第1章 まえがき

 

 本報告書は、昨年に引き続いて先端情報技術研究所(AITEC)内に設置された「ペタフロップスマシン技術調査ワーキンググループ(WG)」での委員の方々による議論を基に、各委員の「ペタフロップスマシン」に向けた技術開発に関する意見をまとめたものである。本WGは、具体的な調査を行うために、国立研究所、大学、メーカ等の若手研究者、11 名から構成されている。委員の方々は、アーキテクチャ、ソフトウェア、アプリケーションの各分野において実際に研究や開発に携わっている多忙な方々であるが、時間を割いて議論に参加していただいた。WG内での議論や本報告書の記述においては、各委員の専門的な分野はもちろんのことであるが、そのような専門にとらわれずに、より幅広く活発な議論や意見を提出していただいた。また、AITECを中心に、今年度は米国における技術開発の政策に関して調査を行ったので、その調査結果も本報告書に掲載してある。

 昨年度の調査においては、ペタフロップス規模のスーパーコンピュータの開発を目標として仮定した場合の、問題点や疑問点などを洗い出すことを目的とした。これに対して、今年度のWGの目標としては、ぺタフロップスを念頭におきながらも、近未来、5年ないし7年後くらいを視野に入れた議論を行うこととした。そのなかで、「今あるものの次にくるべきものは何か、または、何がきてほしいか」についての議論を行い、これをベースに報告書をまとめることとした。その理由としては、ぺタフロップスはだいぶ先の目標であるのでターゲットが見えにくいという点と、ペタフロップスという遠いターゲットを見ながら、現時点における日本の競争力、技術力を正しく把握するとともに、それを高める方向を示すことの方が現時点での日本の情報処理産業にとってより重要であり、またその方が結局はペタフロップスに向かう近道であると考えたからである。したがって、今年度は、現時点での、あるいは少し先の技術は何かを調査し、これからの国としての技術開発の戦略をどのような方向で行うべきかに関する1つの指針を打ち出す方向での議論を中心にした。

 本WGは、平成9年10月から平成10年2月まで、月1回のペースで合計5回行われた。このWGにおいては、まず、第1、2回目の会合において、各委員から、「5年〜7年後の技術をにらんで、今何をなすべきか」というテーマで、問題提起をしてもらい、問題点の把握における認識の違いを明らかにした。それ以降は、各委員の方から、専門分野における技術のロードマップを提示していただき、それに基づいて、何をなすべきかについて議論を行った。それらの結果が、本報告書に反映されていると期待している。

 本報告書は、本WGで行われた討論をふまえて、5年後の技術を見据えた各委員の見解をまとめたものである。記述にあたっては、昨年度と同様に、各委員の信じる技術論・方法論に関する積極的記述を書いていただくように要請した。そのために、各報告にはそれを報告した各委員の記名を行うこととした。また、記述にあたっては特につぎのような点を重視してもらうように要請した。

(1) 中期的(5〜7年)技術課題の抽出

(2) 開発状況の把握

「今走っている、もしくは計画されている研究プログラムは、アプリケーションを
意識した研究となっているか(できれば具体例をあげる)」

(3)政府支援のありかた

「どのような支援が望ましいか(環境、制度、他)」

(4) 日米比較

 

 なお、各委員の信じる独自の意見だけを示されても、根拠のない意見とみなされた場合には、説得力に欠ける。そこで、各委員からの独自の見解の他に、いくつかの技術についてはそのロードマップをまとめることとした。具体的には、ハードウェアやデバイス関係のロードマップとしてシングルチップマイクロプロセッサのロードマップ、並列システムの潮流やシステムソフト関係の動向を判断するためのロードマップとしてクラスタコンピュータのロードマップを、並列プログラム言語関係のロードマップとしてHPF(High Performance Fortran)に関するものを、それぞれ記述してもらった。また、アプリケーションのロードマップにも挑戦してもらったが、これを一般的に示すことは難しいので、アプリケ−ションを構成する色々な軸をあげ,各軸での方向性を示してもらった。このようなロードマップ自体も、デバイス系を除けばかなり個人的な見解に左右される面も多々あると考えられるが、一般的な技術の傾向を把握し、各委員の見解を補足したり、あるいは、逆の意味で対立点が明確になるなどの効果が期待されると思っている。

 また、実際に大規模なアプリケーションに関する将来動向を探るために、本WGでの講師として東京大学気候システム研究センターの木本昌秀助教授を招いて気象シミュレーションに関する話をしていただいた。この講演内容についても本報告書の資料として掲載してあるので参考にしていただきたい。

 

(山口喜教主査)