付属資料1
米国における情報技術企業のM&A戦略

はじめに【もどる】

 米国の情報技術産業では、リーディング企業がその競合優位を保つための手段としてM&A戦略を取るケースが増加している。本プロジェクトは、米国のリーディング情報技術企業のM&A戦略を調査し、日本の情報技術産業への提言を見出すことを目的としている。

 データ上でも、技術関連の株式未公開企業の内、大企業に買収されるものと新規株式公開するものとの比率は、1996年には4対1であったのが、1997年には8対1になっている。

 この背景として、小さなスタート・アップ企業が今迄に比べてより厳しい競争にさらされており、また新規株式公開も難しくなっていることが挙げられる。リーディング企業においても、統合したソリューションを顧客に提供するために新しい技術をすぐに必要としている。

 

第1章 各企業のM&A戦略【もどる】

 本プロジェクトでは、米国のリーディング情報技術企業の内、Cisco, IBM, Intel, Microsoft, Sunの5社に注目して、そのM&A戦略を調査した。

1.1 Cisco

1993年にCiscoの経営陣は、ネットワーク事業での新規市場マトリックスを作成し、そのマトリックス上でリーダーとなるべき市場セグメントを特定した。そして自社内の開発リソースだけでは半年以内にその市場セグメントでリーダーになれないと判断した場合には、トップの技術を持つベンチャー企業の買収を選択した。これがCiscoの買収による急成長の始まりで、1997年12月迄に20企業を買収している。

Ciscoの事業領域はOne-stop-shop戦略を実現することで、1993年にはRouterだけであったものから、現在ではLAN, WAN, Internet, Network Management, Internetwork Operating Systemへと、ネットワーク事業の広域をカバーしている。

Ciscoの事業領域

 

 リーダーになると決めたこれらの市場セグメントで、参入し優位となる為に進んだ技術をもった企業を買収している。事業戦略とM&A戦略は完全に直結している。

Ciscoの買収企業

 

 CiscoがM&A戦略を選択したのは、新規市場のリーダーとなるには製品の市場導入を急ぐ必要があったこと、また広い技術、製品全てを自社ではまかなえなかったことが理由にある。新しい技術、製品、人材を獲得するために、Ciscoの高い株価をうまく利用し、ストック交換で買収していった。買収が成功することにより益々株価が高くなり、次の買収への条件が整っていった。

 

1.2 IBM

 IBMの事業戦略は、技術、製品、サービスの広さと深さを武器として顧客にトータル・ソリューションを提供することである。そのためにはコンサルティングからメンテナンスまでのバリューチェーンの全てにおいて、技術、製品、サービスのトップクラスのものを保有している必要がある。内部資源で欠けているものは買収、提携によって補完している。特にその戦略領域においては買収を選択しているが、提携についても積極的に実施している。戦略領域とは、Network Management and Integration, E-commerce, Consulting, Network Service, Group-ware等である。

 

 これらの買収が可能になっているのは、営業収入から来る十分なキャッシュフローがあるからである。Ciscoのケースと異なりIBMはキャッシュで買収している。1996年には$9.1 billionものキャッシュがあった。

1.3 Intel

 インテルは1990年代初めにMPUの需要の伸びが小さくなったのをきっかけに、より高性能なMPUの必要性を加速するようなエコシステムの構築を目指し始めた。多くの日米の情報技術関連企業がIntelをパートナーと考えている。

 

 インテルのエコシステムは、PC産業の全域に及んでいる。

Ecosystem Activities

 

 インテルはMPU以外にネットワーク製品も次のコア・ビジネスにしようとしている。そのために、買収の対象は、Networking, MPU, MPUの周辺にフォーカスされている。ただし、買収だけでなく投資、提携も積極的に行っている。

Intel Activities

 

1.4 Microsoft

 マイクロソフトは、インターネット市場の拡大についてミスジャッジしたが、1996年にビル・ゲイツが全てのソフトウェアにインターネット技術を組み込むように指示を出した後から、インターネット関連の買収攻勢が始まった。買収戦略は完全に事業戦略と一体となっている。1996年には買収9件の内7件、1997年には7件中7件全てがインターネット関連企業である。

 

 マイクロソフトはそのデベロッパー、情報技術業界のネットワーク、及びWindowsの影響力を生かすことにより、ベンチャー企業の早期発見と獲得を可能にしている。

1.5 Sun

Sunの事業戦略の柱は、JAVAをネットワーク・コンピューティングのプラットフォームにするということと、現在のコア・コンピテンスであるサーバー、ワークステーションを更に強化することの2つである。M&Aの対象となった企業はこの2つの柱に関する技術、製品を持つ企業である。1997年にはJAVA関連の企業買収が7件中6件となっている。

 

第2章 M&A戦略のまとめ【もどる】

 米国のリーディング情報技術企業の調査から、各企業の事業戦略とM&A戦略は完全に一体となっていることがわかった。ここではM&Aの促進条件、阻害要因、動機について整理する。

2.1 促進条件

 買収側と被買収側に影響している促進条件は以下のようになる。

 情報技産業、市場のトレンドまたレギュレーションで重要なものは以下のようになる。 レギュレーションとして情報技術産業が認識しているものは、基本的にAntitrust Lawだけである。

 

2.2 阻害要因

 一方、M&A実行に際しての阻害要因も多く存在するが、米国のリーディング情報技術企業はこれらを解決する方法を生み出し、M&Aを成功に結び付けている。

 

2.3 動機

 M&Aの動機は個々のケースによって異なるが主要なものとしては以下が考えられる。

 この中でも買収側にとっては、技術、製品、人材の獲得が主要な目的であり、被買収側にとっては、金と成長するためのマーケティング/ディストリビューション力の獲得が主要な目的である。

2.4 New Technology Management

 早い製品ライフサイクル、厳しい競合環境、変化の激しい市場環境によって米国の情報技術産業では、技術マネジメントの方法も大きく変わってきた。今迄は社内R&Dを中心としたものであったが、今ではベンチャー企業の買収も一種のExternal R&Dのように考えられている。

 

第3章 M&Aのプロセス【もどる】

3.1 Cisco Process

 米国の技術企業が積極的にベンチャー企業を買収し、その技術、製品を獲得するようになったのはCisco技術獲得型買収戦略の成功による。また、その手法もCiscoの手法に習ったものが多い。

 CiscoはLine of Business別に組織が分けられているが、Business Developmentは一ヶ所に集中している。買収のプロセスはBusiness DevelopmentのM&A Groupが中心となって進める。

 Ciscoでは、買収プロセスの間、Business Development groupが常に中心となり、Board of Directors、関連するLine of Business、買収ターゲット企業とのコミュニケーションを緊密にする。

STEP 1 Identify Strategic Fields

 Ciscoは顧客からの要求を基に新しい市場セグメントを見出し、各市場セグメントでリーダーになるか参入しないかを選択した。リーダーになると決めたセグメントにおいて、半年以内に自社の技術、製品だけではリーダーになれないと判断した場合は、外部からの技術、製品、人材の獲得に動いた。1993年からこの動きが始まった。この後からCiscoの急成長が続いている。

STEP 2 Information about Potential Takeover Targets

 買収企業の情報源には各種あるが、Ciscoで主要なものはビジネス・ラインからの情報である。ビジネスラインの情報には、顧客、営業、マーケティングからのものがある。ビジネスライン以外では、企業家から買収話を持ち掛けるケースとVenture Capitalからの情報とがある。ボード・メンバーの内の1人が有力なベンチャー・キャピタリストである。

STEP 3,4,5 Selection Criteria

 Ciscoは成功する買収候補であるかどうかを判断するために5つの評価基準を持っている。技術、製品、財務等のハード的な基準だけでなく、文化、ビジョン等のソフト的な基準も重要視している。5個目の条件である地理的な近さは、大きな企業を買収する際に特に重要となる。

 これ以外に、small, privately held technology and fast-growing companiesとのFriendly Acquisitionが基本条件となっている。

 

STEP 4

 買収の候補企業が決まるとすぐに、Business DevelopmentのVice President, Directorクラスの人間が候補企業のCEOとミーティングを持つ。これによってFriendly Acquisitionの可否、業界に対するvisionの共通性、及び企業文化、相性を確認する。

STEP 5 Internal Decision

 Business DevelopmentとBusiness Lineのトップとで、買収するべきかどうかを議論して決める。もし両者の主張が異なる時にはCEOのJohn Chambersが入り、三者会議を持つ。その結果買収となると、$10 million以上の案件は全て、ボード・ミーティングで最終決定される。

STEP 6 Golden Handcuffs and Non compete Agreement

 Ciscoは、買収した企業の主要な技術者や経営陣が買収後に大金を手に入れてすぐに退職してしまわないように、Ciscoのストック・オプションは3〜4年かけないと実行出来ないようにする。また、退職後、2年間は競合企業で働かない契約を結ぶ。買収提示額の算出はBusiness Developmentが行い交渉まで責任を持つ。

STEP 9 Integration

 Ciscoには買収のデールがクローズされた後に、買収企業を統合するための専門のグループがある。社内の各部門と連携を取りながら企業の成長性、起業家マインドを失わないようにスムーズに統合して行く。

 過去の20以上の買収からCiscoが作り上げたインテグレーション・プロセスのキーポイントは以下となる。

 買収企業の選択基準と統合プロセスのキーポイントを守ることでCiscoは技術獲得型の企業買収で成功している。正しい企業を選択し、正しいプロセスで統合している。

3-2. Key Success Factors for M&A

 Ciscoを始めとした米国リーディングIT企業の技術獲得型M&Aの成功要因をまとめると、下記12項目となる。当たり前と思われる項目だが実施は難しい。

 

第4章 M&A失敗【もどる】

 技術獲得型の買収が失敗とみなされるのは、以下の買収目的のいずれかが、未達成に終わった時である。特に重要と考えられているのは、人材を退職させないことである。総合的には成功だが、部分的には失敗のケースもある。

 

第5章 日本情報技術産業へのインプリケーション【もどる】

 日本企業が米国のベンチャー企業を買収すると仮定した場合に、M&Aの成功要因12項目の内で実現が難しいと思われるものが多数存在する。評価前提;米国でのマーケティング、ディストリビューション力で劣る日本企業が、米国市場を第一ターゲットとする技術、製品を開発するベンチャー企業を買収する場合。

 多くのKey Success Factorsが日本企業にとって実現することがかなり困難と判断される原因は、企業文化の違い、日米文化の違い、米国でのMarketing/Distribution力の弱さ、米国でのR&D活動の少なさ、米国市場でNo.1になるという決意が無い、言語の違いにある。

 米国でのプレゼンスが弱い日本企業は、ベンチャー企業が成長のために最も必要としている米国でのMarketing/Distributionの力を提供出来ない。この結果、米国市場でのシェア拡大、事業成功という共通のビジョンを持てない。ただし、米国で大きなプレゼンスのある場合は、ベンチャー企業の要求を満たすことは可能である。

 ベンチャー企業側の保有する技術、製品の違いと日本企業側の米国でのプレゼンスの違いによってM&Aにも各種組み合わせが考えられる。企業文化、日米文化の違いはなくならないが、ベンチャー企業の共通ビジョンへのコミットメントが得られれば、技術獲得型M&Aの成功の可能性はある。成功の可能性があるM&Aオプションとしては2通り考えられる。1つは、米国が最先端市場となる技術、製品を持つベンチャー企業を、米国で大きなプレゼンスを持つ日本企業が買収し、米市場における事業成長へ向けて協力する場合。2つ目は、日本市場が最先端市場となる技術、製品を持つベンチャー企業を日本で大きなプレゼンスを持つ日本企業が買収し、日本市場における事業成長へ向けて協力する場合である。

 統合後にベンチャー企業からの十分なコミットメントが得られない関係の場合には、将来性を含めた技術獲得という目的での買収をする必要性は低い。その時点の技術を買い取る意味での買収か、又は提携関係の選択が適当である。また、十分コミットメントを得られるケースでも、提携関係から入って相性を確認し、互いの信頼関係が築けた後に買収へと移行して行くのが、日本企業にとってはリスクが低いし、文化にも合っている。米国の情報技術業界のリーダー企業も買収の成功の可能性を高めるために、多段階の買収ステップを取るケースが増えている。

 

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