ソフトウェア産業は今後の経営改善、事業展開に向けて、国や政策に対してどのような要望を持っているだろうか。本調査では、「人材育成の支援」、「需要の創出」、「研究開発」、「インフラ環境整備」、「市場・取引環境整備」、「資金面に関する経営支援」の各テーマごとに国の役割や政策に対するニーズを聴取した。各企業の今後の事業方向と密接な関係があると考えられるため、各テーマごとに注力する事業分野との関係を含め、検討する。
今回の調査の中で、最も要望の高かったものは、人材育成に関してであった。
「民間企業における情報処理教育面での優遇税制制度を導入する」を73.3%の企業が望んでいる。具体的な展開方策については不明確な面があるが、ソフトウェア業界企業の多くが人材獲得や人材育成に腐心していることの証左であろう。前述のように「人材の獲得」はソフトウェア企業の最大の経営課題であった。また受託ソフト開発事業における問題点としても「人材確保が難しい」ことが第一に上げられていた。その反面、「人材教育・研修の充実度」の今後の重要性を認識しながらも、現状では受託開発業務に追われ、教育・研修が疎かになっている企業が多いと思われる。
企業外における教育・研修施設の整備や、当該施設等における教育・研修機会(例えば情報処理技術資格取得者の再教育等)の拡大を図るとともに、各企業がそれらを利用するための補助や奨励を行うことが有効と思われる。
また、自由記述回答には、『”情報処理”技術ではなく、”情報活用”技術に関するユーザー教育の推進が大切です』との意見があり、業界企業だけでなく顧客側の教育とスキルアップの重要性が指摘されている。

需要創造面での国の役割に対する期待も大きい。
「中小企業の情報化を促進するための税制補助を拡大する」を、57.5%の企業が要望している。今回の回答企業は小規模な独立系ソフトウェア業が多く、かつ受託プロジェクトの契約先は最終ユーザ企業が半数以上を占めている(59.9%)。したがって、顧客自体の中小企業の比率も高いと考えられる。日本の中小規模ソフトウェア業にとって、最も期待される市場の拡大は、中小企業の情報化促進によって加速されるものと考えられる。
比較的経営規模の大きいSI事業を指向する企業では、「官公庁における情報化を加速し、政府調達市場を拡大する」や「産業の情報化を促進するための実験プロジェクトを推進・支援する」といった項目が高い回答率になっている。
パッケージ事業注力企業の3分の2の企業は、「システム開発/ソフトウェア調達に関する優遇税制を導入し、パッケージ製品購入による情報化投資を促進させる」を希望している。パッケージ利用比率が低い日本市場においてパッケージ事業を育成するためには、情報化投資の拡大だけではなく、パッケージソフト調達の奨励策を併せて考える必要があろう。

研究開発支援は、情報産業振興のために従来から国が積極的に注力してきた施策である。パッケージ事業に注力する企業では、「パッケージ製品を開発し、商品化/企業化するソフトウェア企業に対して補助金等により支援する」(63.5%)、「ベンチャー企業を対象とした公募型研究開発プロジェクトの枠を拡大する」(42.7%)に対する要望が多い。自由回答の中にも、『産業界は創造性を求める要素技術開発より応用技術開発の振興を望んでいる』、『国レベルでなく地方のレベルにおいて対象として欲しい。地域の中小ソフトウェア企業が国の支援を受ける施策が見当らない』のように中小のベンチャーに対する支援や、要素技術開発ではなく応用開発を支援すべきとする指摘がある。
一方SIを指向する企業では、「ソフトウェア開発技術、ソフトウェアエンジニアリングの研究開発を促進し、ソフトウェア生産性の向上を支援する」(54.8%)の回答が多い。

インフラ環境の整備では、「研究開発のための実験用通信ネットワークインフラを整備・提供する」(43.3%)とともに、「国が開発した研究成果・ソフトウェアに関するデータベースを整備し、公開する」(44.2%)の要望が多く、特にパッケージ注力企業で47.9%と高くなっている。
また、SIに注力する企業では、「電子商取引やCALS等の分野において、研究開発成果や試作製品を試験・評価するためのテストベッドを整備する」も31.5%と高くなっている。

市場・取引環境の面での改善要望も多い。
SI注力企業からは、「ソフトウェア取引に関する共通フレームワークを整備・普及させ、SI事業者と専門的企業の育成を図る」の要望が60.3%と高くなっている。また、「行政機関の調達情報を情報ネットワークにより公開し、よりアクセスしやすくする」(42.5%)に対する要望も多い。
自由記述回答の中にもさまざまな指摘があった。『開発側と使用する側に、技術面で大きな差がある。この差を無くし、保守サポート部門が活かされる様な体制作りが必要』、『利用者の意識改革のための環境構築を望む』の意見があり、管理面、技術面に関する供給側と需要側のギャップを埋めていくことも重要と考えられる。
また、『官公庁のビジネスに新規参入するのが難しい。業者登録制度が大きな弊害になっている』、『官公庁市場で、ソフトウェアの質を問わず、ただ金額の入札は、これで本当にいいのだろうか』、『常識外の安値で入札する業者が落札する。中小企業は、物件ごとに採算が合わないとやって行けないので厳しい』、『官公庁は、すぐメーカーでなければ…の言によって、中小のパッケージメーカーを受け入れない。官公庁に最低価格制の導入が欲しい』、『大手ベンダ、メーカーが何でも手を出しすぎる!』等政府調達に関する問題指摘も多い。資格審査・業者登録制度の見直し、入札における総合評価落札方式の導入等が期待される。

資金面での経営支援に関しては、全般的に「政府系金融機関における融資制度枠を拡大する」(50.4%)、「政府系金融機関における債務保証制度を充実させる」(38.8%)を指摘する声が多い。自由回答でも、政府系金融機関の制度融資に関してさまざまな問題指摘、意向が指摘されており、『(無利子)無担保の融資を大幅に増やして中小企業に十分にいきわたるようにして欲しい』といった意見が提示されている。
パッケージ事業注力企業では、「ベンチャー企業への投資を活性化するため投資家に対する優遇税制を整備する」(35.4%)、「ベンチャーキャピタル事業を拡大するための環境整備を支援する」(28.1%)も高くなっている。これらの点に関しては、民間金融機関を含めて、担保重視の融資制度に関して不満を指摘する企業が多い。『企業規模でなく、その企業の保有している技術や、成長率等で査定する制度の充実を望む』の指摘のようにソフトウェア担保融資制度の導入普及も期待される。
また、資金調達・財務管理上の問題としては、株式公開やベンチャーキャピタルに関する意向は少ないが、「担保が少ない」(57.5%)、「税制の面で投資のための内部留保がしにくい」(36.7%)が上げられている。自由回答の中でも『儲かるが税が高い。だから儲からないときに内部留保がわずか』という声があった。
