ICOT TODAY Issue #6

April 22,1994



[目次]





[はじめに]

季節の訪れはいつも突然の気がします。何の前ぶれもなく、ふと気がつくと風 が変わっている...。いつのまにか桜も散り、初夏の薫りを感じる季節になり ました。

4月に入り ICOTは、いよいよプロジェクトの最終年度を迎えました。ICOTにとっ て 1994年度は、FGCSプロジェクトおよび後継プロジェクト、計13年の、最後 の年となります。

とはいえ、今年度はFGCS後継プロジェクトの2年目であり、5G技術の普及活動 がやっと軌道に乗ったところでもあります。技術普及を目的として昨年末に開 催した KLIC講習会はおかげさまで好評で、各地から出張講習会の依頼が来て います。3月には、金沢の郊外にある北陸先端科学技術大学院大学で、その第 一弾を行いました。

また、同じく3月に、海外共同研究先との3分野におけるワークショップや、 11大学委託テーマ研究討論会も開かれ、年度末はイベントが目白押しでした。 今号の ICOT Todayでは、これらの講習会やワークショップなどの模様を中心 にご紹介していきたいと思います。

このように、ICOTの研究員、事務局員とも、ICOT OBをはじめとする外部の方々 のご協力のもとに、有終の美を飾るべく頑張っております。ICOTの研究活動に とって残る月日は 1年をきりましたが、最後までスピードをゆるめることなく、 前進を続ける所存です。

浪越徳子

それでは、ICOT Today 第6号、最近の ICOT関連ニュースの Headlineからお伝 えします。


[ICOT HEADLINE]

1. KLIC講習会 北陸に出張 !

前号でお伝えした通り、ICOTでは、昨年の12月に2回にわたってKLIC講習会を 開催しました。また、アメリカのオレゴン大学でも、ワークショップに引続き KLIC講習会を開きました。嬉しいことに、参加者の皆さんには大変満足してい ただけたようです。その評判が伝わったのか、現在いくつもの大学から「東京 だけでなく地方の大学にも来て、出張講習会を開催してほしい!!」という希望 が寄せられています。多くの方々に興味をもって頂いていることを、関係者一 同大変嬉しく思っております。

出張講習会のかわきりとして、3月11日、12日に、北陸先端科学技術大学院大 学(JAIST) において KLIC講習会を行いました。その時の様子を、参加者側を 代表して、島根大学理学部教授の榧野尚先生、また講師陣を代表して、ICOT OBでもあり、講習会の会場となった JAISTで研究を続けている杉野栄二さんに 伝えていただきます。(記事 No.6-1)

2. 3分野の海外ワークショップを開催

関連分野の研究者が集まって集中的に発表や議論を行うことにより、メールや 論文の上だけでなく face-to-faceの研究交流を図ること、また ICOTの研究成 果を広く世界に普及させることを目的として、以下の通り、3分野のクローズ ド・ワークショップを開催しました。それぞれの分野の研究者が世界中から参 加して、時に熱く、時に和やかに議論を展開し、実り多いワークショップとな りました。

  1. 並列論理型プログラミングとそのプログラミング環境に関するワークショップ(NSF/ICOT ワークショップ)
  2. 法律の知識表現ワークショップ
  3. 有限領域定理証明ワークショップ
今号の ICOT Todayでは、オレゴン大学で開催した「並列論理型プログラミン グとそのプログラミング環境に関するワークショップ」に参加された、三菱総 合研究所の関田大吾さんにその模様を語っていただきました。(記事 No.6-2)

3. 11大学委託テーマ研究討論会開かれる

ICOTでは、5G技術の普及と発展を目的として、国内大学の11研究グループに委 託研究を実施しています。去る3月31日、11研究グループの先生方と学生さん がICOTの会議室に集まり、それぞれの研究成果を発表し、相互に意見を交換し 合いました。ICOT OBの、あるいはプロジェクト当初からICOTと関わりの深い 先生方の熟練したイントロダクションのあとを受けて、ちょっと緊張気味のフ レッシュな学生さんが頑張って発表するという、師弟愛あふれる(?)共同発表 が印象的でした。

ICOTの研究開発は、この討論会においでいただいた先生方をはじめとする大学・ 国公立研究機関、メーカの関係者に支えられてきました。これら ICOTの外部 の方々とICOTとの協力体制の今までとこれからについて、ICOT研究所の内田所 長にお話して頂きました。その内容は次号の ICOT Todayに載せる予定ですの で、御期待下さい。(記事 次号)


[KLIC講習会 in JAIST 報告]

「JAISTで島根の "蛙"、KL1を見た」

島根大学理学部 情報科学科理学部 教授榧野 尚

慶應大学の古川先生に、昨年の暮れ「人工知能」という名前で KL1の集中講義 をして頂きました。そのため、先生にわざわざ松江までおいで頂きました。雪 のため、先生の乗っておられた飛行機が米子に降りられず、岡山まで引き返す というハプニングがありました。先生も大変な田舎にまで来たものだと思われ たことでしょう。その先生の講義の中で、KL1の講習会が JAIST(北陸先端科 学技術大学院大学)であると伺い、先生に無理なお願いをして参加させて頂く ことになりました。

松江から岡山まで出て、新幹線に乗り換え、京都でまた乗り換えて、やっとの 思いで金沢に着きました。JAISTには学部の時に世話をした坂本君という学生 がいます。JAISTは田舎にある、と彼に聞いてはいましたが、金沢の駅からの あまりの遠さに驚嘆してしまいました。坂本君がホテルからの往復を車でやっ てやると言ってくれたので、胸を撫で下ろした次第です。

道々、飛行機も降りられない松江が田舎か、それとも JAISTが田舎か考えまし たが、JAISTの門をくぐると、答えは自ずから明らかでした。施設・設備と、 それらを動かしている学生の姿を拝見し、指導しておられる先生方のお話を伺 い、我々と JAISTの間にある大きな違いに気付き、愕然としてしまいました。

ICOTの方々と親しく話をさせてもらえたのも私にとっては大変な感激でした。 JAISTの学生にとっては、ICOTの方から直接習えることは当然のように思える かも知れませんが、私にとっては実に羨ましい限りでした。

最初に、近山さんに "KL1とは" という話をやさしく伺い、翌朝、六沢さんに KL1の応用を "論理二進木" まで楽しく習いました。演習もついており、親切 に指導して頂きましたが、私のような年寄りにとってこの演習は苦痛この上も ないものでした。どんどんキーを叩いている若い学生さんを見て、またもや羨 ましく思えました。しかし、ブレークタイムに ICOTの湛さん、小川さんや、 JAISTの横田先生と色々な話をさせてもらったのも、私にとって大収穫でした。

教室のプロジェクタ上でゲームを出そうと努力していた M2の杉野くん、彼は いつもニコニコしていました。その彼が ICOTの依頼を受けて、KL1を C上で動 くように書き換えたという話を聞きました。そのことは、この度の旅行の最大 の驚きでもありました。

JAISTで、私は KL1を含めて沢山のことを学びました。というよりは、あまり にも "世の中" のことを知らなさ過ぎていました。JAISTで教わったことを自 分で知りたいという希望で、胸が熱くなるのを覚えました。しかし、一方私は、 それを実行するには年をとり過ぎていることも自覚しています。

今、私は、私がJAISTで見、聞き、学んだ "方法" を私の学生に教え、"学びた いと感じたこと" を学生自身に学ばせたいという希望に燃えています。

まず、やるべきことは、KL1 をメールで取り寄せること、インストール(幸い にも、GHCのインストールは学科でやってもらえることになりました)させる こと、KL1の実行・習熟をさせること...、やりたいことが沢山出来ました。こ れも、ひとえに慶應大学の古川先生、ICOTの皆様方、JAISTの横田先生、学生 の皆さん(特に杉野くん)のおかげと、改めてお礼を申し上げますとともに、 今後とも御指導いただきますようお願い致します。


「KLIC講習会 in JAIST」

北陸先端科学技術大学院大学
情報科学研究科博士後期課程1年
杉野栄二

JAIST(Japan Advanced Institute of Science and Technology, Hokuriku: 北陸先端科学技術大学院大学)は、わが国初の国立の独立大学院と して平成4年にスタートしましたが、その優れた計算機環境は一人一台のワー クステーションに留まらず、CM-5、nCUBE2、Parsytec 等の並列計算機も備え ており、これら並列計算機を使った研究も活発に行なわれつつあります。

ここJAISTにて日本海側初のKLIC講習会が、3月11,12と二日に亘って開か れました。 実質的な春休みの真っ直中で、講習会としては時期的に良いとは 言えないものの、30名程度の参加が得られ活発な質疑が行なわれたのは、本大 学の並列処理への関心の深さのあらわれと言えるでしょう。 また予備調査で は、Prolog程度知っている学生がほとんどで、並列論理型言語について多少知っ ている者も数人含まれていました。

本学大講義室は、ワークステーションの出力画面を表示するプロジェクターも 備えているため、OHPとあわせてKLICの操作をそのまま見せることができまし た。ICOTで行なった講習会と違って、講習会場に参加者用のワークステーショ ンを用意できなかったので、KLICを使いながら講義をうけるというわけにはい かず、講義の後で各自の研究室へ戻って演習を行なう形式となりました。 最 後に演習の回答、質問の時間を設けましたが、参加者がどれほど演習にとりく んでくれたか、演習を通じて理解を深めてくれたかは、なかなか判断が難しい ところです。

ともかく、恵まれた計算機環境という肥しがある、ここ北陸の地にKLICの種は 蒔かれました。 並列記号処理言語として、KL1の有望さは疑うべくもありませ ん。 並列処理への風土も、ここには根付きつつあります。 しかし、KLICがこ こで芽吹き育っていくには、並列版KLICという新しい種を待たねばならないで しょう。 並列計算機で実際に並列動作するところに出て初めて、本当に日が あたるのですから。並列計算機環境が充実しているからこそ、並列版KLICへの 期待がいっそう大きなものとなります。


[ICOT/NSF ワークショップ]

三菱総合研究所関田大吾

1994年,3月4,5,6日の3日間,春ももう近いオレゴン大学にて,I COTと米国NSFとで共催するワークショップが開かれました.世界中から 並列言語関係の研究者が集まり,ICOTからもKLICを中心とした発表が 行なわれ,熱い討論が戦わされました.

このワークショップは,以前よりICOTと縁が深く現在オレゴン大学で教鞭 を取られているEvan Tick氏とICOTの近山第1研究部長とで取り まとめられたものです.今回は,並列論理型言語の研究者のみならず,並列関 数型言語の研究者も多数参加し,お互いの技術,情報の交換がなされました. 日本からは内田所長,近山部長をはじめとするICOT関係者のみならず,I COTと縁が深い大学関係者も合わせ15人程度の参加があり,海外からの研 究者も合わせ40人程の参加者を数えるワークショップとなりました.また, ワークショップの終った午後に,日本でも行なわれた,KLIC開発メンバに よる「KLIC使い方講習会」も開かれました.

オレゴンということで,日本からの参加者は各人それなりの防寒準備をしてい たのですが,いざオレゴンに到着するととても良い陽気で,日本での4月位の 天候であり(但し,通常はやはりもっと寒い様です),いささか拍子抜けした 感があります.米国西部はこのように良い気候であったのですが,東部は寒波 に襲われ,飛行機の運航などにも影響が出たようです.そのため,一部研究者 は最初のセッションに間に合わず,発表順にも変更がなされることとなり,若 干波乱含みでワークショップは開始されました.

発表の内容は以下のように大別できる様に感じられました.

  1. (KL1のような)AND並列に基づくコミッテッドチョイス並列論理言 語の実装/応用
  2. OR並列を含む並列論理言語の実装
  3. Idや,並列版のMLなどの並列関数型言語の実装

これら各々は,表層的な言語機能はかなり違ったものになっているのですが, その実装上の問題や,その解決に対するアイディアなどはかなりお互い似通っ たものがあり,「ふむふむ,やはり似たようなことで皆さん悩んでいるのだなぁ」 と感じとれました.殊に,並列/分散実装を行なった際の高速化の技法などは お互い大きな共通性が見受けられ,関数型言語についての発表も筆者にとって 新鮮なためか大変興味深いものでありました.

この「並列記号処理言語族」の共通性が今回ワークショップの大きなテーマの 一つであることが最終のセッションにおいてより明確にされました(勘が鈍く 英語力も乏しい筆者はこの時点でようやっと明確に知りました).ワークショッ プ最後に”shootout”(shootoutとは「ガンマンの撃ち合い」 のことだそうです)と名付けられたセッションが行なわれ,「並列記号処理言 語の発展のため,お互い協力/競争をしましょう」というテーマのもとに非常 に熱い戦いがなされました.セッション当初は各々の領域を養護する発言も多 かったのですが(”brain dead”という若干過激な言葉も飛び交い, タイトルを立派に反映した内容でありました)最後の方では協調的な内容とな り怪我人もなく?無事ワークショップも大団円を迎えることができました.

ワークショップ最終日には比較的短めの講演もいくつか行なわれました.その うちの1つとして,内田所長から(若干飛び入り的な)5Gプロジェクトの総 括的なスピーチがあり「来年3月でICOTはなくなってしまうけど,今年の 暮れに最後の国際シンポジウムを開くので皆さんも来て下さいね」という呼掛 けがありました.

このあと,KLICの講習会が開かれ,筆者はその講師を仰せつかっておりま した.始めるまではオレゴン大の学生さんがおもな聴衆と想定していたのです が,いざ蓋を開けてみると,学生さんはむしろ小数で(各方面の権威者を含む) ワークショップ参加メンバの一部も参加されており,講師としては思わぬ聴衆 に若干アドレナリンの量も増えたり致しましたが,それなりに質問もあり,一 応つつがなく役目を果たすことができたと思っております.

勝手を知る仲である参加者も多いため,全体的にアットホームな雰囲気のワー クショップでありました.最後に全体の取りまとめをされたTick先生,近 山部長をはじめとするワークショップ参加者に感謝しつつ筆をおくことと致し ます.


[Message from Editorial desk]

ICOT Today 第 6号、お楽しみいただけましたでしょうか ?

ICOT Todayをお読みいただいたご感想、また、今後はこんな記事を読みたい ! 等の皆さまの声を、是非聞きたいと思っております。 irpr@icot.or.jp 宛に 電子メールにてご意見をお寄せ下さい。お待ちしております。

次号は、以下のような内容を予定しています。

  1. 法律ワークショップ報告
  2. 定理証明ワークショップ報告
  3. ICOTと大学・メーカとの協力体制について
ご期待下さい。


ICOT TODAY	Issue #6
編集・配布海外渉外広報担当グループ(IR&PR-G)
		内田俊一相場亮成田一夫兼子利夫
		浪越徳子仲瀬明彦白井康之田中秀俊
		坂田毅
発行1994年 4月
		財団法人 新世代コンピュータ技術開発機構
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