5. マレーシア

5.1            ビジョン2020

 マハティール首相は、1991年に行った講演の中で、2020年までに先進国するという国家目標Vision 2020を打ち出した。今後30年間にわたり年平均7%の経済成長を実現させ、GDPの9倍増、所得4倍増を達成するというものである。その一環として、情報通信産業を戦略的に育成することを推進しており、それを実現するための開発計画がMultimedia Super CorridorMSC)である。

 

5.2            マルチメディア・スーパー・コリドー

(1)マルチメディア特区

 MSC計画の中核が、マルチメディア特区である。競馬場跡地に建設されるクアラルンプール・シティ・センター、政府機関が移転するクアラルンプール郊外新都市「プトラジャヤ」、情報通信企業を誘致するサイバーシティ、新空港等を含んでいる。

 

(2)MSCステータス

 MSCで活動する企業に対して、申請に基づきMSCステータスが与えられる。申請書に基づき、審査委員会による審査が行われる。MSCステータスが与えられた企業には、最大100%の免税、マルチメディア機器の課税控除、外資規制撤廃、外国人雇用の自由化等の優遇措置がとられている。これによって、アジアの「シリコンバレー」を目指している。

 

(3)フラグシップアプリケーション

 MSC計画の中で重要な事業がフラグシップアプリケーションと呼ばれる応用開発である。大きく2つに分けられ、1つは政府が主導し、公共セクター、国民が活用する「マルチメディア開発」である。もう一方は民間企業の活力を利用し、民間企業の活性化を図っていく領域である「マルチメディア環境」である。

 マルチメディア開発フラグシップアプリケーションには、次の4つのアプリケーションがある。

 

電子政府(首相官邸)

 政府内部の業務効率化と国民に対する行政サービスの向上のため、ネットワークを用いた電子化を図る。パイロットアプリケーションとして、ライセンス更新/料金支払、調達、首相オフィス、人的資源管理情報システム、プロジェクトモニタリングシステムがある。

 

多目的カード(Bank Negara)

 チップを組み込んだ多目的カードのための共通プラットフォームを開発する。パイロットアプリケーションとして、チップアプリケーション(国民ID、自動車免許、入出国、健康、電子現金/金融機能)、アクセスキーアプリケーションがある。

 

スマートスクール(教育省)

 学校における教育、経営に情報技術を用いる。パイロットアプリケーションとして、教育・学習教材、評価システム、学校経営システムがある。

 

遠隔医療(厚生省)

 医療情報とバーチャル医療サービスの連携により、医療サービスの影響方法を劇的に変える。パイロットアプリケーションとして、パーソナル化した健康情報/教育、継続的医療教育、遠隔コンサルテーション、生涯健康計画がある。

 

 マルチメディア環境フラグシップアプリケーションには、次の3つのアプリケーションがある。

 

研究開発クラスター(科学技術環境省)

 MSCにマルチメディア研究開発センターの集積を形成する。また、その核として新設のマルチメディア大学がある。

 

ワールドワイド製造ウェブ(通商産業省)

 高付加価値製造業がマルチメディアや情報技術を活用するための環境を提供し、MSCをハブにする。

 

ボーダレス・マーケティング・センター(MDC; Multimedia Development Corporation

 マルチメディアを使って、マーケティングメッセージ、カスタマー・サポート、情報商品を作り、届けようとする企業のための環境を構築する。特に、テレマーケティング、オンライン情報サービス、電子商取引、デジタル放送といった事業領域を焦点に充てている。

 

(5)関連法

 マルチメディア、情報技術に関連する法規制の整備が進められている。著作権法改正、コンピュータ犯罪法、電子署名法、遠隔医療法、電子政府法等がある。また、通信マルチメディア法(1998)により、通信、情報処理、放送の技術的一体化を受け、統一監督機関を設置する。

 

(5)状況

 1997年度政府予算の1.2%721,400kRM=300億円)がMSCに充てられた。通貨危機等厳しい状況が伝えられるが、マハティール首相はMSC計画に変更がないことを強調している。MSCステータスを取得している企業は、205社を超えている(その内100社以上が操業開始)。

 また、電子商取引に関しては、E-Commoerce基本計画を策定中である(マルチメディア開発委員会)。