化に政府や各省庁の役割や管轄分野の修正は追随できていない。
その他、ディジタル経済社会の到来により、企業経営の理念、企業や産業の構造、国民一般の労働環境などが変化し、研究開発や産業育成において、国の果たすべき役割が変化してしまったことが挙げられる。これらの諸要因と本調査で指摘された問題点や要望との関係を考察してみる。
4.5.1 要因その1:「キャッチアップ型-護送船団方式」に基づく政策立案と実施体制
4.5.1.1 そのメリットと後に残された「ツケ」
現在の国の研究開発実施の仕組みや制度等の多くは、昭和40年代の半ば(1970年代の初め)に整備されたものである。この時代におけるわが国の技術開発政策の目標は、米欧の先進技術に対するキャッチアップであり、その施策実施体制は、国産大手メーカを束ねたいわゆる護送船団方式を基本としていた。この時代には、情報産業は確立しておらず、メインフレームを中心とする汎用コンピュータ技術が中核であり、ソフトウェアはハードウェアの付属物であった。半導体技術も同様に、まだ独立した産業の形態を為しておらず、コンピュータ産業の一部となっていた。
このような政策立案と政策実施体制は、米国等の基礎研究成果を(コピーして)導入し、いち早く商品を開発して市場へ進出、独自の改良を加えたり、品質や機能を向上させ、さらに低価格で販売し、後発ながら、市場を獲得して行くというシナリオを生み出した。この例としては、IBMコンパチブルマシンやメモリチップ(DRAM)が有名である。国の委託プロジェクトや補助金プロジェクトは、これらの製品を開発するために大きな貢献をした。
このような国の技術開発支援は、他の産業についても行われ、世界市場におけるわが国産業の競争力を向上させた。その一方で、米国では、日本などとの市場獲得競争に敗れ、伝統的な製造業が衰退した。このため、技術ただ乗り批判が起こった。その後、米国政府は新産業育成に注力するとともに、プロパテント政策をとり、知的財産権の保護を強化し、特許やソフトウェアの著作権などの外国企業による使用に高額の使用料を取るようになった。また、わが国の研究者との交流や研究成果の国外持ち出しも警戒するようになった。
このような状況に至るまでは、キャッチアップ政策と護送船団方式による大手メーカ中心の技術開発支援策は大きな成功をおさめた。この方法は、国の研究開発の仕組み、制度において、簡略で安上がりであった。 その理由は、新技術開発において、最も難しく、かつ長期的投資が必要な基礎研究段階、すなわち、上流から中流過程、さらにシステム試作と評価を含む下流過程の一部を省略し、「借り物」ですませることができたことによる。
すなわち、米国等の研究者が、有望なアイデアを見出し、それを研究プロジェクトに仕立てあげ、類似テーマの研究と競争しながら育成し、商品化を展望したシステムの試作と評価の段階まで到達したところで、その成果を(コピーして)導入するわけである。このような安易な導入が可能であった背景には、当時の米国は戦後の繁栄の蓄積がまだ残っており、技術を分け与えることに鷹揚だったことによる。
要するに、この方法は、下記の各項目の +)に示すような簡略で安価な仕組みや制度を可能としたが、これは同時に、米国が知的財産権を産業の競争力確保の武器として使い始め、わが国が自力で基礎研究段階から産業の技術シーズを創造して行かねばならない状況となった時の「問題の種」を作り出していたということができる。この「問題の種」については各項目の -)に示した。
1) 将来の社会ビジョンや技術ニーズの提示、その国民一般への説明の簡略化
2) 基礎研究段階のリスク回避、及び有望テーマ選定とそのための評価機構の簡略化
3) 国(行政側)にオリジナルな先端的研究開発を計画し、管理できる研究者集団を抱えずに済ませることができた。
産業界は、大学に対しても人材の供給源以上の期待をせず、米国の大学と産業界の関係のような産業シーズにつながる基礎研究の連携をしなかった。このため、大学は、行政側や産業界の求める、研究とプロジェクト管理の両方をこなせる人材も産業応用につながる研究成果も生み出さないような構造となった。現在、国(行政側)は、ソフトウェア産業のシーズとなる技術を生み出すような研究開発を実施したいと思っているが、行政側に立って、産業界の一歩先を行く研究開発プロジェクトを計画し実施する人材(そのための研究者集団)を確保できずにいる。それに代わるテーマとして、市場の見えている短期目標を目指す技術開発プロジェクトをメーカに実施させようとして、すでに自前でそのような技術開発を開始しているメーカ側と摩擦を起こしている。
4) リスクが大きく一企業では実施困難な研究開発を行う委託制度と、企業の商品化目的の新技術開発を支援する補助金制度が整備されキャッチアップに大きく貢献
一例として、本来の趣旨であれば補助金制度を用いるべき、短期的な商品直結の技術開発を、国が100%研究開発費を負担する委託制度を用いて実施するような混同が見られるようになる。研究組合は作るが研究組織は分散し各社別々に実施。人や知恵を出し合い協力するという体制が作れなくなった。
このためか、国の負担は中核的な技術開発に徐々に絞り込まれ周辺技術開発やインフラ的システムの整備は、国が負担しないという会計制度上の習慣ができてしまった。また、委託制度は国が原則100%負担しリスクを負う代わりに、その成果も100%国に帰属するというルールが、商品直結の技術開発を委託制度の下でやるようになり、メーカにとって都合が悪いものとなってきた。これに関する問題点指摘が行われている。(第1編
第3章 3.3(1))
5)現在、国の負担が実質100%でなくなりメーカの持ち出し分が増えていることから、その成果も国とメーカの共有とするなどの妥協がなされている。しかし、米国のようにオープンな議論を行い、国有財産の管理に関する法律を改定して行こうという姿勢はない。(これは極めて面倒なプロセスと認識されている。)その替わりに、官産の当事者のみでインフォーマルに運用ルールを変える方法を取っている。従って、国の担当者が替わると成果の扱いが変わるなどの事態が起る。特にソフトウェア成果物に関しては、現在、現場で混乱が見られる状況である。 (第1編 第2章 2.3)
*注1)米国との比較: 制度改定を法律として明文化する米国と運用で切り抜ける日本
*注2)米国との比較: 実質重視で柔軟な米国と一旦決めるとなかなか変えない日本の形式重視主義
6) 護送船団方式は、その業界の代表的大手メーカの技術力を横並びに向上させ、技術のキャッチアップとその競争力強化に大きく貢献した
国の技術開発施策の実施が、長期にわたり大手メーカに過度に依存した(現在もしている)ことは、このような中小、ベンチャー企業の育成や市場参入の振興策を消極的なものとし、産業全体の新陳代謝を遅らせてしまったといえよう。これは、米国の中小、ベンチャー企業の振興策の積極性とその効果を見れば明らかである。(平成9年度 同名の報告書(その2)参照)
4.5.1.2 問題点を関係者に認識させた補正予算プロジェクト
1), 3), 6)の問題に関連する産業界の指摘は、(現在も実施されている)補正予算を用いて行われた公募プロジェクトを念頭においたものも多い。 補正予算プロジェクトは、通産省、及びその実施を担当している関連機関等にとって、通常の予算額に比べてはるかに多額の予算消化が求められ、十分な準備期間も、事務処理予算も不十分という悪条件の中での実施であった。
さらに、公募型プロジェクトとし、提案募集を行ったことから、応募しようとする者からは、その技術開発の要求仕様やその背景となる政策、さらには、国(通産省)が描いている社会的もしくは技術的ビジョンの説明を求められた。
これに対して、国は、わかりやすいビジョンや技術開発構想を示す事ができなかった。長期的なビジョンや技術開発シナリオが事前になかったこともあり、予算獲得に有利な分野や、明確な技術目標を適宜選択したと推測される。
このため、応募側は提案作成に苦労し、かつ不採択となった場合の評価の基準も不明確であったことから、不満がつのった。(第1編 第2章
2(3))
通産省の場合は他の省庁と比べ、そのカバーする分野が国際的な産業動向や技術開発動向に対応した、産業振興策や貿易などの管理、調整、交渉など、きわめてダイナミックに変化する領域である。このため、中長期のビジョンを急に策定することは困難である。 しかし、そうであれば、あるほど普段から、そのような中長期ビジョンや産業競争力強化のための政策や実施シナリオを検討しておくべきであろう。
(このような指摘も実際なされている。第1編 第3章 3.2(2)(3))
しかし、この補正予算プロジェクトの実施は、同時に、通産省が相変わらず、「キャッチアップ型-護送船団方式」に基づく仕組みや制度、習慣から、抜け出せていないことを示した。(困った時の大手メーカ頼みが再現)しかし、上でも述べたように、中長期ビジョンは、大手メーカも借り物を使っていたのであり、自前でそのようなビジョンや将来の技術ニーズを予測していたわけではない。今回の産業界有識者の指摘のなかでは、そのような人材や組織を有していないことを通産省の責任のように指摘しているものもあるが、この件については、産業界にも、同等以上の責任があると考えるべきであろう。
キャッチアップと護送船団方式は、極言すれば、行政側に立つ研究者やプロジェクト管理の専門家を省略し、将来の産業ビジョンの策定なども借り物ですませる方式であったといえる。従って、今回の公募のような先端技術開発の提案を審査したり、採択されたプロジェクトの管理や成果の評価を自力で行う体制は、発注側であるにもかかわらず、通産省はそのような体制を持たないできた。
しかし、もし、通産省(行政側)がそのような体制を作ろうとしても、産業界側は、賛成しなかったのではないかと思われる。そのための人材や費用を捻出することは、容易ではないばかりか、もし通産省が自力で、将来ビジョンの策定や技術ニーズ予測ができるようになれば、大手メーカの望むものと異なる方針や政策を立てることが予測できる。(役所は裸の王様にしておくほうが都合がよい?)
今後の産業界においては、グローバルな競争と常に新規産業の芽を育てていくことが重要であり、通産省の政策実施の主役も小回りの効く、中小、ベンチャー企業へと移り変わることが考えられる。米国の中小、ベンチャー企業への手厚い支援は、「現在の大企業もかつてはベンチャー企業であった!」という経験則に基づいているという。
産業界有識者も、今回の補正予算プロジェクトを通して、やはり、わが国にも、米国のプログラムマネージャのような組織をもつことが必要との認識を持ったようである。大企業といえども、その新陳代謝のためには、新技術をひっさげたベンチャー企業の存在が不可欠なのである。(平成9年度の同名の報告書 付属資料 1.)
そして、それは、国の研究開発の仕組みを、「キャッチアップ型-護送船団方式」から、中長期の技術ビジョンを持ち、自前で基礎技術の研究開発を行って、産業のシーズとなるようなオリジナルな技術を生み出すフロントランナー型の仕組みへと移行する重要なステップであると言えよう。
さらに将来を考えれば、国が行う技術開発支援は、本調査でも指摘されているように、直接的な産業支援から、国民一般(米国では納税者と呼ぶ)への、より直接的なサービス提供をを念頭に置いた社会システムや社会インフラ建設へと移行してゆくことが予想される。 (第1編 第3章 3.1(1))そのような場合、国の求めるものは、最早、メーカの商品開発に直結した技術開発支援とは、大きく異なるはずである。その時が、キャッチアップ型-護送船団方式から根本的に脱却する時なのであろう。
その場合には、国は、わが国にふさわしい将来ビジョンの提示や、これに向かった種々の社会システムの建設、そこで求められる新しい情報技術などの予測と、それに適合した政策を国民や産業界に示し、支持を得つつ、政策を実行して行かねばならない。そのビジョンや技術ニーズの予測、研究開発計画の立案などは、先端技術分野や社会学分野の研究者集団を抱え、それに産業界や学会、さらには国民一般を代表する有識者達を集めて行うことが必要であろう。
あたかも、今、米国では大統領が、大学や産業界で活躍する現役の研究者や技術者を集めた委員会(PITAC)を組織し、米国の21世紀にむけた計画(IT2)を作り発表した。 ( 付属資料 8.) 委員会メンバーは、ここ10年くらいの間にその業界のトップにのし上がってきた企業の代表者であり、最新技術知識と情報技術を駆使した新しい経営哲学を有している若手である。わが国もそのようなメンバーを有する委員会を構成し、国の将来ビジョンや政策立案を託すことのできる時代を迎えることができるのであろうか。
4.5.2 その他の根源的要因
本調査で指摘された諸問題発生の根源的な要因は、上で述べた「キャッチアップ型-護送船団方式」の他に次のようなものがある。ここでは、そのいくつかについて考察する。これらの諸要因も、「キャッチアップ型-護送船団方式」と同様に、その設立もしくは設定された時代には有効かつ適切なものであったと考えられる。
しかし、当然、時を経るにつれ、現実の社会変化や人々の意識変化とのずれが広がり不適切なものとなり、悪役にされてしまったものと推測される。
従って、以下の議論は、現在の諸制度等を単純に否定するのではなく、わが国の研究開発の仕組み、制度を効率的なものとするための指針を得るための議論と位置づけるべきものである。
1)要因その2: わが国の政府、行政組織の構成と役割及び権限分担の問題
この要因(問題)は、「省庁の壁」とか、「縦割り行政の弊害」などと呼ばれる問題である。この問題は、情報技術の応用範囲が拡大するに連れて、その弊害が急速に拡大し、今後のわが国の情報産業の発展を阻害し、国際的競争力を低下させるものと考えられる。
最近の情報技術の応用システムは、インターネットやそれに接続したパソコンなどの一般家庭や個人への普及により、直接われわれの日常生活に入り込むものが多くなってきた。インターネット上での通信販売は、有形物の販売のみならず、音楽や映像、ニュースなど情報そのものの販売へと拡大している。
また、遺伝子情報処理を応用した新薬開発や品種改良、現在、国のプロジェクトとして実施されている統合交通管理システム(ITS)の開発、電子商取り引きや電子マネー、それに、電子政府などの大きな社会インフラとなるシステム開発などはすべて、いくつもの省庁が管轄する制度や法律にまたがる。企業がその技術開発や実証実験などを実施するにあたり、国の支援や認可を得ようとすると、関連省庁や機関を個別にまわらねばならない。各省庁間で開発や利用方針の相違があると、企業はその相違点の調整に走りまわることになる。(第1編 第2章 2.2(1))
このような省庁間の縦割り行政の弊害の解消に向けては、省庁の改編の作業が進行中であり、2001年の4月よりの実施を目指している。今回の改編により、いくつかの省庁が統合される。情報と通信に関係した産業界では、これら2分野が、現在、2つの省によって管轄されているが、これがひとつの省による管轄へと統合れることを期待した。世界の情報先進国では、情報と通信分野の現実世界での統合に合わせて管轄部局をひとつへ統合する改編がすすんでいる。
しかしながら、わが国の改編では、この2分野の管轄の一元化は取り上げられなかった。今や情報と通信は切っても切れない密な関係にあり、これにコンテンツ産業が接近し、あたらしい産業へと発展することが予想されている。John Tapscotの著書: Digital Economy では、この3つの産業の統合を、CCCの結合、すなわち、Computing, Communication and Contentの結合と呼び、ディジタルコンバージェンスとも呼んでいる。今後、情報、通信、それにコンテンツの3分野にまたがる研究開発の統合的施策立案に支障がでないことを祈るところである。
今や情報技術は、ほとんどの産業において、製品やその製造、管理、販売、経営における武器として利用される。従って、その新技術の研究開発も各省庁ごとに行われ、国の支援も行われている。当然、その中には、類似したものや、共通に利用できるものも数多く存在する。研究開発のみならず、新技術を商品化しようとする中小やベンチャー企業の支援についても、類似した施策が立案される。現状では、省庁間にまたがって、国の支援する研究開発の比較や評価を行ったり、技術交流を促進するような仕組みは無いか、あっても十分機能していない。米国では、各省庁の研究開発の調整組織 (国家科学技術会議 NSTC)が大統領の直下に設置され、強力な権限を持ちこの役割を負っている。(平成9年度 同名の報告書(その2))
将来の社会ビジョンや技術ニーズの策定も、各省庁の管轄分野の範囲内で行われることが多く、国全体を見渡しての社会ビジョンなどは、現在の組織では迅速に実効あるものを策定することは難しい。各省庁の利害が対立することが多いからである。各省庁の上に立ち、このような国全体を見渡した政策作りを目指した組織としては、高度情報通信社会推進本部や、最近設置され活動している産業競争力会議などがある。しかし、そこで作成された政策や計画の実施の仕組みが明確ではなく、総理大臣の強力な指導力が期待される。米国の大統領の情報技術に関する諮問委員会 (PITAC)は一年で提言をまとめ、その提言を実行
2)要因その3: ディジタル革命の急速な進行と追随できない官産学のリーダシップ
情報技術のわれわれの企業活動や社会生活への浸透は、きわめて急速である。特に、情報関連企業はもちろんのこと、一般消費者向けのビジネスを展開している企業はすでに、インターネットの販売への利用に多大の投資を行っている。電子モールによる商品の販売はもちろんのこと、銀行や証券会社もインターネット経由の金融商品の販売で利益を上げている。しかし、このような表層的な現象の進行とともに、深部において、企業構造や社会構造の変革が、急速に進んでいる。
ディジタル経済は、消費者や企業が地球の裏側からでも自分の好みに合うより安価な商品や情報、サービスの購入を可能とした。まさに、グローバル市場の誕生である。しかし、これは、企業の側から見ると、今まで、距離の近さから特定の地域的経済圏ができ、この中で競争していたのが、急に、世界がひとつの市場になり、その中での競争になったことを意味する。
最早、日本一では不足で、世界一を目指さねばならないこととなった。そして、そのためには、より低価格、高品質の商品やサービスを提供せねばならない。そのためのコスト削減の近道は人件費削減である。人員削減の容易な米国はわが国に比べ有利である。このほか、企業の経営環境、技術開発、人材確保など、あらゆる面での梃入れが緊急に必要である。また、同時に、産業の中長期ビジョンの策定を行い、それに応じた技術開発のアンブレラ(重点分野)を示すことが必要である。また、これらは、常に議論し、アップディトしておくことが重要である。(第1編 第3章 3.2(3)) 中でも企業が利益追求に専心できるための、周辺整備は国の重要な企業支援策として考慮すべきである。ここでは、大学の活用と大規模インフラ建設について述べる。
a) 産業や企業のリストラ推進:わが国の伝統的経営理念との決別
米国企業は、社員のレイオフ(解雇)がわが国企業に比べ、はるかに容易である。米国のコンピュータ関連の大手メーカは、古参社員の解雇と新人の採用を繰り返し、数年で社員の半分以上を入れ替えてしまったといわれている。また、採用にあたり、その処遇は、その時のその人の技能と企業の必要性のバランスで決定されるのが普通である。労働力の調達は、まさに労働者のスポット売買といえよう。経営者も例外ではない。株主の利益を確保できねば容易に解雇される。このような経営理念を、株主利益優先型経営と仮に呼ぶこととする。
一方、わが国企業においては、依然として終身雇用が主流であり、任期採用や裁量労働制などが取り入れられてきているものの、その切り替わりはきわめてゆっくりしたものである。また、その経営も伝統的な家族主義的経営、すなわち、社員やその家族までもがその企業の一員であると考え、企業は、社員やその家族の福利・厚生サービスまでを提供するという考えが生きている。これは、当然、企業の高コスト体質を生む。そのうえ、大企業は、多くの下請け企業をかかえ、それらの企業もまた、この家族的経営の理念に基づいて関係づけられ、産業全体の構造ができあがっている。
現在、その構造は、急激に変貌を遂げている。その速度を落とすことは、その企業の生存の可能性を低下させる。企業は、ヒューマニティを無視し、その伝統的経営理念を放棄するか否かの瀬戸際に立たされている。当然、下請け会社の系列も、価格優先の競争が支配する世界となり消滅してゆくことになる。情報関連企業や製造業とともに、その企業活動環境を作っている電力やガスなどのエネルギー会社、通信会社なども、低コスト化を求めらる。法人税や事業税もいずれ下げざるを得ないであろう。従って、情報技術の浸透は、ほとんど全ての産業に影響を及ぼすことになる。
b) 産業のシーズ技術創出のための基礎研究:大学へのアウトソーシングは可能か?
企業の研究開発に対する投資はどのようになるであろうか?高付加価値の新商品や新サービスの開発するための高度な技術開発と蓄積、顧客の好みをいち早く捉えた商品予測とすばやい開発、その他、いずれをとってもリスクも投資額も増えることになる。キャッチアップ型-護送船団方式の時代のように商品化直前の技術をただ同然で入手できない以上、高価についても購入してくるか、自前で作り出すことが必要である。
米国企業は、どのように解決しているのであろうか?
魅力ある商品やサービスの開発の基礎となるオリジナルなアイデアの創造やそれを商品に結びつけるため基礎研究は容易なことではない。有能な人材と多額の長期にわたる投資が不可欠である。企業が自前で負担するのは難しい。
そこで大学を活用する。アイデアの創出と基礎研究を大学にアウトソーシングすればよい。では、開発投資はどうするか。それは国の費用でまかなえばよいのだ。そのために、NSFやNASAを置き、NIHを作り、そこに有望テーマ発掘のための目利き(プログラムマネージャ)を置いておき、研究を管理させて、投資効率を向上させる。 (第2編 第2章 及び付属資料 4)
有能な人材の確保はどうするか?大学の研究環境を世界一魅力あるものとして、世界から優秀な研究者が自然と集まってくるようにすればよい。昨年度の調査によれば、米国の理工学系大学院における博士号取得者の80%は、 米国籍のない海外からの留学生や客員研究員であるという。そのため、米国民の税金で外国人を教育することの是非が問題となったという。しかし、結論からいうとこの件は是認された。学位取得者のほとんど(70-80%)は、米国企業に就職するというデータが得られたからだという。
わが国の大学は、このような産業界の期待に応えられるであろうか?
そのための大学の変革は、そのピッチをあげるためには、何をすべきなのであろうか?
c) 国による大規模インフラや社会システム建設と利用サービスの提供
企業が新しい商品やサービスを開発した時、その競争力を決めるものは何であろうか?一つはその技術の先進性である。そして、情報技術の応用商品の場合は、部分的なシステム、すなわち、大きなシステムの一部であることが多い。例えば携帯電話は、その端末自体は小さいが、その背後には巨大なネットワーク網やその管理機構が存在する。
先進的な新商品は、土台となるシステムの上に構築されるが、その土台もまた先進的でなければならない。開発ツールや設計のためのデータベースなども含めて、このような土台を広くインフラストラクチャー(インフラ)と呼ぶ。
技術開発が先進的なればなるほど、そのインフラも先進的となる。当然、高度なインフラ建設は高価につく。企業の立場からすれば、インフラの建設は大規模になると自前で行うのは無理である。そこで、インフラは多くの企業や産業の利用できる共通的なものとし、その代わり国の負担で建設し利用のための保守サービス等をやってもらおうということになる。すなわち、舞台作りは国の仕事とし、企業の役割は、その舞台の上で踊ることとするのである。舞台の建設費は高いが、その使用料は踊り手の得るギャラに比べ格段に安いのが常識である。しかし、踊り手は税金を払うから、うまく踊ってもらえば国の税収も増え、建設費はかなり取り戻せるという理屈であろうか。インターネットの前身であった実験用のネットワークは、共通の研究用インフラとして国の費用で建設、維持された。そして、今、米国はインターネットの1000倍の転送速度をもつ次世代ネットワーク計画(NGI)を実施している。このネットワークはしばらくは実験用のインフラとして使われるであろう。しかし、いずれは民間に払い下げられ、新商品や新サービスの土台となり、その土台の規模や性能の高さが、商品やサービスの競争力を確固たるものとすると思われる。 (第1編 第3章 3.1(2) 第2編 第5章 5.1 )わが国の政府や行政側が、このような産業界や国民一般へのサービスを自主的に提案することはほとんど無かったのではないかと思われる。新政策を打ち上げることには熱心だが、フォローは民間まかせという例が多い。政府や行政側の意識改革が第一に必要である。自ら先頭に立ち汗を流す姿勢は、わが国の官にはこれまで無かった意識である。しかし、その改革のための時間はあまりない。(第1編 第3章 3.1(1))
d) 国民個人レベルの労働環境の急速な変化とこれをフォローする支援制度整備
上記のような産業や企業の質的な変貌によって、個人の労働環境も大きく変貌することとなる。すでに、ディジタル経済に突入した米国では、産業は活況を呈しているが、労働者全体の平均賃金は減少しており、個人収入の較差は広がり、中産階級の減少が起っているという。わが国においても、企業の生き残りを優先すれば、そのしわ寄せは労働者個人にかかってくる。しかし、企業は生き残らねば国が滅びることになる。そのため、従来の会社に人生を委ねてしまう生き方は困難となり、自主的にその労働環境を開拓してゆくような生き方が必然的に求められてくる。このような労働者個人の支援が国の重要な役割となることは明らかである。この場合、失業手当とか生活保護といった後ろ向きの支援は不適当である。ここでもまた米国の対処方法を見てみることにする。米国では、そのような個人は自ら就業機会を探し出そうとするが、その内の多くは個人で会社を設立しベンチャー企業のオーナーとなる。そのような個人会社のオーナー達を「sole traders」と総称する。このような人々の支援は、ベンチャー企業を支援する制度を整備することで行うことができる。これらの人々は、SBIRに応募したり、民間のベンチャーキャピタルを得るため知恵を絞る。自分の会社を持ったからといっても顧客がつかなければ失業者と同じとも言える。その場合は、このような支援は失業者への支援であるが、失業手当と異なり、正に前向きの支援である。
わが国の労働者の環境が、米国のようになるか否かは現状では明らかではない。しかし、就業機会の確保は、個人の自主的な努力に、より多く依存する方向に進むことは確実であり、現在の若者にとっては、その方が受け入れやすいかもしれない。そのような予測に立てば、わが国においても、国は、これまでとは異なる、より重要な意味を込めて中小、ベンチャー企業の育成や市場での優遇処置を講ずるべきと思われる。また、このような個人が新しい技術を身につけるための、再教育や訓練の機会を準備し、相当の支援も行うべきであろう。
4.6.1 ディジタル革命への対応とフロントランナー的仕組みを目指して
21世紀の入り口において、わが国は大きな変革の時代に突入した。「情報産業の国際的競争力を向上させるために、国の行う研究開発支援の仕組みをどう革新してゆくべきか?」という本調査のメインテーマも、国の行政組織が改編され、経済活動や産業全体の構造が変り、個人レベルの労働環境が変わるという、全てが変わり行く中で考えねばならない状況になった。 さらに、この変革を招いたものは、過去の産業革命と同様にテクノロジーであり、今回の変革の源は、IT、すなわち、情報技術である。よって、今回の変革は情報革命、とか、ディジタル革命と呼ばれる。第2の産業革命と位置づける人もあり、米国は国をあげて、この革命を推進し、経済、技術、さらに、世界中の知識へアクセスできるネットワークの中心位置を占めることで世界の文化の覇者となることを目指している。米国はすでに、その生産額上で、国の産業の大半を情報技術を中核に据える製造やサービス産業に入れ替えてしまった。 歴史のある大企業もその外観は同じでも、その内容はすっかり新陳代謝し、新しい血や肉に入れ替わってしまっている。 わが国が、経済先進国としての現在の地位を維持することを望むならば、わが国の産業は、否応なくこの変革に追随し、世界の市場の中で競争力を維持してゆかねばならない。この変革を明治維新にたとえる人もいるが、それもあながち大袈裟と言えない。明治維新では、鉄道、蒸気機関、電気、電信電話などの、新しいテクノロジーが導入され、同時に、産業はもちろんのこと、政治、経済、行政、教育などの仕組みが一新された。今回の変革と多くの類似点がある。しかも、明治維新よりも、その変革のスピードは速い。明治維新の変革をリードしたのは、新しい技術や文化に適応できた30歳から40歳の若きリーダ達であった。米国の革新は、まさにそのような年齢のリーダ達によって進められている。わが国がキャッチアップしなければならないのは、まずは、この点ではなかろうか? さて、このような認識に立ち、国の研究開発の仕組みの変革を考察した。産業のシーズとなる技術開発のための基礎研究、大規模インフラの建設、国際的視野に立った政策やプロジェクトの立案と実施などを、国は自主性を持って行うことが求められている。もちろん、そのための知恵は、わが国の産学の有識者のみならず、米国など先進諸国からも集めることが必要であろう。 仕組み作りの全体的指針は、フロントランナー的な仕組みを目指すということであろう。ソフトウェア産業やコンテンツ産業が中心的産業になってくると、2番手戦術は有効ではない。先進性を持たない商品の製造は、世界中の低賃金労働者の確保が容易な国との競争に耐えられないと思われる。やはり、オリジナルな先進的商品を開発できる体制を目指さざるを得ないというのが結論である。そのためには、「キャッチアップ型-護送船団方式」の時代に簡略化したり省略していた仕組みの強化や整備が必要となるということであろう。 また、このほか、伝統的な家族主義的な経営から、米国型の株主利益優先型経営へ移行せざるを得なくなる結果、低コスト体質を強化するために企業からはみ出してしまう労働者が発生する。また、終身雇用制度の消滅は企業への帰属心を弱め、人々は自主的に職場確保のために努力し、行動するようになろう。このような国民個人を支援する仕組みも必要である。このような仕組みは、人の流動性を増し、企業体質の新陳代謝をスムースにし競争力強化にも貢献するはずである。 ここでは、国の役割とそのための仕組みを、大手や中堅企業を対象とする支援と、研究者や起業家など個人を対象とする支援の2つの見地から考察する。
4.6.2 大手や中堅企業の支援策の検討
4.6.2.1 企業の技術開発のどの部分を支援するか?
ディジタル経済の下における企業の生存の鍵を握っているのは、その企業の商品や提供するサービスの技術レベルの先進性であろう。そして、その次がコストであろう。ユーザニーズへ適合していなければならないが、これは先進的で高い技術レベルの商品が開発できれば、ユーザニーズの方がついてくる(市場ができる)と考えよう。このような商品、またはサービスはいかにしたら得ることができるであろうか?
a)このような商品の中核となる新技術や新手法(産業のシーズとなる技術)をどのように入手するか?
b)シーズとなる技術から、いかにしてユーザを魅了する商品を開発し、市場を作りあげるか?
c)その商品やサービスの競争力を高め、デファクトスタンダードとなるようなその市場におけるメジャーな地位を確保するか?
d)いかに技術や人材の新陳代謝を進め、企業を維持、発展させるか?
e)いかにして、低コスト体質を作り出し、維持していくか?
これらが競争力ある商品やサービス開発の主要な条件であり、これらを支援することが、国の産業振興策の目標と考えられる。
4.6.2.2 産業のシーズとなる技術創出のための支援A) 基礎研究段階のアウトソーシング
a)については、キャッチアップ時代は米欧などの先進諸国から、極めて安価に導入できた。しかし、それができない以上、高価であっても買ってくるか、自前で作り出さねばならない。4.5.2の 2)の b)で述べたように、米国のように大学や国研などにアウトソーシングして、産業のシーズとなる技術開発を実施してもらうことは、企業にとっては好ましいことである。
ひとつのアイデアが研究され商品につながるまで開発期間は永い。現在のパソコンのOSやUnixは、今から30年ほど前の米国のMultics Projectで開発されたCTSSというOSがもととなっている。また、われわれはマウスでアイコンをクリックしてパソコンにいろいろ命令を出しているが、このアイコンを使うアイデアも20年近くに、Xerox社のPalo Alto研究所で生まれたものである。そして、インターネットのアイデア誕生から今日までの道程も、またしかりである。
現在、技術革新が早く、「Dog Year」などといわれる。確かに製品の表層レベルの変化は早いが、それは、昔に播いた種が結実したものを次々と利用しているのであり、情報技術の幹となっている技術についての熟成期間が短くなっている訳ではない。研究を進めている人間の頭脳が急に進化することはないからである。産業のシーズとなる技術を得る為には、中長期にわたる展望を持って、種を播き、発芽したものの中から、将来性のありそうな苗を選別し、さらに育てるという基礎研究の永いプロセスをいくつも走らせておかねばならない。このようなプロセスの途中で多くの基本特許も生まれる。現在では、商品化の可能性が見えてくると研究内容が学会等で発表されることも無い。自ら生み出さねばならないのだ。
B) 大学や国研の活用とそのために国(行政側)が備えるべき仕組み
このような基礎研究段階への投資は効率が悪く、企業としては避けたいところである。そこでその研究開発は、国のプロジェクトとして実施してもらうことが望ましい。
もちろん、その最終段階(下流段階)では、企業は積極的に大学との共同研究を実施する。結実した果実の味を確かめると共に収穫しようという意図である。当然、企業も一部の費用を負担する。収穫は往々にして、技術のみならず担当の研究者もまとめて行う。ここで、企業と大学、それに研究者の利害は一致する。
では、リスクの多い研究費を負担した国の立場はどうであろうか。米国の場合、国は成果の商品化と市場投入に熱心である。研究成果が商品となり、企業が利益をあげれば、税収の増加と雇用創出がなされる。これが、国、すなわち、納税者の利益となり、すべて丸く収まるという図式である。
国は、税金の無駄使いを減らすことが義務づけられている。この図式がさらにうまく回転するためには、基礎研究段階の投資効率を上げることが重要である。企業は、放っておいても利益追求に走るが、大学やそこにいる研究者は、必ずしもそうではない。しかし、企業のほか、NASAやDOEなどの政府機関は実用化目的の技術開発を目指す。このため、Bay-Dole法(平成9年度 同名の報告書(その2)を参照)のような、国費による研究成果が企業に売れた場合には、ローヤリティの3割程度を、大学等へ与えるというような法律を作り、産業のシーズとなる技術創出のインセンティブを高めている。
しかし、大学は研究開発と同等以上に教育も重要な責務としており、両者のバランスがしばしば問題となる。企業から委託される商品化目的の研究開発に大学当局も学生も熱心になり過ぎ、基礎的な学問の教育が軽視されているという批判も常に聞くところである。その一方で、このようして得た資金は国から与えられる予算と異なり、その使用は大学が自主的に決定でき、大学の設備充実や基礎的学問の研究や教育に貢献しているという意見も聞く。米国大学の研究や教育スタッフの質や数、それに、設備の充実具合は疑い無く世界のトップレベルにある。わが国の大学の研究や教育スタッフ不足や設備の老朽化を見るにつれ、国全体の投資が、農業や土木建築分野へ偏っている投資戦略や制度のまずさの証拠を見る思いがする。
現在、わが国の大学は、企業との連携が効率的に実施困難な、法律や制度、慣習に支配されている。定員の削減、予算の少なさや執行ルールの柔軟性の欠如、教授を初めとする職員の採用や配置などについての権限の中央集権化などが、研究開発や成果管理や技術移転などの効率的実施を阻害している。この事情は、国研でも同様である。大学をエージェンシー化し、その運営の自主性を高めるという計画もあると聞くがそのような思い切った制度改革が望まれるところである。
大学や国研に基礎研究を委託する場合、国(行政側)は、そこで実施される基礎研究の成果が産業のシーズにつながるか否かを評価し、その収穫を増やすための仕組みを持つ必要がある。このための制度としては、プログラムマネージャ制度がある。米国では、NSF、NASA、DOEなど、全ての国の研究開発予算の執行機関に、大学の研究者と同等の知識や研究管理経験を有するプログラムマネージャ群を置いている。
彼らは、大学や国研などへ委託した研究開発の評価と管理を行っており、その管理する研究開発に対してそのテーマや内容、人員の構成、予算費目や執行などに実際面にわたり大きな権限を持っている。しかし、同時に、その成功、失敗に関する責任も課されている。専門家の評価は専門家を雇ってやらせているいうことであろう。この制度により、有望テーマの発掘や、不調なテーマの打ち切りなどが、迅速に行われ、国としての投資リスクを低減している。
C) 国の将来ビジョン策定や重点技術分野(アンブレラ)予測やそれに基づく研究開発関連の政策立案能力の強化
その他のリスク低減策としては、国が将来ビジョンを示し、研究開発投資を重点的に行う分野(アンブレラ)を明示する方法が取られている。このビジョンとアンブレラの明示は、常に不足する研究開発資源(人、物、金)を、特定の方向や分野に集中させる。国の投資は呼び水となり、民間投資も集中する。この結果、いろいろな研究開発や新技術を応用した事業が同時に試みられ、競争も活発となる。この結果、短期間に多くの可能性が試され、技術やその応用方法の淘汰が加速され、有望なものが短期間に選択される。
そして、これは b)の、商品に対するユーザの嗜好や、市場ができるか否かの評価実験的な意味もあり、産業界が進むべき方向を決定する上で、有効な情報を提供している。
このため、国のみならず、各産業分野において、将来ビジョンやアンブレラについての議論は常に行われ、その時々の話題にふさわしい、産業界や大学の現役中堅メンバーを結集し、国へのプロポーザルを作成している。報告書は公開され、さらに一般国民(米国流に言えば納税者)の反応をチェックし、支持多しと思えば直ちに予算へ反映させ、法制度などの組織も整えて迅速に実施に移す。
今後、わが国は、産業のシーズとなる技術を自ら作り出さねばならない。このためには、上で述べたような米国の仕組みや制度と同様か、それ以上の能率のよい組織を国を挙げて推進する必要がある。特に、国全体の将来ビジョンや、国が重点投資する産業や技術分野を示すアンブレラの作成と提示は、それを実施する省庁横断的仕組み作りと共にきわめて重要である。
また、そのアンブレラに対応して提案される個々の技術開発プロジェクトのテーマの発掘や採択、実施面における評価や管理を、専門家(プログラムマネージャ)を行政側に雇用して行わせるという「餅は餅屋に」的手法は是非とも見習うべきである。
4.6.2.3 大規模インフラや社会システム建設や利用サービス提供を通しての国の支援
4.5.2の 2)の c)で述べたように、これからの情報技術を応用した先進的商品は、その背後に大きく複雑なシステムが存在し、その一部となるようなものが多い。カーナビや携帯電話はその例である。今後の発展が予測される情報技術の応用分野の一つは、電子マネーや電子政府など大規模な社会システムであろう。
4.6.2.1の c)に示したデファクトスタンダードとなり得るような、市場におけるメジャーな商品の開発は、その背後に存在する大規模なシステムの開発時点から、競争が始まっていると考えねばならない。
例えば、インターネットの1000倍の転送速度を持つ次世代インターネット(NGI)の研究開発や、高速ネットワークで結合されたスーパコンピュータの空き時間のスポット売買を行うシステム(GRID)の研究開発が行われている。このシステムでは、どのスーパコンピュータも同じに見え、適切な課金機能とセキュリティを提供するミドルウェアの開発がポイントである。世界をまたにかけたシステムの研究開発が行われており、当然、国のプロジェクトとして実施されている。
また、そのプロジェクトには、コンピュータやネットワーク機器の製造メーカを始め、ソフトウェアハウス、それに、エンドユーザ向けの応用ソフトウェア開発を狙うメーカやコンテンツ産業に属するメーカなどが関心を寄せ、いろいろな形で参画している。このようなプロジェクトは、多くの国の参加を呼びかけている。
当初の目標として設定されているものは、限定されているし、必ずしも魅力十分というわけではないが、そこで建設される土台となるシステムは、そのまま大規模インフラとなり、その上に開発された技術は、広い応用範囲をもった多くのパッケージソフトウェアを生むことが予想される。
このプロジェクトが国際共同開発プロジェクトとして組織化されていることは、そのシステム仕様が世界標準となり、ゆくゆくは、デファクトスタンダードとしようとの意図があるものと思われる。また、実用化時点では、関連した諸国内に市場を開拓する上でも有利であろう。
このような大規模でボーダレスな先進的インフラの建設は、一企業で実施することは困難であり、国がリーダシップを取り、内外の関連企業を集めたコンソーシアムを作り実施することが必要である。規模が大きく、先進的で、多くの国や企業、研究者が集まれば集まるほど、そのインフラを利用する商品やサービスの多様性は増え、その価値は高いものとなる。
(第1編 第3章 3.1(3))(第2編 第5章 5.1 及び 5.4)
これからの情報技術の新技術開発は、地球規模の広がりを持ち、国境を越えて多くの企業や研究者、ユーザを引き付ける魅力ある大規模インフラ、それは、社会活動や経済活動を支える社会システム構築の土台となるのだが、そのようなシステム建設を目指すことが重要となろう。そのようなプロジェクトを提案し、そのリーダシップを取ることが、その国の企業により多くのビジネスチャンスをもたらすことであろう。このような形での、国の支援が可能となるような仕組み作りが求められいる。
このためには、先端技術を理解し、かつ、国際的プロジェクトの管理能力を有する人材を、国や関連機関が確保する必要がある。大学との効果的な連携も必要である。その実現は一足飛びにはできないから、そのような仕組み作りを目指すビジョンと計画の立案がその第一歩であろう。
4.6.2.4 中小、ベンチャー企業の新技術に基づく商品開発や起業家支援
新技術を抱えた中小、ベンチャー企業支援は、4.5.2の 2)の d)で既に述べたように、大手、中堅企業に対しては、次のような重要な支援を意味する。
1) 伝統的な家族主義的経営から、米国型の株主利益優先型のドライな経営に移行し低コスト体質を作らねばならず、人員削減が避けられない。このはみ出した労働力の受け皿を提供する。また、雇用機会の減少を補い、リストラの進行をスムースにする。
2) 大手、中堅企業の経営方針は概して保守的であり、新技術を利用した新商品やサービスの採用に対して消極的である。しかし、企業は、常に新しい技術分野や市場へ向けての進出やそのための要員の確保を行い、同時に飽和した市場からの撤退を行うなど、常に新陳代謝を行う必要がある。
このための手段として、新技術とそのための要員を抱えた中小、ベンチャー企業の吸収や合併(M&A)がある。有望な中小、ベンチャー企業の育成は大手や中堅企業の新陳代謝を支援する。(平成9年度資料 米国における情報技術企業のM&A戦略 )
4.6.3 国民個人を対象とする雇用条件向上と起業のための支援
4.6.3.1 国民個人の労働環境の変化と意識改革
4.5.2の 2)の a)で述べたように、わが国企業が、ゆるやかではあっても、家族主義的経営や終身雇用制度と決別し、米国企業のような雇用方式を採るとすれば、個人の労働条件も似たようなドライなものへと変化することが予想される。これまで会社人間であったわが国の国民はそれぞれ個人で、自主的に自分の技能や専門知識を開発し、企業と交渉して職場を得ることとなる。
このような人々が数多くなると、彼らの利害は企業と一致しないから、これまで「産」として一括りにしたグループを分けて考えねばならないだろう。すなわち、これまでの「官産学」というグループ分けに、新しいグループをひとつ付け加えなければならない。米国ではこれを納税者と呼んでいるようである。
わが国の就職活動では、学生は寄らば大樹の陰とばかり、大企業を指向するものが依然として多い。しかし、労働環境が変化し、プロ・スポーツ選手のように、その時のその人の能力に応じた短期契約が雇用の基本となった時、働くことを希望する人々の選択は、これまでの寄らば大樹の陰的な大企業指向中心から変化し、「自分の技能や専門知識、新技術やアイデアをもとに、会社を起こす」という選択肢を取る者も増えると思われる。また、契約が切れて就職先を探す者は、さらに、この選択肢を取る者が増えると予想される。
現在、国はバブル崩壊に起因する失業者対策として、起業家支援やベンチャー企業の育成を進めている感がある。しかし、今後は、終身雇用制度の消滅と共に、恒常的な労働者の離職と再就職の繰り返しが起る。このための、一時的な失業者対策ではない労働者の流動化をスムースにする仕組みが必要となる。
また、国民一般に、このような労働環境の変化が避けられないことを説明し、自主的な技能や専門知識の学習やそのアップデイトの必要性を理解してもらうことも必要であろう。このような環境に前向きに取り組んでもらうための意識改革が必要だからである。このような理解を支援することは、企業の体質強化の促進の支援でもあるわけである。
わが国の研究開発も、より効率よく産業のシーズとなる技術を創出し、新しい企業や産業を興し、雇用機会とよりよい労働条件を提供することに貢献することが望まれる。折りしも、米国の「21世紀IT計画」は、その冒頭で、米国の過去10年の情報技術への研究開発投資は、コンピュータ、半導体、ソフトウェア、通信装置といった製品を生産するビジネスは、今では、米国内生産全体の1/3を占めるまで成長し、数百万ドル規模の新しい雇用機会を生み出し、全国平均を上回る賃金レベルを維持しているとして、国のリーダシップの正しさとその投資効果を自賛している。
(第2編 第5章 5.3、付属資料 8 及び 9 )
4.6.3.2 情報関連技術の研究開発と産業振興による、国民の就業機会拡大とスムースな労働力の流動の支援
国民個人レベルの支援は、情報産業の適用分野を拡大し、新産業とその市場を作り出し雇用機会を増やすことが目標である。この論議は各所で行われているが、米国に比べ、はるかに整備の遅れている中小、ベンチャー企業支援の仕組みの整備や強化がまず重要であろう。具体的には、次のような施策や制度が計画されたり実施されたりしている。
1)中小企業向けの新技術開発の資金援助
2) 新技術開発や起業における税制面での優遇処置
3)ベンチャーキャピタルの育成
4)国や地方公共団体の調達における中小企業への優先枠設定
5)技術者の最新技術や知識習得のため再教育支援
6)国による社会システムやインフラ建設による新技術普及と産業育成支援
これらの制度や施策は、まだ、始まったばかりであり、米国の類似制度と比較すると、内容の充実度合いについて、大差がある。例えば、新技術開発の資金援助の内容をみると、金額が小さいばかりでなく、融資であり、何らかの返済の保障を求めていることが多い。米国の制度では、ほとんどの場合、融資ではなく、リスクマネーとしての投資であり、事業に失敗したときの創業者の負担は、自分が出資した分のみであり、有限責任である。(平成8年度、9年度の同名の報告書)(平成9年度 調査資料 ソフトウェア産業振興のための国の役割(アンケート調査))
この他、設立されたベンチャー企業の経営を安定化させるために、米国政府は、政府調達の約30%を、中小企業へ優先的に割り当てるなどの育成策を実施している。これは、情報産業やソフトウェア産業に限定されたものではないが、新興のソフトウェア企業の育成に有効に機能している。
(平成9年度 調査資料 米国の政府調達にみる中小企業支援制度)
これらの支援は、現在は、各省庁や機関ごとに、バラバラに行われている。下記のような仕組み、制度の管理を一元化し、シームレスなサービスを提供できるようにすべきと思われる。このための省庁横断的組織を作り、国のビジョンや重点技術分野の提示と関連させて、効率的な連携を実現することが望まれる。
a) 大学等における起業家を育成のための支援制度(米国のBay-Dole法のような国の費用で開発した知的財産権によるローヤリティ収入の一部を大学と発明者に与えるなど)
b) 起業のための資金援助のリスクマネー化
c) 一人でも会社を起こせるなどベンチャー企業設立条件の簡略化
d) 会社を起こした後の政府調達などによる経営安定化支援
e) 技術開発と商品化のための費用の補助
f) 国のプロジェクトへの参加促進(このためには、現行プロジェクトの運営方法や成果管理制度、及びその会計制度の改善が不可欠)