| 本報告書は、昭和54年度から2ヵ年の予定で開始された、第5世代コンピュータについての調査研究のうち、第5世代コンピュータの研究開発内容の提案書であり、各分科会による検討成果を、目標とするコンピュータ・システムおよび研究開発プロジェクトの全体像としてまとめたものです。
【項目】
- 概要
- 第5世代コンピュータ・プロジェクトの背景と意義
- 波及効果
- 研究開発内容
- 付録 主要用語解説
【概要】
●「1. 概要」では、
「1.1 背景と意義」において、まず、「(1) 社会的要請」として、1990年代に情報処理システムに期待される役割として、
- 低生産性分野の生産性向上
- 国際競争力の確保と国際的貢献
- 省エネルギー、省資源問題の解決への援助
- 高齢化社会への移行
が挙げられています。次に、「(2) 技術面からの背景」では、従来のコンピュータが近年直面している問題と、ここ数年の新しい技術の萌芽を説明し、今後10年余の間にコンピュータ技術に大きな飛躍をもたらす、新しい情報処理システムが出現することは、きわめて必然的な要求であることを説明しています。そして、「(3) プロジェクトの意義」で、第5世代コンピュータ研究開発プロジェクトの意義とその効果を
- このプロジェクトを通して、コンピュータ技術の開発面で我が国が世界で先導的な役割を果たすことが期待される。
- 1990年代の社会を豊かなものにする上に大きな波及効果がある。
- 未踏分野の開拓を通じて人類社会の進歩へ積極的に貢献すること。
- 先導的研究開発体制の実験
のようにまとめています。
「1.2 機能に対する要求」においては、1990年代の社会的ニーズに応え得るために、第5世代コンピュータには、以下の機能が求められると説明しています。
- マシンのインテリジェンスを向上し、人間のよきアシスタントとなり得る使い易いコンピュータ
- 音声、図形、画像、文書などによる入力機能
- 自然言語による会話型処理能力
- 知識を蓄積し、それを活用する能力
- 学習・連想・推論機能
- ソフトウェア作成負荷の軽減
- 要求仕様記述による処理の自動化
- プログラムの検証を可能とする言語の実現と適合するアーキテクチャ
- プログラミング環境の改善と知的インタフェースの実現
- 既存ソフトウェア資産の活用
- 社会的ニーズに対応する総合的機能・性能の向上
- コスト・パフォーマンスの向上
- 軽量コンパクトなコンピュータ
- 新しいアプリケーションに対処しうる高速・大容量なコンピュータ
- 多様化と適応性の向上
- 高信頼性機能
- 高度な機密保護機能
「1.3 目標とイメージ」においては、
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第5世代コンピュータ・システムは、従来のコンピュータの技術的制約を克服し、1990年代に要求されるであろう高度な機能に対応し得る革新的な理論と技術に基づく知識情報処理指向のコンピュータである。
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と述べ、
- 1.3.1 基本概念
- 1.3.2 ソフトウェア・システムの構成要素
- 1.3.3 ハードウェア・システムの構成イメージ
を図を用いて、分かり易く説明しています。
「1.4 研究課題」では、研究開発のすすめ方の概念図と、7グループ26課題からなる第5世代コンピュータ・システムの研究開発課題が表に示されています。
●「2. 第5世代コンピュータ・プロジェクトの背景と意義」では、
「2.1 社会的要請」において、
前述の「1. 概要 1.1 背景と意義 (1) 社会的要請」をもっと詳しく説明しています。
次に、「2.2 現在のコンピュータ・システムの問題点」として、近年のコンピュータ技術の特色を挙げ、それに対して、コンピュータをとりまく周辺技術の進歩やユーザ要求の変化に対応して、
- 非数値データの処理と、それらを実現する新しいアーキテクチャ。
- 並列処理による、高速化。
- 分散処理システムの実現。
- 新しい応用に対応した、アーキテクチャの多様化。
が新しいコンピュータには必要であることを述べ、
「2.3 技術基盤の熟成と新技術に対する期待」では、
1990年代のコンピュータに導入すべき主要なシーズ技術として、
- VLSI技術
- 高速素子技術
- 通信技術との融合
- 並列処理技術
- ソフトウェア技術
- 人工知能技術・パターン認識技術
を説明し、2節を用いて、前述の「1. 概要 1.1 背景と意義 (2) 技術面からの背景」をもっと詳しく解説しています。
「2.4 第5世代コンピュータ・プロジェクトの目的と意義」では、
まず、1990年代に生じると予想されている社会的ボトルネックを解消することに役立ち、現在のコンピュータでは満たすことのできない基本的な機能を総括して、第5世代コンピュータに要求される機能を以下の4つに要約しています。
- コンピュータの知能レベルを高め、人間の良き協力者としての親和性を高めること。
- 人間の代替をする能力や人間にとって未知の分野を開拓する場合の支援能力を持つこと。
- 各種の形態の情報が必要に応じて簡単に即時に入手できること。
- 未知の状況をシュミレートすることにより新しい知見を得ること。
次に、少し立場をかえ、ユーザに近い立場からより具体的に第5世代コンピュータに求められる機能を5つ列挙し、説明しています。
- 専門知識がなくても利用できる使い易い機能
- 判断・意思決定が可能な人間の代替としての機能
- 多様な業務に適用できる柔軟な構成を可能にする機能
- プログラミングを容易にする機能
- 信頼して便利に使うことのできるシステム機能
これらによって、前述の「1. 概要 1.1 背景と意義 (3) プロジェクトの意義」を補足しています。
●「3. 波及効果」では、
「3.1 波及効果の諸局面」において、
第5世代コンピュータが実現したとき、それがどのようなインパクトを社会の機能なりシステムに与えるか、その波及効果についての予見は必要であるとし、以下の点に関し、考察しています。
- 低生産性分野と高生産性分野との格差からくる社会的歪みの解消
- 人間の能力の拡大
- 個人へのコンパクト
- 新しい社会
「3.2 応用分野別波及効果」においては、
1990年代にかけて急速なシステム化が図られ、コンピュータ・システムの効果が顕著に現われると思われる、以下の主な分野における、第5世代コンピュータの波及効果について述べています。
- OAの波及効果
- DSSの波及効果
- CAEの波及効果
- 知能ロボットの波及効果
●「4. 研究開発内容」では、
「4.1 研究開発目標」においては、以下の3つの基本機能と目標性能を挙げています。
- 問題解決・推論機能
- 知識ベース管理機能
- 知的インタフェース機能
また、第5世代コンピュータ・システムの基本応用システムである、機械翻訳システム、質問応答システム、音声応用システム、図形・画像応用システムの目標性能も表にまとめられています。
「4.2 第5世代コンピュータ・システムのイメージ」においては、
おおよそのイメージを与えるために、第5世代コンピュータ・システムを異なった2つの視点から眺めています。第1の視点は、人間系−モデル系−機械系と進む階層構造に沿った概念的な見方で、第2の視点は、より具体的な”もの”としてとらえる見方です。この2つの視点と図を用いて、以下の構成で第5世代コンピュータ・システムのイメージを分かり易く説明しています。
- 4.2.1 第5世代コンピュータ・システムの概念的イメージ
- 4.2.2 応用システムの構成イメージ
- 4.2.3 ソフトウェア・システムの構成イメージ
- 4.2.4 ハードウェア・システムの構成イメージ
「4.3 研究開発課題」では、
第5世代コンピュータシステムの実現のために必要な7グループ26課題を表に示し、その概要を別表に、「研究開発内容」、「目標・仕様」、「備考」の項目を用いてまとめています。また、研究開発のすすめ方の概念図も示されています。
「4.4 研究開発の進め方」においては、
まず、第5世代コンピュータ・プロジェクトの7つの課題グループを、有機的に関連づけて進めることが必要であると述べ、「4.4.1 課題グループ間の関連」で、各課題グループ間の関連づけと歩調合わせの原則を列挙しています。
そして、以下の構成で、研究開発の流れを図を用いて説明しています。
- 4.4.2 基礎ソフトウェアとアーキテクチャ関連課題の研究開発の進め方
- 4.4.3 基本応用システム関連課題の研究開発の進め方
- 4.4.4 システム化技術と開発支援システム関連課題の研究開発の進め方
「4.5 研究開発スケジュール」においては、前述の「4.4 研究開発の進め方」に沿ったスケジュールを1ページの表に示すとともに、第5世代コンピュータ・プロジェクトの前期(初年度〜3年度)、中期(4〜7年度)、後期(8〜最終年度)ごとの課題グループ毎の詳細な開発ステップも説明しています。
●「付録 主要用語解説」では、本報告書で使用されている用語の中で、主要なもの87について、概略の説明が加えられています。
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