1. 調査の背景と方法

 情報通信に関する急速な技術革新は、産業・社会に対して、多大な影響を与え始めている。多くの識者は、21世紀にかけて工業経済から情報経済への転換が起こると指摘している。このような変化に対応すべく、各国では情報通信環境を整備し「情報社会」の実現に取り組んでいる。そのさきがけとなったのは、アメリカのクリントン政権が提唱した「情報スーパーハイウェイ」(Information Superhighway)と関連する一連の情報通信政策であった。ゴア副大統領によるGII(Global Information Infrastructure)構想や1996年にブリュッセルで開催されたG7 情報サミット等を経て世界各国で施策展開が活発に進んでいる。情報社会の進展は情報産業の育成にも大きな影響を与える。各国では、情報産業をこれからの戦略産業と位置づけ、その育成策にも力点を置いている。

 以上のような世界各国の状況を踏まえ、ソフトウェア技術を中心とする情報技術の国際的競争力確保を目指し、わが国の研究開発のあり方を検討するための基礎データ収集の一環として、「先進諸国における将来の社会システムの情報化ビジョンに関する動向」の調査を行った。

 まず情報化に関して先進的と思われるアメリカ、EU(欧州連合)、シンガポール、マレーシアに関して、政府のインターネットホームページから情報化に係わる声明・ビジョン・計画を調査した。また、日本にとって特に重要なアジア・太平洋地域の他国の政府ホームページを調査し、情報化に係るドキュメントが公開されていたオーストラリア、インド、韓国に関しても同様に調査を行った。ドキュメントから各国の情報化ビジョンの概要、関連する情報通信政策の概要を整理した。そして、その結果を踏まえ、各国の動向を比較し、ビジョン・情報通信政策の特徴を分析した。

 本報告書のまとめとして、これらの調査・分析結果に基づき、わが国の情報化ビジョンのあり方に対する示唆を考察し、技術開発を進めるべき分野等の試案を示した。

 

調査対象国

◆ アメリカ
◆ EU(欧州連合)
◆ シンガポール
◆マレーシア
◆ インド
◆ オーストラリア
◆ 韓国

2 アメリカ

 1990年代に入ってからのクリントン=ゴア政権の一連の情報政策は、これまで軍事・宇宙技術開発中心に進められてきた科学技術研究を産業応用に転換することで産業競争力強化を推し進めてきた。以降では情報化政策の流れを概観する。

2.1 HPCC

 当時上院議員であったゴア現副大統領が提案し、1991年に成立したHPC法(High Performance Computing Act of 1991)とHPCC(High Performance Computing and Communications)計画が、近年の情報政策の起点と考えられる。HPC法は5年間の時限立法であったが、HPCC計画の一連の流れは、アメリカの情報政策の根幹をなすものである。

 HPCC計画では、高性能コンピューティングシステム(HPCS)、研究・教育ネットワーク(NREN)、先進ソフトウェア技術とアルゴリズム(ASTA)、基礎研究と人材育成(BRHR)、情報基盤技術とアプリケーション(IITA)といったプロジェクトが実行された。

2.2 NII構想

クリントン=ゴア政権が誕生すると、レーガン政権時代からの産業競争力強化の政策を継承すると同時に、ゴア副大統領をまとめ役として一連の科学技術政策を打ち出した。就任直後の1993年2月にはNIIイニシアティブを発表した。同年9月には、9つの基本原理を含むNIIアジェンダが発表された。

2.3 GII構想

 1994年3月、ブエノスアイレスで開催された国際電気通信連合ITU総会において、ゴア副大統領がGII構想を発表した。各国のNIIを連結し、グローバルな情報基盤を作ろうというものである。GII構想については、HPCC・IT委員会の情報基盤タスクフォース(IITF)によって、GIIアジェンダ(The Global Inforamtion Infrastructure: Agenda for Cooperation)が1994年秋に発表されている。

2.4 HPC法失効とCIC計画

 96年度までで実施されたHPCC計画が成功を収めたのを受け、HPC法案失効後の継承計画として開始された。CIC計画では、高性能コンピューター通信(HECC)、大規模ネットワーク(LSN)、高信頼性システム(HCS)、人間との親和性を考慮したコンピュータシステム(HuCS)、人材育成 (ETHR)といったプロジェクトが実施された。各々の予算額は下表のとおりである。

計画の各プロジェクトに対する予算(単位:百万ドル)

FY

HECC

LSN

HCS

HuCS

ETHR

Total

備考

1996
(HPCC)

_

_

_

_

_

1043

予算実績

1997

453.71
(43.6%)

259.79
(25.0%)

31.95
(3.1%)

248.82
(23.9%)

45.31
(4.4%)

1039.58
(100.0%)

予算要求額

1998

462.43
(41.9%)

288.19
(26.1%)

33.18
(3.0%)

281.12
(25.5%)

38.64
(3.5%)

1103.56
(100.0%)

予算要求額

2.5 A Framework of Global EC

 電子商取引(EC)に関しては、1997年7月、ゴア副大統領により、Global EC構想が発表された。その中で、5つの原則と検討すべき9つの分野に対する提言を示している。

2.6 NGIと次世代インターネット研究法

 NGI(Next Generation Internet)は1996年10月に構想が発表された。そして、1997年2月に行われた大統領一般教書演説において、NGI構築の支援が表明され、98年度予算に計上された。98年度予算要求額は、CIC計画のLSN2.8億ドルのうち、1億ドルがNGIの予算であった。

NGIプロジェクトの目標としては、1. 先端ネットワーク技術の試験研究、2. 次世代ネットワークのテストベッド、3. 革新的アプリケーション、の3つが掲げられた。1998年2月に発表されたNGI実行計画書(Implementation Plan)では、その3つの目標が詳細化されている。

2.7 IT2

1997年2月に設置された大統領情報技術諮問委員会(PITAC)は、情報技術政策のビジョン策定を行ってきた。1998年8月には、その中間報告が発表された。この中間報告を受けた形で1999年1月に「21世紀に向けた情報技術:IT2」という題名の報告書が提出された。この報告書によれば、「2000年度大統領予算教書において、クリントン=ゴア政権は、情報技術研究投資の大幅な強化を表明している」とある。特にHPCC計画とは別枠予算として366百万ドルを投じた連邦政府の情報技術研究における新計画は、IT2と呼ばれている。1999年2月には、IT2のドラフトをまとめた。このドラフトでは、重点項目として、長期的な情報技術研究、科学・工学・国家のための先進コンピューティング、情報革命の経済的・社会的影響に関する研究の3つが示されている。

3 EU(欧州連合)

3.1 EU(欧州連合)の情報社会イニシアティブとアクションプラン

 EU(欧州連合)による情報化への取り組みとしては、1993年に欧州委員会が発表した「成長・競争力・雇用に関する白書」の中で情報通信インフラの重要性が指摘されたことが出発点といえる。1994年には、「ヨーロッパとグローバル情報社会」(Bungemann Report; 同氏を委員長とするタスクフォースのレポート)が発表された。さらに、「欧州におけるグローバル情報社会へのアクションプラン」と題する計画が1996年に発表され、1997年にはその改訂が出された。その中で、今後アクションが必要な領域として、ビジネス環境の改善、将来への投資、人間の尊重、グローバルな課題への対応が指摘された。

3.2 Interchange of Data between Administrations(IDA)プログラム

 1995年には、EU内の政府系機関でデータ交換を促進していくIDAプログラムが開始された。欧州の各国のカウンターパート機関をネットワーク化し、情報を共有するというプログラムである。技術面ではテレマティクスプログラムの研究成果が取り入れられている。

3.3 電子商取引に関する欧州イニシアティブ

 1997年には、今後世界的な発展が期待される電子商取引に関して、欧州委員会から「電子商取引に関する欧州イニシアティブ」が発表された。その中には、「グローバル市場にアクセスするためのインフラ、技術、サービス」、「望ましい規制枠組みの開発」、「望ましいビジネス環境の創出」に関する提案が含まれていた。

3.4 フレームワークプログラム

 EUレベルでの研究技術開発は、フレームワークプログラムとして実施されている。これは、持続的な経済成長、産業競争力強化、雇用創出、社会変化への対応に向けて、1984年に、総合的研究開発政策としてスタートしたものである。フレームワークプログラムは、EU自身が助成金を拠出している。EUの共同研究開発プログラムとしては、この他にEUREKA等EUが支援し各国が推進するタイプがある。

 1994年をスタート年とする第4次フレームワークプログラムでは、情報化に関連するテーマとして、テレマティクス、ACTS、Espritといったプログラムが実施された。

 1998年から始まる第5次フレームワークプログラムの情報通信関連のプログラムは、「ユーザフレンドリーな情報社会」(IST; User-friendly information society)であり、予算として3,600百万ユーロが充てられている。

 ISTは、間接活動として、一般的プロジェクト公募に基づく助成に位置づけられている。費用分担方式の面から、研究技術開発プロジェクト、実証プロジェクトに分けられる。

 ISTは、情報社会の進展に伴う新たな研究開発ニーズを確定することを目的としている。各活動分野の予算は、下表のとおりである。

User-friendly information society(IST)の内訳 (単位:million euro)

活動

予算

a.Key actions  
 i.Systems and services for the citizen

646

 ii.New methods of work and electronic commerce

547

 iii.Multimedia content and tools

564

 iv.Essential technologies and infrastructures

1363

b.Research and technological development activities of a generic nature:  
 Future and emerging technologies

319

c.Support for research infrastructures:  
 Research Networking

161

 

3600

 ISTは、利用者(ユーザ)に重点をおき、情報の利用促進や教育に着眼している。重点活動分野としては次のものが挙げられている。

市民のためのシステムとサービス(Systems and services for the citizen)
 高品質で利用が容易なシステムとサービスを開発することを目的としている。高齢者・心身障害者看護、保健機関における遠隔サービス、環境問題、交通問題等を重視している。

新しい業務方法と電子商取引(New methods of work and electronic commerce)
 事業経営や取引効率を改善するための研究開発を行う。モバイル業務システム、売り手と買い手の取引システム、情報とネットワークの安全性(プライバシー、知的財産権、認証等)を重視している。

マルチメディア関連(Multimedia content and tools)
 各種マルチメディア製品・サービスに利用されるインテリジェントシステムやコンテンツの開発を目的とする。会話型電子出版(電子図書館、仮想博物館等)、教育訓練ソフト等を重視している。

重要技術とインフラ基盤(Essential technologies and infrastructures)
 情報社会の基盤に必要な重要技術の開発を目的とする。コンピュータ通信技術、ソフトウェア工学、移動体通信、各種センサーインタフェース、マイクロエレクトロニクス等を重視している。

4 シンガポール

4.1 「IT2000:インテリジェントアイランド構想」

 情報化国家をビジョンとして掲げた「IT2000」は1991年に作成された。その基本計画は、国家コンピュータ庁(NCB; National Computer Boad)が中心となり、関連する11の主要経済部門の200名を超える専門家の協力のもと、立案された。

 IT2000には、目標として、グローバルなハブの開発、生活の質の改善、個人の可能性の発展、が掲げられており、情報通信インフラ整備、マルチメディア・アプリケーションの開発・利用促進、研究開発拠点の整備、情報通信産業の誘致・育成といった施策を推進してきた。

4.2 シンガポール・ワン計画

(1)ネットワークインフラ

 IT2000の実現を加速するための具体策が1996年に発表されたシンガポール・ワン(Singapore One)計画である。シンガポール全土に広帯域の通信インフラを整備し、対話型マルチメディアのアプリケーションとサービスを家庭、学校、オフィスに提供しようというものである。

 シンガポール・ワンの広帯域通信ネットワークの基盤は、ATMスイッチング技術に基づくバックボーンネットワークである。1-Net Singaporeと呼ばれるコンソーシアムによって構築・運営されている。アクセス回線は、ATM(155Mbps)、ADSL(5Mbps; シンガポールテレコムが提供)、CATV(30Mbps; シンガポールケーブルビジョンが提供)の3種類が用意されている。

(2)アプリケーション

 シンガポール・ワンは、以上のネットワーク基盤に基づき、新たなアプリケーションの開発を行っている。アプリケーションのタイプとしては、ニュース・オン・ディマンド、データベース検索サービス、オンラインショッピング、遠隔教育、行政サービス等があり、アプリケーションサービス提供者は年々増加している。1998年7月時点で、合計123のサイトがサービスを提供している。最近では、診察料が10分で10〜25シンガポールドルの遠隔診察サービスも登場している。

 行政サービスとしては政府ショップフロントがある。政府が扱う商品・行政サービスをネットワークで提供している。現在では、寄付受付、自動車試験の予約受付、健康・医療・観光等に関する書籍・ビデオの販売、各種統計情報提供が行われている。将来的には全省庁のサービスが出揃う予定である。決済はC-ONE(CashCard for Open Electronic Commerce)と呼ばれるキャッシュカードで行える。

4.3 電子商取引に関する取り組み

(1)電子商取引ホットベッド・プログラム

 国家コンピュータ庁によって、1996年に電子商取引ホットベッド・プログラムが導入された。これは、電子商取引の利用を活発化し、シンガポールを電子商取引のハブにすることを狙ったものである。

(2)電子商取引政策委員会

 1997年、国家コンピュータ庁が事務局となり、金融通貨庁を始めとする15機関の委員からなる電子商取引政策委員会が設置された。委員会の下には、法規制研究グループと貿易取引研究グループの2つの研究部会が設置された。

(3)電子商取引の政策枠組み

 1998年4月、電子商取引政策委員会によって、電子商取引の政策枠組みが発表された。政策枠組みは、次に示す「6つの主原則」と「政策提言とイニシアティブ」(法規制、インフラサービス、普及促進プログラム)から構成されている。

(4)電子商取引基本計画

 1998年9月には、電子商取引基本計画が発表された。目的はシンガポールの電子商取引を活発にし、電子商取引のハブ機能を強化することである。具体的な目標として、2003年までに、取引の50%以上を電子的に行い、電子商取引の取引高を40憶シンガポールドルにすることを掲げている。

4.4 ベンチャー振興策

 国家科学技術庁(NSTB)は1998-2000年間に、1億800万シンガポールドルを予算化し、ハイテク企業を支援するTIP(テクノロジー・インキュベーター・プログラム)を開始した。研究開発費等のコストを2年間にわたり最大85%補助する(運転資金は1企業年間30万シンガポールドルに制限)。

5 マレーシア

5.1 ビジョン2020

 マハティール首相は、1991年に行った講演の中で、2020年までに先進国するという国家目標Vision 2020を打ち出した。今後30年間にわたり年平均7%の経済成長を実現させ、GDPの9倍増、所得4倍増を達成するというものである。その一環として、情報通信産業を戦略的に育成することを推進しており、それを実現するための開発計画がMultimedia Super Corridor(MSC)である。

5.2 マルチメディア・スーパー・コリドー

(1)マルチメディア特区

 MSC計画の中核が、マルチメディア特区である。競馬場跡地に建設されるクアラルンプール・シティ・センター、政府機関が移転するクアラルンプール郊外新都市「プトラジャヤ」、情報通信企業を誘致するサイバーシティ、新空港等を含んでいる。

(2)MSCステータス

 MSCで活動する企業に対して、申請に基づきMSCステータスが与えられる。申請書に基づき、審査委員会による審査が行われる。MSCステータスが与えられた企業には、最大100%の免税、マルチメディア機器の課税控除、外資規制撤廃、外国人雇用の自由化等の優遇措置がとられている。これによって、アジアの「シリコンバレー」を目指している。

(3)フラグシップアプリケーション

 MSC計画の中で重要な事業がフラグシップアプリケーションと呼ばれる応用開発である。大きく2つに分けられ、1つは政府が主導し、公共セクター、国民が活用する「マルチメディア開発」である。もう一方は民間企業の活力を利用し、民間企業の活性化を図っていく領域である「マルチメディア環境」である。

 マルチメディア開発フラグシップアプリケーションには、次の4つのアプリケーションがある。

 

電子政府(首相官邸)
 政府内部の業務効率化と国民に対する行政サービスの向上のため、ネットワークを用いた電子化を図る。パイロットアプリケーションとして、ライセンス更新/料金支払、調達、首相オフィス、人的資源管理情報システム、プロジェクトモニタリングシステムがある。

多目的カード(Bank Negara)
 チップを組み込んだ多目的カードのための共通プラットフォームを開発する。パイロットアプリケーションとして、チップアプリケーション(国民ID、自動車免許、入出国、健康、電子現金/金融機能)、アクセスキーアプリケーションがある。

スマートスクール(教育省)
 学校における教育、経営に情報技術を用いる。パイロットアプリケーションとして、教育・学習教材、評価システム、学校経営システムがある。

遠隔医療(厚生省)
 医療情報とバーチャル医療サービスの連携により、医療サービスの影響方法を劇的に変える。パイロットアプリケーションとして、パーソナル化した健康情報/教育、継続的医療教育、遠隔コンサルテーション、生涯健康計画がある。

 マルチメディア環境フラグシップアプリケーションには、次の3つのアプリケーションがある。

研究開発クラスター(科学技術環境省)
 MSCにマルチメディア研究開発センターの集積を形成する。また、その核として新設のマルチメディア大学がある。

ワールドワイド製造ウェブ(通商産業省)
 高付加価値製造業がマルチメディアや情報技術を活用するための環境を提供し、MSCをハブにする。

ボーダレス・マーケティング・センター(MDC; Multimedia Development Corporation)
 マルチメディアを使って、マーケティングメッセージ、カスタマー・サポート、情報商品を作り、届けようとする企業のための環境を構築する。特に、テレマーケティング、オンライン情報サービス、電子商取引、デジタル放送といった事業領域を焦点に充てている。

(4)関連法

マルチメディア、情報技術に関連する法規制の整備が進められている。著作権法改正、コンピュータ犯罪法、電子署名法、遠隔医療法、電子政府法等がある。また、通信マルチメディア法(1998)により、通信、情報処理、放送の技術的一体化を受け、統一監督機関を設置する。

(5)状況

 1997年度政府予算の1.2%(721,400kRM=300億円)がMSCに充てられた。通貨危機等厳しい状況が伝えられるが、マハティール首相はMSC計画に変更がないことを強調している。MSCステータスを取得している企業は、205社を超えている(その内100社以上が操業開始)。

 また、電子商取引に関しては、E-Commoerce基本計画を策定中である(マルチメディア開発委員会)。

6 オーストラリア

6.1 成長のための投資

 オーストラリア連邦政府のジョン・ハワード首相は、1997年末に「成長のための投資」と題する計画を発表した。その中には、将来ビジョンとして次の点が掲げられている。

 計画では今後5年間に12億6,000万ドルを投入し、投資、輸出貿易、新らしい高成長産業の革新などを促進していくことを表明しており、以降に示すような課題への取り組みが示されている。

(1)事業革新の奨励

 企業や経済の競争力向上のための主要な推進力は革新性である。オーストラリア政府の革新計画は、場合によっては市場における研究開発に関して援助が必要なことを認識している。政府は、このため今後4年間に、ビジネス革新のため10億ドルの拠出を予定している。

 研究開発費に対する125%の課税控除に加えて、研究開発着手援助計画(R&D Start)を拡大して、今後4年間に、5億5,600万ドルを追加拠出する。この期間の研究開発着手援助計画の予算総額は7億3,900万ドルになる。

 また政府は、4,300万ドルの基金を追加して、今後4年間に、総額1億5,300万ドルを拠出し、新投資基金計画(Innovation Investment Fund Programme)を拡大する。ベンチャーキャピタルへの資本投下も促進する。この一連の基金追加によって、オーストラリア国内のベンチャーキャピタル市場開発の成功に必要な資金が確保される。これは小規模なハイテク企業を直接の対象にしたもので、計画の幅を広げ業界から強い支持を得ている。

 また、7,200万ドルを追加し、今後4年間に、総額1億800万ドルを支出して技術の普及を促進するための施策を講じる。

(2)投資の促進

 政府は、必要以上の投資インセンティブは用意しないが、経済や雇用に大きな利益が期待されるものに対して戦略的プロジェクトや刺激策を講じる。こうしたインセンティブの必要性を査定する基準を明確にし、調整するため、戦略投資調整官に任命し、関係各省との円滑な連絡を保ったり、インセンティブの供与が正当化されたり、政策の変更を必要とするプロジェクトについて、首相を通じて内閣に勧告する。

 また、外国の投資促進を図るため、「インベスト・オーストラリア」という機関を設置し、今後4年間に、毎年1,100万ドルを拠出する。

(3)貿易収支の改善

 APEC内にあって、オーストラリアは、2010年から2020年までの間の貿易と投資の自由化を目指している。今年我々は、食品、化学製品、エネルギー、その他オーストラリアが提案した主要部門を含む15の分野で、自由化の前倒しを提唱した。 政府は、引き続き市場アクセスや規格整合に要する過度の経費を削減して、域内における製造拠点としてのオーストラリアの魅力を向上するため、TRADEXと名付けられた「保税製造制度」の導入等を行う。

(4)金融センターとしてのオーストラリア

 オーストラリアを世界屈指の金融センターにとし、成長している金融サービスセクターから利益を獲得する。金融センターとしてのオーストラリアの将来性を高めるさらなる選択肢提供のため、金融部門諮問委員会(Financial Sector Advisory Council)に特別班を設立する。

(5)情報化時代

 台頭する世界経済は、情報と知識が鍵となっており、このような時代にどのように立ち向かうかが、経済成長や雇用機会等に大きな影響を及ぼす。政府は、既に情報経済大臣の管轄下に国家情報経済オフィス(National Office of the Information Economy)を設け、情報化政策を調整してきた。引き続き、政府は次の点を推進していく。

 今後4年間に、2,800万ドルを投じて建設する優秀なソフトウエア工学や実験施設などを通じて、新規投資を誘致し、比較優位性を促進するため、情報産業アクションプラン(Information Industries Action Agenda)を導入する。

 その結果、2001年までにインターネット上で適切なすべての行政サービスが施せるように、コンピューターによる総合的なサービスを開始する。また政府は、情報産業機器製造に必要となる素材・部品の輸入関税を免除する。インターネットを通じて電子的に発注され、配達される商品に対する免税措置も存続させる。インターネットへの情報税を課税しない。

7 インド

7.1 情報技術・ソフトウェア開発タスクフォース

 インドは、情報技術産業を強化し、10年のうちにインドを世界最大のソフトウェア生産国/輸出国とするための政策を展開している。まず、1998年5月、「情報技術・ソフトウェア開発タスクフォース」(Ntational Task Force on Information Technology & Software Development)を設置し、国家情報政策の立案に着手した。その検討内容はWeb上に公開されており、しかも、インド内外の専門家からの助言を得ながら作業を進めるという開かれた政策立案過程をとっている。

 最初の作業として、議長はWeb上で内外の専門家に次のような課題に関する提案を求めた。

7.2 情報技術アクションプラン

 1998年7月に、タスクフォースは、「情報技術アクションプラン」(Information Technology Action Plan)を発表した。その中で、下記の3つの基本目標が掲げられている。

情報インフラの加速
 世界第一級の情報インフラストラクチャの構築を加速する。光ファイバ、衛星通信、ワイヤレス通信により、地域情報インフラ(LII)、NII、GIIをシームレスに相互接続し、全国規模の高速インターネット、エクストラネット、イントラネットを保証する。

ITEX-50目標
 2008年までに、ITソフトウェアとITサービスの輸出額を500億ドルにする。

2008年にすべての人に利用できるIT
 PC/セットトップボックスの普及率を1998年現在の500人に1台から2008年までに、50人に1台に引き上げる。60万個所の電話局を多様なマルチメディアサービスを提供する電話情報センターに変革する。さらに、IT普及促進のための、政府のネットワーク化、テレバンク、遠隔医療、遠隔教育、電子図書館、電子商取引等の施策を展開していく。

 計画の中には、これら3つの目標に関して、108つの具体的な提言が含まれている。

7.3 情報技術アクションプラン(パートII)

 前掲の7月に発表された情報技術アクションプランは、おもにソフトウェアおよび関連サービスを対象としたものであったが、10月に発表されたパートIIではハードウェアに焦点を充てている。

SBIT(Soft Bonded IT Unit) の導入
製造施設を無料、無担保で利用できる企業。免税等の特典があり、輸出が奨励されている。

SBITゾーンの整備
 複数のSBITが共用するインフラ・施設。

7.4 情報技術アクションプラン(パートIII)

 1999年4月に発表予定のパートIIIでは長期情報技術政策に関して下記が示されている。

8 韓国

 韓国の情報化政策に関する主管官庁は1992年まで通信部と商工部に分かれていたが、同年統合され、情報通信部(MIC; Ministry of Information and Communication)が新設された。金大中政権発足後は、情報産業がIMF体制克服のための産業効率化における「戦略産業」であると位置づけ、情報化政策を強化推進している。

8.1 韓国情報基盤(KII)

 1995年にスタートした韓国情報基盤イニシアティブ(KII; Korea Information Infrastructure Initiative)に基づき、翌年情報化促進基本計画が策定され、さらに1997年には情報化促進アクションプランが明らかになった。情報化基本計画は、3つのフェーズから構成されており、それぞれのフェーズの目標が規定されている。2000年までの第1フェーズでは、優先度の高い10のタスクとして下記が掲げられている。

 韓国政府は、情報化の基盤であるKII構築を重要政策として推進している。計画では、韓国政府情報基盤(KII-G)と韓国公用情報基盤(KII-P)を2010年までに完成させる予定である。まず、KII-GをATMベースの光ケーブルネットワークにより2002年までに完成させ、その後KII-Pプロジェクトを推進する計画である。1988年の白書「21世紀の情報社会の構築」によれば、現時点で、ネットワークは、ソウル、プサン等を含む80の地域に展開されている。主要都市では電話局と配信先の間に光ケーブルが敷設され、光ファイバケーブルは1,018の大規模ビルに敷設された。N-ISDNは103の地域が利用可能となり、配信先は合計66,300箇所となった。CATVネットワークの配信先は合計7.44百万箇所となった。

8.2 情報社会に向けての韓国のビジョン

 1999年3月現在、情報通信部はインターネットに発表している「情報社会に向けての韓国のビジョン」の中で、次のような方向を示している。

(1)生産性の向上

政府のリエンジニアリング
 政府機関を高速ネットワークで結び、職員にPCを与えることにより、ペーパーレス政府が実現できる。また、1998年には政府、自治体ごとにCIOを任命した。政府調達にはEDIを導入する。市民サービスはインターネットを通じて行えるようにする。
企業リストラの支援
 韓国標準の税務、会計モジュール等のERPとコンサルティング方法論を開発する。
電子商取引の促進
 政府調達、国防と建設分野のCALSで、EC市場化を図っている。いくつかのプロジェクトでは、消費者向けのECが開発されている。ECのための技術開発と標準化作業が行われている。
QOL(クオリティオブライフ)のための情報化
 教育のための情報環境、ヘルスケア・福祉のための情報化、国防・環境管理のための情報化、文化と情報化、地域コミュニティの情報化を進めていく。

(2)よりより情報化環境の構築

KIS(韓国情報スーパーハイウェイ)の構築(KII)
 知識ベース経済において、経済活動の中心はコミュニケーションである。そのために必要な高速情報ネットワークを早期に構築する。
テストベッドネットワークと地域パイロットプロジェクト
 中小企業が先端技術の研究開発に利用できるような共同研究開発センターを設置した。
APII
 1997年の韓日テストベットプロジェクトに基づき、韓国−シンガポール、韓国−中国テストベットプロジェクトを実施する。ソウルにAPII共同センターを設置した。
関連法規制のオーバーホール
 1995年から1997年にかけ、63の法改正を行った。引き続き、関連法の見直しを行っていく。
通信サービス利用の環境改善
 通信サービス利用の環境改善として、PC普及率の向上促進、情報技術リテラシーの改善、優良なコンテンツの開発、情報化キャンペーンの実施を図っていく。
効率的なセキュリティ指標
 インターネットとオンラインサービスの拡大に伴い、効率的なセキュリティ指標の快活を急ぐ必要がある。
Y2K問題の解決
 定期的に2000年問題の解決状況を評価する。また、中小企業向けに2000年問題対応のための融資を行う。

9 各国の情報化ビジョン/政策の比較と特徴

 以上の各国の情報化ビジョン/政策の調査結果に基づき、各国の状況を比較し、全般的な傾向・特徴を整理する。

9.1 情報化ビジョン・政策の位置づけと推進方法

 情報化ビジョン・政策の位置づけと推進方法に関して、以下のような特徴を指摘することができる。

(1)情報化が21世紀の国の戦略課題であることの認識

 今回調査した国は、いずれも情報技術が社会、経済に多大な影響を与え、経済活動を効率化し、国民生活を豊かにする上で情報化が極めて重要な要素であることを指摘している。また、情報通信産業を、それを実現するため、経済発展のための戦略産業として位置づけ、国際競争力の強化・育成を図ろうとしている。

 また、このような認識の背景として、工業経済から情報経済へのシフトが進んでいること、その中で情報や知識の付加価値が高まることを理解し、産業界等関係者に対する啓発を進めている。

(2)トップレベル組織による強力なリーダーシップ

 情報化に係るイニシアティブ、プログラムを、国の元首直轄の組織として統括し、強力なリーダーシップをもって実施している場合が多い。

 アメリカのクリントン=ゴアや、マレーシアのマハティールのように、国家元首自身がリーダーシップを発揮し、情報化プログラムを推進している場合もある。また、それ以外の国においても、省庁の壁を超えた機能横断委員会を設置し、国家レベルの重要課題として情報化プログラムを推進している。

 また、省庁レベルでも、情報と通信・放送の技術的・サービス的融合を踏まえ、ここ数年間で情報産業と電気通信産業の主管官庁を統合した国が多い。

(3)政策立案過程でのインターネットによる対話の利用

 情報社会では政策立案過程自体の変革も求められる。各国の政策立案過程において、インターネットが有効に使われていた。インターネットで政策案を開示し、それに対するフィードバックコメントを受け付けているケースが多い。例えば、インドにおいては、インターネットにより政策課題に関して広く意見を集め、計画策定していくという方式を採用していた。

(4)国の役割と民間部門との連携

 国と民間部門との連携も重要な側面である。今回調査した国の情報化ビジョン・政策では、国の役割を次のように設定していた。

  • 情報社会のための高速・大容量通信ネットワークの整備
  • 情報通信・放送等ディジタル化に伴う関連業界の規制緩和と競争の促進
  • 情報社会に必要となる法体系(知的財産権、プライバシー保護、決済等)の整備
  • 電子商取引等新たなアプリケーション構築に必要な技術開発の支援(助成等)
  • イノベーションと公正競争、そしてリスク回避のための規格・技術標準の調整
  • 電子商取引等新たなアプリケーション立ち上げのためのパイロットプロジェクトの推進
  • 情報通信産業を育成するためのベンチャー企業の支援(税制支援、助成等)

 これらに対して、民間企業は、パイロットプロジェクトへの参画、研究開発の補助、ベンチャー起業によって貢献することになる。しかし、商品化や起業化に関して国がどこまでコミットできるかについては議論が分かれる。

(5)他国、他地域との連携

 情報社会においては、いろいろな面でグローバル化が進展する。したがって、各国の情報化ビジョン、政策も地球規模の視野を有している。

 規格・技術標準や取引ルールに関しては、国際標準化機構(ISO)、世界貿易機関(WTO)、世界知的所有権機関(WIPO)といった国際機関との調整が必要であり、また業界におけるワールドクラスのリーダー企業を無視することはできない。

 また、自国の産業競争力を高めるためには、国際的な分業とアライアンスという観点から自国産業のポジショニングをする必要がある。さらに、技術、資金の国際調達が必要であれば、それに適した優遇税制等の環境づくりが必要である。

 今回の調査対象国では、他国、他地域との連携範囲は異なるが、いずれも地球規模での情報社会の進展を見通している。

9.2 情報化ビジョン/政策の内容

 情報化ビジョン・政策の内容に関しては、以下のような特徴を指摘することができる。

(1)持続的成長と中長期的課題の重視

 前節で指摘したように、国の役割としては、基盤・環境整備が重視されていた。また、情報社会の進展と同時に、将来の大きな課題として指摘されている「環境」「健康・医療」「高齢者福祉」といった問題解決に貢献する視点も掲げられている場合が多い。

(2)通信インフラの整備と情報通信・放送産業の改革

 情報社会においては、情報・知識を伝達する通信インフラが極めて重要である。マルチメディア技術、ディジタル技術、インターネットの発展をいち早く取り入れ、情報社会を先導していくために、各国では通信インフラの整備を最優先課題として取り組んでいる。

 また、それを推進するための事業主体を整備し、国際競争力を高めるため、情報通信産業および放送産業の規制緩和を推進している。

(3)産業の情報化 〜 電子商取引の推進

 情報社会の実現の中でも、産業の国際競争力を左右する産業の情報化が大きなテーマとなっている。具体的には、電子商取引の推進であり、各国では、電子商取引の基本枠組みやアクションプランが策定されている。

 アクションプランの構成としては、電子商取引を支える取引ルールの標準化や法体系の整備、それを実現するための技術開発(認証、暗号等)、普及加速のためのパイロットプロジェクトの推進等が挙げられる。

(4)行政の電子化

 行政の電子化も調査した国すべてで実施されていた項目である。行政サービスのネットワーク提供、行政事務の効率化を狙ったものが多い。

 行政の電子化は、新たな情報技術に関して初期需要を作るという役割もあり、情報産業育成の観点からも重要視している国が多い。

(5)科学技術研究の支援・環境整備

 今回調査した国の中では、アメリカとEUに関しては、政策の中でも科学技術研究の支援や環境整備も重要な位置づけになっていた。他の国では、産業、社会に対する応用研究や学校教育環境整備に関する取り組みはなされているが、科学技術研究自体への支援は比較的軽い。

(6)先進的アプリケーションの開発・育成 〜 技術とビジネスモデルの協創

 各国の情報化の展開において、先進的なアプリケーションの開発・育成を重視している。インターネット上での検索エンジン、情報提供サービス、サイバーショップ、さらにはネット・オークションといったビジネスモデルは、http、WWWといった新たなインターネット技術によって創造されたともいえる。このように、潜在需要が顕在化するプロセスは新たな技術を媒介にした創発的プロセスである。各国では、このような観点からマルチメディア、インターネットといった新技術の用途開発を指向している。

(7)関連法規の整備

 電子商取引の項でも指摘したが、情報社会において必要となる法規制が必要となる。コンテンツや技術に関する知的財産権、個人情報等の扱いに係るプライバシー保護の問題、電子商取引に係る認証、決済等の問題である。各国ではこれらの点に関する法体系の見直しと整備が進められている。

10 わが国の情報化ビジョン策定に関する考察

10.1 概要

 前章まで、情報技術先進国ないし情報先進国を目指す各国の情報化ビジョンを調査・分析してきた。それぞれの国が情報技術を産業・社会の重要基盤と認識して、国家の高いレベルにおいて情報化ビジョンを打ち出し、それぞれの事情に応じた基盤の整備ないし研究開発を展開しつつある。米国では情報スーパーハイウェイ構想で情報技術基盤を掲げ、HPCC 計画等により科学技術分野を支援し、民間も戦略的な情報技術投資を積極的に行なっており、現在の好調な経済状態を支えている。さらに、今年に入って PITAC報告やビジョンでは基礎的研究開発を重視して中長期的な発展を保証しようとしている。国内市場の規模が小さく、独自の情報技術開発力の小さいシンガポールやマレーシアなどでは、国際標準の先進的な情報技術基盤を整備することによって、地域のハブとしての地位の強化や先進的企業の誘致を図っている。オーストラリア、インド、韓国でも情報産業の強化、情報基盤の整備を活発に進めている。

 わが国は国土が狭く、天然資源に乏しいが、教育水準が高く、勤勉な国民性を背景に、国際的競争力を持つ基幹製造業によって経済的発展が築かれてきた。今後もわが国の繁栄にとって、高度な技術に支えられた製造業の強さが最も重要な前提となろう。そこで、わが国における情報化ビジョンは、21世紀に向けた製造業の高度化を狙いとするのが適当である。製造業の高度化を直接に担うのは各企業だが、情報社会基盤の整備や基礎的な研究開発は国が推進する必要があり、情報化ビジョンはそれらの重点的課題と考え方を示すものとする。

 情報社会基盤・環境の整備としては、ネットワーク・通信インフラ整備・強化の支援、ネットワーク新技術実験の支援、法律・規制などの制度の情報化社会に向けた適合化から人材育成などがある。(基礎的な研究開発は、長期的でリスクを伴うため、国が推進すべきであり、特に、(1) デバイス基礎技術からヒューマンインタフェースに至る情報技術の基礎研究、(2) 科学技術研究開発の方法を革新しつつある計算科学(計算機による仮想実験)やインフォマティクス(大量の情報整理・解析技術) が、情報産業を含む製造業の強化のために重要な研究開発推進領域と考えられる。その他、ソフトウェア産業の強化、より効果の高い国の推進・支援する研究開発のあり方の実現、等、わが国独自に取り組むべき個別的な課題もある。

10.2 情報社会基盤・環境の整備の考え方

狭い意味の情報社会基盤・環境の整備は、ネットワーク・通信インフラ整備・強化の支援、ネットワーク新技術実験の支援、法律・規制などの制度面など、目に見える情報通信インフラと制度的インフラである。これらは短期的に取り組むべき課題でる。

広い意味の情報社会基盤・環境の整備は、人材や競争的環境など、無形のものであり、中長期的な取り組みを必要とする。情報技術を担う人材の育成は重要課題であり、先端技術開発、実用技術開発、技術要素を組み合わせて実際の問題に適用するシステム技術といったスペクトルを厚くカバーする必要がある。

わが国の製造業は、国内市場の厳しい競争、利用者の厳しい注文が鍛え、世界をリードする品質に高められたと言われている。情報産業においては、導入側の利用技術や比較評価力が十分でない等により、必ずしも競争的環境にあると言えず、競争的環境実現に向けた方策を考えるべきである。

また、情報技術を現実の問題に適用する担い手であるソフトウェアビジネスの強化は重要な課題である。依然として、受託開発の割合が高く、またその効率が必ずしも高くない問題を徐々に改善して行く方策が検討されるべきである。

10.3 情報技術の研究開発の考え方

(1)基礎的研究開発テーマの推進

実用化・製品化から遠く、研究開発コストが大きく、民間企業が取り組むにはリスクの大きいテーマを中心に国は取り組むべきである。中長期的に育つ可能性のある技術の種を蒔くということであり、特に、重要な(潜在的)ニーズの発掘が重要である。そして、実用化・製品化の目処のついた研究成果は公開し、民間が自由に実用化・製品化し、公共の利益に結び付くという形で研究開発投が回収されることを目指すことが基本である。 なお、ネットワークのように基本インフラとなる技術については、独自技術開発の能力があっても、国際標準とならなければ却って孤立化を招くため、国際的な協調を図ることが適当であろう。

(2)実用化・製品化に近いテーマの研究開発の民間主導

実用化・製品化に近いテーマは周辺技術を開発中であることが多く、成果における知的財産権の切り分けが問題となるなど不都合がある。むしろ、資金貸し付けや優遇税制などの環境面のバックアップが適当と考える。ただし、過剰な補助金等によって、不要ないし見込みの低い開発が促されることがあり得る。そして、成果である先進的な製品・サービス等を積極的に調達し、実地に用いて育てるべきである。(これは国が基礎研究を支援した技術に限らない。)

(3)実験的・研究的ソフトウェアの実用化

 大学等で基礎的研究がなされた技術の芽を育てて行く必要がある。有望な計算手法やソフトウェアの芽を、一般の利用に耐えるソフトウェアとして体現し、(無償)公開し、ユーザコミュニティが育つまで必要なメンテナンスを行なうことが可能となる仕組みを実現すべきである。

10.4 研究開発課題について

 研究開発の課題設定に当たっては、現在の変化に着目するのみならず、(一定の幅を持った)将来の情報社会像を想定し、そこにおいて重要となる技術要素の研究開発、社会経済的な課題の予期・対策検討といったトップダウン的なアプローチを併用するのが適当と考えられる。また、電子商取引や放送通信など国際的標準の形成が重要な領域では、各領域でのわが国の相対的な力を考慮した国際競合・協調を含む戦略の検討も必要であろう。また、研究テーマの実施に当たって、最終的にインパクトのある成果活用に結び付く研究開発のあり方なども課題である。

 基本的には、わが国が研究開発力を持っており発展の続いている分野における中長期的目標実現の支援、ネットワークが遍在化し、小型の情報通信装置が社会・経済活動や日常生活にますます浸透し、集められた大量のデータの解析による発見が価値を生むような将来像において、キーとなるであろう技術の先行研究などが重要と考えられる。また、科学技術分野では理論、実験と並んで計算科学(シミュレーション計算やインフォマティクス)が研究手段として重要性を増しており、新材料・新製品の設計開発の方法論を変えて行くと言われている。その分野の強化も重要課題である。