概 要

 

(1) 問題の所在

 

  ソフトウェアの権利を法的に確立し守る手段は知的財産権(Intellectual Property Right、以下IPRと言う)と総称される一群の権利を対象にした法律に依っている。国のプロジェクトの成果としてのソフトウェアも、したがって基本的にはこの法律の枠組に基づいて守られることになるが、もう一つの側面として、公的資金により作り出された財産であるとの見地から国有財産法などにしたがった財産管理の規定が適用されることになり、権利の帰属やそれを行使できる条件などに関してやや複雑な状況が生まれる。

極めて大まかに言えば、国のプロジェクトで生まれたソフトウェアの権利を巡る議論のポイントは3つある。それらは、上に挙げた2つの要因に基づいてそれぞれ派生しているいわば古くて新しい2つの問題と最近の高度ネットワーク社会の普及進展が顕在化させた新たな観点からの問題とに分類できる。

 第一のポイントは、著作物であり同時に工業製品とも言い得るソフトウェアと言う特殊な性質を備えたものの権利を主として著作権および特許権で守ることの是非、およびそれに付随して発生する問題点に関する議論である。例えば、ソフトウェアは複製が極めて容易であること、ソフトウェアを作り出すソフトウェアの扱い、既存ソフトウェア部分と新規ソフトウェア部分の間に明確な境界を定めることが実質的に不可能なことが多いこと、などの点に関する疑問、議論がある。もちろん、この問題は単に国のプロジェクトの成果としてのソフトウェアに限定されない。

第二のポイントは著作権や特許権などのIPRの帰属先をスポンサーとしての国にすべきかあるいは研究開発の主体としての受託者(企業や大学など)に委ねるべきかと言う点に関する見解の相違である。税金で得た成果に対する権利であるからそれを国有財産とし、国を介して広く第三者も使えるようにして広範な普及を図るのが納税者の利益になるとする考え方と、逆に受託者が権利を持つことで商品化などへの展開がより容易になり、結果として税収増や雇用などを通じて産業・社会への貢献を促進させることができると言う考え方が基本的に対立している。

第三のポイントは、最近世界的な規模で一般化し始めているオープンソース方式と呼ばれる新たなソフトウェア開発・普及のスタイルによって顕在化してきた問題である。IPRの諸制度がこれまで前提としてきた立場は、一方で知的財産の創作者にその優先的使用権を保証することで創意工夫のインセンティブや事業意欲を鼓舞しつつ、他方では知的財産の内容を公開して第三者も含めた広い層の使用を促すことで産業を高度化し経済を繁栄させることの微妙なバランスを巧妙に維持すると言う点であった。したがって、IPRの底流には権利の囲い込み、第三者の使用に対する強い制約と対価支払義務などの機能を果たす仕組みが内包されていた。しかし、オープンソース方式はソフトウェアをその開発当初から広く公開し、制約やロイヤリティ無しに第三者の使用を促進することで一定の同調者を生み、逆に彼らの試用結果を反映することによってソフトウェアの完成度を高めさらなる普及が実現できると言う考え方である。つまり権利を囲い込まず第三者使用も制約しないなどの点で従来のIPR諸制度とは基本的に相容れない側面を持っている(ただし、オープンソースの開発者は著作者人格権に相当する権利の擁護には極めて敏感と言われている)。現在までのところ、国の資金が意図的な形でオープンソースの世界に投入された例は無いと考えられるものの、このような新しい流れにどう対応すべきかと言う新たな問題が提起されていることは確かであろう。

これらの問題に対して、常に正しい解答を見つけることは難しい。しかし、検討し議論する基本的立場は明らかで、成果としてのソフトウェアをいち早く普及させることによって産業的効果を生み、社会に広くその利益を還元させるための仕組みをいかにして実現するか、である。このためには国のソフトウェア技術政策の方向性(例えば基礎研究に近い部分を重視するかあるいは産業寄りの開発に力を入れるか、など)、受託側の対応姿勢や能力、さらにはその時の世界的な技術の方向性や産業の動向などの要因がIPR諸制度の精神とうまく噛み合うようになっていることが必須である。上に挙げた様々な要因は時代と共に変化するものであり、制度あっての社会ではなく社会に見合った制度であるべきとの観点から、IPR諸制度も永久不変のものにはなり得ず、常に時代の要請との整合性を検証しつつ必要な改善を施し、またその狙いを分かりやすい形で産業界などに説明するプロセスを続けて行く必要があろう。

以下の各節では、ソフトウェアのIPR保護の歴史的側面、過去の国のプロジェクトにおけるIPRの扱い、有識者へのヒアリング調査などについて、個々の問題をさらに細かく検討していく。

 

(2) 日米を中心としたソフトウェアのIPR保護の歴史

 

1) IBMのアンバンドリング政策

ソフトウェア保護が産業的に明確な形になって現れたのは、1970年頃にIBM社が、アンバンドリング政策を開始したことに発する。この政策により、工業製品としてのソフトウェアが確立し、ソフトウェア保護の気運が高まった。当時、米国においては特別立法も話題となったが、既にベルヌ条約への多数の国の加盟により、外国においても威力を発揮する著作権による保護が適切とされ、1980年に米国の著作権法が改正された。これにより、従来は文学や芸術作品を対象としていた同法を、プログラムやデータベースにも適用可能とした。

その後も米国ではプロパテント政策が推進され、1985年のヤングレポートの中でソフトウェア産業を重要な戦略的輸出産業とするための施策の一環として、工業所有権の保護の強化が唱えられ、1988年には通商法の改正により知的財産権保護強化が図られた。1990年には、日米知的財産権協議が行われ、リバースエンジニアリングに係る規制等が話し合われた。

 

2)日本におけるソフトウェア保護開始

1980年の米国著作権法の改正に端を発したソフトウェア保護をめぐる世界的な潮流は、日本では、1986年の著作権法改定に至る様々な動きを呼び起こした。1980年には、日米科学技術協定が締結され、日米間における科学技術の基礎的分野における交流・協力促進が宣言された。これにより、ソフトウェア分野の交流も活発化が予想されたことから、米国におけるソフトウェア保護への関心が高まった。さらに、1982年にはIBM産業スパイ事件が発生し、IBM社が日本の大手コンピュータメーカを、基本プログラムの流用の疑いで訴えた。この事件は、米国政府が他国に対しても、米国と同レベルのソフトウェア保護を求める端緒となったばかりでなく、社会がソフトウェアを著作物として認識するに至る象徴的な事件となった。こうした中、1983年頃に、日本では、プログラム権法設立の動きが高まった。ソフトウェア保護を行うための特別立法が米国でも検討されたように、日本においても特別立法であるプログラム権法が検討された。この法律は、ソフトウェアを工業所有権により保護することが念頭に置かれていたが、米国の影響もあり、著作権によりソフトウェアを保護することに落ち着いた。

 

3) ソフトウェアの社会的地位の向上と国際機関による調整

1990年代に入って社会に広くソフトウェアが浸透するにつれ、ソフトウェア保護が世界的な関心を集めることとなった。そのため、国際的にWIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機構)およびWTO(World Treaty Organization)にて、ソフトウェア保護に関連する標準化作業が行われており、1996年に制定された条約では、初めてプログラムの著作権による保護が明文化された。また、米国における特許制度は、先発明主義、公開制度欠如、再審査制度、優先権の効果の制限(ヒルマードクトリン)等において、各国との隔たりが大きく、WTOにおいて調整が続けられている。

 

4) 日本におけるソフトウェア権利保護の現状

従来より、ソフトウェア権利保護は著作権法による保護が中心であったが、1997年4月1日より施行された新しい特許審査基準により、特許法による保護も現実のものとなっている。

 

a.  著作権法による権利保護

・保護対象

著作権法において、プログラムは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法第2条第1項)と定義されている。そして、保護対象は、「思想または感情を創作的に表現したもの」(第2条第1項)であり、プログラムのうち創作性を有するものが著作権法による保護対象となる。なお、プログラミング言語、規約、アルゴリズムは著作権法の保護対象とならないことが明記されている(第10条3項)。

・著作者

プログラムの著作者は、一般の著作者と同様に、プログラムの「著作物を創作する者」(第2条第1項)である。なお、法人等の従業員が職務上作成する著作物で、法人等の名義で公表する著作物は、法人等とする規定がある(第15条第1項)。ただし、プログラムに関しては、企業秘密として外部に公表されない場合も多いため、法人等の名義での公表の有無を問わず法人等を著作者とする特例がある(第15条第2項)。

・著作権の内容

著作者は、著作権および著作人格権を有する。著作権は、複製権、翻案権、貸与権、有線送信権等から成る。著作人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権から成る。

なお、著作物の利用を認める規定は、プログラムにも適用され、私的使用のための複製、引用等は可能となっている。また、「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自らその当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製または翻案をすることができる。」(第47条の2第1項)に規定されている通り、プログラムにおいては、利用者が自己の利用のために必要な複製、翻案を認めている。

・保護期間

プログラムの著作物の保護期間は、一般の著作物と同様に、プログラムの創作時から著作者の死後50年とされている。ただし、法人が著作者の場合または未公表著作物の場合は、公表後50年となっている。

 

b. 特許法による権利保護

1997年4月1日より、「ソフトウェア関連発明の審査基準」(1992年制定)に則った新しい特許審査基準の利用が開始され、ソフトウェア特許出願が特許の審査の対象となった。特許性(新規性・進歩性等)を有するソフトウェアは、特許付与されることになった。これに関連して、特許庁ではソフトウェアに係わる特許付与のためのデータベースとして、コンピュータ・ソフトウェア・データベース(CSDB)を構築した。

 

(3) 知的財産権取扱いの分類

 

下表は知的財産権の取扱いに関する各プロジェクトの立場をまとめたものである。特許権は現在の我が国のソフトウェアにおいて、普及上の大きな支障とはなっていないと思われるが、米国の状況等も鑑み、成果普及の観点から今後重要となってくると思われる。また、著作権は、ソフトウェアに対する権利を保護するものとして現在においては中心的なものとなっている。表中、左上の領域は、特許権、著作権共に国が専有するものを表し、右下の領域は特許権、著作権共に開発者側と共有するものを表しているが、その間の分割はスケールとしては特に意味を持たない。

 

   知的財産権の取扱いによるソフトウェア開発プロジェクトの分類

 

表より、過去のソフトウェア開発プロジェクトにおける知的財産権の扱いとして以下のことが考察される。

 

     大型プロジェクトやICOTは特許権、著作権ともに国に帰属するものとし、その利用や実施にあたっても特に優遇されるようなことはない。これは基礎的な技術開発を主眼としたもので、成果は広く国民に公開されるべきであるという目的によるものと思われる。

 

     RWC、IPAでは、ソフトウェアとしての成果物の特殊事情を考慮し、契約書上でもソフトウェアプロダクトの特性を意識しているように見える。

 

     全般的に基礎研究よりのプロジェクトでは、知的財産権を国が保有することが原則となっているように見える。一方、産業振興の目的のために実施されているプロジェクトは、知的財産権をできるだけ開発者に帰属させ、かつその実施にあたっても優遇されるような方式が検討されていると解釈できる。

 

     長期的な傾向としては国の専有から受託側にも権利を認める流れが見られるが、法的規制などから運用上の工夫で対応する例もある。

 

(4) ナショナルプロジェクトの成果としてのソフトウェアのIPRをめぐる議論

 

ナショナルプロジェクトの成果として得られたソフトウェアを産業界に一層幅広く普及させていくと言う問題意識で、IPRの扱いに関する問題点の有無、その改善への方向、さらにIPRに関連するいくつかの話題について、プロジェクト関係者13名に対してヒアリングを行った。

 

  ヒアリング結果の整理

ヒアリングの中で言及されている話題はIPRに止まらず、受託者の起業家意識、国のプロジェクトとしてあるべき方向性、社会文化的な背景など、国のプロジェクトの成果の事業化に何らかの形で関連する相当広い範囲の議論を含んでいるがここではIPRの扱いに焦点を当て、ヒアリング結果を大まかに整理する。各回答者の論点の対立点あるいは重きを置いている点を際立たせると、回答者の見解は以下の6つの立場に整理できる。

 

a.  現状肯定派

成果の普及に際して現状のIPR制度に大きな問題は無い、あるいは少なくとも現時点で制度に関して困惑している事態には遭遇していないとする見方である。国の成果ソフトウェアの普及・事業化が十分に進まない理由の大きなものはむしろ受託側の事業化意欲の少なさや作られた成果そのものに魅力が少ないことであるとし、例えば事務手続きの煩雑さなどの点でIPR制度が完璧では無いにせよ、その問題を具体的に強く指摘できる程に事業化の例がまだ多くは無いと言う認識を持っている。

この主張はプロジェクト委託側の回答者に多いが、プロジェクト委託側としては、より良い成果を生むためには研究開発にとって本質的でない作業(実態と乖離のある契約形態とそれから派生する意味のない開発作業、ドキュメント作成など)に多くの時間を費やさざるを得ない現状の改善の必要性や単年度会計などのプロジェクト運営上の問題の解決に向けての努力も必須であろn:。

 

b.  成果全面公開派

  国のプロジェクトの成果は基本的には100%公開すべきであり、そうすることによって成果の普及を最も促進することができるとの主誕sナある。この背後には、ソフトウェアの普及のためにはFree Software Foundation的発想が重要であること、またそもそも国は基礎研究的な分野にのみ力を注ぐべきであることなどの認識が見られる。

この主張は現行の国有財産法などの諸制度やそれに基づいて資産の管理を行う国あるいは国の代行機関の業務と本質的に相容れない側面を持っており、事務用品のような物品と研究開発成果を同列に扱って管理しようとすることに基本的な誤りがあると指摘している。さらに国のプロジェクトの契約形態にしても委託や請負に替わる別の形式を設定して研究開発に適したより自由な形式の確立が必要であるとしており、その際に契約上のしばりを少なくすることによって生じ得る契約不履行者の存在も必要悪として認めた制度の検討が必須と考えている。

長引く不況の中で国(特に通産省)の予算が企業経営に寄与している比率が高まっている現状では、やや理想論に近いと感じられるこの主張には、もう一つ疑問がある。それは、実態として情報分野の基本的な部分は米国の製品や技術に圧倒されている状況があり、日本が実施すべき基礎研究の分野として成算が見えるのは何かと言う点である。この選択を誤ると、見返りの期待できない投資を続けることになりかねず、後述するように将来を見越した適正な研究開発ポートフォリオの確立が合わせて論じられなければならない。

 

c.  国・企業独立路線推進派

国のプロジェクトに関連して特に大きなIPRの問題は既に受託者が事前に所有しているノウハウやソフトウェアと国の成果の切り分けの問題であると考えている。形式論としては、既存技術は事前に届け出ることによって権利を守ることができることになってはいるものの、ソフトウェアの場合は既存部分と新規部分の切り分けが困難であること、既存部分と言っても何らかの形で手を入れることが必要、それにも関わらず既存技術とすると費用が削減されること、などの問題があって手続きどおりに既存部分を切り離すことは難しいとしている。さらに、既存技術の権利擁護のために敢えて既に実績のある技術者をメンバーから外した体制とすることもあり、実績があるが故に最適な体制を作れないと言うパラドックスも生まれる。また、既存部分の権利は企業に属するためそれを除いた最終的な納品物件はそれ自身ではまとまった意味を持たない中途半端なものにならざるを得ず、仮に第三者がプロジェクト成果の利活用を企てても成功する見込みが無いことも指摘している。

こうしたことの原因の一端に国のプロジェクトが企業の製品開発に近すぎる分野を設定していることがあり、国は企業活動から離れたところにその研究開発分野を設定すべきと主張している。インフラ整備や新技術に関する社会的実験、ニーズ顕在化のための社会的プロジェクトなどが研究分野の具体例の一つである。

情報技術がネットワークを通じて想像を超える影響力を持つことを考えると、こうした主張には説得力が感じられる。しかし同時に、研究開発や商品化が世界的な規模で極めて短期間のうちに浸透する事実を目の当たりにすると、このようなプロジェクト遂行には多くの点で強いダイナミズムが要求されている点にも留意しなければならない。

 

d.  企業優先使用派

国の費用を使う研究開発とは言え、実際にアイディアを出して研究開発を行うのは受託側企業である。したがって、彼らにその権利が行かないのは極めて不自然であり、最低限権利は共有することにならないとプロジェクトに参画できないと主張している。

前述したように、最近の基本的な流れとしては権利は委託側・受託側で実質的には共有するようになってきており、その意味ではこの主張の根拠はやや薄れている印象もある。しかし、この主張の背後には、研究開発そのものは受託側のコントロールの下で実施されるべきであること、各種事務手続きは研究開発の進行を第一に考えて簡素化されるべきことなどのプロジェクト運営方法に関する主張もあり、その意味では残念ながら現行の制度の残された課題は大きい。

 

e.  成果普及懐疑派

国のプロジェクトの成果は企業の活動とは直接結びつかないとの見解である。彼らは国のプロジェクトの成果を元に普及発展させていく意志を必ずしも持たない、あるいは持てないと考えている。この意見に従うとIPRは大きな意味を持たないことになる。

この主張の論拠にはいくつかのパターンがある。第一は、成果を普及させて行こうにもその市場が見えないと言うものである。ソフトウェア成果を生かして事業化する際に最も自然な形はパッケージソフトの形で製品化することである。しかしながら、日本のパッケージソフトウェアの市場は欧米のそれに比較すると相対的に低調・未発達であり事業意欲を持てないと考えている。第二のパターンは、そもそも国のプロジェクトでは自社内で抱えているテーマのうち事業化と言う観点では可能性が相当低いものを対象にしており、したがって当初から事業化の意欲を持っていないと言う考えである。事業化の可能性が見えているテーマは自社内の予算で自らの全面的なコントロールの基で研究開発を実施している。第三のパターンは、基礎的な研究開発ではテーマの将来性を判断することが難しく、したがって、事業性を考えても成功しないことが多いと言うものである。過去に国のプロジェクトとして行った研究が結果として産業的には方向違いだったことなどを挙げて、基礎研究の成果を事業化することの難しさも指摘されている。

いずれの論拠であれ、この考えに従うと受託側としては国から請け負った仕事の範囲内で一定の金銭的利益や技術者の教育的効果、対外発表の機会などを得ることができれば事業目的は達成でき、それでプロジェクトは完結したものと言うことになる。この主張に賛同する声は少なからずあるとの印象があるが、成果普及に関して積極性に欠けるこの層の存在は大きな問題である。前述したように原因は種々あり、例えば二番目のパターンの論者は景気の動向に極めて敏感であり、現時点ではむしろ国のプロジェクトの成果普及と自らの事業の関係を密接なものとして考えている。一番目と三番目は問題の根がより深い。こうした層への対策は研究開発における技術的観点、産業構造的観点などから総合的に考えていかなくてはならないであろう。

 

f.  IPR派

  IPRは成果普及のために一つの要素ではあるものの、現時点での最重要課題では無いと考えている。ベンチャーにとって最大の問題は顧客を確保することであるとした上で、自らが開発した技術に関する需要家とのマッチングの場を設けることが本質的な課題であり、そういう意味での支援の必要性を訴えている。こうした観点からは例えば成果報告会なども同業者に限らず、より広範な層を巻き込んでの実質的な商談の場への変貌が必要と考えている。

  一定の研究成果が出てから最終顧客に製品が認知されるまでの川下分野ではマーケティングや販売チャネルの開拓、資金調達や全体ビジネスモデルの構築などに多大の時間と費用がかかるが、この点についての国の支援マインドが低すぎる。また、先端技術型ベンチャーがもっとも期待する支援は製品が売れるようにバックアップしてもらうことであるが、日本では大企業がベンチャーに実質的に門戸を開いているとは言えず、もちろん政府調達も高い期待を持てない現状から、製品販売の機会を得ることに悲観的にならざるを得ないと言う現状がある。

このような販売機会の増大、チャネルの確保の問題が喫緊の課題であり、それに比較するとIPRの問題は二の次、言い換えるとまだ問題がそこまで達していないと言う見解である。

以上、ヒアリング結果を6つの立場に代表させて整理した。もちろんこれらの立場は必ずしも対立するものとは言えず、むしろ相互に共通する見方もある。逆にこうした錯綜した状況がIPR問題の込み入った事情を反映していると考えるべきであろう。

 

(5) ナショナルプロジェクトのソフトウェアIPRのあり方

 

1)ソフトウェアの種類とIPR

  冒頭でも述べたようにIPR政策は、成果としてのソフトウェアをいかにして広く普及させ産業を活性化させるかとの観点で検討されるべきである。したがってプロジェクトの種類や目的さらにそれに付随する普及へのビジネスモデルや開発者の意識などに応じてIPR政策の具体的な運用方針も弾力的に対応できるようになっている必要がある。このためには国のプロジェクトをいくつかのパターンに分類し、委託側はもとより受託側もプロジェクトの目的とそれに対応するIPR政策の意義を明確に意識して、研究開発を進めることが必要である。

以下のような分類は一案である。

 

     基盤ソフトウェア型モデル

  成果は公共財として位置づけ、したがってIPRも公開を原則とする。成果の波及範囲は広く、場合によっては国際的なデファクトスタンダードなどへの展開も考えられる。囲い込み的なIPR保護政策では無く、早い時期に公表するなどして同調者を増やすことが重要。

 

     応用ソフトウェア型モデル1

  企業などでの事業に密接に関連する領域の研究開発。企業内での先行する研究開発や別の国のプロジェクトなどでの実績を元に研究開発されるスタイル。研究開発プログラムとして実施して成果を共有するかあるいは補助金的な枠で成果は100%受託側に帰属するような仕組みも有り得る。成果のビジネスモデルも視野に入れて事業化が最も容易になるような方向での取り決めを行う。ただし、うまくビジネス化できない場合は国が第三者にIPRを譲渡できる権利を留保しておくことが望ましい。

 

     応用ソフトウェア型モデル2

  前者と似ているが、過去の積み重ねと言うよりはむしろ閃き的なアイディアで事業化を狙うような性格のプロジェクト。IPRは基本的に受託側に帰属させることが望ましい。また、採択までの手続きにも従来型の公募、審査、ヒアリングなどの一連の流れとは別に迅速にまた時期を問わず対応できるような仕組みが必要である。

 

     コンテンツ型モデル

  プログラムではなくコンテンツ開発を主な目的とするようなプロジェクトを想定する。コンテンツが関与すると多くの場合、権利関係が非常に複雑になることが予想される。業界融合的な特長や新事業領域開拓などの効果を期待できるだけに権利関係の扱いには留意すべき点が多いと考えられる。波及効果が大きいであろうことから、基本的には開発者と国がIPRを共有し、比較的短い一定の時間を経た後は公開して普及させるなどの方策も考えられる。

 

     実証実験型モデル

  新しい技術のフィージビリティや各方面への影響の有無などを実際にシステムを稼動させることによって検証することを目的とする。公共性や波及効果が大きいことから基本的には成果は公開することが望ましいと考えられる。

 

実際のプロジェクト遂行の局面では事情は相当複雑になることが予想される。前述したように、これらに対して前もって規則を用意しておくことを考えるよりは、その都度前述の原則、誰が成果を享受すべきか、そのための最善の道は何か、を委託側、受託側共に明確に意識して適切な取り決めができるようになっていることが望ましい。それを決定するためには、特に委託側に十分な体制が必要であることは言うまでも無い。

 

2) IPRの周辺の問題に関する議論

ソフトウェアプロジェクトの成果普及のためにはIPRだけでは捉え切れない多くの問題点が複雑に絡み合っている。むしろ、いかにすれば成果普及を促進することができるかと言う文脈の中ではIPRだけを独立に論ずることの方が不自然と言うべきかも知れない。最後にそれらの論点を整理し、IPRとの関連あるいは成果普及に際しての様々な問題点を浮き彫りにする。これらの論点に関して回答者の意見は必ずしも一致している訳では無いことが期せずして我々が直面している問題の多面性を物語っており、本報告書でもこれらの点について一定の結論を導き出すまでには至っていないが、今後の国のプロジェクトを推進する上でこうした点への対応ないし配慮が必要と考えている。

 

a.  起業家マインド

全体として日本企業には起業家マインドが少ないと言われている。今回のヒアリングでも半ばその主張が裏付けられた印象がある。

 

     ソフトハウスなどの起業家マインド

今回のヒアリングはソフトハウスは1社だけに留まり、この見解は限定的であるが、少なくとも回答者の組織では国のプロジェクトの成果を事業化するという意味で強い起業家意欲を持っている印象は無い。さらに、これに同調するソフトウェアハウスも少なからず存在するであろうことが想像できる。この要因は複雑で、日本におけるソフトウェアハウスの役割やソフトウェア市場の特性(受注生産、請負などの比較的受動的な仕事が多く、ソフトハウスが主導権を握ることのできるパッケージソフト市場などが未発達であることなど)などの経緯があり、ソフトウェアハウスが起業意欲を持てない、あるいは持っても商業的に報われる機会が得られない構造が続いているためと考えられる。しかし長引く不況によって災い転じて福となったか、概してソフトウェアハウスも最近は起業家意識に目覚める傾向にあり、意識が改善されてきている印象がある。

 

   大企業の状況

  大企業に顕著なのは景気の波によって国のプロジェクトに対する基本的対応を変える傾向があることである。すなわち大企業は国の資金を自社資金の不足分を補う余剰的な意味合いで都合良く考えている傾向があり、好況の時には国の資金で具体的な成果を期待せずに先行的研究を行い(この時にはIPRについて強い主張はしない)、一旦不況になり自社の資金繰りが苦しくなると、国の資金をより事業に密着したテーマに振り向ける(この場合にはIPRに非常に神経質になる)。これを首尾一貫性の欠如と捉えるのではなく企業経営上の合理的な判断とおそらく考えるべきであろう。いずれにせよ、これを事実として認めると国のIPR政策も好不況の波によって方針を変えなければならないことになるであろう。少なくともプロジェクトごとにその前提を明確にして、それに見合ったIPR対策を打ち出す必要がある。

付言すると、前述したように(国の資金による)基礎研究の成果の事業化に成功するためには、開発した技術そのものの問題に加えて、技術開発の方向性や市場の熟成などの周辺環境の問題もあり、ことはそう容易では無い。ヒアリング回答者から聞いた、過去に参画した大プロの成果で事業化に成功したものは一つも無い、との嘆息を交えた述懐もそうした事情を反映している。

 

     多様化する個人の意識 〜著作者人格権を重視する新たな個人パワー〜

オープンソース方式によるシステムの台頭が著しい。これを支える技術者のマインドにも注目する必要がある。彼らは何らかの組織に所属しながら組織の目的とは別に活動し大規模なソフトウェアを開発する。彼らを動かす動機は、自分のソフトウェアが人の役に立つことの充実感、一定の技術者仲間の中での名声を得ること、技術的な関心などで、少なくとも金銭的欲望で行動している訳ではない、とされている。彼らが主張するのは著作者人格権に非常に近い権利であり、ソフトウェアそのものの使用に何らかの制約を課すことは好まない。一方で、前にも指摘したように、国のプロジェクトに関連して良質の特許が出されないとされていることの原因の一つとして、国との共同特許では企業内の研究者技術者がインセンティブを持てないとの状況があった。自社内の仕事に関連させて特許出願した方が、報奨制度などを通じて自らの金銭的利益に結びつきやすいからと言う理由であった。

こうした表面的には相矛盾するようにも見える個人の価値観の多様化が今後の国のプロジェクトにどのような影響を与えるのか現時点ではまだ先が見えないものの、これまでは企業内に埋没していた個人の意志や嗜好が相対的により顕在化した力になるであろうことは推測できる。

 

b.  国のプロジェクトの範囲

この点については多くの回答者から意見が寄せられたが、それらは必ずしも一致しておらず、回答者自身の立場や考え方を比較的強く反映したものとなっている。以下に望ましいとされている研究領域を順不同で挙げる。

 

     基礎研究

基礎研究と言うとやや誤解の可能性もあるが、狭く基礎研究に限定せず、インフラ整備なども含めた公共の用途を対象にすべきとの意見である(成果のIPRもすべて公開すべきとの論旨につながる)。研究開発の一環として国が景気対策に手を染めるべきでは無いと主張し、応用ソフトなどは補助金やベンチャー支援の予算の範疇で考え、研究開発とは別の次元の話であると言うのが基本的見解である。この方向をさらに推し進めて、ポスト情報時代、環境時代に備えて、エネルギー、食糧、生命科学、社会環境などの研究開発が必要との主張もある。

 

     ワンアイディア型の研究開発

  情報技術が広範囲に普及した結果、技術の言わば大衆化が促進され、従来のような積み重ね型の研究開発で成果を出すようなタイプのものだけでなく、ワンアイディアで製品になるような種類の研究開発テーマも増えてきた。こうしたテーマは多くの場合、ベンチャー企業が有していることが多いが、これを国の予算で支援することを考えると、現在の各種の制度はやや硬直的に過ぎるきらいがある。従来とは異なる枠組みのプロジェクトを考える必要がある。

 

     社会実験型プロジェクト

新たな技術が予想外の問題・困難を生むことは技術発展の歴史の常識である。特にネットワーク社会では技術は瞬く間に全世界に広がり、否応なく多くの人々がその技術に関与せざるを得なくなることを考えると、技術のアセスメントの重要性が増す。こうした分野を国が行うべきとの主張であるが、情報分野では技術の有用性を事前に評価することが困難で実際にある程度の規模で使用してみないと客観的な判断を下せないことが多いことを考えると、この主張には一層の説得力が加わる。

 

     社会的ニーズ

これまでの国のプロジェクトはシーズ主導的な意味合いが強く、それが国のプロジェクトの成果が大きな産業につながらなかった一つの要因であると考える。シーズ主導では産業は興らず、まずは市場ニーズが重要で技術はそれにしたがって育成されるものとの見解である。この前提に立つと、国の役割はニーズ顕在化のためのプロジェクトを起こして技術シーズを高めることにあるとされる。

 

     オープンソース

比較的多くの意見はオープンソース方式によるソフトウェア開発を望ましいこと、国としても積極的に関与すべきことと捉えている。さらに推し進めてNPO的活動をもっと広範囲に支援すべきとの意見もある。ただし、メーカの回答者の指摘として、オープンソースへの関与に対する懐疑的な見解も見られる。すなわち、オープンソースで作られたソフトウェアはそれが第三者の権利を侵害していないことを証明することおよび動作の保証をすることが実質的には不可能と言う特性(限界と言うべきか)を持っており、このためメーカあるいはベンダーとしてはオープンソースへの積極的な対応を躊躇せざるを得ない現状がある、国がこの活動を支援する場合でも同様で国の資金的支援を基に作られ使われているソフトウェアが第三者の権利を侵害していた場合への対処を考えると、現実的には関与は容易でない筈と指摘している。

一方で、ベンチャー企業からは、今後は単なるソフトウェア製品の販売ではなくソフトウェアを媒介としてサービスを売る時代の到来が確実であり、国もそれへの対応をすべきとの主張もある。これはオープンソースを基にしたビジネスモデルとかなり近い関係を前提にしているようにも考えられる。

 

c. 社会的文化的な背景

ヒアリングの過程では問題をなるべく具体的に論ずるように意識し、なるべく論点が社会的文化的な範囲に入り込まないように留意した。それは問題の所在を社会的なあるいは文化的な背景に押し込めてしまうことによって、具体的な対策案の検討が棚上げにされてしまうことを危惧したからである。にも関わらず、下に挙げるようにいくつかの問題が指摘されている。

 

     人の移動

MOSAICのケース(IPRを元に事業化を試みたSpyGlassは失敗し、オリジナルを開発したマーク・アンドリーセンがベンチャー企業に移籍して新たにコードを書き直すことでNETSCAPEとして普及した)に学ぶように、ソフトウェアの事業化は単にIPRの問題に帰着できず、ノウハウを所有する人の移動によって実現されることが多い。日本は人の移動が米国に比較して非常に少ないし、さらに注目すべきは、少数派として存在する人の移動が米国とはむしろ逆の方向に向いている点である。すなわち人の移動と言うと、米国では大学人が企業に移籍することを通常意味すると思われるのに対し、日本では企業の研究者・技術者が学位を取得し大学に移動する現象が常識的である。この差はもちろん善悪とは別の次元の話であり、原因を制度やルールに求めるのは筋違いで、日本と米国の社会的なあるいは文化的な背景によるものと考えるしか無いが、成果の普及を促進するダイナミズムを減ずることは確かであろう。

 

     優秀な人材が大企業指向

これも日米で対照的な傾向を示すと言われるが、日本の大学生は官公庁や大企業、大学などへの就職を果たすことがステータスシンボルと考えている。もちろん大学生だけでなく、それが日本社会の最大公約数的見解でもある。米国の大学生は成績優秀者はベンチャーを指向すると言われていることと好対照である。実際、日本のベンチャー企業の多くが直面する問題は、優秀な人材獲得であると聞く。創業者はそれなりの夢と熱意と覚悟の元に事業を起こすが、ある程度の規模の組織に拡大しようと考えても良い人材を見つけることが至難の技となる。

 

 

以上、各回答者の立場や見解の相違に基づいて出された多様な意見を整理した。もとより、これがあり得べきすべての論議を尽くしているとは思えないにせよ、いくつかの代表的な立場とその論拠を示していることは間違い無い。それぞれの主張には背景や理由が存在し、それなりに説得力がある。おそらく各意見の背後にはそれぞれの回答者が陰に陽に想定している期待される技術あるべき社会の姿が対になっており、意見の相違は正誤とは別の次元のものと捉えるべきであろう。

これらの意見のいくつかは、現在の「IPRとそれに関連する国の政策」の深刻な問題点を示唆している。将来に向けてこれらの問題の解決は急務である。これらの解決案を提言することは、本調査の範囲外と思われるが、今後なされるべき議論のポイントを提供するとの主旨で、そのいくつかについて、以下に短く試案を掲げる。この試案は、現在、市場において苦戦を強いられているわが国のソフトウェア産業がおかれている立場を前提とし、国が今後のIPR政策の立案と実施において、特に考慮すべきと考えられる点を指摘しようとするものである。

     産業応用のシナリオの無い基礎研究指向から離れること:この点は回答者の中でも意見が分かれた部分であり、そもそも「基礎研究」の意味するところも自明とは言えない。もとより国全体として基礎的研究が重要であることは論を俟たないが、通産省が産業応用に結びつくシナリオのない研究の主導的役割を演じるべきかは疑問である。スタート時には基礎研究を旗印に掲げたいくつかのプロジェクトにおいても、多くの場合、プロジェクト半ばを過ぎると具体的な成果、産業上のインパクトが強く求められ、結果として中途半端な妥協が行われ、当初の意義が曖昧になるばかりか、一貫性を欠いた求心力の無いプロジェクトとなってしまう傾向が感じられる。やはり名実ともに産業応用の可能性を第一に考えた設定とすべきである。

     IPRは旬の間は非公開:上に基づいて産業応用に結びつくテーマ設定をした場合、その開発に利用した既存資産の評価を適切に行うことは難しい。受託側は、国を通じて自らの成果が第三者に流出することを危惧する。これを解決する方法として、例えば1年間は国は成果を公開せず、また第三者への実施権付与もしないことを保証するのはどうであろか。これによって、受託側の危機感は相当和らぐと思われる。もちろん、成果が100%受託側に帰属する補助金制度をソフトウェア分野の実体に合うように改善して適用する方法もある。

     大メーカ:今回のヒアリングで強く印象づけられたのは、国と大メーカの間の信頼感の欠如である。それは「ほとんど無意味な内容の特許を形だけ国に出す」とか「国が過度に高額なロイヤリティやメーカ独自の成果の納入をも要求すること」などの見解に象徴される。現状のままでは良い制度があってもその精神が生かされない程と危惧される。まずは信頼関係の修復と確立のための諸策を講ずることが急務である。

     ソフトハウス、ベンチャー:IPRの価値を客観的に評価する仕組みの確立が求められる。これによってIPRの資産的意義を明確にし、ソフトハウスの資金調達を容易にしたり、税制上の優遇措置を講ずるなどの、実効ある制度を確立することが必要である。

     大学:産学連携の形式として企業と大学間の委託契約を一層一般化したい。現実には大学の要請で資金利用上制約の少ない寄付金で大学の力を引き出すことが多い。しかし、寄付では一定規模を越える開発は不可能で、そもそも業務上の契約関係が無いため成果のIPRも議論できず、普及・事業化の精神とも乖離がある。まずは一定の契約の下に研究開発を受け、効率のよい資金運用ができる環境の重要性を大学が強く認識する必要があろう。

以上は、問題点の一部であり、それほど難しい課題とは見えないものもあるが、現場では、深刻な問題となっている。

上の点も含め、最終的に重要なのは将来を見据えた研究開発領域に関するポートフォリオ分析の必要性の認識であろう。基礎研究と言い、応用領域の研究と言い、ともすれば委託側・受託側共にその時々の景気動向に左右されて近視眼的に判断し勝ちである。研究開発の成果が社会や産業に影響を及ぼすにはある程度の時間を要する。また、研究開発を推進する人々の意識の変革にはさらに長い時定数が必要である。これらを考えると、将来の国の姿を見据えたバランスの取れた、研究開発目標に関する恒常的な検討と見直しを行いつつ、それと一体化した時代に合ったIPR政策の推進が強く求められる。