ICOT TODAY Issue #10
December 8, 1994
光陰矢を超えて、弾丸級のスピード?! で時がながれているような気がする今 日この頃です。
ICOTでは、来週の火曜日から行われる国際シンポジウム、FGCS'94の準備たけ なわ。研究員の面々は、最新の研究成果を皆様にわかりやすくご報告したいと、 日夜、発表準備に励んでいます。
おかげさまで、参加申し込みをして下さった方も予定人数を越え、賑やかな会 議になりそうです。とはいえ、「しまった! まだ参加申し込みをしていない! でも参加したい!!!」とご希望の方は、是非一度事務局にお問い合わせ下さい。
まだ余裕のあるワークショップもありますし、若干窮屈になることをお許し頂 ければ、成果報告会や歓迎レセプションにも、まだ参加して頂けると思います。
FGCSプロジェクト 11年、後継プロジェクト 2年、計 13年を総括する、最後の 会議であるこの 4日間を、是非みなさまと一緒に過ごしたいと思います。
FGCS'94の会場で皆様にお会いできるのを、心より楽しみにしております!!
浪越徳子
それでは、ICOT Today 第 10号、最近の ICOT関連ニュースの Headlineからお 伝えします。
最後を飾る地は九州です! 九州大学において、新年 1/23(月)、24(火)の開催 (希望者多数の場合は 24(火)、25(水)に第2回を実施)を予定しております。 詳細は九大 吉田先生(下記)までお問い合わせ下さい。(お申し込みは、 1/13(金)までにお願い致します。)
(記事なし)
この記事は、JIPDEC&ICOTが誇る女性研究員! 高橋千恵さんに書いて頂きまし た。彼女ならではの切り口で Quixoteを分析していますので、きっとお楽しみ 頂けると思います!! (記事 No. 10-1)
各ワークショップでは、招待講演のセッションを設け、海外からの招聘研究者 に講演をして頂くことになっています。ここでは、それらの招待講演の聞きど ころ? について、ワークショップ幹事の方々に事前に教えて頂いたことを、み なさまにお知らせしたいと思います。題して「FGCS'94ワークショップ招待講 演 直前演習」。(記事 No. 10-2)
今回は、ICOT で開発しました、Quixote(キホーテと読みます)の紹介をします。 「キホーテ」と聞いて、スペインの作家セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」 を思い出された方も多いと思います。
では、まず、「なぜ、Quixote と命名されたか?」の謎!? :) を探るために、 データベースの歴史を簡単に振り返ってみましょう。
その前に、謎を解くヒントを差し上げます (^^)。それは、「ある出会いがあ り、結ばれ、その(愛の!?)結晶だから!!?」です。
それまでの階層型データベースやネットワーク型データベースは、データの構 造を知らないとどのように検索を行なってよいかわからないという問題点があ りました。それを解決するために Codd は、表を基本的なデータ構造とし、関 係代数と関係論理にもとづく操作を持つ関係データベースを提案したのでした。 この関係論理と関係代数が、数学的に明確な基盤を関係データベースに与えた ので、関係データベースは、活発に研究されるようになります。
その結果、より速く答を得る問合せの最適化と、更新によって不都合が生じな いデータベースの設計法において、関係データベースは大きな成果をあげるこ とができました。この成果はデータベース全体の信頼性を上げました。
そして 1980年代に入ると、表形式のデータ構造が事務処理のデータ構造に適 していたこと、マシンの処理能力の向上が関係データベースの処理に追いつい たこと、使い易かったことなどから、関係データベースが普及し事務処理の分 野で成功を収めます。
そうではありません。発端は、1950年代の定理証明における論理と計算機をつ なげようという考え方にまで遡れます。この考え方は関係データベースを生む きっかけを与えていただけではなく、他方で論理をプログラミング言語にも使 おうという考えを生んでいて、1972年に論理プログラミング言語Prologが生ま れます。
論理という同じものを基礎としていることから、Prolog の誕生は関係データ ベースの研究に影響を与えます。それは、関係論理を Prolog が基礎にしてい る一階述語論理まで拡張しようとか、関係データベースのような問合せ言語だ けではなくデータベース全体を論理の視点から考え直そうなどという、1970 年代半ばの動きです。こうして、1977年頃、関係データベースと論理プログラ ミング言語を組み合わせたものとして、演繹データベースが誕生します。
関係データベースから演繹データベースになって大きく変わった点は、データ ベースがルールを持てるようになったことと、ルールを使った推論能力を持つ ようになったことです。それまでのデータベースは、単なるデータの貯蔵庫と 考えられており、データの検索ができるだけでした。演繹データベースは、デー タベースが推論能力も持てることを示し、人間の問題解決を支援するシステム に深く関わることができることを示しました。
更に、演繹データベースは、その基礎である論理の性質上、問合せに対して 「正しい解以外は求めない」、「正しい解は全て求まる」という二つの性質 (健全性と完全性と呼ばれています) を持つことが分かっていて、データベー スとして重要である信頼性を保証しています。
関係データベースが考えられた 1970年代とは違って、ちょうどこの頃、1980 年頃から、図形・画像データや複雑なデータ構造を扱うアプリケーションが急 速に増えてきます。そこで、事務処理分野で成功を収めつつあった関係データ ベースを使って、それらを扱う試みがいろいろと行なわれます。が、関係デー タベースは複雑なデータに対しては使い難い、処理効率が悪いという問題点が 明らかになります。演繹データベースに関しても、研究のきっかけが関係デー タベースと論理プログラミングの統一であったために、残念ながら、この問題 はそのまま受け継がれています。つまり、関係データベース、演繹データベー ス共に、「複雑なデータ構造を扱う応用には、どう対処したらよいのか。」と いう壁にぶつかってしまいます。
オブジェクト指向データベースの元となっているオブジェクト指向プログラミ ングのルーツは、ソフトウェアの開発、保守を助けるプログラミングのための 斬新的な試みにまで遡ります。それらのうちオブジェクト指向データベースで も重要となっている考え方を紹介しましょう。
1960 年代半ばに、シミュレーション用のプログラムを書くために考案された Simula-67 において、オブジェクトの概念が導入されました。オブジェクト指 向プログラミングの直観的な魅力は、「オブジェクト」という抽象的なもので 世界を捉えることによって、現実世界を素直に表現できることです。データベー スの観点からこの魅力を具体的に言うと、任意のデータ型とその手続きを許す ことによって、実世界をデータ型に合わせて変換するユーザの手間を省き、計 算機上に表現できる対象を増やしました。しかし、ユーザに手続きを自由に定 義させたので、その結果の正しさはユーザの責任となります。
1970 年代には、人工知能の分野で Frame 理論が作られ、のちに情報の組織化、 コードの共有、再利用に有効であると認められる「継承」の概念が誕生します。 1980年に米国の Xerox社のパロアルト研究所で開発されたプログラミング言語 Smalltalk-80 でオブジェクト指向プログラミングは一躍有名になります。そ の後も、FLAVORS による多重継承などという考えが生まれ、オブジェクト指向 プログラミングの基本的概念を形成していきます。
このようにオブジェクト指向プログラミングを構成する概念は、多くの研究の 結果であり、応用に合わせて半ば経験的に形作られました。そのため統一的な 形式が乏しいものとなっています。そのような概念を元にしたオブジェクト指 向データベースにも、統一的形式はありません。にもかかわらず、応用に適合 し易いという理由から、1980 年後半には機能が異なる、いろいろな製品が出 される異常事態になります。
一方は、第一階述語論理を元にしており、形式的基礎が明確であり、データベー スとして重要な問合せ結果は論理によって保証されていて、既存の関係データ ベースとの上位互換性も持っています。しかし、述語表現では複雑なデータ構 造は扱えず、実験システムがいくつかあるに留まり、応用に利用可能なシステ ム、更に商用システムはないという状況です。
もう一方は、応用の対象領域のモデル化が容易であり、ユーザの責任で多くの 応用への適応性を増すことができ、簡単に利用できる多くの(商用)システムが 存在します。しかし、形式的基礎が不明確で、コンセンサスが十分得られてお らず、問合わせの結果と停止性はユーザの責任であり、基本的には関係データ ベースとの互換性がありません。
しかし、演繹データベースとオブジェクト指向データベースは、長所と短所が 互いに相補的な関係になっていることに気づかれると思います。そして、この 2つを旨く組み合わせることができれば、互いの短所を補い、長所を生かした 強力なデータベースが作れるのではないかと思いつかれたと思います。
実際、演繹データベース研究の分野でもそのような動きが起きます。
演繹データベースの欠点が明らかになってくると、それらを克服するために、 その欠点を長所として持つオブジェクト指向データベースとの統合の試みが、 演繹データベース研究の中で行なわれるようになります。演繹データベースと オブジェクト指向データベースの長所を統合したデータベース、演繹オブジェ クト指向データベース(Deductive Object-Oriented Database: DOOD)という言 葉は 1988年頃から使われ始め、1989年に第1回演繹・オブジェクト指向データ ベース国際会議が開催されます。
さて、ここまで、簡単にデータベースの歴史を振り返りましたが、「なぜ、 Quixote と命名されたか?」の謎!? :)が、お分かりになりましたか? (^^)
ヒントは、「ある出会いがあり、結ばれ、その(愛の!?)結晶だから!!?」です よね。
そうです!!
ICOT で開発した言語 Quixote は、演繹オブジェクト指向データベース(DOOD) 言語に基礎をおいているので、DON を Deductive Object-oriented Nucleus の意味とし、Don をもつ小説「ドン・キホーテ (Don Quixote)」から、名前を 取ったのです。
「えっ!? (@@;; Don に意味があるなら、ドン・ファンでもいいし、ドン・ガ
バチョ(← 知っている人は年代が分かる!?) でもいいんじゃないの? (?_?」
と疑問を持たれた方もいるかもしれません。
そこで、次に「なぜ、ファンでもなければ、ガバチョでもないのか?」の謎!? :)が浮かぶのですが、その前に、言語 Quixote の誕生を簡単に振り返ってみ ましょう。
ところで、小説「ドン・キホーテ」の主人公も、さまざまな冒険をすることを ご存知の方も多いと思います。更に、彼が空想的で、理想主義的であることも。
演繹オブジェクト指向データベースは全く新しい研究であり、その評価もまだ 定まっていなかったため、設計者、実装者自ら、言語 Quixote の設計、実装 におけるさまざまな判断において、「自分達は空想的過ぎるかもしれない。こ れは理想に過ぎないかもしれない。」と迷ったこともありました。
しかし、「理想を持つことは悪いことではない、空想もまだ新しい研究だから そう感じるのであって、この言語によって現実化しよう。」と思い、内省的で 決断力のないハムレットと対義されている、理想に向かい、向こう見ずな行動 もする「ドン・キホーテ」のようであって欲しいと願い、"Quixote" と命名す ることとなったのです。
今回は、「命名の謎!? :)」をお話しましたが、次回は、「愛の結晶!? Quixoteが結晶するまでの、演繹データベースとオブジェクト指向データベー スとの融合の苦しみ」と「言語 Quixote における冒険!? :)」をお話しながら、 Quixote の特徴を説明したいと考えています。
どうぞ、お楽しみに。
最後になりましたが、この記事を読んで、Quixote に興味を持たれた方は、是 非12月13日〜16日の 4日間、「第五世代コンピュータ国際シンポジウム 1994 (FGCS'94)」に御参加下さい。シンポジウムでは、非等式制約、数値モジュー ルを導入した最新の Quixote を用い、クラッシック音楽データベースでデモ を行ないながら、Quixoteを分かりやすく解説します。ワークショップでは、 Quixote を用いた、遺伝子処理、法的推論の発表があります。関係データベー ス、演繹データベースがぶつかった壁を、Quixote が越えたかどうか、この機 会に御自身の目で確かめて下さい。では、会場でお会いすることを楽しみにし ております。
FGCS'94では、13, 14日の成果報告会に引続き、15, 16日と 6つのワークショッ プがパラレルに行われます。それぞれのテーマについては今まで何度かお伝え してきましたので、ここでは各ワークショップの海外招待講演にスポットをあ て、どんな研究者がどんなことを話して下さるのか、幹事の皆さんに伺ってみ ました。
異種・分散・協調というキーワードは今後の情報システムを考える上で避 けて通れない重要なテーマで、さまざまな分野で研究が行なわれています。こ のために、本ワークショップでは、データベース、分散人工知能、知識プログ ラミングなど関連する諸分野の研究者による集中的な議論を行うことを目的と して企画しました。本ワークショップには13カ国から38件の投稿があり、 うち9件を long presentation、10件を short presentation として採録し ました。国内外の研究者の関心も高く、12/5現在の本ワークショップへの 登録者数は150人を越えており、質の高い活発な議論が期待できます。
上記発表者の他に、世界的に著名な4人の研究者の招待講演があります。 ワークショップの趣旨を反映して、データベース分野からは
の2件、分散人工知能からは
の2件です。いずれも聞き逃せない内容ですので、この機会に皆様の積極的な 参加をお願いします。
なお参加者が予想以上に増えているため、早めに来られることをお勧めします (^_^)。
以上のように、魅力溢れる招待講演目白押しです。是非聞きにいらして下さい ネ!
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開 催 要 項 =========== 場 所: シェーンバッハ・サボー(砂防会館別館) 〒102 東京都千代田区平河町 2-7-5 電話: 03-3261-8386 期 日: 平成6年12月13日(火) 〜16日(金) 参加予定人数: 500名 会議公用語: 12月13日、14日: 日本語、英語(同時通訳あり) 12月15日、16日: 英語 参 加 費: ICOT賛助会員: 無料 一般: 5,000円 学生: 1,000円 (いずれも予稿集代含) 社 交 行 事: 歓迎レセプション 12月13日(火) 18:00 〜 20:00 マツヤサロン 〒102 東京都千代田区平河町 2-7-9 全共連ビル 6階 電話: 03-3265-3301 主 催: (財)新世代コンピュータ技術開発機構 後 援: 通商産業省 参 加 申 込 =========== 下記の申込書に必要事項をご記入の上、電子メールまたはFaxにて (財) 新世代コンピュータ技術開発機構 調査国際部 電子メール: fgcs94@icot.or.jp Fax : 03-3456-3158 電話: 03-3456-3195 までお送りください。
申 込 書 平成6年 月 日 以下のセッションに参加する予定です。(該当する[ ]にXを付けて下さい。) [ ] 成果報告会 — 12/13, 14 ワークショップ(複数選択可) — 12/15, 16 [ ] W1) 並列論理型プログラミング [ ] W2) 自動定理証明 [ ] W3) 異種協調知識ベース [ ] W4) 分子生物科学と知識情報工学のフュージョン [ ] W5) 論理プログラミングの法的推論への応用 [ ] W6) 並列/分散処理によるLSI-CAD [ ] 歓迎レセプション(無料) — 12/13 お名前[日本語]: 所属・役職: [英 語]: 会社(大学、研究所名)[日本語]: [英 語]: 所在地(連絡先): 電話: Fax: 電子メールアドレス:
次号は、以下のような内容を予定しています。
さて、今年も ICOT Todayをお読み頂きまして有難うございました。また、コ メントを下さった方、ありがとうございます! ICOT Todayもあと 2,3号で終 了ということになると思います。最後に、あの人のこんな記事を読みたい、こ んな意見を聞いてみたい等ありましたら、是非お知らせ下さい。お待ちしてお ります。
May the New Year bring you health and happiness!!!
ICOT TODAY Issue #10 編集・配布 海外渉外広報担当グループ( IR&PR-G ) 内田俊一 相場 亮 成田一夫 兼子利夫 浪越徳子 仲瀬明彦 白井康之 田中秀俊 坂田 毅 発行 1994年 8月 財団法人 新世代コンピュータ技術開発機構 東京都港区三田 1-4-28 三田国際ビル 21F 電話: 03-3456-3195 FAX: 03-3456-3158 e-mail: irpr@icot.or.jp