概要: 被告人は、小学校の教員として奉職中、小学校校長目黒に不満を抱いた。小 学校校長目黒を失脚させる目的で、校長が管掌する同校勅語奉置所から教育勅 語謄本など三点を取り出した。それを被告人の受持教室の天井裏に隠匿した。裁判官の論理: 1。 (1)不法に領得する意思をもって、 (2)他人の事実上の支配を侵し、 (3)他人の所有物を自己の支配内に移す、 ならば、 窃盗罪となる。 2。 (1)法定の犯罪構成要件たる事実につき認識があるだけである、 ならば、 窃盗罪の故意はない。 3。 (1)法定の犯罪構成要件たる事実につき認識があり、 (2)不法に物を自己に領得する意思がある、 ならば、 窃盗罪の故意がある。 4。 (1)権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、 (2)その経済的用法に従って利用・処分する意思がある、 ならば、 不法領得の意思がある。 5。 (1)他人の物を毀棄・隠匿する意思だけがある、 ならば、 不法領得の意思はない。 6。 (1)小学校校長目黒を失脚させる目的で、 (2)自己に領得する意思はなく、 (3)小学校校長目黒の管理する教育勅語謄本など三点を取り出し、 (4)自己の受持教室の天井裏に隠匿した、 ならば、 窃盗罪ではない。 検察官の論理: 1。 (1)およそ他人の監督内にある他人の所有物を、 (2)不法に自己の所持内に移す、 ならば、 窃盗罪となる。 2。 (1)他人の監督内のある他人の所有物を不法に自己の所持内に移す 認識がある、 ならば、 窃盗罪の故意がある。 3。 (1)他人の監督内のある他人の所有物を不法に自己の所持内に移す 認識があり、 (2)それ以外の特別の目的・意思がない、 ならば、 窃盗罪の故意がある。 4。 (1)小学校校長目黒の管守を奪取し、 (2)自己の管守内に移した、 ならば、 窃盗罪となる。
概要: 被告人は、競売の進行を一時妨害する目的で、裁判所の競売記録を持ち出し て、自宅内に隠匿した。 裁判官の論理: 1。 (1)窃盗罪の構成要件たる事実を認識し、 (2)財物を不法に領得する意思が存在する、 ならば、 窃盗罪である。 2。 (1)競売の進行を一時妨害する目的で競売記録を持ち出し、隠匿す るつもりであり、 (2)競売記録を経済上の用法に従って処分し、利益を獲得しようと したのではない、 ならば、 不法領得の意思の下に行われた行為ではない。 検察官の論理: 1。 (1)窃盗罪の構成要件たる事実を認識する、 ならば、 (2)財物を不法に領得する意思が存在しない、 にもかかわらず、 窃盗罪は成立する。
1.会社の金庫の管理業務をしているものにとって、その金庫は、他人の物に あたる。 2.(不法)領得の意志は、 永久的にそのものの経済的利益を保持する意志 ではなくとも成立する。 (必要条件ではない) 3.犯行を隠蔽するために、物を200m程移動させ、河の中に投棄した場合、 不法領得の意志が認められる。
概要:自転車にとりつけてあるランプ、ベルが欲しくて自転車を持ち出し、自 転車を遺棄し、ランプ、ベルだけ外して取った。 1. (1) 不法領得の意思をもって (2)他人の財物を (3)窃取した ならば 窃盗となる。 2.(1)権利者を排除して (2)他人の物を自分の物として (3)その経済的用法に従い (4)自分又は第三者のために利用又は処分する意思 ならば 不法領得の意思あり。 3。(1)財物(自転車)の取り外せない一部(ランプ・ベル)について (2)不法領得の意思をもって (3)財物全体(自転車)を (4)不法領得の意思なく (5)持ち出した ならば (6)even if 一部だけを取り外して窃取したとしても 財物全体について窃盗となる。 {弁護側の論理} 4。(1).一部についてのみ不法領得の意思があり (2)全体については不法領得の意思がない ならば 一部についてのみ窃盗が成立する。
概要: 会社の診療所に勤務する看護婦が、負傷者があれば使用消費し、負傷者がな ければそのまま持ち帰って返還する意思で、会社所有の薬品・包帯などの消耗 品を、その主たる支配者の意思に反して持ち出した。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を窃取する ならば 窃盗罪となる。 2 (1)主たる支配者の指揮監督を受けその機械的補助者として、 他人の物に対し事実上の支配をするに過ぎない者が、 (2)主たる支配者の意思に反してその物を自分の独占的支配に移した ならば (3) even if 自分と同じ地位にある同僚の了解の下に行った としても 窃取と言える。 3 会社の診療所で医薬品の出入り保管を担当するのは 診療所主任であった。 4 医薬品の主たる支配者は診療所主任であった。 5 被告人は会社の診療所に勤務する看護婦であった。 6 看護婦は診療所において機械的補助者であった。 7 被告人は診療所主任には告げずに包帯・医薬品を持ち出した。 8 (1)権利者を排除して (2)他人の物を自分の物として (3)その物の経済的用法に従い (4)自分または第三者のために利用または処分する意思がある ならば (5)even if 終局的にその物の経済的利益を保持する意思がないとしても 不法領得の意思をもっていると評価できる。 9 (1) 負傷者があれば、包帯・医薬品を使用する意思 ならば (2) even if 負傷者がいなければ、 包帯・医薬品を返還する意思としても 自分または第三者のために利用または処分する意思がある。
概要: 被告人鯰江四郎は他人間の自動車売買の斡旋を行ったが、その斡旋にかかる謝 礼が少ないことに腹を立て、その斡旋した自動車の所有名義変更を妨害しよう と考え、陸運事務所管理の自動車登録原簿を同所から持ち去り、隠匿した。 裁判官の論理: 1。 (1)不法領得の意思がない、 ならば、 窃盗罪にならない。 2。 (1)権利者を排除して他人の財物を自己の所有物として、 (2)その経済的用法に従い利用・処分する意思がある、 ならば、 不法領得の意思がある。 3。 (1)他人の業務を妨害するため、 (2)その業務に用いる物を利用できなくするため、 (3)その物を持ち去った、 ならば、 不法領得意思はない。 被告の論理: 1。 (1)不法領得の意思がない、 ならば、 窃盗罪にならない。 2。 (1)一事借りる意思の下に、 (2)ある物を持ち帰った、 ならば、 不法領得の意思がない。 3。 (1)他人の業務を妨害するため、 (2)その業務に用いる物を利用できなくするため、 (3)その物を持ち去った、 ならば、 不法領得意思はない。
概要: 被告人は機械部品を売り渡したものの、代金支払に使われた約束手形が不渡 りとなり、取引先の業務状態に不審を抱いたので、約束手形支払満期日に支払 いのないときには、物品によって決済をなす旨の誓約書をとった。しかし、取 引先の経済状態は依然悪いので、期日をまつまでもなく取引先の意に反して、 自己納入の機械部品を勝手に持ち帰った。 裁判官の論理: 1。 (1)不法領得の意思がない、 ならば、 窃盗罪は成立しない。 2。 (1)権利者を排除し (2)他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、 (3)これを利用し又は処分する意思である、 ならば、 不法領得の意思が認められる。 3。 (1)預かり証が存在し、 (2)手形が支払らわれるまで、該物品を保管する意思であった、 (3)弁済があれば直ちに該物品を返却する意思であった ならば、 (4)even if 被告人が該物品を持ち帰ったことは会社責任者の意思に反 してなされ た、にもかかわらず、 被告人には他人の物を自己の所有物のごとく利用又は処分する不法領得 の意思はない。 4。 (1)本件物品を持ち帰った当時すでにこれを処分する等の方法により自 己の債権を決済する意思をもっていた、 ならば、 不法領得の意思があった。
1。(1)弁済があればただちに返還する意志がある ならば (2)even if 自己納品を代金支払確保のために持ち出しても, 不法領得の意志はない。
概要: 特定候補者を当選させようと、後でその候補者の氏名を記入して投票中に混 入して投票数を増加させるために、投票用紙を持ち出した。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を (3)窃取した ならば 窃盗となる。 2 所有権の客体となる ならば 財物である。 3 投票用紙 ならば 所有権の客体となる。 4 (1)権利者を排除して (2)他人の物を自分の物として (3)その経済的用法に従い (4)自分又は第三者のために利用又は処分する意思 ならば 不法領得の意思あり。 5 (1)投票用紙を (2)自己の所有物の如く (3)投票用紙として利用する意思がある ならば 権利者を排除して他人の物を自分の物としてその経済的用法に従い自分又は第三者の ために利用又は処分する意思ありといえる。
概要:被告人は債権取立の方法として、シリンダーなどを無理に持ち帰った。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を窃取する ならば 窃盗罪となる。 2 (1)権利者を排除して (2)他人の物を自分の物として (3)その物の経済的用法に従い (4)自分または第三者のために利用または処分する意思がある ならば 不法領得の意思をもっている。 3 (1)「品物を持って帰らんとつらいので預ってかえる」 (2)「話に来てくれ、話の都合によっては品物を返す」 (3)公判で「このシリンダーは現在に至っては手形債権の代わりにもらう つもりである」と供述している (4)相手が極力拒絶しているにもかかわらず強いて実力をもってシリンダー の所持を奪い去った ならば (1)もし 相手が話しにきて弁済のための満足すべき話し合いが成立する ならば 財物を返還し (2)もし 相手が話しにこない または 話し合いが満足できない ならば 財物を返還しない意思 と評価できる。 4 (1)もし 相手が話しにきて弁済のための満足すべき話し合いが成立する ならば 財物を返還し (2)もし 相手が話しにこない または 話し合いが満足できない ならば 財物を返還し ない意思 ならば 自分または第三者のために利用または処分する意思がある。
概要: 被告人藤村辰雄は他1名と共に河川の流れに入り、大水で漂流中の木材1本 を拾得して河岸に引揚げた上、その流失を防ぐため、附近の柱に巻きつけてあ つた被害者中村順所有の揚水用モーター送電用の、大水に備え一時支柱から外 し、本柱にまきつけてあつた時価約1,200円相当の電線3本長さ21メートル中 の約12 メートルを勝手に切断し、これを用いて前記木材を繋留した。 裁判官の論理: 1 (1)他人所有のものを勝手に用いて使用し、 (2)不法領得の意思がある、 ならば、 窃盗罪となる。 2 (1)被告人は無断に使用した他人のものを後に返還する意思をもつが (2)被告人はそのものに回復できない重大な原状変更を生ぜしめた、 ならば、 不法領得の意思がある。 3 (1)電線を送電にではなく流木の係留に用いることは電線の廃棄ではない、 ならば、 電線の経済的用法に従ったものであると評価される。 4 (1)権利者を排除し、 (2)他人所有のものをその経済的用法に従って使用するため、 (3)原状に重大な変更を加え、 (4)そのものの占有を自己に移し、 (5)不法領得の意思が存在する、 ならば、 窃盗罪となる。 被告の論理: 1 (1)他人のものに回復不可能な重大な原状変更を生ぜしめる行為は 損壊ないし廃棄行為である、 ならば、 窃盗罪でない。 2 (1)他人のものをその経済的用法に従って使用していない、 ならば、 窃盗罪でない。 3 (1)他に使用するものがないのでやむなく他人所有のものを代替物となし、 (2)自己の為にする意思がないときは、 (3)不法領得に意思がない、 ならば、 窃盗罪でない。
概要: 被告人片尾忠治郎は、日頃から恨みを抱いていたその弟に暴行を加えようと 考え、他者所有の猟銃および実弾を窃取し、その銃で弟に発砲、傷害を負わせ た。さらに、被告人の攻撃に逆襲してきた弟に対し発砲、殺害した。 裁判官の論理: 1。 (1)使用後返還の意思はあるが、 (2)相当な期間その物の所有者の使用を妨げるとの認識があり、 (3)その物の所有者の利用を妨げ、 (4)所有者の意思を無視して無断で使用した、 ならば、 不法領得の意思はある。
1.(弁済があれば返還する意志があったにせよ) 自己への支払を確保するために 所有者の承諾なしに占有を取得したならば,不法領得の意志がある。
概要: 被告人は、スーパーマーケットに対して債権を有しており、返済がなければそ れで返済に充てようとして、スーパーの機械、商品を持ち出した。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を (3)窃取した ならば 窃盗となる。 2 (1)自分が被害者に対して有する債権の代物返済に充てる意思 ならば 不法領得の意思となる。
概要: 被告人は、整理に入った会社に対して自分が有する債権の代物弁済とする意 思で、会社所有の自家用車の仮差押・強制執行をかけた。実際はこの車はほか の相手との売買契約が成立し、引渡もされていた。執行は空振りに終わったも のの、売買契約の存在を知らない被告人は、別所にて自動車を発見して、仮差 押に関する書類を提示するとともに、自分は執行吏であると名乗り、管理者の 承諾なく、自動車を持ち去った。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を窃取する ならば 窃盗罪となる。 2 (1)債務者が整理手続きに入っていて (2)債権の十分な弁済の見込みがなく (3)自動車を債権の代物弁済として要求し (4)強制執行が執行不能となり (5)その後も自動車により代物弁済を受けるべく、その所在を求め (6)自動車を発見して持ち去った ならば (7)even if たとえ弁済があってもすぐに返還する意思があるとは言えず 不法領得の意思があると言える。
概要: 被告人は、坂道に停車していた他人の軽三輪自動車に乗り込んで、いたずら 半分にギアを操作した。当該三輪自動車はエンジンキーもバッテリーも取り外 されていたため、エンジンは始動せず、ただ下り坂を50m下った。 裁判官の論理: 1。(1)不法領得の意思をもつて、 (2)他人の支配内に在る財物を事実上自己の支配内に移す、 ならば、 窃盗罪が成立する。 2。(1)エンジンが始動しない自動車のギアをいたずら半分にさわって、 (2)下り坂を50m下った、 ならば、 不法領得の意思はない。 3。(1)エンジンが始動しない自動車のギアをいたずら半分にさわって、 (2)下り坂を50m下った、 ならば、 他人の支配内に在る財物を事実上自己の支配内に移した事実も認められない。
概要: 被告人は、空巣に入り金品を物色中、近隣の者らに発見された。被告人は追 手を脅しながら逃げる外はないと考え、目についた菜切包丁を取って逃げ出し た。 裁判官の論理: 1。 (1)不法領得の意思がある、 ならば、 窃盗罪となる。 2。 (1)権利者を排除し、 (2)他人の物を自己の所有物と同様に、 (3)その経済的用法に従って利用・処分する意思がある、 ならば、 (4)even if 永久的にその物の経済的利益を保持する意思がない、 にもかかわらず、 不法領得の意思がある。 3。 (1)追手を脅迫する目的で使用し、 (2)使用した後はその場に捨て去る意思で、 (3)菜切包丁を取った、 ならば、 不法領得の意思がある。 被告人の論理: 1。 (1)追手を脅す目的で、 (2)菜切包丁を取った、 ならば、 不法領得の意思がない。
1.不法領得の意志とは、権利者を排除し、「経済的用法にしたがって利用し または処分する意志」である。 2.「経済的用法にしたがって利用しまたは処分する意」とは、 ・物の所有者が一般にする、または、物の所有者ならば可能な、 物の本来の用法に従い、または、なんらかの形に於いて、 経済的に利用し処分する意志 である。 ・単純な毀滅、または、隠匿する 意志 ではない。 3.所有者に仕返しをするために、(海中に)投棄する目的 ならば 2.後段 である。 (領得の意志にあたらない)
概要: 酔っぱらって、いたずら半分で、インコを逃がせば騒ぎになってすっきりす ると考え、インコの入った鳥篭を飲食店の軒下から持ち出し、追跡されると、 公園に投げ捨てた。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を (3)窃取した ならば 窃盗となる。 2 (1)権利者を排除して (2)他人の物を自分の物として (3)その経済的用法に従い (4)自分又は第三者のために利用又は処分する意思 ならば 不法領得の意思あり。 3 (1)悪戯半分で鳥を逃がす目的で (2)鳥篭を持ち出した ならば 不法領得の意思はない。
概要: 5年の刑期を終了して刑務所を出所したばかりの被告人は、身寄りもなく、 所持金も使い果たし、出所翌日についた土工の仕事も刑中の不眠症から体が弱っ ていたために半日でやめ、刑務所に戻る目的で、ステレオパックなどを駐車中 の乗用車から持ち出し、その足で派出所に出頭、自首し、持ち出した物を任意 提出した。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を窃取する ならば 窃盗罪となる。 2 (1)刑期を終了した直後 (2)身寄りもなく (3)所持金も使い果たし (4)仕事についたものの体が弱っていて半日でやめ (5)「仕事にならない、刑務所生活にはこりているものの 逆戻りするしか道がない、窃盗でもして刑務所に 入れてもらおう」と決心するに至り (6) 刑務所に入る用意のための買い物をした ならば 刑務所で服役することを企図していると評価できる。 3 (1)刑務所で服役することを企図して (2)派出所が約100メートル以内の距離であることを知りつつ (3)財物を持ち出し (4)直後に持ち出した財物を携えて派出所に出頭し (5)財物を証拠品として任意提出した (6)被害品は即日仮還付により返還された ならば (7) even if 財物を直接に被害者に返還して首服するつもりがなかったとしても (a)経済的利用または処分の意思は認められない (b)財物を自己の所有物と同様にふるまう意思があったとは言えない (c)一時的にせよ、権利者を排除する意思はないと評価できる 4 (上記3のa-c) ならば 不法領得の意思はない。
概要: 建設業者の業態調査、統計資料等を掲載する建設調査週報を発刊する会社の 業務部長である被告人が、同社が機密資料としている上記週報の購読会員名簿 のコピーを作成し、転職先会社に譲り渡す意図の下に、事務室において他の職 員が管理中の上記名簿四冊を持ち出し、約二時間で右名簿の全員のコピーを作 成入手し、上記名簿の原物のみを元の保管場所に戻した。 裁判官の論理: 1。 (1)権利者を排除し、 (2)他人の物を自己の所有物と同様に、 (3)その経済的用法に従い、 (4)これを利用し又は処分する意思がある、 ならば、 不法領得の意思がある。 2。 (1)名簿の内容をコピーし、 (2)それを自社と競走関係に立つ会社に譲り渡す手段として、 (3)事務机引出内から購読会員名簿を取り出して携帯し、 (4)名簿の全頁をコピーし、 (5)約二時間後にその購読会員名簿を元の保管場所に戻した、 ならば、 権利者を排除し、その名簿を自己の所有物と同様にその経済的用法に 従い利用する意思がある。 3。 (1)被告人が、不法領得の意思をもって、 (2)事務机引出内から、購読会員名簿を取り出し、これを社外に持 ち出した、 ならば、 窃盗罪が成立する。 4。 (1)不法領得の意思が具現されて窃盗罪が成立する ならば、 (2)その利用後これを返還する意思でかつ返還されたとしても、 窃盗罪が成立する。
概要: 被告人は、スナックでママを強姦しようと企て、灰皿で同女の顔面を殴りつ けるなどの暴行を加えたが、血を見て驚愕し、姦淫を止めた。その直後、被告 人は犯行の発覚を防止するために被害者を殺害しようと決意し、同女の頚部を 絞めつけたところ、失神したため死亡したと思った。さらに押入り強盗による 犯行に見せかけて、スナックの店内を物色して現金十二万五百円ほかをバッグ に詰め込むなどするうち、とどめを刺そうと考え、文化包丁で同女の前頚部を 二回突き刺した上、バッグをもって逃走した。しかし、結果的には被害者に約 二十日間の傷害を負わせるにとどまった。 裁判官の論理: 1。 (1)権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様に、 (2)その経済的用法に従いこれを利用しまたは処分する意思がある、 ならば、 不法領得の意思がある。 2。 (1)あくまでも自己の犯跡を隠蔽するために投棄する意図のもとで、 (2)金品を持ち去った、 ならば、 不法領得の意思がない。 3。 (1)それ自体財物としての価値がないか若しくは極めて乏しく、も ともと経済的用法に従った利用等が考えられない物を持ち去っ た、 ならば、 不法領得の意思がない。
1.(1)領得後自己らの用に供したり, (2)又は他人に譲渡することなく廃棄する意志 ならば 不法領得の意志にあたらない。 2.(1)特に覚醒剤を必要としていたと認めるに足る証拠がない ならば 領得後に自己の用に供することなく廃棄する意志と認められる。
概要: 複写目的で百貨店の顧客名簿が入力された磁気テープを持ち出した。 1 不法領得の意思をもって・他人の財物を・窃取したならば・窃盗となる。 2 複写を目的として・顧客名簿が入力されたテープを持ち出したならば・不 法領得の意思あり。
概要: 被告人三人は共謀して雇い主を殺害し、死体から現金を奪取し、その死体は 遺棄した。さらに、犯行発覚防止のために、腐敗しない貴金属類(腕時計1個 及び宝石1個)を、投棄する目的で死体から剥がした。貴金属類を持ち去った ことは窃盗罪にあたるか。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を窃取する ならば 窃盗罪となる。 2 財物の占有を取得する時点で不法領得の意思がない ならば 窃盗罪とならない。 3 (1)権利者を排除して (2)他人の物を自分の物として (3)その物の経済的用法に従い (4)自分または第三者のために利用または処分する意思がある ならば 不法領得の意思をもっている。(検察官の主張:(3)は不要) 4 財物から生じる効用を享受する意思がある ならば 経済的用法に従う意思がある。 (2月17日のmeetingでは、この二つは別物だと言う議論だった) 5 (1)他の犯行の発覚を防ぐ意思で (2)投棄する目的で (3)財物を占有する ならば (4) even if 財物の占有が11時間継続した としても 財物の効用を享受する意思はない。 6 (1)占有を取得した時点で、利用可能性の認識がない ならば (2) even if 4日後に質入れするなど財物の効用を享受する 意思が生じた としても 不法領得の意思はない。
概要: 被告人甲、乙、丙、丁ら4人は、共謀のうえ、平成4年4月14日から同年5 月 14日までの間に前後4回にわたり、札幌市東区役所閲覧コーナー他3箇所にお いて住民基本台帳の一部が記載された同区長の管理する閲覧用マイクロフィル ム合計199枚を無断で閲覧コーナーから持ち出したうえ、被告人甲の事務所等 に持ち込んでそのマイクロフィルムを複写し、原マイクロフィルムは閲覧を終 了したように装い区役所へ返還していた。 さらに、同年5月15日から同27日ま での間にも前後6回にわたり、乙、丙、丁の3人共謀のうえ、同様の行為を行っ ていた。 裁判官の論理: 1。 (1)マイクロフィルムは150円の価値を有する有体物である、 ならば、 「財物」である。 2。 (1)財物性を肯定されたマイクロフィルムに情報が化体され、 (2)マイクロフィルムの経済的価値がそれに化体された情報の価値 に負うところが大きい、 ならば、 (3)同マイクロフィルムに化体された情報それ自体は財物とならな い。 3。 (1)所定の場所で所定の方法により閲覧することだけが許されてお り、無断で持ち出すことは一切許されないことが明らかであり、 (2)閲覧を許可されていても返却の支持があればただちに返却しな ければならず、 (3)閲覧中もその財物は閲覧者の排他的支配下に移るわけではなく、 その管理者の管理支配下にある、 ならば、 窃盗罪となる。 4。 (1)数時間後にその財物を返還した、 ならば、 窃盗罪となる。 5。 (1)所定の場所から持ち出すことが許されないと知っていた、 ならば、 窃盗罪の故意がある。 6。 (1)ある財物を一定の場所から持ち出すことがその管理権者の意思 に明らかに反し、 (2)その財物が高い経済的価値を有し、 (3)数時間に返却する意思があり現にそのように返却した ならば、 不法領得の意思はある。 弁護人の論理: 1。 (1)ある財物の閲覧を許可された者はその財物の独占的占有権を有 する、 ならば、 窃盗罪は成立しない。 2。 (1)財物の管理者から返還を求められれば1、2時間以内に返却す ることができる、 ならば、 窃盗罪は成立しない。
概要: 被告人は、被害者を同人のアパート内で殺害したあとで、殺害の直後に現金 等を持ち出したのをはじめとして、その一六時間後および四九時間後の二回に わたり、第三者と共謀して、ステレオ、扇風機等を窃取した。 裁判官の論理: 1。(1)被告人は自ら該財物に対する占有離脱の原因となった被害者の死を 惹起した、 (2)、(1)を判然認識しつつ、これを利用して本件所為に出た、 ならば、 被告人に対する関係においては、該財物に対する被害者の占有は死後に 及ぶ。 弁護側の論理: 1。(1)死者の占有は認められない、 (2)仮に時間的場所的にこれを緩和する見解による、 (3)殺害死亡とは隔絶した別個の機会にあらたに生じた財物取得の意思 に基づいて 行われた、 (1)または{(2)かつ(3)} ならば、 死者に依然該財物の占有を認められない。
1.(1)死亡から1日後,その死体の現存する状況下 ならば 死者に占有がある。 2.(1)死亡から5日後,死体が遺棄された後の状況下 ならば 死者に占有はない。 3.(1)財物を使用する意志がある ならば (2)even if 殺人の証拠を隠滅する意志があるとしても, 不法領得の意志がある。
概要: 人を一旦殺害後、現場を去り、他で飲酒、宿泊し、9時間経過した後、現場に 戻り、通帳を持ち出した。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を窃取した ならば 窃盗となる。 2 (1)他人の財物の占有を (2)占有者の意思に反して取得する ならば 窃取となる。 3 (1) 殺人犯人が (2)被害者の死体から (3)死亡直後に (4)同一機会に (5)財物を取得した ならば 死者の占有を意思に反して取得したと言える。 4 (1)9時間後に戻って財物を持ち去った ならば 死亡直後とはいえない。 5 (1)他で飲酒、宿泊した後に戻って財物を持ち去った ならば 死亡と別個の機会である。
概要: 被告人は同棲中の情婦を殺害し、3時間後ないし86時間後に、遺留された死者 の財物を持ち去った。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の財物を窃取する ならば 窃盗罪となる。 2 (1)不法領得の意思をもって (2)他人の事実上の所持を侵し (3)他人所有の財物を自己の所持に移す ならば 窃盗罪となる。 3 財物の所持は、原則として人の死亡により終了する。 4 (1)自ら相手の死を客観的に惹起し (2)自ら相手の死を惹起したことを主観的に認識している ならば 相手の財物の占有を自ら離脱させたと評価できる。 (占有離脱物横領罪との区別) 5 (1)相手の財物の占有を自ら離脱させ (2)自ら惹起した占有離脱の状態を利用して財物を奪取し (3)持ち去った財物は、 被害者が生前起居していた家屋の部屋に、被害者 の占有を表す状態のままにおかれていて (4)被告人以外の者が外部的に見て、 一般的に被害者の占有にあるものと 見られる状態にある ならば Even if (5)死亡と奪取の間に3時間ないし 86時間の時間的経過がある (6)3の原則がある にもかかわらず 被害者の占有は継続していると評価できる。
概要: 野外で人を殺害して死体を遺棄後領得の意思を生じ、殺害後約8時間半、死 体遺棄後約3時間を経過した時点で死体埋没場所付近に隠匿しておいた死者の 着衣中の財物を領得した。 裁判官の論理: 1。 (1)占有の及んでいる財物を領得する、 ならば 窃盗罪となる。 2。 (1)占有の及んでいない財物を領得する、 ならば 占有離脱物横領罪となる。 3。 (1)殺害後約8時間半、死体遺棄後約3時間経過している、 ならば 死者の占有は存在しない。 ※原則(例外→4。) 4。 (1)死体遺棄が被告人本人の行為によるものであり、 (2)死体を埋没した行為が被告人本人の行為によるものであり、 (3)被告人が死者の着衣中の財物を領得する瞬間まで、被害者のも のであるという認識を有し、 (4)死体遺棄行為の際には被害者の占有を排除する意思がなく、 (5)死体が他人に発見されにくい状態である、 ならば 死者の占有が存在していると評価される。
概要: 被告人は拳大の瓦の破片をYの方に投げつけ、尚も「殺すぞ」等と怒鳴り ながら、側にあった鍬をふりあげて追いかける気勢を示した。Yはこれに驚い て難を避けようとして夢中で逃げだし走り続ける中、過って転倒し通院一週間 を要する打撲傷を被った。 裁判官の論理: 1。(1) 傷害の原因たる暴行についての意思がある、 ならば、 傷害罪の成立を妨げない。 2。(1)被害者が被告人の暴行から逃走する最中の出来事である、 ならば、 (2)even if 被害者が打撲傷を負った直接の原因が被害者の過失である、 にもかかわらず、 被告人の追いかけた行為と被害者の傷害には因果関係がある。 弁護側の論理 1。(1) 被害者が打撲傷を負った直接の原因が被害者の過失である、 ならば、 被告人の追いかけた行為と被害者の傷害には因果関係はない。
1.(1)強取するさい仮死状態にする行為と,完全に死亡させる意志のある行 為とは,時間的に多少の間隔があっても, (2)その間仮死状態が継続している ならば 関連性があり,結合罪となる。 2.(1)強取に伴う暴行と,その後に殺害の意志を持ってなされた別の行為が あり, (2)そのほかに死亡の結果に結び付く原因のない ならば 片方の行為から死亡の結果があったと認定してよい。
概要: 金を出させようとして、押さえつけ、布団で口を押さえつけたところ、被害者 の心臓疾患とあいまって、急性心臓死させた。 1 (1)被害者の重篤な心臓疾患という特殊事情がなければ致死の結果を生じな かった場合で (2)特殊事情を知らず・致死の結果を予見できなかった場合でも (3)口を押さえつけ (4)心臓疾患と相まって (5)急性心臓死する ならば 暴行と死亡の間に因果関係有りといえる。 (致死の原因たる暴行が唯一又は直接の原因でなく、被害者の特殊事情とあ いまって結 果が生じても、因果関係に影響はない、ということ)
概要: 被告人が相手の顔面を蹴ったところ、その暴行行為は致命的ではなかったが、 相手が偶々脳梅毒にかかっていたために、脳組織の破壊により死亡した。 1 (1)身体への傷害により (2)人を死に至らしめる ならば 傷害致死罪となる。 2 暴行・傷害と死亡との間に相当の因果関係がある ならば 傷害致死罪となる。 3 Even if ある行為が他の事実と相まって結果を生ぜしめた ならば それでも 因果関係は中断されてはいない。 4 相手に与えた外傷が (1)左目の瞼に5ミリほどの腫れ (2)左目の角膜に0.5ミリほどの溢血であり、 (3)10日くらいで癒える程度 ならば 暴行は致命的ではない。 5 (1)相手が脳梅毒にかかっており (2)脳に高度の病的変化があり (3) もし 顔面に激しい外傷を受ける ならば 脳の組織を一定程度崩壊させ、死亡する ならば 特殊な事情があると評価できる。 6 (1) even if 相手に与えた暴行・傷害が致命的でないとしても (2)相手に特殊事情があり (3)相手に与えた暴行・傷害の衝撃が特殊事情と相まって相手が死亡した ならば 暴行・傷害行為と死亡との間に因果関係がある。 7 (1)傷害の故意をもって (2) even if 致死の結果を予測できなかった ならば それでも 傷害致死罪の成立を妨げるものではない。
概要: 被告人は被害者と闘争し、この結果、被害者が心臓慢性肥大症でわずかな精 神的または肉体的感動や興奮によっても心臓麻痺の起り得る状態にあったため、 被害者が興奮して心臓麻痺により死亡した。 裁判官の論理: 1。 (1)被害者が血圧も高く心臓が慢性肥大症であり、 (2)わずかな精神的、または、肉体的感動によっても心臓麻痺の起 こる状態にあり、 (3)被害者の死因が心臓麻痺であり、 (4)被告人が被害者と口論の末、殴打し、被害者と喧嘩闘争に及び、 (5)被害者が直後に死亡した、 ならば 被告人の暴行が被害者を興奮せしめ心臓麻痺の誘発原因になったと評 価される。 2。 (1)傷害致死罪において傷害が他の原因と相まって死の結果を惹起 している、 ならば 死の結果と因果関係があると評価される。 弁護人の論理: 1。 (1)被害者の心臓疾患が慢性的なものであり、 (2)被告人の与えた刺激がないとしても発生しうる病状である、 ならば 被告人の所為と被害者の死亡との間には因果関係がない。 2。 (1)被告人の所為と被害者の死亡との間に因果関係がない、 ならば 被告人の所為は暴行罪によって処断されるべきである。
概要: 被告人が、酒に酔っていた被害者に対し4回に渡り強く平手打ちを喰わせた 結果、被害者の脳底部動脈硬化症および飲酒による脳血管の血圧上昇と被告人 の暴行が共に作用して被害者はくも膜下出血を起こし、死亡した。 裁判官の論理: 1。 (1)ある暴行が死亡の唯一または直接の原因ではなく、 (2)他の原因と共に結果を引き起こした、 ならば、 その暴行と死亡との因果関係はある。 被告の論理: 1。 (1)通常、被告人の行った暴行では人は死亡しない、 ならば、 被告人の暴行と死亡との因果関係はない。
1.因果関係は,一定の前行事実と一定の結果の発生が一般的である時に存在 する。 2.(1)通常の判断力があれば左右に自由に走る事のできる河原に於いて, (2)酒を飲んだ人間が, (3)川に墜落し溺死した ならば 一般的な結果ではない。
概要: 口論となり、盃を投げつけ、殴りつけたところ、被害者の興奮、筋肉の激動を ひきおこし、そのために蜘膜下出血をひきおこし、死亡。 1 (1)通常死亡の原因となるに値しない暴行であっても (2)そのため興奮、筋肉の激動をひきおこし (3)蜘膜下出血をひきおこし (4)死亡する ならば、 暴行と死亡の間に因果関係ありといえる。
概要: 被告人は、小料理店の土間で帰宅を促されたことに憤慨したあまり、相手に 対し、その着用していたワイシャツの襟を両手でつかんで強く首を締めつけた 上、その相手を店の東側出入口の方向に突き飛ばして、道路上に仰向けに転倒 させるなどの暴行を加えた。相手は心臓に高度の肥大を患っている上、心筋の 各所に白色瘢痕化部分を有し、かつ心冠状動脈に著明な狭窄を存するなど高度 重篤な病変があったために、心筋梗塞でその場でそのまま死亡した。 1 (1)身体への傷害により (2)人を死に至らしめる ならば 傷害致死罪である。 2 一連の暴行行為と死亡との間に相当の因果関係がある ならば 傷害致死罪である。 3 暴行行為と死亡との間に因果関係の中断がある ならば 傷害致死罪ではない。 4 Even if ある行為が他の事実と相まって結果を生ぜしめた ならば それでも 因果関係は中断されてはいない。 5 (1)相手の襟をつかみ首を強く締めつけ (2)相手を突き飛ばし (3)相手を道路上に転倒させた ならば 致命的な暴行とは必ずしもいえない。 6 (1) 心臓に高度の肥大を患い (2) 心筋の各所に白色瘢痕化部分を有し (3) 心冠状動脈に著明な狭窄を有している ならば 高度重篤な病変があったと評価できる。 7 (1) 相手に高度重篤な病変があり (2) 暴行行為と相手の病変とが相まって相手が死亡した ならば (3) even if 致命的でない暴行行為であっても 暴行行為と死亡との間に因果関係がある。 8 (1)暴行の故意がある ならば (2) even if 致死の結果が予見できなかった、としても 傷害致死罪の成立を妨げない。
概要: 被告人室井、被告人西川は、土井を洋傘で殴打し、足蹴りにするなどの暴行 を加えた。土井は早足で逃げ出したので、被告人両名は追いかけ、揖保川河畔 で被告人室井は追いつき土井を殴打した。土井はさらに河原の水防用通路に逃 げ込み、被告人両名は追跡した。台風の影響で川は増水しており、降雨中で暗 く、前方の望見困難な状況下で、被告人西川が土井の身辺に立ち県道への退路 をふさぎ、土井の肩をつかみ、被告人室井が土井の後頭部を殴打するなど追撃 の手をゆるめいない姿勢を示し、飲酒していたうえに被告人らの暴行を受けた ため疲労していた土井を、陸上での逃路がないと考え、被告人らの暴行からの がれるための唯一の手段として、揖保川の流水に飛び込まざるを得ないように した。そして土井を濁流に巻き込まれて溺死するに至らしめた。 裁判官の論理: 1。 (1)傷害行為の時に、 (2)通常人が知りまたは予見することができたであろう一般的事情 および行為者が現に知りまたは予見していた特別の事情を基礎 として、 (3)傷害行為から致死の結果を発生することが経験則上当然予想し 得られる、 ならば、 傷害致死罪の身体傷害に「因り」人を死に致したことになる。 2。 (1)辺りが暗く、土井が暴行を受け水防用通路に逃げ込んだ、とい う状況下で、 (2)土井としては逃避することが著しく困難であり、 (3)被告人らから暴行を受け、県道への退路を断たれ、なおも追撃 の手をゆるめないという姿勢を示される、 ならば、 土井が陸上での退路がないと考え、暴行からのがれる唯一の手段とし て川に飛び込んで、溺死することは、経験則上当然予想し得られる。
概要: 被告人は、真島の頭部、顔面等を数回手拳で殴打して、真島をその場に仰向 けに昏倒させた。真島は脳震盪などの傷害を負った。被告人は、真島が死亡し ていると思い、犯跡を隠蔽する目的で真島を運河に投げ込んだ。真島は溺死し た。 裁判官の論理: 1。 (1)犯人が被害者に暴行を加え重篤な傷害を与えた結果、被害者を 仮死状態に至らせ、 (2)これが死亡したものと誤信して、 (3)犯跡隠蔽の目的で山林、砂中、水中等に投棄し、被害者を凍死、 窒息死、溺死させる、 ならば、 それは自然的な通常ありうべき経過であり、社会通念上相当程度あり うるものであって、犯人の予測しえたであろうことが多い。 2。 (1)被害者を殴打昏倒させて失神状態に陥らせ、 (2)失神した被害者を死亡したものと誤信して、 (3)水中に投棄し死亡させた、 ならば、 被告人の殴打暴行と死亡との間に因果関係がある。 3。 (1)被告人の殴打暴行と死亡との間に因果関係がある、 ならば、 傷害致死罪となる。 検察官の論理: 1。 (1)犯人が被害者に暴行、傷害を与えた結果、被害者を仮死状態に 至らせ、 (2)これが死亡したものと誤信して、 (3)遺棄等犯跡隠蔽の行為をなし、被害者を死に致す、 ならば、 それは自然的な通常ありうべきことである。 2。 (1)故意行為と過失行為が競合する、 ならば、 結果的加重犯である。 3。 (1)犯人自身による過失行為が競合して、 (2)結果を発生させた、 ならば、 因果関係がある。 4。 (1)被告人が被害者を殴打し、 (2)被害者を水中投棄し溺死させた、 ならば、 因果関係があり、傷害致死となる。
1.(1)死亡の原因となる暴行が唯一かつ直接の原因でなく, (2)結果が(血友病という)特殊事情と前記の暴行との結果である ならば even if 行為者が特殊事情を知らず致死の結果を予見できなかったとし ても、 暴行と死亡の結果の間には因果関係がある。 2.重大な結果(死亡)を招く事が本人(家族,意志)に予想困難であった場 合,本人()に1.の因果関係を否定するような手落ちはない。
概要: 遠洋船上で暴行を受けた被害者が、逃れるために船体にぶら下がり、その後転 落し、死亡。 1 (1)暴行をくわえようとする加害者から逃れようとして (2)船体にぶら下がり (3)転落し (4)死亡 ならば 暴行と死亡の間に因果関係ありといえる。 {弁護側の論理} 2 (1)船体にぶらさがる行為 ならば 被告人はもとより、通常人の予見可能な範囲を超えている。 その結果の転落、死亡には・責任はない。
概要: 被告人は相手を地上に突き倒し、大腿部、腰部などを地下足袋で数回踏みつ けるなどの暴行を加え、左血胸(胸腔内血液貯留)、左大腿打撲症などの傷害 を負わせた。医師が胸腔内貯留液を消滅させるため医師が投与した薬剤の作用 によりかねてより被害者の体内にあった未知の乾酪型の結核性病巣が滲出型に 変化し、これが炎症を惹起して左胸膜炎を起し、これに起因する心機能不全の ため被害者は死亡した。 1 (1)身体への傷害により (2)人を死に至らしめる ならば 傷害致死罪である。 2 傷害と死亡との間に相当の因果関係がある ならば 傷害致死罪である。 3 暴行行為と死亡との間に因果関係の中断がある ならば 傷害致死罪ではない。 4 他人の行為が介入した ならば 因果関係の中断がある。 5 被害者を治療する医師に医療過誤がある ならば 他人の行為が介入したといえる。 6 (1)被害者が高齢であり (2)被害者が乾酪型の結核であることはレントゲンを用いても胸腔内の貯 留液のため発見することが困難で (3)胸腔内の貯留液を放置することは、 高齢者にとって余病併発の恐れが あり (4)胸腔内の貯留液を消滅させるために (5)ステロイド剤を投与した ならば (6) even if ステロイド剤により結核が乾酪型から滲出型へと変化し、炎 症を起こし、究極的には心機能不全を引き起こした としても、 医療過誤とはいえない。 7 (1) True ならば (2) even if ある行為が他の事実と相まって結果を生ぜしめた としても 因果関係は中断されてはいない。 8 (1)相手を地上に突き倒し (2)相手の大腿部、腰部などを地下足袋で数回踏みつける ならば 致命的な暴行とは必ずしもいえない。 9 (1)乾酪型の結核で (2)医者が高度の注意をもっても発見できず (3)乾酪型の結核は滲出型に変化すると究極的には心機能不全をひき起こ しうる ならば 特別な病変があったと評価できる。 10 (1)相手に特別な病変があり (2)暴行行為と相手の病変とが相まって相手が死亡した ならば (3) even if 致命的でない暴行行為であっても 暴行行為と死亡との間に因果関係がある。 11 (1)暴行の故意があり ならば (2) even if 致死の結果が予見できなかった としても 傷害致死罪の成立を妨げない。
概要: 被告人は、日頃から憎んでいた2歳7カ月になる内妻の連れ子に対して、昭和 51 年6月18日頃の夕方、自宅台所において頭部を手拳で1回、強く殴打した。 さらに同月20日頃の夕方、同児の腹部を1回強く足で蹴り、さらに倒れた同児 の腹部を2、3回踏みつけるように足蹴りしたところ、同児は同月23日にけい れん発作を起こし、同月27日、死亡した。同児は、暴行に先立ち転倒し頭部を 道路に打ちつけたことがあり、第1審では、その転倒による受傷と死亡との因 果関係を根拠に被告人の暴行と同児の死亡との因果関係を否定していた。 裁判官の論理: 1。 (1)死亡の原因が硬膜下出血による脳機能障害であり、 (2)その原因は外力の作用と考えられ、 (3)その外力が被告人の手拳によるものであり、 (4)その外力の作用時期が最初に脳機能障害の症状の出た時から1 週間以内に行われたと考えられ、 (5)最初に脳機能傷害の症状の出たときから1週間以内に他に外力 が加わっていない、 ならば、 被告人の行為と被害者の死亡の因果関係はある。 2。 (1)他の外傷が致死原因となり得る外力の作用時期とは異なったと きに作用し、 (2)その受傷場所は死亡原因となる外力の作用場所とは異なるとき、 (3)その受傷と死亡との因果関係がない、 ならば、 行為者の行為と死亡との因果関係はある。
概要: 被告人ら3名による暴行に耐えかねた被害者が逃走しようとして池に落ち、露 出した岩石に頭部を打ちつけ死亡した。 裁判官の論理: 1。 (1)被告人らの暴行から逃れるため、 (2)被害者が自ら受傷し死亡した、 ならば、 被告人らの暴行と死亡との間の因果関係はある。 被告の論理: 1。 (1)原因から結果への経過が世間一般の知識経験から予想可能である、 ならば、 因果関係がある。 2。 (1)被告人らの暴行と被害者の死亡との間の経過は世間一般の知識 経験から予測不可能である、 ならば、 因果関係はない。
1.てんかんは通常,病院内で死亡につながる病気ではない。 2.(1)向精神薬や抗てんかん剤を使用していたとしても, (2)死にいたるものでないと判断される ならば 死亡の原因とはならない。 3.(1)暴行と死亡との間の因果関係が証明されていなくとも, (2)因果関係の不存在が証明されず (3)かつ暴行が極めて悪質である ならば 因果関係があるとしても無理がない。
概要: 頭部を殴るなどの暴行の結果、恐怖心による心理的圧迫などにより、被害者の 血圧を上昇させ、脳出血を発生させた後、資材置き場に運搬し、放置し、その 結果、脳出血により死亡した。資材置き場に放置されている間、その生存中に、 何者かにより角材で頭部を殴打され、それが脳出血を拡大させ、死期を早めた。 1 (1)死因となった傷害が形成された ならば even if 第三者の暴行により・死期が早められても 因果関係ありといえる。
概要: 被告人は、被害者に暴行を加え、 鼻骨骨折を伴う眉間部打撲傷の傷害を負 わせ、「びまん性脳損傷」を引き起こした。被害者は脳死状態に陥ったので、 遺族の承諾を得て、医者は人工呼吸器を取り外し、被害者はその後心停止した。 1 (1)身体への傷害により (2)人を死に至らしめる ならば 傷害致死罪である。 2 傷害と死亡の間に相当の因果関係がある ならば 傷害致死罪である。 3 暴行行為と死亡との間に因果関係の中断がある ならば 傷害致死罪ではない。 4 他人の行為が介入した ならば 因果関係の中断がある。 5 (1)被告人の与えた傷害により被害者が脳死状態となり (2)脳機能を回復することが全く不可能であり (3)心臓死が確実に切迫して (4)心臓死を回避することが全く不可能な状態である。 ならば (5) even if 医者が人工呼吸器を取り外し、 死亡時刻がそのために早まった としても 4のルールにかかわらず 被告人の与えた傷害と被害者の死亡には因果関係の中断がない (因果関係がある)。
概要: 被告人は偽造紙幣と交換すると称して人を欺罔し、財物を騙取した。 裁判官の論理: 1。 (1)人を欺罔して (2)財物を騙取する ならば even if たとえ犯罪行為に名を借りた場合であっても、 詐欺罪となる。 弁護人の論理: 1。 (1)偽造紙幣と交換するための金員を交付した、 ならば 法律による保護に値しない。 2。 (1)True ならば (2)even if 偽造紙幣の交付をなす意思なく、また、その計画なく 財物を騙取したとしても、偽造紙幣の交付は法律の許 容するところではないから、 詐欺罪とはならない。
概要: 被告人山井七次郎は、被害者山井惣松の養子乙蔵が拘留されている際に、被 害者に対して、留置されている警察署の警官に贈賄を行えばすぐに釈放される と持ちかけ、その工作の依頼を受けたうえそのための資金30円を被害者から交 付されたが、実際には警官への工作を行わず、交付された金銭を着服した。 裁判官の論理: 1。 (1)欺罔手段を用い、 (2)人を錯誤に陥れ、 (3)因って不正に財物を交付させ、 (4)それを領得した、 ならば、 詐欺罪となる。 2。 (1)刑事上の責任と民事上の責任は異なる、 (2)被害者の民事上の返還請求権の有無は犯罪成立に影響しない、 ならば、 詐欺罪となる。 3。 (1)被害者から被告への金銭の交付が不法原因給付であっても、 (2)欺罔して財物を交付させた、 ならば、 詐欺罪となる。 被告の論理: 1。 (1)被害者から被告への金銭の交付が不法原因給付である、 (2)被害者はその金銭の返還請求権を有さない、 (3)ゆえに法益を侵害していない ならば、 詐欺罪でない。
概要:偽札千円分の代金として150円を騙取した。 1 (1)欺もうによって (2)他人の占有する財物を (3)騙取した ならば 詐欺罪となる。 2 even if 紙幣を偽造する資金として得た金員 他人の占有する財物に当たる。 {弁護側の論理} 3 (1)民法708条の不法原因給付により給付者の返還請求権がない ならば 保護に値する財物にあたらない。 4 (1)保護に値しない財物を (2)騙取 ならば 詐欺罪にあたらない。
概要: 被告人は、紙幣の偽造ができないにもかかわらず、相手に対し、自分は紙幣 の偽造ができ、この偽造紙幣で金員を騙し取る計画があり、その偽造の資金を 出資するよう頼み、相手を騙して、百圓を騙し取った。 1 (1)人を欺罔して (2)財物を交付させる ならば 詐欺取財罪である(旧刑法)。 2 (1) True ならば (1)Even if 財物の交付が不法を原因としていて (2)Even if 民法上返還または損害賠償を求めることができない としても 犯罪の成立を妨げるものではない。 ((2)は私法上の制裁であり、刑事罰とは別問題である。)
概要: 被告人等は、岡野源之助に偽造紙幣の交換を行おうと偽りの誘いをかけ、そ れに応じて岡野源之助は被告人等に金員を交付した。 裁判官の論理: 1 (1)他人を欺罔し、 (2)財物を騙取する、 ならば、 詐欺罪である。 2 (1)被害者が不法の原因のため財物を給付した、 (2)加害者が罪責を免れる理由がない、 ならば、 詐欺罪となる。 3 (1)偽造紙幣の交換を行おうとの偽りの誘いは何らの犯罪ともなら ない、 (2)この場合被害者を保護する理由がある、 ならば、 詐欺罪となる。
概要: 被告人田尾清蔵他数名は、紙幣偽造を口実として被害者萩本熊太郎より金員 を騙取した。 裁判官の論理: 1。 (1)詐欺の方法を用いて、 (2)他人を錯誤に陥れ、 (3)財物を交付させた、 ならば、 詐欺罪となる。 2。 (1)詐欺の方法が不法な行為であり、 (2)被害者が民事上交付した物を返還請求できない、 (3)(2)の事実は違法性を阻却しない、 ならば、 詐欺罪となる。 被告の論理: 1。 (1)ある財物に法律上の返還請求がおよばない、 (2)ゆえに法律上の損害がない ならば、 詐欺罪は成立しない。 2。 (1)民法は不法行為防止のため不法原因給付にかかる物の返還を認 めない、 (2)刑法が民法のその目的を没却することは許されない、 ならば、 詐欺罪は成立しない。
概要: 詐欺賭博により金を騙取しようとして、賭博を勧めていたが、まだ相手が錯誤 に陥らない間に、警察官に発見された。 1 (1)欺もうによって (2)他人の占有する財物を (3)騙取した ならば 詐欺罪となる。 2 (1)詐欺賭博により金を騙取しようとして (2)欺もう手段を用い (3)賭博に加入するよう勧めた ならば (4) even if 相手が錯誤に陥るに至らなくても 詐欺の実行の著手にあたる。 {弁護側の論理} 3 詐欺の実行行為 ならば 財物交付と直接因果関係のある錯誤に陥らせる行為である。 4 錯誤に陥るに至らない ならば 実行行為ではない。
概要: 被告人は、東京米穀取引所の先物の大引け立会相場を使用人に予め照会させ、 相場を知っていたにもかかわらず、知らないふりをして、賭博のつけが四千円 ある相手に賭を持ちかけ、小切手を騙し取った。 1 (1)人を欺罔して (2)財物を騙取する ならば 詐欺罪である。 2 (1)相場を知っていて (2)相場を知っていることを黙っていて (3)相場についての賭を持ちかけ (4)相手が、勝つ可能性もあると錯誤に陥った ならば 事実の沈黙と他の行為との合同で積極的に人を欺罔したと評価できる。 3 (1)小切手 ならば (2)even if (1)振出人が被告人自身である または (2)不法原因給付につき、支払いを拒みうるもの としても (a) 善意の第三者に譲渡される ならば 振出人としての責任を負うことになり (b) (1)の小切手も、賭博の掛け金という不法の原因で給付したもの ならば 被告人に返還請求権のないものであり、 財物とすることを妨げないので 財物である。
概要: 被告人は、日本銀行兌換券偽造のための資金を提供して欲しいと被害 者に申し出て、偽造が成功すれば直ちに多大な利益を分配するかの如く装い、 金員を騙取した。 裁判官の論理: 1。 (1)人を欺罔し (2)同人より金員の交付を受ければ ならば even if 被害者が目的としたところが兌換券偽造によって巨利を博 そうとする不法の行為であったとしても 詐欺罪が成立する。 弁護人の論理: 1。 (1)被告人に偽造の能力及び意思があるか否かは社会生活において 知る必要はなく、また、そのことが真実に合致する必要もない ので、 (2)これを偽ったとしても 欺罔行為に当たらない。
概要: 被告人呉藤は、特定の数の出る確率が倍の不正のサイコロを用いて、岡田を 真正の賭博が行われていると誤信させ、賭博名義の下に50円を交付させ、騙取 した。 裁判官の論理: 1。 賭博である にもかかわらず、 詐欺罪は成立する。 2。 (1)不正のサイコロが特定の数を最も多く現出することが証明され、 (2)被告人が事前にそのような事実を認識し、 (3)これを利用して、主観的客観的に偶然の結果(輸贏)を予想し 得る、 ならば、 詐欺罪の欺罔にあたる。 3。 (1)不正のサイコロを使って被害者を欺罔し、 (2)被害者の錯誤に乗じ、 (3)金員を交付させ、 (4)それを騙取した、 ならば、 詐欺罪は成立する。 弁護人の論理: 1. 偶然の事実に関して勝敗を決するものである ならば、 賭博罪であり、詐欺罪ではない。
概要: 綿糸の闇取引において、代金であるとして、弁当箱、古雑誌等を包んだ風呂敷 包を渡し、綿糸の交付を受けた。 1 (1)欺もうによって (2)他人の占有する財物を (3)騙取した ならば 詐欺罪となる。 2 (1) True ならば (2)even if 闇取引において得た財物でも 他人の占有する財物に当たる。 {弁護側の論理} 3 (1)闇取引として (2)経済統制法規により処罰される ならば 詐欺罪に当たらない。 4 (1)闇取引において (2)交付された財物 ならば 社会秩序は保護を与えない。 5 (1)社会秩序が保護を与えない財物を (2)騙取した ならば 詐欺罪に当たらない。
なし
概要: 被告人は、あたかも遊興費を支払うものの如く装い、売淫者を欺罔し、 売淫料の支払を免れた。 裁判官の論理: 1。 (1)売淫行為は善良の風俗に反する行為であるので、 その契約は無効である。 2。 (1)売淫料債務を負担することがない、 ならば、 (2)even if 欺罔によりその支払を免れても 財産上不法の利益を得たとはいい得ない。
概要: 被告人久保田トミは、被害者株本辰武のもとで売春婦として働くことを条件 とする契約を結んだうえ、その稼働対価により返済すると称して被告人の松岡 弘喜に対する債務金等3万8千円を被害者に立替支払わせた。しかし、被告人は 立替を受けた金員を返済する意思はあったが、同所において働く意思が当初か らなかった。 裁判官の論理: 1 (1)借金を返済する意思があり、 (2)その返済を被害者の下で働いて返すと装い、 (3)被害者の下で働く意思がない、 ならば、 詐欺罪の故意はある。 2 (1)被告人の行為から被害者が被告人は自己の下で稼働して借金を 返済するものと誤信し、 (2)被告人は借金の返済意思はあるがその下で働く意思がない、 ならば、 詐欺罪となる。 3 (1)売春婦としての労働契約は民事上無効である、 (2)民事上の契約の有効、無効と犯罪の成立は別個の判断である、 (3)被告人の欺罔行為は社会秩序を乱す行為であり、 (4)その行為により被告人は被害者から財物を交付されている、 ならば、 詐欺罪となる。
1.花代が,売淫行為の対価 ならば, その対価請求権は保護されない。 (従って,詐欺罪は成立しない)
概要: 街路婦の売淫行為を斡旋し、手数料を強請し、畏怖させて金員の交付を受けた。 1 人を恐喝して・財物を交付させた ならば 恐喝罪である。 2 (1)相手方から財物を取得する権利を有する者が (2)社会通念上許容範囲で (3)恐喝して (4)財物を交付させた ならば 恐喝罪ではない。 3 売淫行為 ならば 公序良俗に反する。 4 公序良俗に反する行為についての斡旋手数料 ならば それは相手方から財物を取得する権利ではない。
概要: 競輪選手が他の選手などと通謀して、八百長レースを行い、賞金・払戻金を受 け取った。 1 (1)人を欺罔して (2)財物を騙取した ならば 詐欺罪である。 2 相手方を錯誤に陥れた ならば 人を欺罔した といえる。 3 (1)競輪施行者及び実施を担当する自転車振興会の係員が、 (2)八百長レースを公正なレースと誤信した ならば 相手方(=上記係員など)を錯誤に陥れたと言える。 4 八百長レースの賞金を選手が受け取った ならば 財物を騙取したといえる。 5 (1) True ならば (2)Even if (a)競輪の勝者投票権(いわゆる「車券」)の多数投票者が、 (b)公正なレースだと誤信して (c)損をした、としても 詐欺罪の成立に影響を与えない。 6 自転車競技法に基づく競輪選手への賞金 ならば 正当な法律上の原因がある給付である。 7 自転車競技法に基づく競輪の勝者投票権の払戻金 ならば 正当な法律上の原因がある給付である。
裁判官の論理: 1。(1)被告人両名が吉谷進に対し、春美の前借金全部の弁償を要求すること は、 正当な権利行使とは認められない、 ならば、 (2)even if 被告人両名が、 吉谷進を追及し、損害の賠償を請求すること は当然のことと信じていたと推測しうる、にもかかわらず 恐喝罪の故意は証明されていない。 2。(1)脅迫的言辞を使用して、7 万円の支払とその担保の提供をする契約を 結ばせた、 ならば、 (2)even if 恐喝罪の故意がない、にもかかわらず 脅迫罪が成立する。
概要: 被告人は、3 名の女子と共謀し、同女らがまじめに接客婦として就労するも ののように偽って、特殊飲食店の経営者である被害者から、斡旋料として金員 を騙取した。 裁判官の論理: 1。 (1)正当な営業として許された接客業者に対し (2)欺罔手段により (3)金員を騙取した ならば、 詐欺罪が成立する。 被告人の論理: 1。 (1)被害者が特殊飲食店に名を借りて (2)婦女子を雇いいれ売淫行為をさせ (3)不当に居住の制限等をして (4)不法の利益を得ていた ならば、 接客婦の雇い入れあっせん名価に騙取した金員は詐欺罪の被害法益と ならない。
概要: 「つかみどり丁半」において素人の客が勝負に際し、その操作の間に碁石一個 を取り落とし、奇数であるべき掌中の石数が偶数となっていることに気づかぬ 場合が多いので、被告人等は共謀の上「つかみどり丁半」の方法を利用して、 被害者から金25万円を詐取した。 裁判官の論理: 1 (1)被害者が錯誤に陥ることを予想し、 (2)錯誤を利用して被害者より金員を取得した ならば、 詐欺罪は成立する。 2 (1)246 条1項の「財物の騙取」とは、欺罔の結果、他人の財物を騙取 し、かつ (2)犯人の自由に処分しうべき状態に置くこと (3)勝負に被告人が勝負に勝って、被告人が自由に処分しうる状態に置 かれた ならば (4) even if 勝負に先立って被害者に金員を手渡したにもかかわらず、 財物の騙取といえる。 被告人の論理: 1 (1)被害者も、加害者を欺罔して賭金を取得する意図で、 (2)偶然被害者の不注意で碁石を取り落としたのに気づかないで勝負を 行い、被害者は損をしたに過ぎない、 ならば、 被告人により欺罔されたとはいえない。 2 (1)被告人は、勝負の前に金員を被害者に手渡していた ならば、 246 条1項の「財物の騙取」とはいえない。
概要: 被告人は、売淫料の支払いを偽造した約束手形にて行ない、売淫料の支払いを 免れた。 1 (1)人を欺罔して (2)財産上、不法の利益を得た ならば (二項)詐欺罪である。 2 (1)被告人に売淫料を支払う意思がなく (2)相手方が、支払ってもらえると誤信した ならば 相手方を欺罔したといえる。 3 売淫料の支払を偽造した約束手形で行った ならば 売淫料を支払う意思はないと評価できる。 4 売淫料の支払いを免れた ならば 財産上、不法の利益を得たと評価できる。 5 Even if 売淫料は、民法上請求権がない ならば 犯罪の成立を妨げるものではない。 (私法上の制裁であり、刑事罰とは別問題である。)
裁判官の論理: 1。 (1)売淫行為をして前借金を返済するという前借金契約は公序良俗 に反し無効である、 ならば、 その前借金契約上の債権侵害を理由とする損害賠償請求権も生じ得ない。 2。 (1)被告人等は何ら行使すべき権利がなく、 (2)吉谷進を脅迫し、 (3)その結果同人を畏怖させて、 (4)財産上不法の利益を深水キセに得せしめた、 ならば、 恐喝罪が成立する。 3。 (1)被告人らが吉谷進から損害の賠償を請求し得ると信じていなかっ た、 ならば、 恐喝罪の故意は存在する。 検察官の論理: 1。 (1)深水キセから吉谷進に対し請求すべき権利は何ら存在せず、本 件は権利実行の場合ではなく、 (2)被告人らが深水のために吉谷進に対し恐喝行為を行った、 ならば、 恐喝罪が成立する。
1.公序良俗に反し法律上無効な法律行為でも,欺罔の手段として用い,財物 を交付せしめたならば,詐欺罪にあたる。 2.売淫を目的とする労働に従事させる行為 ならば 法律上無効な行為である。 3.(1) True ならば (2)even if 民事上の不当利得返還請求権がないとしても, 詐欺罪の成立とは関係がない。
事実の概要: 被告人は被害者に対し林檎2車分を発送する契約を、その意思も能力も無いの に申し知れ、被害者と契約を締結した。そして契約手付金として25万円を被害 者から受け取った。 裁判官の論理: 1 (1)もし一度詐欺罪が成立した ならば、 (2)even if (a)売買契約を履行しようとしたが失敗し、 (b)被告人が被害者交付の金員を自己の有する債権に充 当することに被害者の同意があり、かつ (c)別人が被害者への債務を承継したにもかかわらず、 詐欺罪は成立する。 2 (1)もし一度詐欺罪が成立した ならば (2)even if 闇米買付契約に基づく手付金として不法原因給付であるに もかかわらず、詐欺罪は成立する。 被告人の主張: 1 (1)契約を履行することができないにも係わらず、 (2)被告人の有する債権への手付金による充当に被害者の同意があり、 かつ (3)別人が被害者への債務を承継した ならば、 詐欺罪は成立しない。 2 (1)手付金が不法原因給付である ならば、 詐欺罪は成立しない。
概要: 被告人は、従業婦として稼働する意思並びに前借金を返済する意思がないの にもかかわらず、浜田に前借金13万円で働かせてもらいたいと言って、浜田を 欺き、現金13万円の交付を受け、騙取した。 裁判官の論理: 1。 (1)売春行為を職業的にすることを内容とする契約が公序良俗に反 し違法であり、法律上無効な契約であり、 (2)売春行為を条件とする前借金の交付は不法原因給付に基づく給 付である、 ならば、 その前借金の返還請求権はない。 2。 (1)職業的に売春行為をする意思が無く、前借金を返済する意思が ないにもかかわらず、それらがあるように装い、相手方を欺罔 し、 (2)前借金名義で金員の交付を受けた、 ならば、 (3) even if その交付が不法原因・非債弁済に基づくものであり、 相手方がその返還請求をすることができない、にもかかわらず、 詐欺罪の成立を妨げるものではない。(3)は私法上の制裁で ある。 3。 (1)本件のような不法手段に出た行為は社会の法的秩序を紊乱する ものであり、 (2)社会秩序を乱す危険がある、 ならば、 (3)詐欺罪は、単に財産権の保護を法益とするだけでない、 のであるから、 不法原因に基づく給付とそうではない給付とによって、結論は異なら ない。 4。 (1)正当な法律上の原因がなく、 (2)欺罔手段により、 (3)相手を錯誤に陥れて、 (4)不法に金員を騙取する、 ならば、 (5)even if 被害者に対し財産上の損害を与えていない、にもかか わらず、 詐欺罪は成立する。 検察官の論理: 1。 (1)財物の所持を侵害する、 ならば、 (2)財産奪取罪は財物の所持を侵害することをその本質とし、 (3)財物の所持そのものが法益として保護せられている、 のであるから、 (4) even if 侵害の結果として財産上の損害が発生していない、 にもかかわらず、 財産奪取罪は成立する。 2。 (1)欺罔手段を講じ、 (2)それによって、相手を錯誤に陥れ、 (3)財物を交付せしめた、 ならば、 (4)財物に対する所持は侵害され、法的に非難すべき違法状態を発 生させた、のであるから、 (5)even if 私法的に財産上の損害を発生させていない、にもかか わらず、 詐欺罪は成立する。 3。 (1)その法律行為を欺罔の手段として相手方を欺罔し、 (2)財物を交付せしめた、 ならば、 (3)even if 公序良俗に反し、法律上無効な法律行為であり、 (4)even if 財産上の損害が発生していない、 にもかかわらず、 (5)それは不法手段による財産権の侵害であり、 (6)社会秩序を紊す犯罪行為である、のであるから、 詐欺罪は成立する。
概要: 被告人は、職業的に売淫行為をする意思もなく、かつ、前借金を返済する意思 もないのにもかかわらず、売淫行為・前借金返済の意思がある如く装い、相手 方から前借金名義で金員の交付を受けた。 (コメント:判決文のページ数は、 1080の方は、破棄された一審判決のもので す。内容的には、1072の方を採用すべきと判断し、以下、ルール化してありま す。) 1 (1)人を欺罔して (2)財物を騙取した ならば 詐欺罪である。 2 (1)被告人に借金を返済する意思がなく (2)相手方が、返済してもらえると誤信した ならば 相手方を欺罔したといえる。 3 相手方が前借金名義で金員を交付した ならば 相手方は返済してもらえると認識していた。 4 (1) True ならば (2) Even if 金員交付が売淫行為を条件としていた ゆえに 金員は 不法原因給付であり、民法上返還請求権がない としても 犯罪の成立を妨げるものではない。 (私法上の制裁であり、刑事罰とは別問題である。)
No.86 を参照。
No.79 を参照。
(no.77とほぼ同じ。人身売買)No.83
事実の概要: 被告人は、その事実も意思もないのに友人から白米の売却を依頼され、買わな いかと被害者にもちかけ、被害者を誤信させ、同人より現金百万円を騙取した。 裁判官の論理: (1) True ならば (2) Even if 闇取引による財物の交付は不法原因給付であっても、 欺罔手段による財物の侵害であるから、 詐欺罪は成立する。 弁護人の主張: 1 (1)米穀の売買契約は、食料管理法違反であり、かつ (2)法律上無効な契約である ならば、 代金の交付は不法原因給付であるから、 詐欺罪は成立しない。 2 (1)詐欺罪は、法律上の損害であることが必要であり、 (2)事実上の損害である ならば、 不法に他人の財産を侵害したと言えないから、 詐欺罪は成立しない。 3 (1)法律上保護されない財物の騙取 ならば 不法に他人の財産を侵害したと言えないから、 詐欺罪は成立しない 4 (1)財物の交付が不法原因給付である ならば、 民法708 条の趣旨である不法な契約の履行の防止と矛盾を防止するため 詐欺罪は成立しない。
概要: 被告人は、360円相当の万年筆を抽選券をつけて1000円で販売し、当たりは2 000円の現金などと称するトランプ返しのくじをさせた。しかし、くじはトリッ クを用いて当たらないようにできていた。(賭博ではなく、詐欺) 1 (1)二人以上の者が相互に (2)偶然の勝負により (3)財物の得喪を決める ならば 賭博罪である。 2 勝負の偶然性が参加する全員について存在する ならば 賭博罪である。 3 勝負の偶然性のない者が存在する ならば 賭博罪は全面的に成立しない。 4 (1)人を欺罔して (2)財物を騙取した ならば 詐欺罪である。 5 (1)被告人がトランプ状の札を意のままに操ることができた ならば (2) even if 客の側がお互いに偶然の勝負をしているつもりである としても、 被告人としては勝負に偶然性がなく、勝負は被告人の意思に従って必然的 に決しうるといえる。 6 (1)勝負が被告人の意思に従って必然的に決しうるもので (2)勝負は偶然性があると相手方に対して装い (3)相手方が勝負は偶然性があると誤信した ならば 相手を欺罔した といえる。 7 当たらないくじのついた万年筆を1000円で売った ならば 財物を騙取したといえる。 8 (1) True ならば (2) Even if 賭博の掛け金は不法原因給付で民法上の返還請求権が相 手方にない としても 詐欺罪の成立を妨げない。
概要: 被告人吉本惣太郎は、特殊飲食店、深水キセ方に雇われていたが、同店抱え接 客婦・春美こと藤本まさ子が約 7万円の前借金を残して逃走したことがあり、 深水キセは、春美の逃走は、同女の馴染客の吉谷進の手引きであると疑ってい た。偶々吉谷進が特殊飲食店に来たので、深水キセの依頼を受けた被告人吉本 惣太郎と知り合いの被告人小原良一は、深水キセのために金銭を喝取しようと 企てた。被告人小原良一は吉谷進を脅迫し、前借金7万円の支払とその担保を 提供する契約を結ばせ、 深水キセに財産上不法の利益を得せしめた。 裁判官の論理: 1。 (1)債権取立のために執った手段が、権利行使の方法として、社会 通念上一般に容認すべきものと認められる程度を逸脱した恐喝 手段である、 ならば、 債権額のいかんにかかわらず、恐喝手段により債務者から交付を受け た金員全額につき恐喝罪が成立する。 2。 (1)被告人の行為が恐喝罪にあたることは明らかである、 ならば、 (2)even if 権利行使の意図に出たものである、 にもかかわらず、 恐喝罪は成立する。 弁護人の論理: 1。(1)その業務に基づく債権が侵害された、 ならば、 (2)even if 深水の業務は法律上乃至道義上許されない業務である、に もかかわらず、 被告人らは、損害賠償請求権を行使し得る。 2。 (1)恐喝者に財物の交付を受ける正当な権利(債権)があり、 (2)その権利を行使するために恐喝した、 ならば、 恐喝罪を構成しない。
概要: 被告人は、カフェーにおいて接客婦として働く意思もなく、金員返済の意思 も能力もないのに、それがあるように装い、被害者に前借金として5 万円を交 付させて、騙取した。他に5件の同様の詐欺をした。 裁判官の論理: (第二審裁判官の論理: 1。 (1)被告人が真実働く意思がないにも関わらず、それがあるように 装って、 (2)被害者を欺罔し、 (3)前借契約として金員を交付させて、 (4)騙取した、 ならば、 (5)even if 前借契約の民事的効力が無効である、にもかかわらず、 詐欺罪が成立する。) 2。 第二審判決の判示の理由がある ならば、 詐欺罪は成立する。 弁護人の論理: 1。(1)前借契約は公序良俗に反し無効であり、後に働かなくなったといっ ても、 前借金を取り戻し得ない、 ならば、 (2)even if 被害者に損害を与えている、にもかかわらず、 詐欺罪は成立しない。 第二審判決 裁判官の論理:上述 第一審判決 裁判官の論理: 被告人の行為は詐欺罪にあたる(理由の明示なし)。
事実の概要: アメリカ合衆国軍隊の軍属である被告人は、同国人と賭博を行い6000ドル負け、 支払いのために呈示しないという約束の下で、小切手に借用証代わりに実在し ない銀行名を記入し、交付したものである。その結果6000ドルの債務の支払い を免がれ、財産上不法の利益を得たとしたものである。 裁判官の論理 1 (1)もし債務が民法90条に違反したものである ならば、 (2) even if債務を免れたとしても、 詐欺罪は成立しない。
概要: 被告人から猥褻写真を買う意思で1000円を支払った被害者が、受け取った写真 が単なるグラビアヌード写真であったので、1000円を返してもらおうとしたと ころ、被告人の仲間が取り囲み、脅迫畏怖させ、返還請求を断念させた。 1 (1)人を恐喝して (2)財産上不法の利益を得た ならば (二項)恐喝罪である。 2 (1)猥褻写真の代金 ならば (2) even if 被告人にとっては不法の原因(刑法 175条猥褻図画販売) によって得た物である としても 刑法175条は買受人までを罰するものではないから 被害者は返還請求権を失わない。 3 被害者に代金の返還請求権を放棄させた ならば 財産上不法の利益を得たといえる。
概要: 被告人らは、共謀の上、賭博を装って被害者より金員を騙取しようと企て、ひ そかにサインを出すなどの分担をした上、被害者を賭客として参加させ賭博を 行わせ、寺銭及び賭銭名下において2万円交付を受けこれを騙取すると共に、 139万円の債務を負担させ、財産上不法の利益を得たものである。 裁判官の論理: 1。 (1)人を欺罔し (2)錯誤に陥れて (3)財産上不法の利益を得、又はこれを他人に得させる ならば、 詐欺罪が成立する。 2。 (1)利益を取得する手段が不法である ならば、 (2) even if 右利得によって生ずる法律行為が無効である、にも かかわらず 詐欺罪が成立する。
概要: 被告人は海上保安官であったが、違反操業および船舶の衝突事故を起こした者 またその家族に、事件の見逃しまたはもみ消しを条件として相手方を畏怖させ る方法をもって、金銭を交付させた。 裁判官の論理: 1。 (1)公務員が職務に関して、 (2)恐喝的方法によって、 (3)相手方を畏怖させ、 (4)財物を交付させた ならば、 恐喝罪となる。 2。 (1)公務員がその職務に関して恐喝を行い、 (2)恐喝の相手方になお意思の自由があり、 (3)その相手方につき賄賂罪が成立し、 (4)その公務員について恐喝罪が成立する、 ならば、 収賄罪となる。 検察官の論理 1。 (1)公務員がその職務に関して恐喝を行い、 (2)しかし被害者は任意に財物を交付した、 ならば、 収賄罪となる。
1.even if 被害者の(贈賄行為の)期待が不法原因給付であるとしても,そ の期待にそう意志がないのにその意志があるかのように装って財 産権を侵害したならば,詐欺罪にあたる。 2.贈賄の期待は,不法原因給付である。
事実の概要: 被告人甲は、競輪選手である被告人乙に対し、乙の出走するレースにおいて出 走の際一、二着予想者を教示した上、教示した入着予想者を順当に入着させる ため他選手の走行を妨害するなどして、いわゆる八百長競争をしてもらいたい 旨を依頼し、その報酬または予想を教示してくれた報酬として現金を供与した。 そして公正なレースを行ったかの如く装い、各レース審判員等をして公正なレー スが行われたかの如く誤信させ、以て車券の連番を的中させ、払戻金名下に払 戻係員より支払いを行わせて騙取した。 裁判官の論理: 1 (1)「押さえる」「はねる」などの走行妨害行為は、 (2)当該選手が自らの入着を放棄し、かつ (3)自己の予定する他の選手を入着させる意図を持っている ならば、 不正な行為である。 2 (1)一人八百長では、 (2)当該選手が具体的妨害行為にでた時あるいは、 (3)自己の全力を出さず力を抜いた走行を始めた時期に (4)詐欺罪の実行の着手が認められる。 3 (1)一人八百長の場合 ならば 多くの偶然的な要因が介在するため、 (2)妨害行為と結果との間に因果関係は認められず、 (3)妨害行為は詐欺罪の実行行為とはいえず、 (4)詐欺罪は不成立である。 弁護人の主張: 1 (1)「押さえる」「はねる」などの走行妨害行為は、 (2)選手の自己の勝利のための作戦として許される行為の範囲内 ならば、 ただちに八百長とはならない。 2 (1)競輪競争に関しては性質上選手一人の意図により、 (2)同人一人の行為で八百長を行うのは不可能である ならば、 詐欺罪は成立しない。
概要: 被告人は、共謀者と強盗を企図。共謀者が、被害者に対して日本刀を突きつけ 「金を出せ」「騒ぐと突き刺すぞ」などと申し向けて脅迫し、金員を強取しよ うとしたが、被害者が日本刀にしがみつき大声を上げて助けを求めたため、目 的を果たさなかった。その際、被害者は共犯者が刀を引いたことにより右掌、 左目瞼に全治2週間の切り傷を負った。被告人は、見張りをしていた。 1 (1)暴行または脅迫を以て (2)他人の財物を強取した ならば 強盗罪である。 2 (1)強盗の機会に (2)相手に傷を負わせた ならば 強盗致傷罪(強盗傷人罪)である。 3 被害者に対し日本刀を突きつける ならば 人の身体に対する不法な有形力の行使である。 4 人の身体に対する不法な有形力の行使 ならば 暴行といいうる。 5 被害者が、突きつけられた刀で切り傷を負った ならば 暴行の結果傷を負ったと言える。 6 (1)強盗の手段としての暴行で (2)被害者が傷を負った ならば (3) even if 財物を奪っていない(財物奪取は未遂) としても 強盗致傷罪である。 (注:6のルールは、弁護人上告趣意書に引用されている、最高裁昭和23 年6月12日刑集2-7-676 から抜き出した。)
概要: 窃盗未遂犯人である被告人は逮捕を免れるために、追跡者に対して暴行を加え た結果、同人に傷害を負わせた。 裁判官の論理: 1。(1) 窃盗未遂犯人が追跡者に暴行を加え、 (2) 傷害を負わせた、 ならば、 (3) even if 傷害という結果が強盗の手段たる暴行行為によって生じたの ではない、 にもかかわらず、 強盗傷人罪の結果となる。 弁護側の論理: 1。傷害という結果が強盗の手段たる暴行行為によって生じていない、 ならば、 強盗傷人罪の結果といえない。
概要: 被告人はパチンコ玉を窃取したところ店員に発見されたため逃走し、追跡し て被告人を背後から抱きかかえ逮捕しようとした者に対して、投げ飛ばすなど の積極的、攻撃的な暴行を加える意思がなく、上半身を前に倒して前かがみと なり、右肩を左下方向にひねるという防御的な動作をした。このはずみで相手 が勢いあまって転倒し、傷害を負った。 裁判官の論理: 1。 (1)窃盗犯人が逃走中に、 (2)追跡して窃盗犯人を背後から抱きかかえ逮捕しようとした者に 対し、 (3)投げ飛ばすなどの積極的、攻撃的な暴行をB加える意思なく、 (4)ただ逃げたい一心から、 (5)相手の腕をふりほどこうとして上半身を前に倒して前屈みにな り、右肩を左下方向にひねるという防御的な動作をした、 ならば 238条にいう暴行にあたらない。 2。 (1)窃盗犯人が逃走する際行った暴行が238条にあたらない程度の ものである、 ならば 強盗致傷罪にはあたらない。 3。 (1)窃盗犯人が逃走する際行った暴行が238条にあたらない程度の ものである、 ならば 窃盗罪と傷害罪の併合罪として処断される。 弁護人の論理: 1。 (1)被告人がなした暴行が、被告人に対する逮捕遂行の意思を制圧 するに足りない程度の強度のものである、 ならば 刑法238条にいう暴行にはあたらない。
1.強盗傷人は,結果犯である。 2.(1)強盗が複数の共謀による時, (2)その中の一人が暴行により傷害の結果を発生させた ならば, 全員に強盗傷人が成立する。
事実の概要: 被告人は、飲酒して通行中甲が金品強取の目的を持って通りかかった被害者の 顔面を殴打し、「金を出せ」と要求しているのを知って、自分もこの機会を利 用して金品を強取しようと考え、直ちに甲と協力して意思を連絡の上、被害者 から同人所持の七百円を奪った。更に甲が被害者の左腕を抑え、被告人が被害 者のはめていた腕時計を外してこれを強奪し、その際甲の暴行により被害者の 右眼部に治療一週間を要する打撲傷を負わせた。裁判官の論理: 1 (1)強盗傷人罪は、強盗の結果的加重犯でかつ、単純一罪であるから、 (2)被告人が他人が強盗の目的をもって暴行を加えた事実を認識し、か つ (3)この機会を利用し共に金品を強取することを決意し、かつ (4)互いに意思連絡の上金品を強取した ならば、 even if 共犯者が先になした暴行の結果生じた傷害につき認識がない場合でも、 強盗傷人罪の共同正犯が成立する。 弁護人の主張: 1 (1)甲が被害者を殴打、傷害した行為が、 (2)強盗の手段とは無関係である ならば、 被告人は強取の責任のみを負う。 2 (1)被告人は、被害者より時計を強取したのみであり、 (2)単純強盗罪の罪責を負う。
No.99
強盗傷人
東京地裁 昭和31年7月27日 判時83-27.判タ60-116
概要: 被告人は、タクシー料金が所持金を越えたため、タクシーを停車させ、運転手 の首を絞め、反抗を抑圧し、料金を支払わずに逃走した。 1 (1)暴行または脅迫を以て (2)財物を強取した ならば 強盗罪である。 2 (1)強盗の機会に (2)相手に傷を負わせた ならば 強盗致傷罪(強盗傷人罪)である。 3 (1)暴行によって被害者が負った傷が(i)医学上の病理的変化 or (ii)身 体の生理組織の損傷だけでなく (2)すくなくとも被害者の生活機能をある程度毀損する ならば 傷害罪(強盗傷人など)における傷害といえる。 4 (1)暴行によって被害者が負った傷が(i)医学上の病理的変化 or (ii)身 体の生理組織の損傷だけで (2)被害者の生活機能をある程度毀損したのではない ならば 傷害罪(強盗傷人など)における傷害といえない。 5 (1)暴行によって被害者が負った傷が (2)日常生活において一般に看過される程度の毀損 ならば 傷害罪(強盗傷人など)における傷害といえない。 6 暴行によって被害者が負った傷が (1)(a)被害者がほとんど痛痒を感じない (b)微少な表皮剥落・腫脹 あるいは (2)ごく短時間に自然快癒する疼痛 ならば 少なくとも 日常生活において一般に看過される程度の毀損である。 7 暴行によって被害者が負った傷が (1)取調官 or 取調官の求めにより診察した医師が 初めて発見した (2)被害者に少しも自覚症状がない (3)医師が何等の手当の必要も認めなかった (4)被害者の日常生活に何等の支障をも来さなかった ならば 日常生活において一般に看過される程度の毀損といえる。
No.100
強盗傷人
最高裁昭和32年9月13日第2小法廷判決・刑集11巻9号2263頁
昭和31年(あ)2368号
概要: 被告人岩永繁美は、被害者河野千明より借金をするかたわら被害者の求めに応 じ被害者の他人に対する貸金の取立などしていたが、 その取り立てた金v員を 被害者へは渡していなかった。被告人に対して不信を抱いた被害者は取り立て て貰った貸金と被害者への貸金の返済を強く求め、これに対して被告人はその 返済を免れるため被害者を殺害しようとしたが、被害者は一命を取り留め、未 遂に終わった。 裁判官の論理: 1。 (1)強盗罪と同様に相手方の犯行を抑圧すべき暴行、または、脅迫 の手段を用いて、 (2)相手方の意思による処分行為を強制することなく、 (3)財産上不法の利得を得た、 ならば、 強盗利得罪が成立する。 2。 (1)債務の支払を免れる目的をもって、 (2)債権者に対しその犯行を抑圧すべき暴行または脅迫を加え、 (3)債権者に支払の請求をしない旨を表示させて、または、債権者 を事実上支払の請求をすることができない状態にして、 (4)支払を免れた、 ならば、 強盗利得罪が成立する。 被告の論理: 1。 (1)暴行脅迫の手段を用いて、 (2)不法に財産上の利益を得または他人をして得させるため、 (3)他人に対して財産上の処分を強制した、 ならば、 強盗利得罪となる。 2。 (1)債務の履行を免れる目的をもって、 (2)単に債権者を殺害した、 ならば、 強盗利得罪とならない。 3。 (1)不法利得と他人に対する財産上の処分の強制の間に因果関係が ある、 (2)必ずしも被害者の意思表示は必要ではない、 ならば、 強盗利得罪となる。 4。 (1)加害者の行為によって、 (2)加害者と被害者の債権関係が法律上消滅し加害者が「不当利得」 をする、 ならば、 強盗利得罪となる。 5。 (1)加害者の行為によって、 (2)事実上債権関係が消滅するが、 (3)法律上債権関係は消滅せず財産上の利益を得ない、 ならば、 強盗利得罪とならない。
No.101
強盗傷人
最判昭和33年4月17日・刑集12巻6号977頁
最高裁昭和32年(あ)第648号
概要: 被告人平野らは、小西を襲って金銭を強取しようと考えた。被告人平野は、小 西の顔に2、3回ナイフを突きつけ、頚部および頭部にそれぞれ長さ約6セン チメートルの擦過傷を負わせた。 裁判官の論理: 1。 (1)強盗の機会に、 (2)暴行により傷害の結果を生ぜしめた、 ならば、 強盗傷人である。 2。 (1)被告人が突き出したナイフの刃が被害者の首および頭にかすり、 (2)それぞれ約6センチメートルの擦過傷を負わせた、 ならば、 ナイフを突き出す行為自体、人の身体に対する不法な有形力の行使で 暴行を加えることである。 (弁護人の主張は前提とする事実が異なる。) 3。 (1)被害者にナイフを突き出して金員を要求した、 ならば、 強盗罪における暴行、脅迫にあたる。 弁護人の論理: 1。 (1)脅迫行為は存在するが、暴行行為は存在せず、 (2)脅迫と傷害との因果関係を検討していない、 ならば、 脅迫行為中たまたま発生した傷害であり、強盗傷人ではない。
No.102
大阪地判昭和34年4月23日
1.強盗致傷罪を構成すべき傷害は傷害罪よりも高度な傷害である必要がある。 2.本人に痛痒の自覚がなく,または,ごく短期間に自然に治る程度の損傷は, 強盗致傷罪を構成しない。
No.103
名古屋高判昭和34年11月11日・高刑12巻10号967 頁
昭和34年(う)第385 号
事実の概要: 被告人らは被害者が多額の金員を持っていることを知り、酒食の饗応を受けよ うと思って被害者に迫ったが断られ、被害者を追いかけて更に迫ったところ、 逃げられたので殴る蹴るの暴行を加えた。起き上がった被害者がタクシーに乗 り逃げようとしたところを取り押さえ、路上で被害者の金員を取ろうと更に暴 行を加え、金員を強奪した。 裁判官の論理: 1 (1)強盗罪の構成要件該当行為が行われた ならば、 (2)even if 財物奪取行為が、衆人監視の中で行われ、 (3)even if 救助を求めることが可能であったとしても、 強盗罪は成立する。 2 (1)被告人が被害者に加えた傷害が、 (2)被告人らの強盗の犯意を生じる前後にわたる暴行によって生じ、かつ (3)前後いずれの暴行か確定できない ならば、 強盗傷人罪は成立しない。 3 (1)傷害が強盗の犯意を生じる前後のどちらか確定できない暴行に基づ くものと強盗の犯意を生じた後に加えたと判断できる ならば、 (2)強盗の犯意発生後について強盗傷人罪が成立するのみならず、 (3)強盗の犯意を生ずる前後にわたる一連の暴行に基づく傷害と強盗の 犯意を生じた後の暴行に基づく傷害とを包括して強盗傷人の一罪が 成立する。 弁護人の主張: 1 (1)被告人の財物奪取行為が、 (2)衆人監視の中で行われたもの ならば、 (3)強盗罪は成立しない。 2 (1)被告人が被害者に加えた傷害が、 (2)被告人らの強盗の犯意を生じる前後にわたる暴行によって生じた ならば、 (3)強盗傷人罪は成立しない。
No.104
強盗傷人
東京地裁 昭和35年10月31日 判タ114-96
概要: 被告人は強盗の際に、被害者に全治3日間を要する頚部発赤圧痛の傷を負わせ た。 1 (1)暴行または脅迫を以て (2)財物を強取した ならば 強盗罪である。 2 (1)強盗の機会に (2)相手に傷を負わせた ならば 強盗致傷罪(強盗傷人罪)である。 3 強盗の際に加えた暴行・脅迫が 被害者の反抗を抑圧する程度でない ならば 強盗罪における暴行・脅迫とはいえない。 4 暴行によって被害者が負った傷が (1)被害者の健康状態を不良に変更していない あるいは (2)被害者の身体の完全性を害していない ならば 傷害罪(強盗傷人など)における傷害といえない。 5 暴行によって被害者が負った傷が (1)警察官の勧めにより医師に診察してもらった (2)自らは全く痛みを覚えることがなく (3)事件の翌朝には、治療の際の湿布をはずし (4)被害者の日常生活に何等の支障をも来さなかった ならば (5) even if 医師が全治3日間を要する頚部発赤圧痛の傷と診断した としても 4(1/2)にいうような傷害とはいえない。
No.105
強盗傷人
神戸地裁姫路支判S35.12.12下刑2-112-1527、判時253-43、判タ119-108
概要: 被告人は、被害者宅に強盗に入り手斧を突き付けたり振り上げたりしながら脅 迫し同人の反抗を抑圧して金銭を強取しようとしたが、同人からなだめられ、 いったん振り上げた斧を下に降ろした際、同人に斧を奪い取られたためその場 を逃走した。被害者は、斧を奪い取る際手を板塀にこすり、また、被告人を追 跡する際に家屋等にあたって足等に擦過傷を負った。 裁判官の論理: 1。 (1)強盗犯人が強盗の機会において、 (2)傷害の結果を生じさせる、 ならば 強盗致傷罪となる。 2。 (1)強盗犯人の何らかの行為があり、 (2)これと傷害の結果との間に刑法上の因果関係の存在する、 ならば 強盗致傷罪にいう傷害にあたる。 3。 (1)被告人が何の抵抗もしないで逃走し、 (2)被害者の負傷が追跡する際に生じたものである、 ならば、 被告人の行為により生じたものといえない。 4。 (1)被告人が、被害者を畏怖させる目的で手斧を突き付けたり振り 上げたりしただけで、 (2)被害者に対し切りつける意思がなく、 (3)その手斧が被害者の身体に接触するおそれもなかったのである、 ならば 被告人の右行為は、被害者の身体に対する暴行ではなく、脅迫行為で ある。 5。 (1)被害者の負傷が、自ら兇器を奪い取る際に、 (2)かたわらの塀に手をこすって負傷したものである、 ならば 通常予測しうる定型性を欠くものである。 6。 (1)通常予測し得る定型性を欠くものである、 ならば 被告人の脅迫行為と被害者の左手の擦過傷との間には、刑法上の因果 関係はない。 7。 (1)刑法上の因果関係がない、 ならば 被害者の擦過傷はいずれも刑法 240条前段にいわゆる「強盗人ヲ傷シ タルトキ」に当らないと解すべきである。
No.106
強盗傷人
東京地裁昭和38年2月14日判決・判タ144号182頁
概要: 被告人は、深夜人気のない路上を1人で歩いていた女性を見るやその女性に猥 褻行為を行おうと考え、そのためにその女性を呼び止めたうえ殴る蹴るの暴行 を加えたが、その女性が隙を見て逃走したため猥褻行為には及ぶことができな かった。その女性は逃走の際、ハンドバックを忘れていったが、被告人はこれ を持ち帰った。 裁判官の論理: 1。 (1)わいせつの目的をもって、 (2)暴行行為を行い、 (3)財物を奪った、 ならば、 強盗罪でない。 検察官の論理 1。 (1)変態性欲的傾向から婦人の所持品に興味があり、 (2)暴行行為を行い、 (3)因って傷害を負わせ、 (4)財物を奪取した、 ならば、 強盗傷人罪である。
No.107
東京地判昭和38年10月18日
1.通行人に軽便カミソリをもって切りつけ,言葉で金品を要求する行為 ならば even if 金品を得なかったとしても, 強盗傷人罪にあたる。
No.108
強盗傷人罪における傷害の程度
東京高裁昭和38年12月12日・下刑5巻11=12号1088頁
38(う)第1770号
事実の概要: 被告人は集金した水道工事代金を使い果たしたため、他人の家に押し入り金を 取ろうと考え留守だと思った被害者宅に侵入した。そこを被害者に発見され、 手袋を嵌めた右手で強くその左頸部を押さえつけ、左手で同人の右肩を押し、 その場に倒れた被害者の上に乗りかかる等の暴行を加え、左頸部に全治5日を 要する擦過傷を加えた。金員の強取は被害者が隙を見て逃げたため、果たすこ とはできなかった。 裁判官の論理: 1 (1)強盗傷害罪の「強盗」には、 (2)事後強盗(238 条)、昏睡強盗(239 条)、強盗未遂を含む ならば、 (3)強盗傷害罪は成立する。 2 (1)強盗傷人罪の「傷害」は、 (2)傷害罪の「傷害」を含むものである ならば、 (3)強盗傷害罪は成立する。
No.109
強盗傷人
名古屋高裁金沢支部 昭和40年10月14日 高刑18-6-691
概要: 被告人は強盗の際に、被害者の襟首をとらえ引き倒し、その際被害者は右前額 部に針頭大並びに0.5 ミリの裂傷2カ所及び右上下瞼、眦(めじり)部にわたっ て中程度の浮腫を認める傷を負ったが、皮下出血、疼痛はなく、被害者自身傷 を受けた自覚も不明確で、治療も受けず、5日位で傷は全治した。 1 (1)暴行または脅迫を以て (2)財物を強取した ならば 強盗罪である。 2 (1)強盗の機会に (2)相手に傷を負わせた ならば 強盗致傷罪(強盗傷人罪)である。 3 暴行によって被害者が負った傷が (1)医学上の創傷である だけでなく 少なくとも(2)被害者の生理機能に「ある程度の」障害を与えた ならば 傷害罪(強盗傷人など)における傷害といえる。 4 暴行によって被害者が負った傷が (1)日常生活に支障を来さない (2)(a)傷害として意識されない or (b)日常生活上看過される程度 (3)医療行為を特別に必要としない ならば 被害者の生理機能に「ある程度の」障害を与えたといえない。 5 暴行によって被害者が負った傷が (1)針頭大(=注射のあと程度)並びに0.5ミリの裂傷 あるいは (2)中程度の浮腫 ならば 4(1/2b/3)にいう程度の傷である。 6 (1)暴行によって被害者が負った傷が (2)第三者からどうしたのかと質問される程度の腫れ ならば 中程度の浮腫といえる。 7 暴行によって被害者が負った傷が (1)被害者が「少々の負傷くらいはいわなくともよい」と思う程度で (2)医師に治療してもらわず (3)目撃者が、被害者の負傷について全然記憶がない ならば 日常生活上看過される程度の傷といえる。
No.110
強盗傷人
名古屋高判昭和42年4月20日・高刑集20巻2号189頁
名古屋高裁昭和41年(う)第736号
概要: 被告人宮毛は、今枝の持っていたハンドバッグを背後から手をかけて引き取ろ うとした。今枝はハンドバッグを離さなかった。被告人は、無理矢理奪い取ろ うとして、ハンドバッグを引っ張って今枝を転倒させ、路上を数メートル引き ずり回し、ハンドバッグを奪い取った。今枝は傷害を負った。 裁判官の論理: 1。 (1)被害者の背後からハンドバッグに手をかけ、引き取ろうとし、 (2)被害者がハンドバッグを離さなかったため、無理矢理奪い取ろ うと引っ張って、被害者を転倒させ、 (3)なおも、被害者を数メートルにわたり路上を引きずり回した、 ならば、 社会通念上一般に、被害者の反抗を抑圧するに足る程度の暴行に当た る。 2。 (1)被害者をハンドバッグを引っ張ることで路上に転倒させ、 (2)さらに、路上を引き回すという暴行を被害者に加え、 (3)執拗にハンドバッグを強取しようとし、 (4)その結果、被害者が傷害を負ったならば、 ならば、 強盗傷人罪となる。
No.111
東京地判昭和43年6月6日
1.(1)全治3日と診断され,約1週間で全治した傷害は, (2)強盗の機会に偶然生じたのではなく強盗の手段である暴行によって生じた ならば, 強盗致傷罪の傷害にあたる。
No.112
広島地判昭和44年3月19日
概要: タクシーの運転手の横柄な態度に憤激し、車外へひきずりだそうとしたり、暴 行を加え、暗に金員を要求し、応じなければどのような危害を加えるかもしれ ないような気勢を示し、金員を交付させた。 1 (1)相手を抑圧するに足る・暴行または脅迫を用いて (2)財物を・奪取した ならば 強盗罪と なる。 2 (1)相手を抑圧するには足らず (2)畏怖させるには足る・暴行又は脅迫を用いて (3)財物を (4)奪取した ならば 恐喝罪となる。 3 (1)被害者の顔を殴ったが (2)車外に引きずり出そうとした際あまり手荒なことをしないよう制止し (3)再三車を離れ (4)売上金には手をつけず (5)時計を提示させたが奪わず返し (6)被害者が自ら差し出して置いた金を受け取り (7)金を貸した旨の文書を作成させ (8)タオルを出させて指紋をふき取り (9)凶器を使用せず (10)取り押さえようとして動けなくさせたのでない ならば 相手を抑圧するには足らない。 (注・暴行脅迫の程度のの認定がかなりを占めている)
No.113
強盗傷人
岡山地裁 昭和44年8月1日 刑月1-8-813
概要: 被告人らは、車が当たったと因縁を付け、被害者に対して加療5日の傷害を与 え、「修理代を出せ」などの要求を出し、所持金を交付させた。(恐喝+傷害) 1 (1)暴行または脅迫を以て (2)財物を強取した ならば 強盗罪である。 2 (1)強盗の機会に (2)相手に傷を負わせた ならば 強盗致傷罪(強盗傷人罪)である。 3 (1)人を恐喝して (2)財物を交付させた ならば 恐喝罪である。 4 人の身体に傷害を負わせた ならば 傷害罪である。 5 2と4が法条競合する ならば 2が優先する。 6 暴行・脅迫が被害者の反抗を抑圧する程度のもの ならば 1(1)にいう暴行・脅迫である。 7 暴行・脅迫が (1)被害者の反抗を抑圧する程度ではなく (2)被害者を畏怖させるに過ぎない ならば 3(1)にいう恐喝といえる。 8 暴行・脅迫の行われた場所が (1)比較的交通量が多い (2)近くに人家がある ならば 必ずしも救助の求められない所ではなかったといえる。 9 被害者への要求が、被害者の返答により程度をかえた ならば 被告人は被害者の意思を全く無視する態度はとっていないと評価できる。 10 (1)暴行の現場は、必ずしも救助の求められない所ではなかった (2)仲間の暴行を制止した (3)鼻血を出している被害者にハンカチを与え、鼻血を拭くよう勧めた (4)被害者の意思を全く無視する態度をとっていない (5)仲間があとで被害者に謝罪に行っている などの事情が認められる ならば 被告人らの暴行は被害者の反抗を抑圧する意思ではなかったといえる。 11 (補充) 暴行を受けた ならば 被害者は畏怖する。 (としないと7が機能しない?) コメント:10のルールは(1/2/3/4/5)が And の関係なのか Or の関係なの かはよく分からない。裁判官としては、1つくらいは抜けていて もよいが、ある程度そろっていないと認めない(強盗と判断する) ものと思われる。
No.114
大阪地裁昭和44年8月8日判例タイムス24096
窃盗未遂、傷害被告事件
刑204.刑235
概要: 窃盗未遂犯人である被告人は逮捕を免れるために、追跡者に対して暴行を加え た結果、同人に傷害を負わせた。 裁判官の論理: 1。(1) 逮捕を免れるために、 (2) 相手方の逮捕力を抑圧すべき程度に達する暴行がある、 ならば、 強盗(事後強盗)致傷罪の成立要件となる。 2。(1) 被告人が追跡者の手を払いのけようとして、 (2) ドライバーを持った右手をふりおろしたため、 (3) 右ドライバーの先端を同人の左手に接触させ、傷害を負わせた、 ならば、 逮捕力を抑圧するに足りる程度の暴行とはいえない。
No.115
強盗傷人
新潟地判昭和45年12月11日・刑月2巻12号1321頁
概要: 被告人は恐喝の意思によって暴行した後、他の場所へ被害者を連れていき、そ こで強盗の犯意を生じ、金品を強取した。第一の暴行によって被害者は傷害を 負った。 裁判官の論理: 1。 (1)単一の目的に向けられた (2)一連の行為があり (3)行為の客観面においても主観面においても連続性が認められる ならば、 一罪と認められる。 2。 (1)恐喝の意思による暴行脅迫がなされ、 (2)その後に強盗の犯意による暴行脅迫が行われ金品が強取された ならば、 強盗罪が成立する。 3。 (1)2。の場合において、傷害が恐喝の意思による暴行脅迫によっ て生じた ならば、 強盗致傷罪は成立しない。
No.116
最一小判昭和45年6月17日
(no.43の論理は,強盗致死にも適用される。)No.117
東京地判昭和46年7月6日
概要: 酔った勢いで、女性に抱きついてからかおうとして、首のあたりを締めつけた り、体を押さえつけたりして、被害者が倒れた際に取り落としたハンドバック を持ち逃げした。 1。(1)相手を抑圧するに足る・暴行または脅迫を用いて (2)財物を (3)奪取した ならば 強盗罪と なる。 2。(1)暴行およびその結果たる傷害後に (2)盗む意図を生じた ならば 強盗罪ではない。 3。(1)暴行及びその結果たる傷害後に (2)盗む意図を生じた ならば 傷害及び窃盗となる。 4。(1)抱きついてからかうため (2)被害者に触れ (3)被害者の態勢が崩れ (4)落ちたハンドバッグを (5)咄嗟の出来心で (6)持ち去った ならば 暴行及びその結果たる傷害後に盗む意図を生じたと言える。
No.118
強盗傷人
福岡地裁小倉支部 昭和47年2月21日 判タ277-374
概要: 被告人らは、準強盗の際に加えた暴行により、被害者A対して加療約7日間を 要する左腕打撲及び左下腿部打撲症を、被害者Bに対して加療7日間を要する 左第三・第四指打撲及び左大腿部打撲症の傷を負わせた。 1 (1)暴行または脅迫を以て (2)財物を強取した ならば 強盗罪である。 2 (1)強盗の機会に (2)相手に傷を負わせた ならば 強盗致傷罪(強盗傷人罪)である。 3 強盗の際に加えた暴行・脅迫が 被害者の反抗を抑圧する程度でない ならば 強盗罪における暴行・脅迫とはいえない。 4 暴行によって被害者が負った傷が (1)軽微な身体の病変 だけで (2)被害者の反抗を抑圧する程度の暴行から予想される程度 ならば 強盗傷人における傷害といえない。 5 暴行によって被害者が負った傷が少なくとも日常生活において一般に看過 されない程度の毀損 ならば 傷害罪(強盗傷人など)における傷害といえる。 6 暴行によって被害者が負った傷が少なくとも被害者の生活機能をある程度 毀損する ならば 傷害罪(強盗傷人など)における傷害といえる。 7 暴行によって被害者が負った傷が (1)(a)警察官の勧めにより医師に診察してもらった (b)警察官に勧められなければ病院に行くつもりはなかった (2)病院には一、二度しか行かず (3)痛みを感じたのは2、3日で (4)被害者の日常生活に何等の支障をも来さなかった (5)一週間もたたないうちに自然と痛みが消えていった ならば (6) even if 指は当分自由がきかなかったと証言した としても 日常生活において一般に看過される程度の毀損 あるいは 被害者の生活機能をある程度毀損していない といえる。
No.119
強盗傷人
福岡高裁昭和47年11月16日判決・判タ298号445頁
昭和47年(う)149号
概要: 被告人ら4名は共謀のうえ被害者宅において窃盗を行っていたが、その最中に 被害者らに発見され、逃走を図った。しかし、被告人らのうち1名が逃げ遅れ たため、その者の逮捕を免れようと残りの被告人らのうち2名が被害者に対し 暴行を行い、傷害を負わせた。 裁判官の論理: 1。 (1)軽微な傷害である、 (2)その傷害は日常生活上一般に見過ごされる程度の軽微なもので はない、 ならば、 強盗致傷罪の傷害である。 2。 (1)軽微な傷害は強盗の手段たる暴行に含まれない、 (2)強盗致傷罪における傷害は特別なものでない、 ならば、 軽微な傷害は強盗致傷罪の傷害である。 3。 (1)刑法上の傷害といえないほどの日常生活において一般に見過ご される程度の極めて軽微な傷害である、 ならば、 強盗致傷罪の傷害でない。
No.120
東京高判昭和50年12月4日・判タ333号332頁
概要: 被告人は暴行により抵抗できない状態にある子どもに対して強制猥褻行為中に 財物奪取の意思を生じ、財布を奪取した後、これらの行為の発覚を防ぐため子 どもを殺害した。裁判官の論理: 1。 (1)殺害が犯行発覚を免れようとする目的をも合わせ持っていたの であれば、 (2)殺害行為が事前の計画に基づき、 (3)強制猥褻の犯行発覚を免れようとするものであったとしても 強盗殺人罪を構成する。
No.121
(東京高判昭和52年5月26日)
1.(1)財物奪取の手段としてなされた行為と,被害者の反抗抑圧する行為 ならば (2)even if 独立でなくとも, 強盗罪を構成する。 2.被害者が若い女性であり,ハイヒールをはいていて,周囲に人がない場合, ならば (一般的に)被害者のハンドバッグをひっぱる行為は反抗を抑圧するに足 るといえる。
No.122
東京高判昭和52年12月21日
概要: 畑の中で不審な態度で大根を持っていた被告人に対し、「警察に突き出してや る」等と言いながら押さえつけたのに対し、被告人が暴行を加えた。 1。 (1)窃盗財物を得て (2)逮捕を免れる為に (3)暴行を加えた ならば 事後強盗となる。 2。 (1)窃盗犯人を脅し、意見するためである ならば (2)even if 「警察に突き出す」と言い、押さえつけても 逮捕の意思ではない。 3。(1)憤慨したためである ならば (2)even if 暴行を加えても 逮捕を免れるためではない。
No.123
強盗傷人
東京高裁 昭和59年10月25日 判時1153-236
概要: 被告人は、別れた元の妻から金を無心しようとしてその家に押しかけ、同女を 縛ったり猿ぐつわをかませたりして怪我をさせたうえ、タンスの中から現金在 中の給料袋を奪い取った。 1 (1)暴行または脅迫を以て (2)財物を強取した ならば 強盗罪である。 2 (1)強盗の機会に (2)相手に傷を負わせた ならば 強盗致傷罪(強盗傷人罪)である。 3 (1)人を恐喝して (2)財物を交付させた ならば 恐喝罪である。 4 人の身体に傷害を負わせた ならば 傷害罪である。 5 2と4が法条競合する ならば 2が優先する。 6 暴行・脅迫が被害者の反抗を抑圧する程度のもの ならば 1(1)にいう暴行・脅迫である。 7 暴行・脅迫が (1)被害者の反抗を抑圧する程度ではなく (2)被害者を畏怖させるに過ぎない ならば 3(1)にいう恐喝といえる。 8 (1)被害者が両手を後ろ手に縛られ (2)猿ぐつわをかけされ (3)椅子に右足首を縛られる ならば 被害者は反抗を抑圧されているといえる。 9 (1)被害者は被告人の元妻であり (2)離婚後も近くに住んでいて (3)孫を通じて往来もあり (4)十日前には被害者の懇願により金を貸していたという事情の下で (5)猿ぐつわをかけられた被害者はなお声を出すことができ (6)被害者は縛られていながら、 怪我をした被告人の治療の助言をし (7)被害者は縛られていながら、被告人の要求に十分に精神的余裕を保っ て、 主体的に応対している ならば (8) even if 8(1/2/3)にもかかわらず 被害者の反抗は抑圧されていない。 10 (1)当初は被害者の定期預金の解約に協力してもらう意思で (2)金がない旨を言われると、要求をあきらめ (3)被害者を縛ったのが、単に静かにさせるためだけであり (4)被害者を縛っている間に室内を物色したりしていない ならば 被告人に強取の意思はない(強盗の故意はない)。 11 (1)「借りていくよ」と声をかけ金を持ち出す被告人に対して (2)縛られるなどの暴行を受けた後なので (3)止めると何をされるか分からないと思い (4)困惑しながらしかたなく黙認した ならば 被害者は畏怖していたと評価できる。 コメント:この事件は事実認定がとにかく長いものです。 ルールらしいのは7までで、しかも、他の事件とほぼ同じ (というか、条文を書き換えただけ)です。8−10がどこまで 有用なルールかも正直なところ不明です。(他の事件でも同じ ことはいえますが)
No.124
強盗傷人
札幌地判平成4年10月30日・判例タイムズ817号215頁
札幌地裁平成4年(わ)第607号
概要: 被告人は、深夜一人歩きの女性をねらった、いわゆる「ひったくり」をしよう として、被害者T の背後から首に辺りに腕をまわして引きつけ、ショルダーバッ グの鎖部分を引っ張った。被告人は、両膝を地面に着き、大声を上げた被害者 を、付近の住民らに気付かれるのを恐れて、7、8メートルほど引きずるなどの 暴行を加えた。被告人は、被害者の強い抵抗にあい、被害者の両膝からの出血 に驚いたことから、金品を奪い取ることを断念した。その際、被告人はTに、 約2週間の治療を要する両膝部等挫傷の傷害を負わせた。 裁判官の論理: 1。 (1)被告人の暴行は、被害者の発声などを妨げるものではなく、全 体として短時間のものであり、 (2)道路を引きずる行為も、金品の奪取に向けられたものではなく、 (3)兇器を使用しておらず、殴打、足蹴り等の暴行もしていなく、 (4)被害者の負傷は抵抗能力・意欲に大きな影響を与えるものでは なく、 (5)「静かにしろ」と言ったのみで、金品の要求や、他の脅迫的な 発言をしておらず、 (6)犯行現場は、人通りがまったく途絶えている状態ではなく、 (7)被害者は、被告人の暴行によって、反抗が抑圧されていたと認 められる心理状態ではなく、 (8)被告人の犯意は、いわゆる「ひったくり」に相当する、 ならば、 (9)even if 被告人の暴行は、被害者の着衣のボタンやショルダー バッグの鎖の一部が取れるなど、かなり程度の強いものであっ た、 被害者の反抗を抑圧する程度の暴行ではない。 2。 (1)被害者の反抗を抑圧する程度のものであったとはいい得ない、 ならば、 (2)even if 被告人の暴行はかなり程度の強いものである、にもか かわらず、 強盗致傷罪ではない。 3。 (1)被告人は、被害者の反抗を抑圧するに足りない程度の暴行を加え、 (2)金品を奪い取ろうとしたができなかった、 (3)その際に、被害者に約2週間の治療を要する傷害を負わせた、 ならば、 恐喝未遂罪と傷害罪が成立する。 (4。 (1)弁護人の主張は独自の見解であり、 (2)前提が異なる、 のであるから、 妥当ではない。) 検察官の論理: 1。 (1)被告人が、被害者の着衣のボタンやショルダーバッグの鎖の一 部が取れるなど、かなり強い程度の暴行を行った、 ならば、 その暴行は、被害者の反抗を抑圧する程度のものである。 2。 (1)金品を奪うために被害者の反抗を抑圧する程度の暴行を行い、 (2)被害者を負傷させた、 ならば、 強盗致傷罪である。 弁護人の論理: 1。 (1)強盗致傷罪は、全体的に見ていわゆる残忍な行為によるものを 予定しており、 (2)本件では、被害者の傷害の程度は強盗致傷罪の構成要件の定型 性を満たしていない、 ならば、 本件では、強盗未遂罪と傷害罪が成立するのみである。
No.125
強盗傷人
札幌地判平成4年12月18日・判例タイムズ817号215頁
札幌地裁平成4年(わ)第818号
概要: 被告人は、昼過ぎに荷物の宅配を装って被害者M宅へ赴いた。 そこで、玄関内 の財物を奪おうとして、年輩の女性である被害者の口を背後から塞ぎ、風除室 から玄関内まで押し込む暴行を加えた。被告人も被害者とともに転倒した。し かし、被害者が大声を上げて抵抗し、家人の気配もあったために、金品を奪う ことなく逃走した。その際に、被告人は、被害者Mに、約3週間の治療を要する 右側頭部擦過傷などを負わせた。 裁判官の論理: 1。 (1)被害者を押し込んだ距離は短く、暴行自体も短時間であり、 (2)被害者の口を塞いだが、結果的には手を離してしまい、被害者 は大声を上げることができた、 (3)兇器を使用しておらず、殴打や足蹴りなどの攻撃的な暴行を加 えていない、 (4)犯行現場は住宅密集地で、昼間であり、家人もいた、 ならば、 (5)even if 若い屈強な男性が、年輩の小柄な女性に狭い空間で暴 行を加えて傷害を負わせたものであり、暴行の程度は 決して軽くない、にもかかわらず、 本件の暴行は、客観的に見て被害者の反抗を抑圧するに足りない程度である。 2。 (1)被告人は、玄関内に金品があると想定し、 (2)すきを見てそれを奪い取ろうと考えていた、 ならば、 被告人は、窃盗の犯意を有している。 (*さらに3。) 3。 (1)2。の如き窃盗の犯意を有し、 (2)玄関に入る過程でいわば障害物となる被害者を押し込んで金品 を奪おうと考えた、 ならば、 被告人は、恐喝の犯意を有している。 4。 (1)被害者の反抗を抑圧するに足りない程度の暴行を加えて、 (2)金品を奪い取ろうとしたが、奪えなかった、 (3)その際、被害者に約3週間の治療を要する傷害を負わせた、 ならば、 強盗致傷罪ではなく、恐喝未遂罪と傷害罪が成立する。 検察官の論理: 1。 (1)強盗罪の故意をもって、 (2)その手段である暴行の一部を開始したと、本件ではいえる、 ならば、 強盗罪の着手がある。 2。 (1)強盗罪に着手し、 (2)被害者を負傷させた、 ならば、 強盗致傷罪が成立する。
No.126
(東京高判昭和63年12月20日・横田基地スパイ事件控訴審)
1.(1)原則として米国政府機関以外へ配布されないよう取り扱われている 書類 ならば (2)even if 機密区分外のものでも,一般に入手可能とは認められず, 窃盗罪の対象となる。 2.(1) 1.の書類 ならば (2)even if 行為者が政府刊行物として一般に入手可能だと誤認してい ても,窃盗罪の対象となる。
No.127
東京地判昭和62年9月30日
概要:複写目的で百貨店の顧客名簿が入力された磁気テープを持ち出した。 1。顧客名簿の入力された磁気テープ ならば 財物に当たる。 (注.媒体と情報分離して考えず、合体した全体について判断していると思 われる)
No.128
財物
東京高裁 昭和60年12月4日 刑月17-12-1171 「新潟鉄工事件」
概要:被告人はコンピューターシステム関係の機密資料を社外に持ち出した。
1 (1)不法領得の意思を持って (2)業務上 (3)自己の占有する他人の物を横領した ならば 業務上横領罪である。 2 持ち出したものが (1)交換価値 or (2)経済的価値 or (3)主観的価値 を持つ ならば 持ち出したものは財物であると評価することができる。 3 持ち出したものが 2(1/2/3) のいずれの価値も持たない ならば 持ち出したものは財物ではない。 4* 持ち出した資料が (1)多大な費用と長い期間をかけて開発された機密資料である ならば (2) even if 資料そのものは単なる紙 としても (内容に)経済的価値がある。 5* 被告人が資料の持ち出しが許されていた ならば 持ち出しは横領ではない。 6* (1)資料が内容的に秘密文書であり (2)就業規則に守秘義務が定められている ならば (3) even if 外形的に「秘」印が押されていない としても 資料の持ち出しは許されていない。 7 被告人が資料の複写権を持っている ならば 資料の持ち出しは正当な権限の行使である。 8* 被告人に著作権がある ならば 被告人に複写権がある。 (著作権法21条) 9 (1)従業員が作成した資料は (2)法人が資料を自己の著作の名義の下に公表する ならば 法人が著作権者である。 11 (1)従業員が作成した資料は (2)法人が資料を自己の著作の名義の下に公表する予定がある ならば 法人が著作権者である。 12 資料が秘密文書 ならば 資料は公表を予定されていない。 ゆえに、 法人には著作権がない(著作権法15条についての中山証言)。 13 (1)資料は公表を予定されておらず (2)仮に公表されるならば法人の名義で公表されると考えられる ならば (3) even if 11の証言・解釈にかかわらず 従業員の作成した資料の著作権は法人にある。 14 資料を企業防衛のために秘密にする ならば 13(1/2)が法人の意思であると評価できる。 15* (1)権利者を排除して (2)他人の物を自分の物として (3)その物の経済的用法に従い (4)自分または第三者のために利用または処分する意思がある ならば 不法領得の意思をもっている。 16* (1)他人の物を一時的に(コピーのために)持ち出した ならば (2) even if 使用後返還する意思がある としても 不法領得の意思がある コメント:本事件は「財物」で分類されていますが、前田教授、 大谷(実)教授の刑法各論の教科書では、いずれも不法領得の 意思で取り上げられています。ただ、仮にそうだとしても、 高裁判決の内容は事実認定と著作権法の議論に終始しています。 そこで、このルール化に当たっては、一審判決である「東京地裁 昭和60年2月13日・刑事月報17-1=2-22」も参照しました。 ルールの各番号に'*'がついているものは、お手許の高裁判決に はないものです。
No.129
財物
東京高裁昭和60年10月14日判決・東高刑報36巻10=11=12号80頁
昭和60年(う)997号
概要: 被告人は、窃盗の目的をもって早朝ホテル内に侵入し、1階フロントを物色す るも金品の窃取を行うことができず、次いで上がった2階食堂に隣接する厨房 において、目刺し2匹、 豆腐1丁のうちの3分の2および米飯2掴み位(金額 にして160円相当)を盗み食いした。 裁判官の論理: 1。 (1)ある物の効用、その保管の態様に照らして、 (2)刑法上の保護に値し、 (3)管理または所有の対象になる、 ならば、 「財物」にあたる。 2。 (1)軽微な違法行為であり、 (2)犯人に危険性があると認められる特殊の状況がなく、 (3)刑法上の保護に値する法益の侵害がない、 ならば、 犯罪でない。 3。 (1)同一機会の他の窃盗の未遂行為から被告人の危険性が窺え、 (2)窃盗行為が刑法上の保護に値する個人の財物に対する権利の侵 害である、 ならば、 窃盗罪となる。 被告の論理: 1。 (1)窃取した物は160円相当である、 ならば、 財物でない。 2。 (1)財物にあたらない物を窃取した、 ならば、 窃盗罪でない。
No.130
財物
東京高判昭和54年3月29日・東高刑時報30巻3号55頁、判例時報977号136頁
東京高裁昭和54年(う)111号
概要: 被告人は、和泉が掲げていた手提袋から、パンフレット2通在中の封筒を、中 に金員が入っていると思って抜き取った。パンフレットのうち1通は、広告文 言を記載した1枚の紙片、もう1通は、洋装品類を広告するカラー印刷の部分 もある、変型A4番4枚綴りのものである。これらは近くの店舗に、「自由に お持ち下さい」と掲示して多量に置いてあったものである。 裁判官の論理: 1。 (1)本件封筒およびパンフレットは、近くの店舗内で「自由にお持 ち下さい」と掲示して多量に置いてあったものであり、 (2)和泉がそれを自分の手提袋に入れていた、 ならば、 これらは和泉の所有に属し、無主物とはいえない。 2。 (1)これらは広告用パンフレット類であり、 (2)本件の店舗に行けば誰でも自由に入手でき、 (3)和泉もさほど価値を認めておらず、本件後帰宅して瞥見しただ けで捨ててしまった、 ならば、 これらは、客観的にも主観的にもその価値が微少であるといえる。 3。 (1)客観的にも主観的にも価値が微少である、 ならば、 それは、窃盗罪の客体である財物として保護するに値しない。
No.131
(札幌簡判昭和51年12月6日)
1.(1)はずれ馬券は, (2)レースの終了後 ならば (3) even if 行為者が有効なものと誤認していたとしても, 財物とはならない。
No.132
最一小判昭和26年3月15日
概要:畑の中のじゃがいもを二回に渡り10貫位盗んだ。 1。 (1)国民が食糧難に苦しんだ昭和22年当時の (2)五貫目、十貫目のジャガイモ ならば 財物に当たる。
No.133
財物
大阪高裁 昭和43年3月4日 下刑10-3-225
概要: 被告人は、被害者のズボンのポケットから、金品を窃取しようとして、メモ1 枚をすり取った。 1 (1)不法領得の意思をもって (2)財物を窃取した ならば 窃盗罪である。 2 すり取ったものが (1)交換価値 or (2)経済的価値 or (3)主観的価値 を持つ ならば すり取ったものは財物であると評価することができる。 3 すり取ったものが 2(1/2/3) のいずれの価値も持たない ならば すり取ったものは財物ではない。 4 (2の例外) (1)すり取ったものが (2)その価値が極めて僅少で、いうに足りない物 ならば (1) even if 2(1/2/3) の いずれかの価値を持っていても ならば 2のルールにもかかわらず、財物とは言えない。 5 すり取った物が (1)21センチ×27センチ(A4大)の紙片で (2)特急の発着時間と英文の覚え書きらしき物6行が記載されているに過 ぎない ならば すり取った物は、交換価値・経済的価値のいずれも持たないと言える。 6 被害者が (1)すり取られた物の差し押さえを了承し、 (2)すり取られた物の還付を望む意思を表示しなかった ならば (1)すり取られた物は、被害者にとって主観的価値がない または (2)すり取られた物は、 被害者にとって主観的価値が極めて僅少でいうに 足りない物 といえる。 7 (1)不法領得の意思をもって (2)財物を窃取しようとし (3)財物を窃取しなかった ならば 窃盗未遂罪である。 8 財物でない物を窃取した ならば 財物を窃取しようとしたという根拠となりうる。
No.134
不作為と殺人
東京地裁八王子支判昭和57年12月22日・判例タイムズ494号142頁
東京地裁八王子支部昭和56年(わ)第1229号、第1336号。
概要: 被告人佐藤らは、六田に3日間にわたり頭部、 肩部、腕部、腰部などを殴打す るなどの暴行を加えた。六田は意識が判然としなくなるなどの重篤な状態となっ た。被告人らは傷害の事実が発覚するのをおそれ、直ちに医師による治療を受 けさせなければ六田が死亡するかも知れないことを認識ながら、自宅に就床さ せたまま放置し、死亡させた。 裁判官の論理: 1. (1)自己の行為により六田を死亡させる切迫した危険を生じさせ、 (2)受傷した六田の救助を引き受け、支配領域内に置いており、 (3)医師による適切な医療行為が必要であることを認識し、 (4)六田の死亡を予見しており、 (5)医師による治療を受けさせることが格別困難でない、 ならば、 先行行為による創傷の悪化を防ぎ、生命を維持するため、医師による 治療を受けさせるべき法的作為義務がある。 2. (1)医師による治療を受けさせていない、 ならば、 (2)even if 六田に飲食物の供与、薬の投与などの行為をした、に もかかわらず、 被告人らは法的作為義務を果たしていない。 3. (1)法的作為義務を果たしておらず、 (2)六田の受傷以後、彼女を支配内に置いている、 ならば、 適切な医療措置を講じない不作為は、不作為による殺人の実行行為と 評価できる。 弁護人の論理: 1。 (1)加害行為による創傷から死の結果を予見し得ない、 ならば、 加害行為は、作為義務を発生させる先行行為に該たらない。 2。 (1)先行行為が存在せず(1。)、 (2)被告人らが六田の救助を「引き受け」た事実はなく、 (3)六田を隔離して第三者による救助を不能にする行為をしておらず、 (4)「支配領域」内に置いた事実がない、 ならば、 六田に対する法的作為義務はない。 3。 (1)不作為が作為と同価値である、 つまり、 (2)生命維持に必要な行為を積極的に放棄・阻止している、 ならば、 不真正不作為犯が成立する。 4。 (1)被告人らが飲食物の供与、薬の投与などをしている、 ならば、 殺人罪の実行行為と同価値の不作為には該当しない。
No.135
不作為と殺人前橋
地裁高崎支部昭和46年9月17日判決・判例時報646号105頁昭和46(わ)2035号
概要: 被告人清水幾夫は、小児麻痺のため歩行不能な69歳という高齢にある被害者横 尾恒雄をだまして連れ出し、被告人依田吉雄の運転する車に同乗させ、一部に 積雪があり、片側が山、もう片側が崖で下方に谷川がある人家から離れた人気 のない山中に被害者を運んだうえ、被害者を同所に放置したまま立ち去った。 被告人依田吉雄は、情を知らずして清水の求めに従い清水を同乗させ車を自ら 運転して被害者を同所まで運び、同所において清水から情を打ち明けられるや 不承不承これを承諾したうえ、被害者を同所に放置したまま清水を車に同乗さ せ同所を立ち去った。 裁判官の論理: 1 (1)老齢にして下半身不随、歩行不能の身体障害者が、 (2)片側が山、片側が崖で下方に谷川があり、一部に積雪もある人 家から離れた人気のない山中に、厳寒期の深夜に放置された、 ならば、 生命に切迫した危険のある場所に現在している。 2 (1)生命に切迫する危険のある場所に現在している被害者を放置し たときは、 (2)当該場所における被害者の生命の危険を除去しないし被害者を 安全な場所まで連れ帰ることをしなかったと評価される、 ならば、 放置行為は不作為の行為である。 3 (1)被害者を欺罔してその住居から連れ出し、 (2)被害者を犯人自ら被害者の生命に切迫した危険のある場所へ連 れてきたときは、 (3)犯人自らの先行行為によって被害者の生命の危険を生じさせた と評価される、 ならば 作為義務がある。 4 (1)作為義務があり、 (2)その作為義務を行うことが可能であり、 (3)不作為の行為が作為によって人を殺す行為またはその未遂行為 と同価値と評価される、 ならば、 不作為の殺人の実行行為となる。 5 (1)殺人の実行行為が行われたが、 (2)被害者を殺害するに至らなかった、 ならば、 殺人未遂となる。 6 (1)自ら連れ出した被害者のいる生命に危険のある場所から立ち去 る行為は、 (2)被告人の生命侵害をもたらすものではないと評価される、 ならば、 殺人の実行行為とならない。 7 (1)被害者を放置した場所がその生命の危険のある場所であること 認識しながら、 (2)共犯者の翻意の説得を無視し、 (3)被害者をその場所に放置したときは、 (4)犯人は被害者の死亡の結果を予見しかつこれを認容したと評価 される、 ならば、 未必的な殺人の故意はある。 8 (1)他の犯人から被害者をその生命に危険のある場所に放置すると いう意図を明かされず、 (2)その場所において初めてその意図を打ち明けられた、 ならば、 作為義務はない。 9 (1)作為義務がない、 ならば、 殺人未遂の正犯とならない。 10 (1)正犯者の不作為による殺人の実行行為を容易にし、 (2)その作為義務を果たすことを困難にする、 ならば、 殺人未遂の実行行為を幇助する行為と評価される。 11 (1)正犯の実行行為の認識とその認容があり、 (2)正犯を幇助する行為を行う意思がある、 ならば、 幇助犯としての故意がある。
No.136
(福岡地久留米支判昭和46年3月4日)
1.(1)便所に嬰児を産み落とし, (2)救助せねば死に至る事を認識し, (3)かつ容易に救助できた時に, (4)殺意を生じ, (5)嬰児を放置する行為 ならば 殺人罪にあたる。 <.pre>
No.137
東京高判昭和46年3月4日
概要: 自動車を運転し、前方不注意で歩行者に衝突して重傷を負わせ、その被害者を 自車に乗せて、事故現場から離れたところに運び、被害者が死んでしまうかも しれないと認識したが、衝突事故の発覚を免れるため、その場に降ろして放置 した。 1。(1)作為義務に違反し (2)不作為により (3)人を殺した ならば 殺人罪となる。 2。(1)過失により (2)自動車で被害者に重傷を負わせ (3)自車に乗せた後 (4)車から降ろして放置した ならば 作為義務違反である。 3。(1)被害者が死んでも構わないと認識しつつ (2)救護しない ならば 不作為である。
No.138
不作為と殺人
aaa 浦和地判 昭和45年10月22日 刑月2-10-1107
概要: 自動車の操縦中過失により通行人に重傷を負わせた運転者が、被害者を病院に 運ぶ途中、発覚を免れようと決意し、たやすく人に発見されにくい農地に遺棄 した。 1 (1)殺意をもって (2)人を殺した ならば 殺人罪である。 2 殺意は、未必の故意でもよい。 3 人を殺す行為は、不作為でもよい。 4 (1)被害者に対し救護義務があり (2)その被害者が、 傷害の程度、遺棄された時間的、場所的状況などから 放置しておけば死亡する高度の蓋然性が認められ (3)未必の故意をもって (4)被害者を5(2)のような場所に放置した ならば 不作為の殺人が成立する。 5 (1)5を満たし (2)被害者が救護された(死亡しなかった) ならば 殺人未遂罪が成立する。 6 自ら交通事故を起こした ならば 被害者に対して救護義務がある。 7 (1)被害者が意識不明を伴う (入院加療約6カ月を要した、大腿骨複雑骨 折の)重傷で (2)放置した当時、深夜で寒気が厳しかった (3)本道からそれて(事故現場から約2900メートル離れた)、 たやすく人 に発見されにくい、暗い農道わきの陸田に放置して置き去りにした ならば 死亡する高度の蓋然性が認められる。 8 被告人が (1)事故直後は、被害者が重傷を負っているものと考えて、 す ぐに病院に運んで救護しなければ危険であると考え (2)被害者を直ちに救護しても死亡するとまでは考えておらず (3)一度は事故の車に乗せ、病院へ運び、救護しようとして (4)その後、事故の発覚を恐れ (5)被害者を放置すれば、 死亡してしまうかもしれないしれな いと考え(7の認識) (6)被害者が死んでもやむを得ないと考え (7)8のように被害者を放置した ならば 未必の故意がある。
No.139
盛岡地裁昭和44年4月16日刑月134
業務上過失傷害、殺人、死体遺棄、窃盗、証拠湮滅被告事件
刑199.刑211、235、254
概要: 被告人は酒酔運転で交通事故により被害者Yに瀕死の重傷を与えた。犯行の発 覚をおそれYを自車に乗せたが、搬送の途中Yは死亡した。また、被告人は死 亡したYを崖下に投げ捨て、死体を遺棄した。さらに、Yの死亡後、Yの自動 車免許及び現金を着服、費消した。そのうえ、刑事事件の証拠となる自動車助 手席に付着した血液を洗滌し、自動車免許証および免許書入れを焼燬し、証憑 湮滅した。 裁判官の論理: 1。(1)行為者に結果発生を防止すべき法律上の作為義務があり、 (2)結果発生を防止することが可能であるのに、その防止のため相当な 行為をなさなかったことによって、ある作為犯の構成要件が実現さ れた場合 ならば、 不真正不作為犯が成立する。 2。Yの傷害の程度から判断すると、 (1)被告人が事故後直ちに最寄りの病院に搬送して救護措置を受けたと しても、死の結果を回避することができたとは認めがたい、 ならば、 殺人の因果関係を認定することができない 3。(1)被告人が被害者を直ちに最寄りの病院に搬送すれば救護可能である と考えていたとは認めがたい ならば、 殺人の故意を認定することはできない 4。(1)死亡後既に相当の時間を経過し、あるいは死亡場所と全く別の場所 で、 (2)まったく別個の機会に財物を奪取した(例外の例外)、 ならば、 (3)even if 財物奪取者が被害者の死亡に対し責任を有する場合である (例外)、 にもかかわらず、 もはや死者の占有を犯したものとは言えない。 (本来、死者の占有は認められないのが原則) 検察官の論理: 1。(1) 交通事故で被害者Yに重傷を負わせた、 ならば、 被告人はYを保護すべき責任があった、 2。(1)犯行の発覚を免れるため (2)救護を断念して逃走を企て、 (3)同人を救護しなければ同人が死亡するかもしれないことを認識しな がらこれもやむをえないと決意し、 (4)自動車助手席に同乗させてなんら救護措置をとらずに走行し、 (5)同車内で死亡させた、 ならば、 不作為による殺人罪となる。 3。(1)被告人が被害者Yを死亡させた責任者である、 (2)被告人がYの死亡後間もなく財物を奪取した、 ならば、 死者の占有を犯したものとして窃盗罪が成立する。
No.140
名古屋地裁岡崎支部昭和43年5月30日下刑1080
殺人被告事件
刑199
概要: 被告人は、妻に逃げ出され、自暴自棄になり、乳児である長男に飲食物を与え なければ死亡するに至ることを知りながらもしこのまま妻が帰宅せず他に救助 する者もなければ、長男が餓死する結果となってもやむを得ないと考え、放置 し、急性飢餓死せしめた。 裁判官の論理: 1。(1)被告人は、他に介護者のいない乳児である長男に飲食物を与えなけ れば死亡するに至ることを知り、 (2)他に救助する者がない、ならば、長男が餓死する結果となってもや むを得ないと考え、 (3)放置し、 (4)急性飢餓死せしめた、 ならば、 殺人罪に該当する。
No.141
(岐阜地大垣支判昭和42年10月3日)
1.放置して現場を離脱する不作為(「ひき逃げ」)自体は,通常殺意を推定 させる事実ではない。 2.(1)通常転落しても死にいたるような事のないような川に於いて, (2)行為者がその川の事情を知り, (3)川に転落した被害者を見ておらず, (4)恐怖心に駆られて逃走し, (5)被害者は死にいたらない程度の傷害を受けた ならば 被害者が死亡する可能性は高いとはいえず, 行為者がその認識をしていたとは認められない。