第2編第2章では、「米国の研究開発におけるプログラムマネージャの役割」を中心に言及した。しかし、本来、プログラムマネージャは所属する組織の中で語られるべき存在であり、単独でその役割について述べるのはむずかしい。各研究機関の目的やそれに応じたプロジェクトの選定方式によってプログラムマネージャの役割も自ずと違ってくるからである。
そこで、本資料では第2編第2章を補完する意味で、もう少し広くNSFおよびDARPAという組織の研究開発支援について言及し、その中でプログラムマネージャの役割を捉えることとした。
NSFは、米国の科学技術力を高めるために1950年のNational Science Foundation Actにより設立された国立機関である。科学技術全般に関わる基礎的研究や教育を企画、支援することを主な目的としており、広い範囲の技術分野を支援対象としている。1999年度予算全体は前年度比10%増の38億ドル、研究支援プロジェクト用の予算は前年度比12%増の21億ドルとなっており、2000以上の大学や研究・教育機関に対する支援を行っている。これは、学術機関の基礎研究に対する連邦政府の支援の約20%を占めている。
NSFでは、各専門分野ごとに以下の7つの部局 (Directorate)が研究開発支援プログラムを実施し、提案を募集している。
1)Directorate for Biological Sciences
2)Directorate for Computer and Information Science and Engineering
3)Directorate for Education and Human Resources
4)Directorate for Engineering
5)Directorate for Geosciences
6)Directorate for Mathematical and Physical Sciences
7)Directorate for Social, Behavioral, and Economic Sciences
各部局は複数のDivisionにより構成されており、各Divisionに複数のプログラムマネージャがいる。例えば、Directorate for Computer and Information Science and Engineeringには、
1)Division of Advanced Computational Infrastructure and Research
2)Advanced Networking Infrastructure and Research
3)Division of Computer-Communications Research
4)Division of Experimental and Integrative Activities
5)Division of Information and Intelligent Systems
の5つのDivisionがあるが、このうち、Division of Information and Intelligent Systemsには6人のプログラムマネージャがいる。
NSFが募集している研究開発支援プログラムは、提案方法によって以下の2種類に大別される。
1)Unsolicited Proposals
2)Solicited Proposals
「Unsolicited Proposals」は特に研究テーマや公募の締切を指定しないもので、NSFでは広範な基礎研究を支援することに主眼をおいているため、この比重が高くなっている。
一方、「Solicited Proposals」はNSFが特定のミッションを担うために実施するプログラムへの提案を求めるものである。「Solicited Proposals」は「Unsolicited Proposals」に比べ、内容をより明確に規定しており、提案の評価基準も独自に定めている場合が多い。また、「Unsolicited Proposals」では研究にかかる費用の一部を提案者が負担することが義務づけられているのに対し、「Solicited Proposals」の場合は、特に規定されていない限り、費用負担の必要はない。
NSFの研究開発支援プログラムへの応募者の条件としては次のようなものがある。
1)米国の大学
2)米国の非営利機関
3)米国の営利機関
4)州政府および地方行政機関
5)組織に属していない米国にいる研究者、技術者および米国市民
6)海外機関
7)他の政府機関
このうち、6)の海外機関は米国の研究機関と共同研究を行う場合を想定しており、審査に通った場合でもNSFが資金供与するのは米国の研究機関のみとなる。欧州のESPRITとの共同研究プログラムもこの枠組で運用されており、米国と欧州の参加者がそれぞれNSFとESPRITに応募し、両方の審査に通った場合に初めて実現するが、その場合でもNSFが負担するのは米国の参加組織の費用のみとなる。また、7)の他の政府機関についても、共同プロジェクトの場合のみ認められる。
研究開発の実施期間は通常3年となっているが、必要に応じて最長5年まで延長できる。供与される金額については特に定められていないが、前述のように「Unsolicited Proposals」の場合には、提案者も研究活動費用の一部を負担することになっている。また、審査の時点で金額について提案者とプログラムマネージャの間で調整が図られる。
NSFの資金供与のやり方には、次の2つのタイプがある。
1)Standard Grant
2)Continuing Grant
「Standard Grant」は、期間と援助額をあらかじめ明確にした上で資金供与を行うもので、原則的に援助の追加は行わない。それに対し、「Continuing Grant」の場合は、初期期間の成果によって支援の継続の可能性を残しておく。継続の可否は提案者が提出するProgress Reportの審査により決定する。
また、どちらのGrantの場合でも、所定の期間が終了した後に追加支援を必要とする場合には、所定期間が終了する6ヶ月前までにRenewal Proposalを提出しなければならない。さらに特例として、独創的かつ有意義な研究テーマではあるがリスクも高いプロジェクトに対しては、プログラムマネージャの判断により2年間の追加支援が行われる場合もある。
提案書の応募件数は約3万件、採択件数は9,000_1万件で、採択率はほぼ3分の1となっている。提案書の記述については記述項目、記入方法などが詳細に渡って定められており、これに適合しない提案は内容の如何に関わらず、審査対象から外される。なお、応募に公平性を期するため、提案書には提案者の性別、人種、障害の有無などの記載を求められる。
NSFは通常、National Science Boardにより定められた以下の審査基準を適用している。ただし、「Solicited Proposals」の場合は目的が明確になっているため、これらに特定の審査基準を追加することが多い。
上記の審査基準のうち、2)は特に基礎的な研究提案において、3)は応用研究分野の提案において重視される。また、4)は1)〜3)では評価されにくい科学技術事業や教育活動を推進する潜在的可能性について審査する。
以下に、NSFにおける提案書の審査プロセスを示す。
審査結果に不満な場合、提案者はAssistant DirectorまたはOffice Headに対して再審請求をすることができる。この場合、審査結果の通知後90日以内に書面で行う。再審結果に納得できない場合には、さらに再審結果の通知後60日以内に書面でDeputy Director宛に再検討を要請することができる。
NSF Proposal Processing Unitが提案書を受理
↓
提案書を適切なプログラムに割り当てる
↓
審 査
主に科学的、技術的観点や各提案書のプログラムへの妥当性により審査。
基本的には外部査読者(ピアレビュア)が審査を実施するが、部局により以下の3つの審査方法が採られている。
・外部査読者による審査
・レビューパネルによる審査
・レビューパネルと外部査読者による審査の併用
↓
プログラムマネージャが提案書の採否に関する勧告をDivision Directorに提出
外部査読者による審査結果はあくまで検討資料であり、「提案書の採否」に関しては、各分野の専門家であるプログラムマネージャに決定が一任されている。
↓
Division Directorが最終勧告をDivision of Grants and Agreementsに提出
DivisionレベルでSenior NSF Staff が「NSF指針との適合性」に関して検討し、最終勧告をDivision of Grants and Agreementsに提出。
↓
Division of Grants and Agreementsで財政面や政策的判断など業務面から検討
↓
最終結果を提案者の代表に通知
DARPAは米国国防省のための中心的な研究開発組織で、1958年、軍事的役割の向上と米国の技術的優位性を保つことを目的に設立された。リスクは高いが大きな成果が期待できるような基礎研究および応用研究を対象とし、強いニーズ指向によって選択的に研究開発を推進している。
DARPAでは、以下の7つのTechnical Offices が研究開発支援プログラムを実施している。
各Technical Officeには複数のDirectorateがあり、Directorateごとに複数のプログラムマネージャが配置されている。一例として、ISOを取り上げると、ISOには
の3つのDirectorateがあり、計21人のプログラムマネージャがいる。
DARPAの研究公募プログラムもNSFと同様、「Solicited Proposals」と「Unsolicited Proposals」に分類される。DARPAにおいては、「Solicited Proposals」が主な公募方式であり、プログラムマネージャが審査を行う。プログラムマネージャは各々の専門分野を担当し、自らの趣旨に沿った提案を採用する。DARPAでは、事前審査のため、外部査読者を利用することはあるものの、採否の決定はプログラムマネージャに一任されている。また、プロジェクトの立ち上げから運営に至るあらゆる過程において、プログラムマネージャは非常に大きな裁量権を持つ。新規領域の研究分野を開拓するために、毎年、20%ほどのプログラムが全く異る領域のプログラムに入れ換えられる。
応募条件については、採否がプログラムマネージャに一任されているため、NSFのように明確な応募者の基準は設けられていないが、プログラムを立ち上げる際に必要な条件として、以下のものが挙げられている。
一般的に学術的意義だけでは不十分で、DARPAの目的に沿った具体的な成果を明言することが要求されている。
実施期間はプログラムマネージャの決定により3〜5年が基本とされるが、新プログラム導入のため、成果の出ないものは打ち切られ、毎年20%程度が入れ換えられる。NSFに比べると短期間での成果を要求されているといえる。
プロジェクトごとに分配される資金が決定されるが、国防省からの支出は各プロジェクトの最終予算の50%を越えないという条件がある。
プログラムマネージャの審査の負担を軽くするため、外部査読者による事前審査を実施し、応募者を3分の1程度に絞る。事前審査に通った応募者にのみ、研究提案書の提出を求め、プログラムマネージャがさらに3分の1程度の採択を決定する。1995年度には事前審査に通った140件以上の提案から34件のプロポーザルが採用されている。
DARPAでは、BAA(Broad Agency Announcements)において以下のような評価規準を示している。
実際には、プログラムマネージャがプログラムを立ち上げる際の意図に合致するか否かが最も大きなポイントである。
DARPAにおける提案の審査プロセスは、以下のとおりである。
プログラムマネージャが提案書の応募要領を公開
↓
事前審査
複数の外部査読者により、提案の概要について事前審査を行う。プログラムマネージャは、結果を30日以内に応募者にフィードバックする。
↓
提案の公募
プログラムマネージャが評価規準を明示し、提案を募集する。
↓
提案の選出
「科学的重要性」と「DARPAのミッションとの整合性」の両方の観点から、プログラムマネージャが潜在的可能性の高い提案を選出。
↓
契約
選出された提案を予算的観点から検討し、契約交渉を開始。