AIST歩行データベース2013

目次

(1)はじめに

  2008年~2012年にかけて、(独)産業技術総合研究所 デジタルヒューマン研究センター/デジタルヒューマン工学研究センター(以下DHRC)にて139名の全身の歩行パターンのデータを計測した。本資料では、これらのデータをデータベースとして管理するために、歩行データの詳細、および可視化ソフトVisual3D Readerについて説明を行う。


(2)計測環境・計測機器

  歩行計測は図のようにモーションキャプチャシステム(Vicon社製Vicon MXシステム・Vicon Nexus)と床反力計(Amti社製 BP400600-1000PT)を用いた。被験者には適宜計測着(スパッツ・ノースリーブシャツあるいは上半身裸)を着せ、初めに基準姿勢(直立姿勢)を計測した。その後、裸足にて歩行計測を行った。この時、被験者には、「日常でいつも歩いているように真っ直ぐ歩いて下さい」と指示し、床反力計の設置しているエリアを中心に約10mを歩かせた。数回の練習試行の後、計測試行数は右足から床反力計に入る場合を5試行、左足から床反力計に入る場合を5試行の計10試行分を計測し、その中で右足から床反力計に入る場合のデータを1試行分データベースに登録した。マーカ位置と着力点位置はVisual3D内で6Hzのローパスフィルタ処理を行い、床反力データはVisual3D内で10Hzのローパスフィルタ処理を行っている。なお、本計測は(独)産業技術総合研究所内の人間工学実験取扱要領に従って行われた。


(3)マーカセット

  計測時期などの影響により、マーカ取り付け位置やマーカ数は被験者によって異なっている。しかし、基準となるランドマーク上のマーカなどについては共通のものを使っているため、モデル作成自体の影響はない。Visual3Dでは、まずランドマークを用いて基準姿勢でのモデル姿勢を作製する。この時に得られたモデルの各節について、各節に取り付けたマーカをガイドにしてもっともそのマーカのずれが少なくなるように姿勢を変化させて運動データにマッチさせている。このガイドマーカは必ずしもランドマーク上にある必要はないので、一般には、多く取り付けてずれの総和を少なくするか、変形があまり生じない位置にマーカを貼りつけて剛体リンクとみなして各節の姿勢を幾何学的にフィットさせている。主なマーカセットを次図に示す。

  なお、データにより、マーカラベル位置が図と異なるものがあることに注意されたい。RUPA/LUPA、RFRA/LFRA、RTHI/LTHI、RTIB/LTIBはSIMMなどのマーカセットでは図のように配置される必要があるが、Visual3Dでは各節のガイドマーカとしての役割としてのみ必要であるため、一部のデータでは各節内のある1点を便宜的にこれらのマーカ名で扱っている。


(4)モデルと座標系

4-1. 骨盤

  骨盤モデルは、図に示す定義に従い作成される。詳細は[Bell, et al. 1989][Bell, et al. 1990]を参照されたい。あるいは、Visual3Dの解説Wikiにて詳細が記載されているので参照されたい。このモデルでは、股関節中心位置も同時に求められる。

  本計測では、Right PSISとLeft PSISを計測している場合と計測していない場合がある。PSISを計測していない場合は、両PSISの中点をSACRと名付けて計測しており、これをモデル作成のために用いている。(よって、SACRは厳密には上述のマーカ位置で説明した仙骨点ではないことに注意されたい)

[参考] Bell AL, Pederson DR, and Brand RA (1989) Prediction of hip joint center location from external landmarks. Human Movement Science. 8:3-16: Bell AL, Pedersen DR, Brand RA (1990) A Comparison of the Accuracy of Several hip Center Location Prediction Methods. J Biomech. 23, 617-621.
http://www.c-motion.com/v3dwiki/index.php?title=Coda_Pelvis

4.2 下肢節の座標系

例えば大腿節の場合:

遠位端:大腿骨外側上顆最凸点と大腿骨内側上顆最凸点の中点
近位端:股関節点(4.1で位置が求められている)

座標軸:
z軸:遠位端から近位端を通るベクトル
y軸:遠位端ランドマークを通る軸とz軸の外積ベクトル
x軸:z軸とy軸の外積ベクトル

下腿節の場合:

遠位端:腓骨外顆最凸点と脛骨内顆最凸点の中点
近位端:大腿骨外側上顆最凸点と大腿骨内側上顆最凸点の中点

座標軸:
z軸:遠位端から近位端を通るベクトル
y軸:近位端ランドマークを通る軸とz軸の外積ベクトル(大腿節とは異なることに注意)
x軸:z軸とy軸の外積ベクトル

足部節の場合:

遠位端:第1中足骨点と第5中足骨点の中点
近位端:腓骨外顆最凸点と脛骨内顆最凸点の中点

座標軸:
z軸:遠位端から近位端を通るベクトル
x軸:近位端から見て,踵点方向を負の方向とし,z軸に直交するベクトル
y軸: z軸とx軸の外積ベクトル

  詳細は、http://www.c-motion.com/v3dwiki/index.php?title=Constructing_the_Segment_Coordinate_Systemを参照されたい。これらは円錐台(手部と頭部は楕円球)により幾何近似が行われており、慣性モーメントはこの幾何近似を基に求められている。重心位置や節質量などの定義については、また、Visual3D Readerから[Model Viewer]タブを選択し、リストに掲載されている各節の名前をダブルクリックすると、マーカからどのように各節を定義したかがわかる。上肢および頭部のモデルの説明は省略する。

4-3 上体のモデル化

  上体のモデルも下肢節と同様にモデル化されるが、近位端や遠位端をどのように定義するのかが問題となる。本データベース作成においては、RAB Thorax Model [Rab, et al. 2002]を用いた。このモデルでは、腸骨稜の端点の位置が必要になるが、腸骨稜の端点の位置の推定には、[Kepple, et al. 1998]を参照している。詳細は文献およびVisual3DのWikiを参照されたい。なお、この上体のモデルと骨盤部は、骨盤部に上体モデルと接続する関節が定義されていないため、骨盤と上体モデルの間に質量および長さを持たない仮想リンクを定義し、上体モデルと骨盤部を接続している。

[参考]Rab G, Petuskey K, Bagley A (2002) A Method for Determination of Upper Extremity Kinematics, Gait & Posture, 15, pp 113-119Kepple TM, Sommer HJ, Siegel KL, Standhope SJ (1998) A three-dimensional musculoskeletal database for the lower extremities. Journal of Biomechanics 31, pp 77-80
http://www.c-motion.com/v3dwiki/index.php?title=Tutorial:_Modeling_the_ThoraxのRAB Thorax Modelの項

4.4 モデルの関節自由度

  各関節のうち、膝関節は屈伸1自由度、肘関節は屈伸と回旋2自由度、手首関節は掌背屈と橈尺屈の2自由度、その他の関節は3自由度を持つ。

4.5 関節角度の定義

  各関節角度は、骨盤を基準にして、近位節から見た遠位節の3次元相対角度として表している。この時、x軸が屈伸(前後屈)、y軸が内外転(左右側屈)、z軸が内外旋(左右回旋)を表している。なお、足部に関しては、立位時の姿勢を0基準にしているわけではないことに注意されたい。すなわち、下腿節から見た足部節については、立位姿勢で常に60度程度背屈した角度として算出している。なお、左半身の内外転・内外旋角度については、右手座標系基準の場合、左右で符号が変わってしまうが、本データベースでは、左右の違いを比較できるように符号を反転して表記している。例えば右股関節の内転角度は正の値で表されるが、左股関節の内転角度も正の値で表されるようにしている。

  3次元角度の回転順番は、x(屈伸)→y(内外転)→z(内外旋)の順になっている。ただし、本DBでは、この順番で肩関節周りの関節角度を記述すると、被験者によっては角度計算で不具合が生じることを確認している。これは、上腕のx軸座標が肘のランドマークに沿って計算され、歩行時には上腕骨が90度以上回旋する被験者がいるために、数値計算上象限を間違えてしまうためである。この現象の改善策として、簡単には、回転順番を見直すことで改善されるが、本DBではあえて他の関節角度データと合わせるため、このままにしてある。

4.6 関節角度の定義

  骨盤角度については、歩行中の被験者の右側を計測空間のx軸の正方向、地面に鉛直な方向を計測空間のz軸の正方向として、空間内での骨盤自体の傾きとして算出した。

4.7 関節モーメントの定義

  関節モーメントも関節角度と同じ定義を用いている。すなわち、骨盤を中心に、近位節座標系で記述された遠位関節の関節モーメントとして記録されている。左下肢の内外転モーメントおよび内外旋モーメントは関節角度定義と同じく、符号を反転して表記している。なお、本DBでは床反力データが正確に計測されているのは、右踵接地から1周期後の右踵接地までであることに注意されたい。本DBでは左下肢や腰部のモーメントも計算されるが、右踵接地直後の左足部の床反力データは計測されないため、右踵接地直後の左下肢および腰部の関節モーメントは正確ではない。

4.8 床反力データの表記

  4.7節で示したように、床反力データは右踵接地から1周期後の右踵接地まで計測されており、その間の左踵接地時の床反力データも計測されている。4.6節の骨盤の角度定義の際の定義と同じく、歩行中の被験者の右側を計測空間のx軸の正方向、地面に鉛直な方向を計測空間のz軸の正方向として、床反力データおよび着力点位置データを表記した。左右方向床反力は、左右下肢で方向が反転するため、4.5節の角度定義と同様に、左下肢にかかる左右方向床反力の符号は反転して表記している。

4.9 関節消費パワーの定義

  関節消費パワーは関節角速度と関節モーメントの積で表される。本DBでは近位節座標系で計算された遠位関節軸まわりのそれぞれの消費パワーを算出した。関節消費パワーが正の値の時はコンセントリックな筋活動を表しており、負の値の時はエキセントリックな筋活動を表している。


(5)CMOファイル

  被験者ごとに1つのCMOファイルが作成されている。CMOファイルの中身は、基準姿勢データと歩行パターンデータの2つで構成されており、いずれもDHRC内のVicon MXシステムおよびVicon Nexusを用いて計測したものである。

ファイル名に被験者の属性が記載されている。ファイル名の形式は下記の通り。

M36-1800-096-NR.CMO
F26-1570-053-PL.CMO

  • 1文字目:性別(M:男性/F:女性)
  • 2~3文字目:年齢
  • 5~8文字目:身長(mm)
  • 10~12文字目:体重(kg)
  • 14文字目:計測空間座標系内の進行方向(y軸)の向き(P:正の方向(Positive)/N:負の方向(Negative))
  • 15文字目:床反力計をどちらの足から踏んでいるか(R:右足/L:左足)

なお、今回のデータベース内のデータは、全ての被験者が右足から床反力計に入っているものを採用した。


(6)Visual3D Readerの使い方

手順0

  Visual3D ReaderはC-motion社(アメリカ)が無料で公開しているCMOファイルのビューアである。現在はFree CMO Readerという名称で下記よりダウンロードできる。インストールすると名称は「Visual3D Free Reader(バージョン名)」となる。本項の説明では便宜上、「Visual3D Reader」という名称を使用する。
  http://www2.c-motion.com/free

手順1

  Visual3D Readerを起動する。起動すると下図のようなウィンドウが現れる。

手順2

  [File]→[Open/Add]でファイル選択ダイアログが開くので、見たいCMOファイルを選択する。

手順3

  Motion Files下のc3dファイルをダブルクリックすると、アニメーションビューワー画面になる。

  グラフィック画面内で、マウスボタンを押しながら動かすことで、回転や拡大縮小ができる。

  • 左クリックしたままマウスを動かす→回転
  • 右クリックしたままマウスを動かす→拡大縮小
  • 左右クリックしたままマウスを動かす→並進移動

  下の>ボタンなどでアニメーションを動かすことができる。

手順4

  Report Viewerタブを選ぶと、被験者の歩行時の情報を見ることができる。

  • 1ページ:時間因子(歩行周期など)・距離因子(歩幅など)
  • 2ページ:床反力データ・着力点位置データ
  • 3ページ:下半身関節角度データ・骨盤角度データ
  • 4ページ:上半身関節角度データ
  • 5ページ:下肢関節モーメントデータ
  • 6ページ:下肢関節モーメントデータ

手順5

  [Free C3D/CMO File Viewer]タブを選び、左側にあるフォルダ列をクリックすると、様々な情報を見ることができる。フォルダ列の中のそれぞれの情報を右クリックするとグラフを記述することができ、また、左クリックすると、フローウィンドウで値を表示し、さらにはテキストデータとして出力することができる。

  • EVENT_LABEL:歩行イベント(踵接地・つま先離地など)
  • TARGET:マーカ位置
    • Original:計測生データ
    • PROCESSED:フィルタ処理後(6Hzローパスフィルタ)
  • ANALOG:床反力の各センサの出力情報(一般には使用しない)
  • FORCE::床反力ごとの床反力データ
    • Original:計測データ
    • PROCESSED:フィルタ処理後(10Hzローパスフィルタ)
  • COFP::床反力ごとの着力点位置力データ
    • Original:計測データ
    • PROCESSED:フィルタ処理後(6Hzローパスフィルタ)
  • FREEMOMENT:床反力ごとのモーメントデータ(一般には使用しない)
  • LANDMARK:マーカ位置を使って定義した空間内での仮想マーカ位置、例えば関節点など.
  • LINK_MODEL_BASED:関節モーメント・関節角度などの計算データ
  • KINETIC_KINEMATIC:各節ごとの運動学・運動力学情報(一般には使用しない)
  • DERIVED:各節ごとの軸周りの回転情報(一般には使用しない)
  • METRIC:被験者の身長や体重、データ正規化のための情報など
  • FRAME_NUMBERS:時間情報(一般には使用しない)

※右上のダイアログがファイル名になっていることを確認のこと。ここがGLOBALやALL_FILESになっていると、左クリックができなくなる。ファイル名になっていない場合は、ファイアログをクリックして、ファイル名を選ぶ。


右クリック時:右端のエリアにグラフを記述することができる。

左クリック時:[Export ASCII]でそのデータをテキストに書き出すことができる。


(7)歩行データベース諸元

  • 保存フォルダ:\2013_DHRC_GaitDatabase_Original\CMO
  • 男性:76名(19歳~73歳)
  • 女性:63名(13歳~72歳)
  • 身長:1477 mm~1890 mm
  • 体重:41 kg~124 kg
  • ファイルサイズ:991 MB (1,039,794,176 バイト) / 139 ファイル(描画データ込み)

(8)個人情報の取り扱い

  今回公開するデータベースの特徴は、集団全体の統計データではなく、計測にご協力いただいた被験者の方々の個別データを公開するところにあります。個別データの公開に際し、個人情報の扱いには、以下のように配慮いたしました。

氏名、住所など、個人が特定できるものは公開しません。
上記の個人情報は、計測を行った産業技術総合研究所 デジタルヒューマン工学研究センターが責任を持って管理し、一切、外部には出しません。

  計測にご協力いただいた被験者の方々には、あらかじめ「個人が特定できないかたちで、計測データを公開する」旨を説明し、同意いただいております。


(9)引用

  本データを引用する際は、下記のように引用して下さい。

  • 【和文】小林吉之,持丸正明,2013:AIST歩行データベース2013.
    https://www.airc.aist.go.jp/dhrt/gait2013/index.html
  • 【英文】Yoshiyuki Kobayashi, Masaaki Mochimaru, 2013: AIST Gait Database 2013.
    https://www.airc.aist.go.jp/dhrt/gait2013/index.html

(10)お問い合わせ・データ入手

 入手を希望される方は下記のとおりご記載のうえ、公開データ担当メールアドレスまでご連絡ください。折り返し、提供にあたってご提出をお願いしているアンケートおよび使用同意書フォームをお送りいたします。


公開データベースの提供希望、使用にあたってよくご質問・お問い合せいただく事項をまとめました。

 ご不明な点がある場合は、まずこちらをご一読ください。

 上記で解決しない場合、また具体的な事例のご相談などのお問い合わせ全般は下記公開データ担当メールアドレスにてお受けしております。


データベース提供ご希望の場合は下記をもれなくご記載ください。
  • お名前
  • ご所属(法人名・部署名 もしくは大学名・学部名 など)
  • 連絡先メールアドレス
  • 該当データベースの名称(本データベースの場合は「AIST歩行データベース2013」)
  • 使用目的(差支えない範囲で結構です)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
AIST人体寸法・形状データベース 公開データ担当

dhrc-liaison-ml@aist.go.jp

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