● この章のポイント
1) 特定省庁のIP政策は、その資金源と契約形態によって分類される。
2) 政府の研究開発研究プロジェクトは、その目的、商用化への道筋の長さ、関係庁によって、IP政策が大きく異なる。
3) The Accelerated Strategic Computing Initiative (ASCI)の場合は、政府によるIP所有と支援というふたつの混在が見られる。一方では、この国防上必要な技術研究のプログラムがDOEのFAR、DEARSの規制を受けており、これら省庁の通常としてIPを所有する。ところが実際には、こうした技術が製品としては十分な商業市場を確立していない場合は、SGI、IBM、
Sun 、DECなど国内企業の国際競争力を強めたいという目的から、政府の資金提供は「補助金」的な意味合いを含んでいる。さらにDOEの政策により、輸出規制によってこの戦略的IPの商用販売は制限されている。
4) 同じ政府資金提供によるプロジェクトでも、Computing, Information, and Communications
(CIC)の場合は、アンブレラ・プロジェクトとして複数の省庁が資金提供に関わっており、IP政策はそれぞれの省庁の方針によって定められる。そのうち特にNGIプロジェクトはDOD、NSF、NASA、
DOEが資金提供しているが、これもCICと同様スポンサー省庁によってIP政策は大きく異なる。
5) 政府調達プロジェクトの場合は、政府自身の使用に付すためにすでに開発済みの成果を購入する傾向が強まっており、その際にはIPは生じない。IPが生じる場合は、FARとその省庁の定めたFARによってその取り扱いは左右される。
6) 「支援制度」プロジェクトとして用いられた政府の資金は、「所有」プロジェクトとは大きく異なり、IPの民間譲与に寛大である。Small
Business Innovation Research (SBIR)は独自の政策方針のもとに運営され、これは文字通りの支援プロジェクトであり、ここから生じたIPは民間企業が所有する。またAdvanced
Technology Program (ATP)の場合は、ハイリスク、ハイポテンシャルな技術の研究開発を支援することで産業を活性化するという目的に基づいて、プロジェクトは「協力に関する合意」として成り立っており、IPは基本的に民間企業に移転される。
特定省庁のIP政策は、その資金源と契約形態によって分類される。下表に支援省庁が複数/単独/あるいは独立した運営母体によってプロジェクトが遂行されたか/の軸と、IPの所有/グレーエリア/支援の軸によってプロジェクトがいかに分布するかを示した。

政府の研究開発プロジェクトは、その目的、商用化への道筋の長さ、関係庁によって、IP政策が大きく異なる。
4.2.1 The Accelerated Strategic Computing Initiative (ASCI)
ASCIは、核兵器のバーチャル・テストとプロトタイプ化をサポートするDOEのコンピュテーション資源を拡大する目的で実施された数カ年におよぶプロジェクトである。
予算は8千500万ドルで、DOEのDefense Programラボの中で行われ、ロスアラモス、サンディア、ローレンス・リバモア研究所が参加した。
ASCIの目的は以下の通りである。

ASCIでは、政府によるIP所有と支援というふたつの混在が見られる。
一方では、政府はスーパー・コンピュータ技術を調達することによって、それを国防他重要プログラムに適用して、核兵器のストックパイル・シミュレーションを可能にしようとしていた。したがって国防上必要な研究プログラムとしてDOEのFAR、DEARSの規制を受け、これら省庁はその通常としてIPを所有する。スーパー・コンピュータ技術については、たとえ大きな商用市場があったとしても、政府省庁が優先的な顧客とみなされているのである。
ところが実際には、こうした技術が製品としては十分な商業市場を確立していない場合は、SGI、IBM、 Sun 、DECなど国内企業の国際競争力を強めたいという目的から、政府の資金提供は「補助金」的な意味合いを含んでいる。同様に、プロジェクトの目的はスーパー・コンピュータ技術が用いられることであって、コンピュータ自体にはない。したがってコンピュータ開発の経緯で生まれたIPはいくらか偶発的なものである。
さらにDOE自体の政策がある。大部分の省庁を通じて、商用IPは民間企業に移転されるのが通常だが、DOEの「所有」観念と基礎研究への関わりという理由によって、DOEはIPを保有する傾向が強く、また輸出規制によってこの戦略的IPの商用販売を制限する。
その結果、ASCIのIP政策はケース・バイ・ケース的な対応が見られる。
4.2.2 Computing, Information, and Communications (CIC)
CICは、National Information Infrastructure (NII)に関する行政イニシャティブ研究開発から派生したものである。同じ政府資金提供によるプロジェクトでも、CIC
の場合はアンブレラ・プロジェクトとして複数の省庁が資金提供に関わっており、IP政策はそれぞれの省庁の方針によって定められる。
1998年度のCICの資金提供に関わった省庁は以下の通りである。

4.2.3 CIC-NGI
CICのうち特にNGIプロジェクトは、DOD、NSF、NASA、 DOEが資金提供しているが、これもCICと同様、スポンサー省庁によってIP政策は大きく異なる。NGIプロジェクトから生まれるIPの大部分は、DARPAの典型的な政策にしたがって民間企業に移転されると考えられる。当初NGIの政策提案は議会で「企業福祉」との非難を浴びたが、その後IPの取り扱いは注意深くモニターされている。
NGIのゴールは次の3つである。

4.2.4 ヨーロッパの場合:ESPRIT
ESPRITプロジェクトでは通常、IP所有と重要な用語(Forground IP, Background IP,利用、アクセス権、フル・パートナー、アソシエート・パートナー、ライセンシー、重要機密など)について規定した契約が交わされる。EUは政府がIPを所有しなくとも、コントラクター以外にも複数の組織にアクセス権を譲与することを強調している。
だが、原則が守られる限りにおいて、EU政府はIPの取り扱いが関係組織間で自由に交渉され取り決められるのを認めている。
経費削減のため、政府調達プロジェクトでは、政府自身の使用に付すためにすでに市場にある製品を購入する傾向が強まっており、その場合はIPは民間企業が保有し、新しいIPもプロジェクト契約からは生まれない。
DODによるソフトウェア調達を1992年と1998年で比べると、その実態がわかる。

政府独自の分類により、すべての調達プロジェクトは契約上は「所有」とみなされる(R&Dの場合は、所有、支援、開発協力に分けられる)。調達プロジェクトの契約はすべて、FARとその省庁の定めたFARによって規定され、IPが生じる場合はその取り扱いは調達を行う省庁の性質と政策に左右される。
「支援制度」プロジェクトとして用いられた政府の資金は、「所有」プロジェクトとは大きく異なり、IPの民間譲与に寛大である。
政府所有はすべての調達プロジェクトと一部の研究開発プロジェクトに見られ、その政策は各省庁の方針に従うものである。アメリカ政府に貢献する製品、やサービスを取得することがその基本的な目的である。
支援制度の場合は、プロジェクトの目的は支援を受ける側が定める。支援金はOMB Circular A-110が包括的に規定する中で各省庁がガイドラインを設定するもので、ビジネス組織以外の非営利団体や大学が受ける。
協力に関する合意では、Tech Transfer Act とCRADAが定めるところによって規定される。条件はフレキシブルで、参加する企業のガイドラインに合致するよう調整されることもある。
つまり政府省庁が研究を支援するのは、連邦の法律の権限によって民間へのサポートや活性化をはかるという目的で行われる。
また、ここには明解な政府がIPを所有するプロジェクトか、あるいは明解に支援制度プロジェクトかに分類され得ないグレーエリアがあり、政府に益さなくともIPが政府所有となったり、また反対に支援制度として扱われたりするプロジェクトも存在する。
4.4.1 Small Business Innovation Research (SBIR)
SBIRプログラムは、1982年のSmall Business Innovation Development Act によって生まれ、1992年のSmall
Business Research and Develpment Enhancement Actによって2000年まで継続することが決定された。1億ドル以上のextramural
R&D予算を持つ省庁はSBIRプログラムを設置することを義務づけられ、その予算の規定の割合(1983年には0.2%だったが、徐々に拡大して1997年度は2.5%)をそれにあてるように定められた。目的はスモール・ビジネスの活性化によって革新的な技術の開発、商用化をはかることである。
これは明らかに支援プロジェクトであり、政府は支援の受領者の選定に関わりはするが、IPは民間企業に譲渡される。支援金には付帯条件はなく、支援金は革新的なコンセプトの実現可能性を探る企業への支援(7万5000ドル)と、その中から実際に商用化まで遂行できる企業への支援(75万ドル)の2段階に分類される。付帯条件がないことによって、他のプロジェクトに比較として官僚的な手続きが少なかったことが長点として挙げられるが、一方でSBIRプロジェクトの成果のレベルはあまり高いものとはなっていない。
4.4.2 Advanced Technology Program (ATP)
ATPは、ハイリスク、ハイポテンシャルな技術の研究開発を支援することで産業を活性化するという目的に基づいて1990年に設立され、1999年度には2億6000万ドルで運営される。運営はDOCに属するNISTが行う。すでに商用的な成功を収めたプロジェクトも数件ある。
ATPの特徴を以下に挙げる。
ATPプロジェクトは「協力に関する合意」として成り立っており、IPは基本的に民間企業に移転される。プログラムの性質上、支援金の受領者は技術の特許申請ができる営利組織を含まねばならない(非営利組織の場合は、合意に基づいてその企業から支払いを受けることができる)。企業が単独で支援金を受ける場合が多いが、これは商用化を簡単にすることやIPの契約を簡略化することにもつながる。ATPプロジェクトから生じた特許は、米国企業に帰属しなくてはならない。また重要なのは、IPは支援を受ける民間企業に授与されるが、企業が商用化に失敗した場合、政府はIPを差し押さえる条項を設けることができる点である。
Lee Burrows, CalTech PhD Researcher
J Chester, NSF
Consultant to the ESPRIT program, works for UK Dept of Trade and
Industry
Individual from the ESPRIT program
Jon Foster, Former White House Office of Technology
Ben Golub, VeriSign. Former applicant for ATP funds
Dave Herr, ASCI PathForward Liaison
Jeanne Hudson, NSF lawyer
Brian Kahin, NII-oriented lawyer/consultant, White House OSTP
Colin Lau, LLNL Contracting lawyer
Mark Liebman, Vividata (software company, sells to government)
Jerry Linn, Information Technology Laboratory, NIST
Martha Livingston, White House, OSTP
Michael Rubin, Deputy Chief Counsel, NIST
Stephen Squires, DARPA Contracting, sat on CIC Committee
Jeff Weiner, Manager of contracting, Lawrence Berkeley